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EVENT COVERAGE
『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップ
氷鮫来たる
2020年12月10日
(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものです。)
ブラッド・バークレイ/Brad Barclayにとって、世界レベルのイベント初陣となったのはドイツ・ベルリンで開催された「世界選手権2003」。当時のバークレイは、伝説的プレイヤーであるカイ・ブッディ/Kai Buddeと同じ空間にいることに畏れを抱く17歳のプレイヤーであった。故郷スコットランドで予選を抜け、イギリスをほぼ縦断する形での遠征であったこの初陣。まずはドラフト・ラウンドを3勝0敗で終えると、同シーズンにルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した大礒 正嗣をも下し7勝2敗まで順調にスコアを伸ばした。プロたちと肩を並べることができるかもしれない、そんな想いが頭をよぎる。
しかし、そこで歴史は紡がれなかった。6人のプロプレイヤーたちと卓を囲んだ2日目のドラフト・ラウンド、そこで彼の夢は潰える。しかしながら、ここでの体験は彼の心に灯をともすのに十分であった。その後の17年間、何があろうと彼はマジックへと舞い戻り続けたのだ。そしてここ数年では、「ワールド・マジック・カップ」で何度もスコットランド代表として選ばれるなど、世界レベルの大会に幾度となくその姿を見せていた。
(写真左から)ダンカン・タン/Duncan Tang、ブラッド・バークレイ、ステファン・マレー/Stephen Murray
スコットランド代表として戦うことは苛烈な体験ではあったが、あの時の、ベルリンで抱いたあの感情を、彼に想起させるには至らなかった。
「まさか大きな大会で優勝する日が来るなんて夢にも思っていなかったよ」 バークレイは語る。「世界選手権では2日目のドラフト・ラウンドで1-2した時に、『これが強いやつらの戦いか』と痛感した。それから気づいたんだ、世界レベルの大会で好成績を残すには、正しいデッキ選択に始まり自分の思い描く展開にするための正確なプレイをするまで、あらゆる要素を揃える必要があるのだ、と。私は正しいデッキさえ選択することができればそれなりの成績は取れると思っていたけど、それが優勝につながるとは思っていなかったよ」
世界最高峰のプレイヤーたちと戦いの舞台である『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップでの体験は、バークレイにドイツでの初陣を想起させた。しかし今回は「肩を並べる」以上の手応えを感じていた。これまでとの決定的な違いは、デッキ選択。今回バークレイがヒストリック・ラウンドで握った「アゾリウス・コントロール」こそが本大会最高の「勝ちデッキ」だったのだ。ヒストリック・ラウンド11戦無敗という驚異的な記録を残しながら、彼はチャンピオンシップへと駒を進めた。
5 《島》 4 《平地》 4 《神聖なる泉》 4 《灌漑農地》 4 《氷河の城砦》 3 《アーデンベイル城》 2 《ヴァントレス城》 -土地(26)- -クリーチャー(0)- |
2 《墓掘りの檻》 4 《検閲》 3 《不可解な終焉》 1 《霊気の疾風》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《アズカンタの探索》 4 《吸収》 4 《排斥》 4 《神の怒り》 4 《サメ台風》 2 《覆いを割く者、ナーセット》 4 《ドミナリアの英雄、テフェリー》 -呪文(34)- |
3 《ドビンの拒否権》 1 《不可解な終焉》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《本質の散乱》 1 《封じ込め》 3 《神秘の論争》 2 《機を見た援軍》 1 《空の粉砕》 2 《覆いを割く者、ナーセット》 -サイドボード(15)- |
そして勢いのままにオータム・バーチェットとの戦いを2-0のストレートで制すると、『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップ王者に輝いたのだ。この瞬間も、バークレイは決して1人で戦っていたわけではなかった。スコットランドのマジックプレイヤーの半数が深夜過ぎであるにも関わらず、バークレイの戦いを、勝利を見守っていたように思える。そしてバークレイ自身も、戴冠のその時に頭に浮かんだのは地元コミュニティへの想いであった。
「スコットランドのコミュニティには最大の感謝を伝えたい」 バークレイは言った。「みんないつでも協力的なんだ。大会前のお祈りからその後の飲みまで、彼らからはあらゆる面でのサポートを受けてきた。今回のチャンピオンシップでは15年連絡を取っていなかったプレイヤーからもメッセージをもらってね。それだけの長い間やりとりがなくてもトップ8を見ていてくれたんだ。」
バークレイの躍進が熱視線を受けるのも当然だ。34歳の忠実なサッカーファンである彼は、スコットランドのコミュニティの素晴らしさを体現する存在である。そして今回、彼の優勝に特別な想いを抱いていたのは彼だけではなかった。ゲイリー・キャンベル/Gary Campbell、地元でカードショップを経営している彼が「グランプリ・バーミンガム2018」で史上最高齢のグランプリ王者として戴冠したことをきっかけに、スコットランドのコミュニティの勢いに火がついたのだ。
けたたましい声援とともに幕を閉じたこのイベントは、忘れがたい歴史の1ページとなった。
キャンベルがトロフィーを手にしたことにより、スコットランドのコミュニティはその存在感を増した。そして今、バークレイが『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップの王者に輝いたその瞬間が、ここまで築き上げられたコミュニティの歴史に新たな快挙として刻み込まれたのだ。
