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週刊デッキ構築劇場
第36回:浅原晃のデッキ構築劇場―中村シウ平殺人事件
読み物
週刊デッキ構築劇場
2011.10.31
第36回:浅原晃のデッキ構築劇場―中村シウ平殺人事件
演者紹介:浅原 晃 マジック界のKing of Popとして知られる、強豪プレイヤーにして、デッキビルダー・ライター。主な戦績は、世界選手権05・世界選手権08トップ8、グランプリ優勝2回、The Finals2連覇など。 |
※中村修平さん殿堂入りおめでとうございます。
※この構築劇場は実際の団体や人物とは一切関係ありません。
登場人物
●中村シウ平
カードゲーム、マジック:ザ・ギャザリングのプロプレイヤー。殿堂入り目前にして何者かに殺害された本事件の被害者。
●アキ智小五郎
ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社によってS級にランクされるMTG探偵。ジェイス石鍛冶連続殺人事件。小指が離れていない事件。握手早すぎ事件などの難事件を過去に解決した。好奇心旺盛で面白ければ何でもいいという考えを持つ。
●ヤス岡翔太
小五郎の助手。ボケに的確な突っ込みを入れるだけでなく、物事の核心を突いたことをずばずばと言う切れ者。通称ヤス。
●重要参考人
津村コガモ:マジック大好き
渡辺2D也:アニメ大好き
鍛冶民兵:比較的常識人
■序章
【中村シウ平 殿堂入り祝賀会会場】
「本日はわたくし、中村シウ平の殿堂祝賀祝い会に参加していただき本当にありがとうございます。まだまだ、不肖ながら、11月に行われる世界選手権にて殿堂入りさせていただくことになりました。思えば長い道のりでした、話せば長くなるのですがあれは私が生まれた年のことです・・・。」
「おいおい、生い立ち話から始めたぞ。しかも面白くない。」
アキ智小五郎とヤス岡翔太はかつてマジックプレイヤーだった、という縁からシウ平の殿堂祝賀会へと参加していた。
「アキ智さん、まあ、おめでたい席ですから。ほら、会場にはいろいろとトッププレイヤーも居ますよ。」
「そうなのか、俺はこの会場ではシウ平くらいしか知り合いは居ないからな。」
「やれやれ、見たことある人は居るはずですよ、アキ智さんは物覚え悪いですからね。」
ヤス岡が呆れたように話す。
「アキ智だけに呆れたってか、まあ、話も終わったみたいだし、シウ平にちょっと挨拶してくるか。」
「ほんと、やれやれですね。」
■第1章 発端
満月の夜、祝賀会の帰り道、中村シウ平は上機嫌であった。それは、長年培った彼なりの努力が認められたからだ。マジック:ザ・ギャザリングの殿堂入り。彼にとってそれこそが人生の目標であり、到達点であった。それが、11月に行われる世界選手権で実現する。そう考えれば、あのとき、用心深い彼が一人になるまで周りに注意を払えなかったことを責められはしないだろう。
彼がその小さな変化、いや、異変に気付いたのは、暗い路地に入ったところだった。ただの気配ではない、間違いなく誰かが後ろを尾けてきている。通常のプレイヤーならば、恐れるところかもしれない。しかし、彼は不安には思っていなかった、彼には常に携帯しているものがあった、それは、マジックのデッキである。彼のスキルがあらゆるデッキを使いこなし、幾多の危機を乗り越えてきたのだ。
マジックにおける、彼の強さを表すレベルは最高の50、日本で唯一のプレイヤーである。どんな危険も自分に取ってはたいしたものではないだろう。彼には自信ではなく確信があった。
そう、このときまでは。
「お、お前は・・・まさか、何故・・・」
シウ平がこの世で最後に見たものは、自信とともに崩れ行くデッキであった。
■第2章 謎解きはデュエルの後で
アキ智探偵事務所と書かれた看板の建物の中で、2人の男がマジックのデュエルをしている。
