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Beyond the Basics -上級者への道-
『統率者(2017年版)』のデザインの話
『統率者(2017年版)』のデザインの話
Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing
2017年8月17日
信じられないが、もうすぐ『統率者(2017年版)』の発売日だ!
リード・デザイナーとして、このプロジェクトがようやく世界にリリースされることは喜ばしい。しかし今は、わずかな期間ではあるが、全てのカードを知っているのにまだ手に入れて遊ぶことはできない。そしてこの待ち遠しい時間は、セットとカードについて話すには絶好の機会だろう。
よって今日は、その話をするとしよう。
どうやって4つの部族に決まったかについての話を少ししてから、収録されているカードについてのエピソードを話していきたい。全てのカードについて言及することはできないが、話したいことは1つや2つでは収まらないね。
話したい話題がたくさんあるので、さっそく行ってみよう!
部族
この記事を書いているのは掲載される1か月前だが、野生の勘が告げている。このセットで最も話題になる質問はこれだろう。「どうしてこれらの部族が選ばれたんだろうか? 確かに良いけど――なんでこの4つなの?」
それは重要な問題だね。
まずは、この4つに決まった理由から説明しよう。
チームが最初に行ったことの1つ目――セットがどんなものかという概要を説明したあと、まさしく第一にすることと言えるかもしれないが――目標をどう立てるかについて議論することだった。目標を立てておけば、何をすればいいかについて指導しやすくなるし、良し悪しの判断がつかない場合に何らかの指摘が可能になるため、私は最初に目標を立てることにしている。
我々の、部族についての目標は以下の通りだ。チームに渡した資料からそのまま掲載する。このようなものにしたかった。
- プレイヤーがよく知っていて、好かれている部族を1つ以上入れる
- プレイヤーがそれほど意識していない部族を1つ以上入れて、注目させる
- 極めてカジュアル寄りなプレイヤーに訴えかける部族を1つ以上入れる
- プレイヤーにそのユニークさ、あるいはプレイスタイルによってアピールできる部族を1つ以上入れる
- トリッキーで遅めのデッキを好むプレイヤーのための何かを持つ部族を1つ以上入れる
- デッキ間の色のバランスを整える
目標が4つより多いことに気付いたかもしれないが、意図的なものだ――デッキによっては複数の目標を当てはめることが可能だからね。
我々が次に取り掛かったことの1つは、セットのために使えそうな、我々の気を引く部族を数多く拾い上げて意見交換することだった。もしかしたら可能かもしれない、という水準のものまで、すべてを話し合った。エルフやゴブリンといった手堅く中心的な部族から、ネズミや苗木といったありえなさそうな選択肢まで、あらゆるものをだ。十分な枚数が存在している(あるいは少なくとも『統率者』デッキを満たすだけの数がある)部族について、我々はほぼすべてを話し合った。
私は古いメモ書きや電子メールを見返して、かなり早い段階でこのリストが存在していたことを確認した。ほぼ最初のホワイトボードからとはいかなかったが、このリストはチームのお気に入りの部族と、同じビルで仕事をしている他の人々にクールだと思う部族を聞いてまわった結果を合わせたものだ。
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すごいリストだろう?
ここから、少し内容を絞って(それでも多いが)データを集めることにした。そのために2つのことを行った。
最初に、マジックで最も強大な力を持つものを活用した。マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterだ。
マークはTwitterの新しい投票機能に夢中で、使う理由を探していた。マークと私はトーナメント戦の愛好家でもあるんだ。そして、同時期、私は『統率者(2017年版)』に取り掛かり始めたばかりだった。マークと私は1つのアイデアを思いつく。より好きなクリーチャー・タイプについて、人々に投票してもらうのはどうだろうか?
このような経緯から生まれたのが、「head-to-head」(決選投票)だ。
Head-to-Head: Creature Types - Finals
— Mark Rosewater (@maro254) 2015年12月4日
見たことがないようなら説明しよう。マークは毎週何百もの物事をこなしているが、さらに数週おきに行う新しい活動として、Twitterでのマジック投票トーナメントを開始し始めた。当初は――これが始まった理由は――『統率者(2017年版)』のためだった。そしてそれは、マローに「head-to-head」を継続しようと決心させるほどにうまくいったんだ!(これを続けるという判断も素晴らしいものだった。現在、我々は仕事で活用するためにみんなが投票機能を利用している。)
というわけで、あなたも「head-to-head」のファンかもしれないが、これがその起源なんだ!
