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週刊デッキ構築劇場
第32回:伊藤敦のデッキ構築劇場?FTS、誕生?
読み物
週刊デッキ構築劇場
2011.10.03
第32回:伊藤敦のデッキ構築劇場~FTS、誕生~
演者紹介:伊藤 敦 日本マジック個人ブログ界でも屈指の人気を誇り、『まつがん』のハンドルネームで知られる。 |
コンボといえば青赤。
マジックの長い歴史を振り返ると、「コンボデッキが青赤であること」が実はそこまで多いわけでもないのだが、ここ最近だけを考えると、そんな印象を抱かざるをえない。
《ドラゴンの嵐》・・・《精神の願望》《ぶどう弾》・・・《ブリン・アーゴルの白鳥》《突撃の地鳴り》・・・そして《紅蓮術士の昇天》。さらにレガシーの《実物提示教育》《騙し討ち》デッキも、みんな青赤だ。
そういえば先月のプロツアー・フィラデルフィアでモダン環境を制したのも青赤《欠片の双子》コンボだった。
《集団意識》や《紅蓮術士の刈り痕》ストームも含めたあまりの使用率の高さに《思案》《定業》が禁止カードになるくらいだから、まさしく青赤のコンボデッキがモダン環境を支配していたといっても過言ではない。
つまり、やはりコンボといえば青赤なのだ。そして昨今の潮流に鑑みれば、次のスタンダード環境も青赤のコンボデッキが支配する宿命にあるに違いない。
そんなわけで今回は、新エキスパンション「イニストラード」のカードをふんだんに使用した青赤のコンボデッキを作ってみようと思う。
◎調整初日
もちろんはじめから「青赤のコンボデッキを作ろう」などと考えていたわけではない。
最初は「何とか《瞬唱の魔道士》で悪さできないもんかなぁ」などと漠然と思いを巡らせていただけであった。
パッと見でプロっぽい能力(?)なので誰しも使ってみたいと思うであろうこいつ。まず2マナ瞬速といえば《呪文づまりのスプライト》を想起させる。そう、こいつには次世代のフェアリーを担う可能性がある。そのためには、本家同様に2ターン目にいきなりプレイしてアドバンテージを稼ぐこともできなければならない。
しかし2マナでこいつをプレイしたら残りは0マナ。0マナのインスタント・ソーサリーが存在するのか?
あるのだ。そう、ファイレクシア・マナが。
すなわち、1ターン目《はらわた撃ち》で《極楽鳥》を撃ち落としてからの2ターン目《瞬唱の魔道士》、《はらわた撃ち》をフラッシュバック(対象本体)!!
・・・決まった・・・まさしくラディカルグッドスピード。情熱思想理念(略)そして何よりも、速さが足りない!!
このクーガー兄貴の最速の動き(?)を確保しつつ、2/1バニラで10回殴るプランB(もちろん存在しない)以外の勝ち手段が用意できるとすれば・・・
天啓を受けたと感じた私は早速イニストラードのカードリストを上から下まで注意深く眺め、そして出会ってしまった。
墓地から唱えるたび・・・つまりフラッシュバックするたびに2点。そう、イニストラードで再び「フラッシュバック」が帰ってきた。そして墓地のインスタント・ソーサリー全てにフラッシュバックを持たせる《炎の中の過去》で、墓地のファイレクシア・マナの呪文をフラッシュバックしまくれば・・・?
なかなか良さそうなコンセプトではないか。とりあえずデッキを作ってみるとしよう。
10 《島》 4 《山》 4 《硫黄の滝》 -土地(18)- 4 《瞬唱の魔道士》 -クリーチャー(4)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《はらわた撃ち》 4 《思案》 3 《彼方の映像》 4 《業火への突入》 3 《夢のよじれ》 4 《捨て身の狂乱》 4 《禁忌の錬金術》 4 《燃え立つ復讐》 4 《炎の中の過去》 -呪文(38)- |
そう、デッキではなかった。
《瞬唱の魔道士》や《炎の中の過去》と何となく相性良さそうなカードを全部ぶち込んでみた結果、紙束が誕生したのだ。
「コンボといえば《暗黒の儀式》だろ。用済みになった《瞬唱の魔道士》もサクれて地球に優しいし」と思って適当に入れたこのカードも、冷静に考えてクリーチャー4体ではまともに機能するわけがない。しかも《瞬唱の魔道士》からプレイすると3マナから3マナで別にマナが増えないのであった。
ん・・・マナが・・・増えない?