「《ボーラスの工作員、テゼレット》の+1能力で5枚見ます、うーん、《ワームとぐろエンジン》か《精神隷属器》か悩むなぁ。」
「適当でいいだろ、適当で。ライフいくつ?」
「20ですけど。」
「うっそ、1点も削れてないっけ。」
「慣れない赤のデッキなんか使ってるからですよ、いつもの青白黒のデッキを使えばいいのに。」
「たまにはビートダウンの気分なんだよ。」
青黒のテゼレットデッキを使っているのが助手のヤス岡、今にも負けそうな赤単ビートダウンを使っているのが探偵のアキ智だ。
プルル・・・プルル・・・
「あ、電話ですね、アキ智さん、ちょっと待ってください。はい、こちらアキ智探偵事務所。殺人事件? 場所は? ドミナリア公園? アキ智さん事件です。」
「よし、すぐ向かうぞ。このデュエルは引き分けだ。」
「え、どう考えても僕の勝ちで。」
「マジックに判定勝ちはねーんだよ。」
・・・
【ドミナリア公園】
「被害者の素性は?」
「はい、中村シウ平。男。マジックのプロプレイヤーでLV50、称号はアークメイジ、殿堂入り目前でした。死因はショックによる心臓麻痺、デュエルの敗北によるものでしょう。外傷なども見られず、凶器となるデッキは発見しておりません、犯人が持ち返ったものと思われます」
助手のヤス岡が事務的ながらもはっきりとした口調で答える。
「シウ平が被害者か。俺達の参加した祝賀会の帰り道に殺されてしまったようだな。」
「はい、そのようです。」
「死因はデュエルの敗北か・・・、本人も無念だろうな、被害者は何のデッキを使っていた?」
「黒白青の『ソーラーフレア』、日本語名では『太陽拳』です。このデッキでの敗北が致命傷になったようです。最後の彼の手には《ヴェールのリリアナ》が握られていました。そして、地面には『6』という文字がシウ平の手によって書かれています。これが直接的に何を意味するか分かりませんが、ダイイングメッセージの一種と思われます。また、彼の戦場にはパーマネントは1枚も無かったという話が警察の鑑識がら得られています。」
3 《平地》 3 《島》 3 《沼》 4 《金属海の沿岸》 3 《氷河の城砦》 4 《闇滑りの岸》 1 《水没した地下墓地》 4 《孤立した礼拝堂》 2 《幽霊街》 -土地(27)- 3 《瞬唱の魔道士》 2 《聖別されたスフィンクス》 1 《太陽のタイタン》 -クリーチャー(6)- |
4 《マナ漏出》 3 《熟慮》 3 《破滅の刃》 4 《禁忌の錬金術》 4 《雲散霧消》 3 《忘却の輪》 3 《神聖なる報い》 1 《堀葬の儀式》 2 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(27)- |
6か、まったくマジックプレイヤーは謎めいたものが好きだな、とアキ智は思った。
「他には何か分かったことは? これほどのプレイヤーを倒しているということは、犯人も相当な実力を持ったプレイヤーということが言えそうだな。」
「はい、さらにアリバイから容疑者が絞れています。容疑者候補は3人、それぞれが、マジックのトッププレイヤーです。シウ平を倒せる実力とデッキを持ち、アリバイの無いものは3人しか居ませんでした。また、3人はシウ平の殿堂祝賀会に参加しており、全員がシウ平と同じく、マジックの公式サイトでコラムを執筆しています。」
「素性は?」
「一人目は、津村コガモ。2005年度のPOY(年間最優秀選手)です。実力は相当なもので、シウ平を倒すことは十分可能で、特にスタンダードを得意としています。動機面での確証は取れていませんが、マジックとの接し方で会場で少し言い争いがあったという証言が取れています。また、彼には・・・、まあ、これは後で会えば分かると思います。」
「二人目は、渡辺2D也です。」
「その名前、今、何て読んだ?」
「最近流行のかっこよく読ませる名前のですね。2D也で【あにめだいすきなり】と読みます。2がアニメ、Dがだいすき、也がなり、です。ただ、呼びにくいので、苗字で呼ばれることが多いようです。リミテッドのコラムを書いており、リミテッド巧者として知られていますが、実際は構築もこなすスペシャリストです。」