私が活用した強大な力はほかにもある。ウィザーズの従業員がみな、マジックが大好きなところだ。
社内全員に向けての『統率者(2015年版)』発売記念イベントが開催されるタイミングだったので、参加者に記入してもらうためのアンケート用紙を作成した。参加者は統率者戦をよく遊んでいるプレイヤーばかりなので、何が好きかを参加者に投票してもらおうと思ったんだ。そこでマークが実施した投票結果の上位16部族をアンケートに並べ、参加者にそれぞれを1点から10点で評価付けしてもらい、その結果を集計してみた。
ここまでやってきて、いくつか分かってきたことがある。そしてここで、全ての選択肢を精査し始めたんだ。
1.ドラゴン!
《若き群れのドラゴン》 アート:Vance Kovacs |
長い間、我々が知る限りでは、ドラゴンが最もポピュラーで常に愛されているクリーチャー・タイプの座を勝ち取っているものだと言われてきた。そして今回は、マークの「head-to-head」と社内アンケートの両方で勝者となった。
それとは別に、我々は5色デッキを出したいと思っていた。ドラゴンは5色でなければならない、というわけではない――例えばドラゴン・デッキは黒赤緑にして、他の何かを5色デッキにすることも可能だ――が、マジックの各色に存在するさまざまなドラゴンを採用できるのは素晴らしく、5色にするにはちょうどよさそうだ。加えて、ドラゴン・デッキにはマナ・ランプが必要だった。スピリットやエレメンタルには必須ではないかもしれないが、5色のドラゴン・デッキという性質には適切だ。
つまりドラゴンはど真ん中のストライクで、初期の構築実証テストでも(主にベン・ヘイズ/Ben Heyesの仕事ぶりのおかげで)良い感じだったので、そのまま取り掛かることができた。
2.吸血鬼!
《ヴァーズゴスの血王》 アート:Greg Staples |
吸血鬼を採用することには、最初から乗り気だった。数多くの理由があるが、そのうちの一部だけでも紹介しよう。
- 吸血鬼は素晴らしく、最も人気のある部族の1つでもある
- より速攻から中速の戦略向きのデッキとして、序盤から展開できてゲームが動くことになる
- 『イニストラードを覆う影』の黒赤吸血鬼がスタンダードのローテーション間近なので、それらを使える別の機会を生み出せる
それと同時に、この吸血鬼デッキを、『イニストラードを覆う影』に存在する赤や黒の伝説の吸血鬼を中心に組んだデッキとは少し違う感じにしたかった。吸血鬼はもともとライフ獲得やライフ喪失との関連性が高く、白に広げることでいくつかの新しい吸血鬼の戦略をプレイすることができるようになるので、新しい居場所を見つけたと思った。デザイン・チームで吸血鬼デッキを担当していたのは私で、デッキの調整はとても楽しいものだった。
3.ウィザード!
《儀式の大魔導師、イナーラ》 アート:Yongjae Choi |
これまで私は、お気に入りのマジックの部族についての話題で、ウィザードを耳にすることはあまりなかった。しかし情報を集めてみると、部族の中では中堅的な人気を誇っていることが分かってきた。私は候補の中ではマーフォークのほうが人気だろうと思っていたのだが、そうではなかったんだ。
そして最終的には、私の予想よりも多いウィザードへの愛が確認できた!
それは「head-to-head」でもスリヴァーに勝利し、天使にもあと一歩で勝利するほどの好成績で、社内アンケートでも好評だった。
そしてウィザードという部族は、我々の目標をいくつか達成する上でも役立つものだった。独特なプレイ感覚を持つ、よりコントロール寄りのデッキとして仕上げることが可能で、重い部族デッキを好まない人々に注目させることができる。結果としてウィザード・デッキは、青のコントロールで統率者戦を遊びたいプレイヤーに訴えるものとなるよう、4つの中では最も部族が少ない感じになった(勘違いしないように。それでも部族として十分にクリーチャーが採用されているぞ!)。なじみ深い青黒赤コントロールというやつだ!