・・・危ない危ない、フォースの暗黒面に落ちるところだった。
(それでも一応試したけど)どうも行き詰まったと感じた私は、ひとまずこのデッキアイディアを寝かせておくことにして、並行して調整していた緑白人間ビートの方へと意識をシフトするのだった。
◎調整二日目
緑白の調整も一段落した翌日。
私は再びあの青赤フラッシュバックデッキを手にとって一人回ししては、うんうん唸っていた。
とにかくわかったことは、まず土地が少ない。
3マナのエンチャントと4マナのソーサリーがコンボパーツな時点で確定的に明らかなのだが、《炎の中の過去》で20点飛ばすには、たとえファイレクシア・マナを全力で活用しても最低6マナは必要だと感じた。つまり、土地6枚だ。
また、色マナの心配もある。青赤は対抗色ゆえに二色出る土地が少ない。一応青がメインカラーとはいえ、サブカラーの赤が8枚ではいかにも心もとない。
そんなわけで、キャントリップが数多く入っているとはいえ18枚は無謀だった。
さらにもう1点、どうやら《瞬唱の魔道士》は不要そうだということ。
「これ使いたいから始めたんじゃなかったの?」というツッコミもあるだろうが、よく考えるとせっかくのノンクリーチャーデッキがこいつのせいで除去の打ちどころを与えてしまうし、そもそも《燃え立つ復讐》も貼ってない2ターン目にいきなりフラッシュバックして墓地のリソース失っても何もいいことがないということに気がついてしまった。
だが、もちろん彼の役割がこれで終わったわけではない。
そう、魔法の呪文「アグレッシブサイドボード」がある限り・・・
それはともかく、そういうわけで《業火への突入》《夢のよじれ》や《瞬唱の魔道士》といった不純物を抜き、「デッキに本当に必要なパーツ」を考えて作ったヴァージョン2がこちら。
9 《島》 7 《山》 4 《硫黄の滝》 -土地(20)- -クリーチャー(0)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《はらわた撃ち》 4 《ショック》 4 《蒸気の絡みつき》 4 《彼方の映像》 4 《思案》 4 《捨て身の狂乱》 4 《禁忌の錬金術》 4 《燃え立つ復讐》 4 《炎の中の過去》 -呪文(40)- |
4 《渋面の溶岩使い》 4 《秘密を掘り下げる者》 4 《瞬唱の魔道士》 3 《マナ漏出》 -サイドボード(15)- |
少しはデッキっぽくなっただろうか。
この2種は《はらわた撃ち》同様、素打ちは盤面を捌くのに使いつつ、最後に《炎の中の過去》でフラッシュバックする際には打点の底上げになる。すなわち、より少ない呪文の枚数で相手を倒せるということだ。
殺意がありすぎて一瞬《夜の衝突》をタッチしたりもしたが、やはり盤面を捌けるかは大きいのですぐに抜けてしまった。また、《捨て身の狂乱》のランダムディスカードで《燃え立つ復讐》が落ちてしまう「事故」がイヤで《有毒の蘇生》を入れたりもしたが、結局これも不純物と判断した。
・・・かくして純化された青赤フラッシュバックデッキは完成に近づいたように見えたが、一人回しをしていると不快に思う部分がたくさんあった。
「もう《瞬唱の魔道士》入ってないんだけど《彼方の映像》って弱くね?」とか、
「これでもまだ土地少なくね?」とか、
「《燃え立つ復讐》だけ貼ってコントロールしたい盤面とかありそうなのに、普通に『フラッシュバック』って書いてあって実際フラッシュバックできるカード少なくね?」とか、
「よく土地3枚に《ショック》《蒸気の絡みつき》《はらわた撃ち》《炎の中の過去》みたいなどうしようもない手札来るんだけど、これマリガンするならデッキ構造破綻してね?」とか。
まだまだ改良の余地はある。
そう思いつつも、ここに至るまでの度重なる一人回しに疲れた私は、ひとまず思考をリセットする意味も兼ねてこの日の調整を終えた。
◎調整三日目
まず前日までの不満点を考えると、やはり《熟慮》の採用は欠かせないように思われた。
ドロースペルであり、フラッシュバックもある。《捨て身の狂乱》と一緒にデッキに入れると動きがややもっさりしてしまうため、使用候補に真っ先に挙がりつつも敬遠していたのだが、そこは「《燃え立つ復讐》がないと何も始まらない」というコンセプト上、必要な部分と割り切るしかないだろう。
だが、《ショック》《蒸気の絡みつき》といった「耐えるパーツ」を他のカードに置き換える作業は難航した。
「耐えるパーツ」がなければかなりサンドバッグ確実なのだが、《ショック》《蒸気の絡みつき》では良くて1ターンしか稼げず、コンボが揃っていないときの信頼性が低いのだ。
つまりこのスロットは「2ターン耐えるカード」であって欲しいのだが、青と赤のインスタント・ソーサリーを探してもそのニーズを満たすカードはなかった。
となると色を増やすしかない。最初は「なんかすごい(墓地の分だけとか)ライフ増えるカード」を探したが、これも見当たらない。
《機を見た援軍》は悪くないのだが、相手によっては腐ったり、1ターン分にしかならなかったりする。よほどメタゲームが固まっていない限りメインボード採用は躊躇われた。
何か・・・何かないのか・・・無為に時間だけが過ぎていく。
かつて《一瞬の平和》というカードがあった。
《春の鼓動》デッキや《歯と爪》デッキにおいて「2ターンまるまる稼ぐカード」として活躍していたそれは、数多くのビートダウンの不倶戴天の敵として立ちはだかった。
今このカードがあったなら・・・いや、ないものねだりはするまい。
だが、本当にないのか?