「なるほど、続けてくれ。」
「彼は2009年度のPOYです。よくシウ平と共に行動していたようなので、それに伴う不満もあったのではと思われますがこちらも確証には至っていません、考えられるとしたら、これは言ってなかったかもしれませんが、彼はアニメが大好きでして・・・」
「いや、さすがに分かる。」
「さすがの御明察ですね。彼はアニメが大好きなので、いけすかないにわか文学趣味のシウ平と食い違う点はあったようです。」
「三人目は・・・」
ヤス岡がそう言いかけると・・・
「僕がやるわけないでしょう、証拠はあるんですか証拠は!」
声とともにある男が現れた。
「彼が三人目の容疑者。鍛冶民兵(かじみんぺい)です。」
■第3章 聴取
「僕は絶対に犯人じゃありませんよ、シウ平に恨みなんてありませんし、恨みがあるなら、コガモか2D也じゃないですか、僕には動機も無い、それに、僕が持っているのはシウ平に勝てるデッキでもありませんよ。」
アキ智は聞き込みを始めた。鍛冶が持っていたのは緑単のビートダウンだ。マナクリーチャーからテンポよく、クリーチャーを展開するという、昔からある緑の特徴を生かしたデッキである。《情け知らずのガラク》など、特に緑に多い変身カードを多く使用しているイニストラード色の強いデッキだ。
「何故、緑単のデッキを?」
「攻撃的なデッキが好きで、それにイニストラードから狼男が入って一気にワイルドになりましたしね。僕は変身カードが好きなんです、裏表あるっていうのがまた深みがあるじゃないですか。そんなの好みの問題じゃないですかね。」
20 《森》 2 《山》 2 《幽霊街》 -土地(24)- 4 《ラノワールのエルフ》 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《アヴァブルックの町長》 4 《ガツタフの羊飼い》 4 《ダングローブの長老》 4 《夜明けのレインジャー》 -クリーチャー(24)- |
4 《月霧》 4 《踏み荒らし》 4 《情け知らずのガラク》 -呪文(12)- |
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「怪しいですね、アキ智さん。」
「何か引っかかるとこがあったか、ヤス。」
「変身カードが好きっていうのが、本人も裏表あるってことじゃないですか、それに、シウ平が殺されたときの夜は確か・・・」
「そういえば、ヤス、鍛冶の素性は?」
「あ、はい。鍛冶民兵も公式サイトでコラムを書いているプレイヤーです。初心者向けから、中級者向けまで幅広いコラムを執筆しています。シウ平とは仲も良く、祝賀会でも談笑をしており彼を殺すような動機は特に見受けられませんでした。単純にアリバイが無く、シウ平を倒す実力があったという点で容疑者として上がっているようです。」
「だから、帰っていいですか、僕は犯人じゃないんで。」
「まあ、待て待て、犯人が見つかるまでもうちょっと待ってくれ。大体分かったから、もう犯人は見つかるから。」
「しょうがないなぁ・・・。」
鍛冶はしぶしぶ了承した。
「犯人分かったんですか?」
「いや、全然。でもああ言っておかないと面倒だろ。次の聞き込みに移ろう。」
「なるほど、次は津村コガモに話を聞きますか。」
アキ智とヤス岡は津村コガモの聞き込みを始めた。
「どもっす。スーハースーハー、いや、さすがに僕はやってないっす。シウ平さんとは食い違うところはありましたけど、尊敬できる部分もありますし、スーハースーハー。だって、同じマジックプレイヤーっすよ、仲間じゃないっすか。スーハースーハー。」
「なるほど、ちなみにデッキは何を所持しているんだ?」
「緑赤の《ケッシグの狼の地》デッキっす。スーハースーハー。」