そして私にとっては極めて小さなことだが、全てのクリーチャーを種族でまとめるのではなくて、我々の部族の中に少なくとも1つの「職業」が存在することにもなった。
ウィザード・デッキを調整したのはジュール・ロビンス/Jules Robinsだ。すでに知っているかもしれないが、我々は青黒のウィザード・デッキを提出し、赤はデベロップによって追加された(それは正しかった)。
4.猫
《羊毛鬣のライオン》 アート:Slawomir Maniak |
猫が成功するとは思っていなかった。
それはマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebが提案したもので、メンバーはかなり懐疑的だった。猫デッキを機能させるため、マークは、デッキの骨組みを早い段階で練りこんでいた。彼の(ゲーム・デザインにおいて見せる素晴らしい才覚による)切れ味鋭い解決策は、猫と装備品に関連性を持たせるというものだった。
それだけでも考慮するには十分だった。ドラゴンではない緑のデッキが必要でもあった。その候補としてエルフを考えていたが、緑白エルフにはすでに《帰還した探検者、セルヴァラ》や《贖われし者、ライズ》のような適切な統率者がいるし、数年前にも《ラノワールの憤激、フレイアリーズ》でエルフは題材として使用済みだ。
そこで私は猫について聞き込みをはじめ、データを集め始めた。
私が絶対的に信じている、マーク・ローズウォーターのゲーム・デザインについての考えにはこのようなものがある。「あなたのゲームを誰もが良いと思っているとしても、誰にも好きだと思ってもらえないなら、失敗するだろう」
あらゆる人がいいねと認めてくれるだけのものを作るのではなく、そのゲームを心から好きだと言ってくれる人のためのものを作ろう、という考え方だ。誰もが10点満点中6点を付けるゲームより、10点を付ける人と1点を付ける人がいるほうがよい、ということだね。
猫デッキに起こったのは、まさにそれだ。
大勢のプレイヤーに猫デッキを試してもらったが、とても困惑した表情を見せたり、何かのジョークかと尋ねてきたりした。
しかし試してみた人の中には、猫デッキをプレイする興奮に目を輝かせんばかりのプレイヤーもいた。それが大好きな人々がいたんだ。
猫はやれる、と判断した時のことを思い出すよ。ヨーロッパ・チームのダン・バレット/Dan Barrettがこちらに来ているとき、彼は『統率者(2015年版)』発売記念イベントで参加者に記入してもらったアンケート結果を見た。
後で彼はやってきて、「ガヴィン、君が他をどうしようと気にはしないが」と切り出した。「他は気にしないが、『統率者(2017年版)』に猫がなかったら俺は暴れるよ。こいつは俺たちが手掛けてきた中でも最高と言えるものの1つだ」
それが、そこまでに見てきた他のすべてに追加された、最後の一押しだった。それに猫は、プレイヤーに予想されていなさそうでなおかつ楽しいもの、という要求にも当てはまっている。
これが猫に決まった顛末だ。マーク・ゴットリーブはデザインの間ずっとデッキを調整し、素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。
煮詰めて圧縮し、いくつかの手短な項目とさせてもらったが、これらがそれぞれの部族が選ばれた理由だ。(もちろん、その過程では、数週間にわたる調査、議論、そして構築が行われていた。)部族を4つに絞るだけでも大変だった。100個ぐらい部族デッキを出せれば楽だったんだけどね。
どんな部族デッキが好きであっても役に立つカードも、大量に加えた。そして、この4つのデッキの中に好きな部族が無いとしても、デザイン空間は十分に残されており、我々が再び部族デッキを世に送り出せる点は疑いようがない。もしこれらが受け入れられれば、間違いなくここを再び掘り下げることになるだろう。皆はどんな楽しみ方をするつもりなのか、教えてほしいね!
収録されたカードたち
さて、デッキがどのように選ばれたのかについては、色々と話すことができた。ではカードがどのように作られたのかについては?
