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世界選手権11
準々決勝: 彌永 淳也(東京) vs. Josh Utter-Leyton(アメリカ)
By Takeshi Miyasaka
ついに世界選手権も最終日を迎えた。
29名の参加を数えた日本勢から、彌永 淳也(東京)が栄光の世界選手権最終日に駒を進め、いまプレイオフのテーブルについている。
あいにくとマジック・オンライン・チャンピオンシップ・シリーズ(MOCS)とのダブル決勝進出はかなわなかったが、オンラインで獲得した参加権利で、リアルの世界王者を目指す戦いに勝ち残っている。
世界チャンピオンを目指す負けたら終わりの戦いは、3本先取のスタンダードで行われる。
彌永が使用しているデッキは赤緑タイタンコントロール。多くのビートダウンデッキを食い物にして初日のスタンダードは6連勝、MOCSのスタンダードも合わせて9-1のスコアを残している。
昨日の最終戦、チャネル・ファイヤーボールの総帥Luis Scott-Vargasに上当たりを「ガチられた」ことはすでに述べたが、この話には続きがある。
今回プレイオフに進出したチャネル勢4人は、全員が75枚同じ内容の《鍛えられた鋼》を選択している。彼らにとって最良の選択だったこのデッキはしかし、彌永のデッキとは圧倒的に分が悪いという。
そのため「スタンダードで行われる最終日にジュンヤがいると圧倒的不利となるため」彼らは彌永を予選のうちに倒すことを狙ったのだという。
しかし、現実には彌永がモダンで使用していたデッキ、エスパーコントロールも、チャネル勢が使用した瞬唱ズーを含むビートダウンにはめっぽう強い構成となっており、彌永は次々と現れるチャネルの刺客を倒し続けて、ついには総帥との熱戦も制して、自力でこの席を獲得した。
こうして彌永につけられたこの週末の二つ名が「チャネルキラー」。そして、準々決勝で当たる初戦の相手は、そのチャネル・ファイヤーボールに所属するJosh Utter-Leytonだ。
Josh Utter-Leytonのデッキは、同じくベスト8入りしたLuis Scott-Vargas、Paulo Vitor Damo da Rosa、Conley Woodsと75枚同じ《鍛えられた鋼》だ。
Joshはプレイオフ進出を狙う日本人を次々と倒し、この席を確保した。プレイオフに4人もの刺客を送り込んだチャネル・ファイヤーボール軍団は、組み合わせの妙で全員がブランケットの各枝に分かれ、結果次第ではベスト4を独占できるという最高のポジションについた。
勝つのは常勝軍団・チャネル・ファイヤーボールか、チャネルキラーか。
Game 1
スイスラウンドの順位によりアドバンテージを得た彌永が先攻で始まる。 《山》《山》《太陽の宝球》、《不屈の自然》で《森》をサーチと、あっさりと4マナへジャンプアップさせる。 チャネル・ファイヤーボールの刺客Joshは、《金属海の沿岸》《きらめく鷹の偶像》《メムナイト》《平地》《起源の呪文爆弾》と準備は上々。 3ターン目に《平地》をプレイするとデッキの代名詞《鍛えられた鋼》をキャストして戦闘力を引き上げる。 対応して《感電破》により《メムナイト》が退場するものの、《オパールのモックス》が登場したことにより巨大な鳥となった《きらめく鷹の偶像》が彌永を襲って、13ライフへ落とし込む。 取り急ぎ6マナを目指す彌永は、《不屈の自然》で《森》をサーチし、2枚目の《太陽の宝球》を設置する。目の前の鋼使いが《鍛えられた鋼》を引き込んでいなければ間に合った、ように見える。 しかし。 ターン終了時に《起源の呪文爆弾》をマイア・トークンへ変化させた鋼使いJoshは、当然のように2枚目の《鍛えられた鋼》を追加してマイア・トークンと鳥をモンスターへアップグレードさせたのだった。 彌永淳也 0-1 Josh Utter-LeytonGame 2