コガモが持っていたデッキは緑赤の流行のデッキ『赤緑ケッシグ』だ。赤緑のケッシグデッキはマナ加速から《原始のタイタン》などに繋げ、豊富なマナから《ケッシグの狼の地》で勝負を決める。《墨蛾の生息地》などで毒で勝つこともできる非常にパワフルなデッキだ。
8 《森》 2 《山》 4 《銅線の地溝》 4 《根縛りの岩山》 2 《ケッシグの狼の地》 4 《墨蛾の生息地》 2 《幽霊街》 -土地(26)- 1 《極楽鳥》 4 《ヴィリジアンの密使》 3 《真面目な身代わり》 1 《酸のスライム》 4 《原始のタイタン》 3 《ワームとぐろエンジン》 -クリーチャー(16)- |
4 《不屈の自然》 3 《金屑の嵐》 3 《内にいる獣》 4 《緑の太陽の頂点》 4 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(18)- |
「このデッキ、フィニッシャーの《原始のタイタン》は6マナですね、シウ平が、6マナのカードにやられたのをダイイングメッセージにしたとすると、アキ智さん、これはあやしいのでは・・・」
「とりあえずだ、ヤス、奴はなんで、スーハースーハーしてるんだ?」
「ええ、彼は重度のドロージャンキーで、ドロードラッグ(通称ドロッグ)を常用しています。特に《定業》中毒者であり、常にビニール袋に《定業》を入れてその匂いを嗅がないと正気を保てないようです。しかし、最近《定業》は非合法ドロッグに指定されたため手に入りにくくなってるみたいですが。」
「別に《思案》とか《血清の幻視》とかでいいじゃないか。」
「そうもいかないんじゃないですかね。」
「なるほど、ちょっと試してみるか。」
アキ智はおもむろに《血清の幻視》を取り出すと、
「あ、《嘘か真か》が落ちてるぞ。」
「え、どこですか、どこどこ。ドローどこドローどこ。」
コガモの袋に《血清の幻視》を投げ込んだ。
「すまんすまん見間違いだったわ。」
「何ですかもう、紛らわしいこと言わないでくださいよ、スーハースーハー。」
「ん?、スーハースーハー、ん?ん?。ハーハー、はぁはぁはぁ、あああああああ、土地土地土地土地土地、土地ばっかり!何枚引いても土地ばっかりぃぃぃ!20連続ドロー土地ぃぃ!そんで次のデュエルは土地詰まってるしぃぃ!」
「おいおい、どうしたんだ。」
「大変です。禁断症状です。過去の嫌な記憶が頭の中からフラッシュバックによって蘇ってしまってます!」
「解決したらリムーブって感じでなかなか面白そうだな。」
「いや、さすがにしゃれにならないですよ。しょうがないこの《祖先の幻視》を。これも非合法ドロッグなんで高いんですが、さあ、ほら、これを吸うんだ。」
「スーハースーハー。ハーハー、ふぅ、助かりました。たまにある発作なんですよね。しかし、何で《血清の幻視》が混じってるんだよ、クソックソッ!クソドロッグが!」
「面白かったし、次行くか。」
「《血清の幻視》もいいカードなんですけどね、これ、聞き込みになったんですかね。では、次が3人目の容疑者2D也です。」
「僕は犯人じゃないですよ、何で容疑者になってるのか分からない!父親にだって疑われたことないのに! しかも、持っているデッキを見てください、これシールド戦のリミテッドデッキですよ。こんなんで、シウ平さんとのデュエルで生存戦略ッッーー!できるわけないじゃないですか・・・ないでゲソ!」
「そうなのか? ヤス。」
「とりあえず、2D也が持っていたのはシールドのリミテッドの40枚デッキのようですね。やたら強いデッキみたいですが、確かにリミテッドデッキといえばそうなりますね。」
「とりあえず2D也、デッキを見せてくれるか」
「これは試練だ! アニメの神が与えた試練と僕は受け取った! ちなみにデッキはこれですよ。」
8 《沼》 8 《島》 2 《森》 -土地(18)- 1 《チフス鼠》 2 《歩く死骸》 3 《礼儀正しい識者》 3 《血統の守り手》 1 《ケッシグの檻破り》 3 《死体生まれのグリムグリン》 -クリーチャー(13)- |