さあ、デザインの物語のための時間だ! プレイテスト時の名前からカード作成の方法まで、印象に残っているカードについていくつか紹介していこう。
《血統の屍術士》
先週、『統率者(2017年版)』に猫ドラゴンが入った経緯......2つのデッキにまたがるクリーチャー・タイプを持つカードのサイクルを作ろうとしていた名残だ、という話をした。猫ドラゴンを除けば、それらに問題はなかった。(実際は猫ドラゴンにも問題はなかった!)それらはどれも良い感じだった――特に吸血鬼は(吸血鬼・ウィザードのように)職業を持つ種族として使えるだけでなく、(猫・吸血鬼のように)別の種族があとから吸血鬼になった、という使い方もできるのでやりやすかった。
このアイデアはアンコモンのサイクルという形では結実しなかったが、《血統の屍術士》はその名残として2つのデッキに収録された。だからそれら両方のクリーチャー・タイプを持っているんだ。
《血誓いの使用人》
デザインのある時点で、まだサイクルにはなっていないが、それを『統率者』でサイクルにする(か、サイクル完成に近づける)と面白い、と思えるものはないだろうか、とメンバーに相談した。ジュール/Julesはそれに当てはまるものとして《拠点の守備兵》を取り上げ、メンバーはそのアイデアを気に入ったので、さらに作ってみることにした。
元々このセットには、統率者を強化する効果を持つカードが4種類存在しており、既存の《拠点の守備兵》を含めるとサイクルになるようになっていた。我々は最終的にそれを全て入れることは断念したが、もし面白そうだと思ったなら教えてほしい。そうしたら、多分もう一度やってみるよ!
それと、面白い事実がある。元々これはドラゴンで、ドラゴン・デッキに入っていたんだ。ブライアン/Bryanはそれを変更し、吸血鬼が4マナ域で可能な強い行動を増やした。吸血鬼として見ても赤として見ても、4マナ4/4飛行クリーチャーというものはそう多くない。これから先、統率者戦でこのカードをよく見かけるようになるんじゃないかな。
《真紅の儀仗兵》
『統率者』のセットでのみ触れることが可能な、実に興味深い統率者戦固有のデザイン領域というものがいくつか存在する。そして私は、我々もあまり触れていないような部分を深く掘り下げてみたかったんだ。このカードは最初から最後まで数値がほぼ変化しなかった。
《真紅の儀仗兵》は、ゲームの過程でほとんど統率者を統率領域から出さないプレイヤーを罰する手段としてデザインされた。《大祖始》や《老いざる苦行者、アローロ》を使うなら気を付けよう! 《真紅の儀仗兵》はあなたを執拗に狙ってくるぞ。
《礼儀妨害》
ある日、ベン/Benと私は廊下ですれ違った。お互いに逆方向に向かって歩いていたので、彼は大声でこう言ってきた。「ああ、そういや、『コンスピラシー:王位争奪』から何か使いたいものがないか考えたほうがいいんじゃないかな」
私はうなずいた。
自分の席に戻った私は、さっそくいくつかのカードを考えてみた。私は『コンスピラシー』の使嗾が好きで、いかにゲームの展開を左右するかをいつも楽しんでいるのだが、統率者戦のパワーレベルにふさわしいものは存在していない。では、調整してみようか?