《根縛りの岩山》《銅線の地溝》から《不屈の自然》で《山》をサーチという立ち上がりの彌永へ、Joshは《オパールのモックス》をコストに《きらめく鷹》を連打してプレッシャーをかける。 《墨蛾の生息地》で4マナを揃えた彌永が《真面目な身代わり》で《山》をサーチしている間に、《きらめく鷹》が2体上空から殴りかかり、地上は《起源の呪文爆弾》と《オパールのモックス》にバックアップされた《刻まれた勇者》がプロテクションを持って立ちはだかる。 土地を引き込みタイタンゲームへ移行したかった彌永だが、《太陽の宝球》をセットして1ターン先伸ばし。その隙に鋼使いは航空戦力で攻撃を続け、彌永のライフは3度の攻撃で半減していた。 《金属海の沿岸》《ムーアランドの憑依地》《オパールのモックス》というマナソースをコントロールしているJoshは、《平地》を追加すると《呪文滑り》をキャスト。 彌永は手で動きを制するとプランを検討し、《古えの遺恨》の表・裏で《オパールのモックス》と《刻まれた勇者》を破壊する。 結果《呪文滑り》を着地させたJoshはついで《メムナイト》を戦線に加えるとターンを返す。 ここで《墨蛾の生息地》をプレイして7マナに到達したタイタン使いは、《業火のタイタン》をキャストし目障りな《きらめく鷹》を1体焼き払う。 鷹は《ムーアランドの憑依地》によってスピリット・トークンへ姿を変える。生まれ変わった鷹は盟友とともにレッドゾーンへ飛び込み、彌永のライフを7へと落とし込むと、援軍として《刃砦の英雄》が追加される。 しかしながら、クリーチャーを叩き落とす強大な火力を入手したタイタン使い・彌永。まず《ヴィリジアンの堕落者》で《呪文滑り》を退場させると、《業火のタイタン》を戦闘へかり出す。業火の炎が飛行クリーチャーをなぎ払い、Joshへ一の太刀を。 押せ押せで13ライフを削ってきた鋼使いの前にそびえる巨人は、あまりにも大きく圧倒的だ。 Joshは《起源の呪文爆弾》でカードを引き増して解決策を求めるとともに、戦場へマイア・トークンと《メムナイト》を投入する。さらにアップキープに《業火のタイタン》を《急送》して、これ以上の自軍の損害を食い止める。 一の矢は追放されたが、タイタン使いはもう一方の主戦力、《原始のタイタン》を戦場へ。《ケッシグの狼の地》《墨蛾の生息地》をサーチし、彌永が使えるマナは10となった。さらに《感電破》を《刃砦の英雄》へキャストして後顧の憂いを断つ。 もはや介錯を待つばかり。《きらめく鷹》を追加するのみでターンを返すJoshに対し、彌永は《原始のタイタン》《真面目な身代わり》で攻撃する。 《真面目な身代わり》は《きらめく鷹》にブロックされたが、《ケッシグの狼の地》にバックアップされたパワー10の《原始のタイタン》がJoshに二の太刀を浴びせると、金属術を達成させた《感電破》がちょうどライフを削り取った。 彌永 淳也 1-1 Josh Utter-LeytonGame 3
《山》《根縛りの岩山》というスタートの彌永へ、先攻のJoshは《墨蛾の生息地》《大霊堂のスカージ》《メムナイト》を展開して先制すると、3ターン目には《オパールのモックス》をキャストするが、金属術の達成を嫌った彌永は《大霊堂のスカージ》を《古えの遺恨》で破壊してダメージの損失も軽減する。 Joshは《金属海の沿岸》からのマナで《墨蛾の生息地》を活性化させると《メムナイト》とともに彌永を狙い、金属術を達成した《オパールのモックス》を使用してあらたな《大霊堂のスカージ》が戦場へ。両者のライフはともに17だ。 