2 《死の重み》 3 《禁忌の錬金術》 1 《飢えへの貢ぎ物》 3 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(9)- |
|
2D也のデッキはイニストラードのシールド戦で作られた青黒緑のリミテッドデッキだ。
「アキ智さん、このデッキ、やたら、被ってるカードが多いですね。」
「確かに、フォイルカードも入ってないのに、最近のリミテッドではこんなことが有り得るのか。」
ヤス岡とアキ智が2D也に疑問を投げかける。
「いやいや、リミテッド初心者ですかあなたたち、カードの順番がある程度決まっていること、ソートとか知らないんですか、《ヴェールのリリアナ》と《死体生まれのグリムグリン》良く被るんですよ。この神のソートを、私は約束された勝利のソート!と呼んでます。ソードだけに。」
「なんだなんだ」
「アキ智さん、あからさまに怪しいですね、シウ平のダイイングメッセージが意味があるのかってところからですかね、《ヴェールのリリアナ》を使っていることを正直に捉えるなら・・・このデッキには3枚の《ヴェールのリリアナ》が使われていますよ、しかし、6という数字が謎ですね。」
「まあ、これで、犯人は分かったな」
「えっ、本当ですか、アキ智さん」
「ああ、とりあえずあいつで決まりだろう」
【犯人は一体誰だろうか?】
■第4章 解決編
「犯人が分かりました。」
アキ智は推理を語り始めた。
「まず、シウ平の殺害時に持っていた《ヴェールのリリアナ》。そして、6という数字、これはシウ平のメッセージであると考えられる。《ヴェールのリリアナ》は最後の手札だったという可能性も捨て切れないので、最初の手がかりは6という数字になる。ここで鍛冶が容疑から外れる。」
「アキ智さん、鍛冶民兵は事件当日の夜が満月だったこともあり、変身デッキを使っていた鍛冶はあやしいんじゃないですか、満月で変身デッキと自分自身が制御できなくなり・・・俺の右手がっ、とか」
「おいおい、メルヘンじゃないんだから満月の日に変身デッキが強くなるわけじゃないだろう、今日満月なんで最初から変身してまーすとかいったら、速攻でジャッジ呼ばれるぞ。」
「確かにそうですね。」
「このデッキでは6の秘密は解けない。それに、このデッキではシウ平には勝てるとも思えない。よって、鍛冶は白だ。となると後2人だが、津村コガモも白だ。」
「《原始のタイタン》は6マナだからとか6との符合とかは無いですか?」
「《原始のタイタン》が6マナというだけではダイイングメッセージとしては曖昧だな。これが、6マナのカードを指しているとしたら、《原始のタイタン》にやられたことになる。が、シウ平が《ヴェールのリリアナ》を抱えたまま、《原始のタイタン》にやられたというのは考えづらい。というか、少なくとも戦場には出すだろ。コガモのデッキには《ヴェールのリリアナ》は入っていないから、使われたというメッセージではない。」
「なるほど、シウ平がそれをダイイングメッセージとして発するとしては曖昧すぎますか、となると、残りは2D也ですか」
「じゃあ、僕は帰っていいのか」
「スーハースーハー、早く、マジックオンラインやらないと死んじゃうんで僕も帰るっす」
鍛冶と津村の2人が趣を合わせて返答する。
「どうぞどうぞ」
アキ智は快く承諾した。
「え、どうしてですか、2人を帰したら容疑者は僕だけじゃないですか、これは陰謀だ。誰かの僕を嵌める陰謀だ! は、図ったな、シャア! 証拠はあるんですか、証拠は!」
「証拠か、まず、このリミテッドデッキだが、重大な矛盾がある。リミテッドは6個のパックを開けてデッキを組むのだが、フォイルの無いこのデッキでは最高で通常のレアか神話レアが6枚ちょうど、そして、両面カードが6枚ちょうどしか出ない。このデッキは両面カードが6枚入っているにも関わらず、通常の神話レアとレアが7枚入っている、これが意味するところは・・・」