これの最初のバージョンは〈いらつかせの学び舎/Jerk School〉と呼ばれていて、対象のプレイヤーを使嗾するものだった。何度も手直しを繰り返し、最終的にブライアンは他のすべてのプレイヤーを使嗾するこのバージョンに決めたんだ。
『統率者(2017年版)』のデッキで遊ぶときは、隣の人に注意しよう――《礼儀妨害》を使う人の左隣に座ることは絶対に避けたいね。
《幸運な生き残り》
このカードはかなり長い間、緑白のカードだった。最初は――「Catastrophe」(破滅的状況)を引き起こすだけあって――猫デッキに入っていて、使うのがとても楽しいものではあったが、猫デッキは本当はクリーチャーをたくさん展開し続けたいということが分かってきた。そこまでクリーチャーを並べないデッキは? ドラゴンだ。そこでブライアンはそれを適切に移動した。
さて、なぜ緑白ではなくなったんだろうか? 緑である必要性がなくなったと判断したため、我々は後になってからセットのための変更の1つとして、これを白単色にした。色が増えるごとにそのカードを使えるデッキが大幅に減っていくため、統率者戦のデッキにとって多色は極めて強い制限になるということが分かったからだ。単色か多色かを選べる場合は、統率者戦のデッキに入れやすくするため、我々は可能な限り単色にすることを選択する。それが伝説のクリーチャーでない限りはね。
《自我破摧》
......しかし効果が多色でなければならない場合は、多色のままだ。《自我破摧》はその一例だね。これは他のどこにもぴたりと当てはまらないので、白青のままだった。マーク・ゴットリーブがこのカードを提示し、効果とマナ・コストは一切変更されなかった。これはこのセットで唱えるのが最も楽しいカードの1枚で、はちゃめちゃな状況を色々と生み出す可能性を秘めている。マーク、いい仕事だよ!
《飢えたオオヤマネコ》
マジックにおける猫は、レオニンや猫族の戦士、あるいは巨大な猫といったものが大半で、普通の猫はそう多くない。(2匹の!)猫の飼い主であり、猫の愛好家でもあるマーク・ゴットリーブは、普通のイエネコの代表的なカードを作りたがっていた。そして猫がテーブルに飛び乗って全てのパーマネントをかきまわすようないくつかのメカニズムを除けば、彼はそれをやり遂げた、と言えるだろうね。
「臆病者は戦士をブロックできない。」の一文を持つ《ボールドウィアの威嚇者》は私のお気に入りの1枚だが、「あなたがコントロールする猫はプロテクション(ネズミ)を持つ。」という一文も実に私好みだ。
《精神の大魔術師》
『統率者(2015年版)』で《輪の大魔術師》が登場して以降、『統率者』のデザイン担当は思い立って大魔術師のスーパーサイクルを続く4年で作り始めた。
使える効果を青から探し始め、デッキに入れたときに正常に機能しつつも楽しめるものを見つけ出すまでには時間がかかった。《修繕》効果はとんでもないが、ウィザードというテーマとは関係ない。《Time Walk》効果は多人数戦ではやりすぎだ。《意外な授かり物》はあまり面白くない。最終的には、私のお気に入りのカードに決まった。《精神の願望》だ!
大魔術師となったこれを使う時に覚えておくべきことの1つは、いつでも能力を起動できるということだ。相手のターン中に起動してすべての呪文を唱えられるとなれば、《精神の願望》そのものとは全くの別物となるだろう!(その場合、《精神の大魔術師》で追放したカードのうちインスタント速度でプレイ可能なものに限られることは忘れないように。)
《悪鬼追い、マシス》
ケリー・ディグス/Kelly Diggesは、これら伝説のクリーチャーについてすべてを把握する必要がある中で、素晴らしいパートナーだった。中には、そう難しくないものもあった。
しかし赤白黒の吸血鬼を考え出すというのは、かなり未知の領域だった。我々はいくつかのアイデアをやり取りした。《エドガー・マルコフ》はどんぴしゃだったが、何かまったく新しい登場人物は生み出せないだろうか?