もう何度目になるのかもわからない、イニストラードのカードリストの往復。上からスクロールして・・・お?これは・・・
《戦慄の感覚》。そう、それはPeaceにしてPiece。これこそが欲していた「2ターンまるまる稼ぐカード」だ。
素で撃つためには白をタッチする必要があるが、フラッシュバックが青なのは好感触だ。
早速デッキに組み込み、そして確信した。これがWizardsの意思なのだ、と(注:妄想です)。
ただ本家《一瞬の平和》と違って「被覆」や「プロテクション」には無力なので、絶対無敵というわけでもないのだが・・・
それでもこの最後の1ピースを得て、デッキの完成度は飛躍的に高まったといえる。
それでは長らくお待たせした。無限の一人回しの末にたどり着いた、本日のデッキをお届けしよう。
4 《島》 4 《山》 4 《金属海の沿岸》 4 《硫黄の滝》 2 《銅線の地溝》 1 《氷河の城砦》 1 《断崖の避難所》 2 《ゆらめく岩屋》 -土地(22)- -クリーチャー(0)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《はらわた撃ち》 4 《思案》 4 《熟慮》 4 《捨て身の狂乱》 4 《戦慄の感覚》 4 《禁忌の錬金術》 4 《燃え立つ復讐》 3 《炎の中の過去》 3 《古えの遺恨》 -呪文(38)- |
4 《渋面の溶岩使い》 4 《秘密を掘り下げる者》 4 《聖トラフトの霊》 3 《天界の粛清》 -サイドボード(15)- |
flashback trip syndrome・・・略してFTSの完成である。
「青赤コンボとかいって白も入ってんじゃねーか!」とは言わないでほしい。構想段階ではここまで色が増えるとは思わなかった。
それにしても最初と比べると随分デッキっぽくなった。
例によってマナベースは超ウルトラ適当だが、一応一人回しはしている。
さて、ここではこれまで紹介していなかったカードを見ておこう。
どちらもライブラリを掘り進めつつ墓地を肥やすのに一役買ってくれる。
まず《捨て身の狂乱》は、このデッキだと《燃え立つ復讐》以外のカードは全て最終的にフラッシュバックされる運命にあるので、ランダムディスカードもほとんど怖くない。
他方の《禁忌の錬金術》は、土地や《燃え立つ復讐》を探しながら《戦慄の感覚》《捨て身の狂乱》といったフラッシュバックのカードが勝手に墓地に落ちるという、実際使ってみると割と意味不明な性能で、リアニメイトデッキなどでも活躍が見込めそうな良コモンだ。
フラッシュバックはかなり重いが、一応撃てるようにはしてある。《ゆらめく岩屋》様々だ。
《古えの遺恨》は極めて強力なカードであり、デッキコンセプトにも合致しているのだが、4色目となる緑マナの捻出がなかなか難しい。また、メインボードに必要かどうかはメタゲーム次第だろうが、ひとまず《鍛えられた鋼》デッキと《出産の殻》デッキをメタゲームの中心に据えた結果、勝つためにはメインに3枚以上必要という結論に至った。赤単相手にも《燃え上がる憤怒の祭殿》が割れてラッキー、なんてこともあるかもしれない。
ついでにサイドボードも紹介しておこう。
おや?
瞬なんとかさんの姿が見えないようだが・・・
《燃え立つ復讐》《炎の中の過去》を全部と《捨て身の狂乱》《ギタクシア派の調査》数枚ずつをサイドアウトしても、まだ26枚のインスタント・ソーサリーが残っている。その気になれば《思案》の助けを借りてもいいわけだし、《秘密を掘り下げる者》の変身を期待するには十分だろう。何より1マナという軽さがいい。
そしてこのカードの頼もしさといったら。まるで「アグレッシブサイドボードしてください」と言わんばかりの除去耐性と殴り値であっという間に相手を撲殺してくれる。さすがの神話レア、白をタッチしたことによる最も大きな恩恵と言っていいかもしれない。
でも地上の2/2バニラの攻撃が通るわけないって? 何のための《渋面の溶岩使い》、そして何のための《戦慄の感覚》か。
そう、メインボードは《一瞬の平和》だった《戦慄の感覚》が、サイド後は凶悪な《睡眠》へと変貌するのだ。
残念ながらもう瞬速2/1バニラでちまちまアドバンテージとったり10回も殴ってる場合じゃない、ということだ。
ちなみにレジェンドにも関わらず4枚なのは、そのあまりの強さもあるが、相手が出してくる《聖トラフトの霊》対策も兼ねている。何せ被覆は《戦慄の感覚》では止まらないからだ。メインボード? 投了だよ。
長くなってしまったが、いかがだっただろうか。
もちろんまだ「調整最終日」ではない。試していないカードもたくさんあるし、あるいは、あるカードを通過したように見えて実はやっぱり強かった、なんてこともありえる。
いずれにせよこのFTSとともに新環境を駆け抜けてみるのも一興だろう。
そして最後に。
結局デッキから完全に抜けていったけど、デッキを作るきっかけを与えてくれた《瞬唱の魔道士》に敬礼!
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