「エラーパック、いや違うな、もともと構築のデッキだったってことですか」
「そうだ、このデッキは構築のデッキをシールドのリミテッドに偽装されたものなんだよ。確かにこれでは、シウ平のデッキには勝てないが、元々が構築の形なら話は別だ。」
「ぐぬぬ・・・」
2D也が焦った表情を浮かべる。
「私が推測するに《死体生まれのグリムグリン》、《血統の守り手》といったキーカードを使ったコンボデッキがもともとのデッキだろう。どうだ2D也?」
「・・・そこまで分かっているのですか、私が本当に使ったのはこのデッキです」
8 《沼》 4 《島》 4 《闇滑りの岸》 4 《水没した地下墓地》 4 《ネファリアの溺墓》 -土地(24)- 4 《マーフォークの物あさり》 4 《礼儀正しい識者》 4 《壊死のウーズ》 4 《死体生まれのグリムグリン》 4 《血統の守り手》 2 《幻影の像》 2 《侵害の魂喰い》 2 《ケッシグの檻破り》 -クリーチャー(26)- |
4 《禁忌の錬金術》 2 《死後の一突き》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(8)- |
4 《皮裂き》 3 《苦心の魔女》 4 《破滅の刃》 4 《死の支配の呪い》 -サイドボード(15)- |
「なるほど、《死体生まれのグリムグリン》と《壊死のウーズ》のコンボを組み込んだデッキだな。基本的なコンボとしては、戦場に《壊死のウーズ》が居て、《血統の守り手》と《死体生まれのグリムグリン》と《侵害の魂喰い》が墓地にある状態で《壊死のウーズ》の召喚酔いが解けると、《血統の守り手》で出したトークンを生け贄に捧げ《死体生まれのグリムグリン》の能力でアンタップし、無限パンプアップができるので、《侵害の魂喰い》でアンブロッカブルにして一撃必殺というわけだ。」
「アキ智さん、それにドローエンジンとして、《礼儀正しい識者》が使われているのがポイントですね。こいつはクリーチャーカードを捨てるとアンタップするものの、変身してしまい能力が使えなくなってしまいます。が、このカードのコピーのクリーチャーの場合は変身できずにアンタップだけするので、クリーチャーカードだけを捨て続けることも可能です。《壊死のウーズ》や《幻影の像》で能力がコピーされれば、クリーチャーカードを捨ててドローし続けられるというわけですね。」
「さらに、このデッキには、《ヴェールのリリアナ》の能力も+1で積極的に使っていけるから、-6能力も現実的だ、これによって、シウ平のパーマネントは失われたのかもしれない。」
「つまり、シウ平のダイイングメッセージはシールドのパックの枚数である6とレアの枚数の矛盾、《ヴェールのリリアナ》の-6能力を表していたということですね!」
「このデッキ、《死後の一突き》による《壊死のウーズ》コンボの強襲プランもあるし、墓地が潤沢なら《ケッシグの檻破り》を釣って殴ってもいい、なるほど、いいデッキじゃないか、何で、シウ平を?」
「ううっ・・・、本当に殺すつもりは無かったんです・・・。ちょっと脅かしてやろうって、勝負を挑んで、それで、シウ平さんが倒れてしまって、怖くなって逃げたんですよ。だってシウ平が僕の好きなアニメをバカにしたっていうから・・・」
「素に戻ってしまったな、やれやれだ」
「やれやれですね」
こうして、2D也は捕まり、一つの事件は幕を閉じた。
■第5章 真相編
アキ智とヤス岡がデュエルをしている。
「やっぱ青黒白のデッキに限るな。ほい、《審判の日》と」
「また戻したんですか、赤使ったのも一瞬だけでしたね。」
「しかし、今回も、無事解決しましたね。」
「ま、後は真相だけだな」
「何のことです?」
「いや、最初にシウ平にデュエルを挑んだ最初の犯人は間違いなく2D也だ。ただ、シウ平を襲った犯人の後に、とどめを刺した真犯人が居るってことだよ。考えても見ろ、《ヴェールのリリアナ》の-6能力は起動したとしても、半分にするだけだ。しかも、生け贄に捧げる方を相手が選ぶことができる。つまり、どこまで行っても1つのパーマネントが残る。シウ平は一つのパーマネントもコントロールしてなかったんだろ?」