「スコットランドのマジックコミュニティは、ここ25年間私の生活の一部になっている。誰もがお互いのことを知っている、まるで大家族のようなコミュニティだよ」 キャンベルは語る。「ブラッドは私の『息子』のひとりさ。マジックに興味を持ってうちの店に集まる12歳くらいの子どもたち、その中に彼はいた。うちはブースタードラフトに注力していてね、子どもたちは腕っぷしの強いプレイヤーに負けが込んでは成長していったよ。家に帰っては練習を重ね、彼らが15になる頃にはイングランドで開催されるプロツアー予選まで車で連れて行くようになっていた。一晩中車を走らせてロンドン、マンチェスター、リバプールのグランプリに連れて行ったこともあったよ。ブラッドはその中じゃ一番物静かな子ではあったけど、腕の良さも一番だった。それから彼がスコットランド最高のプレイヤーになるまでにはそう時間がかからなかったよ」
「彼は私が知る中で最も賢い人物だし、何より最高の友人だ。彼が優勝した晩は感動に打ち震えたよ。本当に嬉しいし、戴冠に相応しいプレイヤーだと思う」
キャンベルの賛辞がスコットランドのコミュニティ中にこだますると、その空間を埋め尽くすほどの数の温かい言葉が次々とそれに続いた。バークレイが掴み取った勝利が、この絆の固いコミュニティが長い年月をかけて積み上げてきた努力の結晶であることを物語る。
「スコットランドのコミュニティに所属するマジックプレイヤーは常に切磋琢磨を心がけている」 そう語ったのはバークレイと調整チームをともにするマーク・ファーガソン/Marc Fergusonだ。「みんな競技志向の強いプレイヤーだけど、いつだって全力で仲間のサポートをするんだ。会場にいようが家にいようが、ひとたびドロップしてしまったプレイヤーは残って戦うプレイヤーたちを応援する」
(写真左から)マーク・ファーガソン、ブランドン・バルフォア/Brandon Balfour、ステファン・マレー、ケヴィン・パス/Kevin Pass
「ブラッドはずっと別次元にいるプレイヤーだと感じていた」 ファーガソンは語る。「ブラッドと20回プレイテストをするのには、20回グランプリに出場するのと同等の価値がある。彼は絶対に調整相手の改善点を見つけるんだ。めったにその答えを教えてくれないけどね。間違いなく彼がコミュニティのトップだし、そんな彼が世界レベルの大会で頂点に到達できてこれ以上に嬉しいことはないよ」
20年来の夢が叶ったその瞬間にも、バークレイは相も変わらず冷淡な表情のままであった。しかしこの厳格さの裏には、ファーガソンをはじめとするコミュニティからのメッセージが一晩中届き、感動に打ちひしがれる王者の姿があった。
「まだ実感が湧かないよ」 バークレイはそう言った。「マジックを始めて20年になる。子どものころランディ・ビューラー/Randy Buehlerやブライアン・デイヴィッド=マーシャル/Brian David-Marshallを放送で見ていたことを覚えているよ。まさかこんな日が訪れるだなんて思ってもみなかった。かなり長くプレイをしているけど、しばらく成績も振るわなかったしね。それでもマジックって引き戻してくるだろう? だから可能な限りプレイを続けたし、予選にも出続けた。大きな期待を寄せていたわけじゃないけど、『青白コントロール』は昔から慣れ親しんだアーキタイプだったし、安心感を持ってプレイをすることができたよ」
マジックはバークレイを長年捕らえて離さないが、その針は一生彼に届くことはなかったかもしれなかった。それまでサッカーに熱を注いでいたバークレイは、14歳の時に大怪我を負ったことをきっかけにマジックと出会うこととなる。
「毎週日曜日にはサッカーのリーグでプレイをしていたんだ。ただ、腓骨と脛骨を折る大怪我をしてしまってね。それから6か月間サッカーができなくなったんだけど、2か月もすると家を出ることはできるようになって、弟のウィリアムがカードショップに連れて行ってくれるようになった。その店にいたプレイヤーたちは競技志向が強くて、『インベイジョン』を使ったロチェスター・ドラフトを教えてくれたよ。そこではみんなが互いの背中を押しあっていて、コミュニティの一部になれたという感じがした」
《吸収》とともに幕を開いた彼の長い旅路は、《吸収》とともに頂へと至った。2000年代前半、たびたびグランプリに遠征していた物静かな少年が、王者へと変身を遂げたのだ。
そんな中、ひとつ変わらぬものは彼の姿勢――静かな競技者だ。他のプレイヤーたちが感情をあらわにしたり、音楽に合わせて体を揺らす中、バークレイは勝利を収めた時ですら、隣の部屋で就寝中のパートナーを起こさぬよう、カメラの外で小さく拳を握るのみであった。
そんな彼の厳格な姿勢は世界中に知れ渡った。
バークレイがトロフィーを手にしたまさにその瞬間、彼は新たなニックネームも獲得していたのだ―「氷鮫/The Iceshark」。張り詰めた緊張感の中でも常に冷静沈着であること、そしてヒストリック・ラウンドを《サメ台風》で制してきたことに由来する。
「ニックネームに関しては、まぁ、いいんじゃないかな」 彼は笑いながら言った。「友人とサッカーをプレイしている時だったらハイタッチして称え合ったりするんだけどね、ダイニングルームに座りながら気持ちを高ぶらせるのは難しいよ。もともと1人でいる時に喜んだりするタイプではないんだ。スコットランドのチームがゴールを決めた時くらいだね、そんなことをするのは」
こうして「氷鮫」は誕生した。「チャンピオンシップ王者」のタイトルを手に、彼がいま目を向けているのはポストシーズンに行われる「チャレンジャー・ガントレット」だ。これからの旅路で何が起ころうと、彼にはそれを迎え撃つ準備ができている。
「準備は万端さ、基本的にはね」 バークレイは言った。「もう年も年だし、仕事もある。だからフルタイムでプロプレイヤーになることはないというのはわかっている。だけど、大会で戦うのが大好きなんだ。だから『カルドハイム』チャンピオンシップだろうが、10年以上先の大会だろうが、戦いの場があればいつだってそこに戻ってくるつもりだ」
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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