《墨蛾の生息地》をセットして3マナとした彌永は、《古えの遺恨》をフラッシュバックして《大霊堂のスカージ》を破壊して金属術を妨害する。追加のアタッカーを用意できないJoshは、《メムナイト》で殴りゴー。 さらなる《墨蛾の生息地》セットで4マナを揃えた彌永は《真面目な身代わり》をキャストし《山》をサーチ。6マナ目指してマナの充実を図る。地上が通らなくなったJoshは《墨蛾の生息地》だけで殴りターンを返す。 そして無事に《森》をセットし 6マナに到達すると、タイタンマスターは《原始のタイタン》をキャストして《ケッシグの狼の地》《墨蛾の生息地》をサーチし、イニシアチブを握る。 ふたたび《墨蛾の生息地》で殴ったJoshは、《きらめく鷹》を追加し、目の前に現れた脅威を《急送》して急場を凌ぐ。 しかし彌永のファッティはまだ止まらない。《根縛りの岩山》をセットして9マナへ到達すると、《原始のタイタン》をもう一度召喚。目の前には絶望的なマナの差が広がっていく。 みたび《墨蛾の生息地》で攻撃して毒カウンター を3つ与えたJoshだが、目の前に広がる圧倒的なマナの差をどう感じているのだろうか。もう一度タイタンを退場させる術はなく、何事もなく彌永へターンが返る。 牙を剥いて襲いかかる《原始のタイタン》《真面目な身代わり》に、Joshは《きらめく鷹》で《真面目な身代わり》を相討ちにし、タイタンのダメージはテイクして11に。 追加の《真面目な身代わり》を戦場に召喚して《山》をサーチすると《銅線の地溝》をセットしてターンを終える。彌永が使えるマナは15となった。 《ムーアランドの憑依地》をセットして《刻まれた勇者》をブロッカーとしてキャストするJoshだったが、《ケッシグの狼の地》にバックアップされた《原始のタイタン》と《真面目な身代わり》の前にはあまりに無力であった。 彌永淳也 2-1 Josh Utter-LeytonGame 4
常勝軍団チャネル・ファイヤーボールの一人としては、このゲームに勝ち、準決勝をチームメイトと争い、完全優勝で花を添えたいと考えていたのではないだろうか。 しかし、現実とは非情である。先攻のJoshは痛恨のダブルマリガン。 速攻でビートダウンしきりたいであろう気持ちとは裏腹に、《平地》をセットするのみでターンを終える。 ファーストアクションは3ターン目に《墨蛾の生息地》をセットして《呪文滑り》だ。ビートダウンからはほど遠い展開。 一方、初戦こそ落としたものの、残りのゲームを危なげなくマナを充実させて戦ってきた彌永は、自身のデッキに関して「マジックは安定性を競うゲームで、このデッキは 2 → 4 → 6 という動きが安定している」と答えている。その安定により、初日スタンダーを 9-1 し、この最終日も同じデッキで戦っている。 そして大事なこの一戦で彌永がオープンしたハンドは、筆者にはかなり重く土地が詰まるのではと思われる手札だった。 《金屑の嵐》《ヴィリジアンの堕落者》《真面目な身代わり》《業火のタイタン》《業火のタイタン》に、土地は《根縛りの岩山》《銅線の地溝》。 土地を2枚引けばその先は圧勝だろうが、詰まったままもじもじする未来を想像して「彌永は熟慮の末、マリガンした。」と手元に書き添えていた。 現実には彌永はこの手札に関して自信を持ってキープしていた。彌永の脳内では《真面目な身代わり》をプレイするまでに起きうるシーンが想定済みであり、プランに則ってキープを宣言した。 《根縛りの岩山》《銅線の地溝》とプレイすると「想定通りに」《太陽の宝球》をセット。続くターンには《根縛りの岩山》を引き当てて《ヴィリジアンの堕落者》で《呪文滑り》を排除する。 こうして彌永のプラン通りに、2 → 4という動きを見せた彼のデッキは、次のターンに《森》をセットして、出番を待ち構えていた《真面目な身代わり》が戦場へ。