「鑑識が見落としたんじゃないですかね」
「それに、これだと、6のダイイングメッセージも実は良く分からない。シウ平を倒したときの2D也はリミテッドデッキではなかった。ヤスがこの前言った、ダイイングメッセージの段階でシールドのパックと6の符号によるダイイングメッセージという話はおかしいんだよ。俺はリミテッドデッキの矛盾は指摘したが、ダイイングメッセージの6との符号は指定していない。」
「では、どういうことです?」
「6とは《ヴェールのリリアナ》の-6能力によって、シウ平のすべてのパーマネントは生け贄に捧げられたということを示しているというのは間違ってない。」
「でも、結局、それは無理って結論じゃなかったんですか?すべてのパーマネントを生け贄にさせる方法なんて・・・」
「いや、通常ではさっき言ったように無理だが、方法はある。シウ平自身の《ヴェールのリリアナ》の能力を自分自身に使わせればよい。」
「・・・」
「真相はこうだ。実は2D也に襲われた後も、シウ平は死んでいなかったってことだ。《死体生まれのグリムグリン》に殴られるくらいでショックで死ぬようなことは歴戦のシウ平としても考えられない。2D也に負け、精神的に弱っていたシウ平は後から来た何者かに助けられた、そしてその者にリリアナの+1能力を使えば助かるかのようなことを言われたのだろう。そして+6の忠誠度が溜まったときに、《精神隷属器》を使われた。自分の《ヴェールのリリアナ》で自分のパーマネントを全て生け贄に捧げるなんて、普通にショック死してもおかしくない出来事だ。最後に手に《ヴェールのリリアナ》を持っていたのはそれを自身の手で自分に起動させられたってことなのさ」
「なるほど」
「そして、それができるのは《精神隷属器》が入っているテゼレットデッキを持っているヤス、お前だ。シウ平の6の意味は、《ヴェールのリリアナ》の-6能力、さらに、《精神隷属器》の6マナという意味だったんだよ」
「さすが、アキ智さんですね。でも、もう一人、影の真犯人も居ますよ。」
「おいおい、そんなのが居るわけ・・・」
「アキ智さんですよ。シウ平にオススメのデッキがあるって言って『ソーラーフレア』を渡したのってアキ智さんでしょう、しかも、あのデッキは本来《審判の日》のところが《神聖なる報い》になっているという魔改造がされてました。こんな改造はアキ智さんしかしない。フラッシュバックあるし相性いいよとでも言ったのでしょうが、2D也のデッキを見るに最悪の改造です。そうじゃないと2D也もシウ平に勝てませんでしたよ。それに、アキ智さんが2D也に聞こえるように、シウ平がアニメの悪口を言ったかのような話をしていたという証言も取れています。大方、面白くなると思って煽ったんでしょうが、それに、事件当日の朝、いつものデッキじゃなくて、赤単のデッキを使っていたのもシウ平にデッキを貸したからですよね。使わなかったんじゃなくて、使えなかったんですよね」
「・・・いい読みだな」
「でしょう、だから、シウ平の6の意味は単純かもしれませんよ。死ぬ間際の人間が難しいことを考えられるなんてドラマか小説だけの話です。真犯人は本名が6文字で書かれる人、この中ではアキ智小五郎1人ってことです」
「なるほどな、ちなみに、ヤスはシウ平に恨みでもあったのか」
「いや、借りた漫画無くしちゃったんですよ、せっかくの機会と思って」
「まあ、お互い、もうこの事件は《洗い流し》ってことでいいんじゃないか」
「そうですね、見かけ上は丸く収まったことだし、《忘却の輪》にしときますか」
アキ智、ヤス岡の活躍で今日もこの街は平和であった。
【次に続かない】
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