その後ケリーが3つの単語を並べた。「吸血鬼」「賞金」「稼ぎ」。
吸血鬼の賞金稼ぎは良さそうだと思ったので、さっそく自分の机に戻ってこのカードをデザインした。デベロップでわずかな間セットから外れたものの、最後には変更なしで戻ってきた。
賞金は賢く出そう。
《有徳の刃鍛冶、ナザーン》
我々はわずかな期間、統率者ではないが最初に統率領域に置いておけるカード、というアイデアについて話し合った。それ自体はうまくいかなかったが、最初にそれを話し合うきっかけとなったアイデア自体はうまくできていた。愛用の武器を引っ提げて登場する猫だ。
そこで我々は、開発部が時々利用する手を使った。サイクルの中で最も良いものを残し、残りをあきらめたんだ。これから伝わる物語と、統率者が自身の武器を身につける手段、私はそのどちらも気に入っている。
《新たな血族》
私はスタンダードのある時期に《蠱惑的な吸血鬼》をかなり使い込んでいた。対戦相手が自身のターンで本当に長い時間悩んでいたので、その間に私は別のことを考え始めた。こんな感じだったかな。「そのクリーチャー・タイプへの献身的能力をも全て吸血鬼へと変更できたらクールじゃないか? というか、そうでなきゃ!」
その考えを抱いてから4年後、そのコンセプトに基づいてマジックのカードを作った。カードに関するインスピレーションはどこからでもやってくることを示す好例だね。きっかけとなったカードへの感謝の気持ちとして、プレイテストのときに私はこのカードに〈吸血鬼化/Vampirize〉という名前を付けたのだった。
《血管の守護者》
よく誤解されるのだが、ウィザーズではチームのメンバーだけがセットに入るマジックのカードを制作できる、と思われているようだ。実際は、ビル内の他の人々も制作に貢献できる!
例えばレアの穴埋めが必要な時は社内の全員から募集するし、他にもいくつかデザイン関連の業務がある。毎週月曜日には、ゲームサポートから不正行為対応まであらゆる関係者が集まるカード・デザイン研修会で、お題をもとにカードをデザインしてみる機会があるんだ。
これらの集まりの中で、『統率者(2017年版)』の部族のためにカードをデザインする、というお題があった。開発部に所属しているものの『統率者』のデザインをする機会は無かったアリ・メドウィン/Alli Medwinとスコット・ファン・エッセン/Scott Van Essenが、〈吸血鬼の配膳業者/Vampire Caterer〉というカードを思い付いた。私はその気配を察知し、すぐさまセットに加えることにした。それは最後までほとんど内容が変更されることもなかった。
《変化する影》
数年前、私がウィザーズに来てまだ比較的新しいと言える時期に、『統率者(2013年版)』のデザイン要望を満たすため、〈霊気のひきつけAether Spasm〉という名前でこれをビリー・モレノ/Billy Morenoに提出した。彼と彼のチームはこのカードを気に入ってしばらくプレイしていたのだが、最終的には別の理由から収録を見送らなければならなくなったようだ。その時ビリーはこう言ってくれたんだ。「いつかこのカードが印刷されることを私も願っているよ」ってね。
何年か先に進もう。今は私がセットの担当者だ......当然、私はこれをセットに入れておいた。みんながこれを気に入ってくれた。カードが変更されることもなかった。
ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社でマジックのカード・デザインを担当するのであれば持っておきたい最も重要なスキルを1つ挙げよう。忍耐だ。
《忍び寄るレオニン》
もともと、ゴットリーブは、「復讐/vendetta」というメカニズムを持つクリーチャーを完全なサイクルとして揃える、という考えでこれを提出した。彼が思いついたこのクリーチャーをみんなで試してみると、このメカニズムはとても面白いものだった。突然毒蛇が飛び出してくるかのような、魅惑のカードだ。そこで我々は他のカードもデザインしてみることにした。それで、作るのはどれくらいの難易度だったろうか?
ああ、やってみてわかったが、かなり難しいものだった。
これのデザイン空間は極めて限られていて、実際のところこれで作れる良いデザインはほんのわずかだった。(とりわけ、能力について完全に書き記すときのテキストの長さを考えるとね!)我々は5枚分作ってみたが、実際にいい感じなのは2枚だけだった。そしてブライアンのデベロップ・チームは、それらのうち1枚にOKサインを出した。とは言え、我々はこれをとても面白いと感じたので、いつか別の仲間が増えるんじゃないかな。これについてどう思っただろうか。もっと欲しいと思ったなら教えてくれ!
《オジュタイの達人、テイガム》と《シディシの手、テイガム》
私が『統率者(2017年版)』に取り組んでいる間、プレイヤーの間で『タルキール覇王譚』ブロックにテイガムがいない、ということが話題になっていたことはよく覚えている。彼はドラゴン・デッキとの相性がよさそうだ。ではやってみようか?
ケリーに相談すると、彼は『タルキール覇王譚』と『タルキール龍紀伝』、両バージョンのテイガムを作るのはどうかと提案してきた。そいつはいい!