《山》をサーチして6マナへ到達する。 《墨蛾の生息地》が一度アタックし、追加で《墨蛾の生息地》を引き当てたJoshは《刻まれた勇者》をプレイするが、もうすでに時が遅すぎたように映った。 《根縛りの岩山》をセットして7マナへ行くと、最初から待機していた一人目の《業火のタイタン》が降臨して《刻まれた勇者》を焼き払う。無人の大地を《ヴィリジアンの堕落者》と《真面目な身代わり》が駆け抜け、《業火のタイタン》のダメージと合わせて3点、毒カウンターが2つがJoshに与えられる。 Joshもさすがに黙ったままではいない。《ムーアランドの憑依地》をセットして《墨蛾の生息地》を両方アクティベートし彌永へ毒を3つ与えると、《業火のタイタン》を《急送》して盤面の崩壊を食い止める。さらに《オパールのモックス》をプレイしてターンを返す。 しかし、筆者は彌永の手札にもう一人、最初から出番を待っているタイタンがいることを知っている。《ヴィリジアンの堕落者》と《真面目な身代わり》がそれぞれ2点ずつダメージと毒カウンターを与えると、二人目の《業火のタイタン》がJoshの希望を焼き払う。Joshのライフは12となった。 Joshは《平地》をプレイするとようやく《鍛えられた鋼》を展開。しかし鋼が鍛えるべきアーティファクトはなく、力なくターンを返す。 《ヴィリジアンの堕落者》《真面目な身代わり》《業火のタイタン》がJoshを襲う。タイタンの業火がJoshを襲いライフは9へ、タイタンは《墨蛾の生息地》でブロックするが、残る両者のダメージを受けてライフは7だ。 そして。 タイタンマスターは、Joshの、チャネル勢の希望を握りつぶす、3体目の《業火のタイタン》を戦場へ。 もはやJoshにできることは、右手を差し出して、日本人を祝福することだけだった。 彌永 淳也 3-1 Josh Utter-Leyton 最後の手札をマリガンしなかった理由が分からなかった筆者は、試合を終えて殺気がなくなったばかりの彌永に聞いてみた。 彌永は素人丸出しの筆者の質問について、実に丁寧に、分かりやすく事例を添えて説明してくれた。この週末は初日から彌永のことを観戦記事で取り上げてきたが、つくづく彌永は律儀な男だと思う。 彌永 「あの手札については悩んだふりをしているだけで、理由があってキープしましたよ。悩んでいるふりはするべきだし、何も考えないのは良くないですね。この週末は、すべての行動について考え、必ず行動には理由をつけて選択してきました。そうして理詰めで戦うことで、勝った理由、敗北した理由もはっきりしますしね。」 彌永 「最後のゲームに関して言うと、ライブラリにあと33枚のマナソース(土地と 2マナのマナソース)、5 枚の《ショック》、《古えの遺恨》などの足止めできるカードが残されています。土地を引けなくてもそれらの妨害カードで序盤を耐えることができますね。引きたくないカードは《原始のタイタン》《内にいる獣》《最後のトロール、スラーン》《金屑の嵐》だけなので、マリガンをするリスクよりも、土地かマナソースを引く確率が 6割近くあるキープの方がリターンが大きかっただけです。」 彌永の試合後に語ってくれたキープの基準にある通り、実戦で2ターン目以降確率通りにマナソースを引き当て、マナをジャンプアップさせて、結果としてデッキを想定通りに動かして勝利を収めた。 理詰めで戦う小さな巨人が、栄光の世界王者を目指して、最初の階段を上った。 彌永 淳也、世界選手権準決勝進出!RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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