これは『統率者』でしかできないようなことで、部族という要素にも適していた。このペアは、このセットの独特な部分として私が気に入っているものの1つだ。求められてきた昔の登場人物を登場させることができて、とても嬉しく思うよ。いまだにカード化されていないが見てみたい、という登場人物がいるなら、いつでも教えてほしい――聞く準備はできている。
《テフェリーの防御》
さて、マジックにフェイジングを戻したことについての責任の一端が、今の私にはあるだろう。
これは、〈煙の中への消失/Vanish into Smoke〉という名前の、吸血鬼を表現するためのトップダウン・カードとして始まった。吸血鬼が煙へと変化し消えていくという映画の象徴的シーンから来ていて、そうなってしまうと何をやっても効果がないんだ。
それはかなり長い期間その名前のままだった。その後、ケリーがこれを変更する風だったので、話を聞きに行ったんだ。
ガヴィン「〈Vanish into Smoke〉の名前と表現を変更するつもりだって聞いたんだけど」
ケリー「ああ」
ガヴィン「その判断は信用するよ。それで、新しいナイスな表現は何になるんだ? 私は――」
ケリー「これはテフェリーがザルファーをフェイズアウトするところさ」
ガヴィン「ああ、なるほど。そういうことか。さすがだね!」
ただただ驚くばかりだ。こんな素晴らしいフレイバーの合致があるだろうか。アートワークも素晴らしいものが用意された。とにかく見てくれ!
《テフェリーの防御》 アート:Chase Stone |
のちの編集作業において、まさにフェイジングこそ、テフェリーをテーマとしたカードに求めていたものであったことが判明し、この変更は完全なる融合を見た。
私はこのカードを使うのが好きなので、面白い使い道をプレイヤーが見つけてくれることを願うよ。
《執念深いリッチ》
我々はデッキの中心となる4つの部族を選出したが、どんな部族デッキを組みたいとしてもその構築を助ける、《祖先の道》のような「汎用的」部族カードもいくつか加えておいた。そしてそれ以外にも、人気の高い他の部族デッキでも機能するように、そのタイプを付加したクリーチャーをいくつか潜ませておいた。
《執念深いリッチ》はその一例だ。これはゾンビ・デッキでもうまく使えるぞ!
『Archenemy: Nicol Bolas』のデザインを終えた直後に、ジュール・ロビンスはこのカードを作成した。各対戦相手に悪影響を及ぼす効果を選択する、いくつかの計略カードから着想を得たものだ。元は美学的な理由から失うライフは3点だったが、ブライアンはさらに強化するため5点に増やした! 我々は大規模統率者戦でさらに別のプレイヤーに影響を及ぼせるよう、モードを増やすか議論したが、現状のままでプレイに駆け引きが出るのも面白いと判断した。(テキストの長さという問題もあったことは言うまでもない。)これを使うのは楽しいよ。ついでに対戦相手がこちらを攻撃することをあきらめてくれるといいね。
《ネコルーの女王、ワシトラ》
これについての話は先週の記事で語ったので、リンク先を見れば読むことができる。と言うか、このセットについての話の中では最も好きなエピソードの1つなので、ぜひ読んでみてくれ!
ハッピー・ニュー統率者イヤー!
これであなたは、『統率者(2017年版)』のさまざまな面白い背景について知ることとなった。このセットについての多くの雑学を対戦中に披露しまくることで、友達に面白がってもらうのもいいんじゃないかな。
ここまで長い道のりだったが、いよいよ『統率者(2017年版)』が店頭に並べられる。一度遊んでみて、このセットにどんな印象を持ったかぜひとも聞かせてほしい。この先、また別のセットに取り組むことを考えると、なおさらね。あなたの感想は重要なんだ! TwitterやTumblr、あるいはメールがよければBeyondBasicsMagic@gmail.comに(すまないが英語で)感想や疑問を気軽に書き込んだり送ったりしてくれると嬉しい。
来週から「Beyond the Basics -上級者への道-」は通常運転に戻る。マジックの戦術、その新しい側面について取り扱うので楽しみにしてくれ。
また会おう!
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com
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