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ワールド・マジック・カップ2014

観戦記事

準決勝:アメリカ代表 vs. ギリシャ代表

吉川 祐輔
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Blake Rasmussen / Tr. Yusuke Yoshikawa

2014年12月7日


 そこには、3つのゲーム、3つのマッチ、幸運と巡り合わせ、技術と策謀の物語があった。ドラマとサスペンスに満ちた物語が。

 ゴリアテに対するダビデ、ヤンキースに対するツインズ、最大と最小の対決。

 アメリカ代表に対するは、ギリシャ代表だ。

 何という試合だろう。4日間、約30回戦を経て、数えきれないマッチがプレイされた。その中でも、私がこれまで目にしてきた中でも、最も劇的で、形勢逆転を繰り返し、そう、胃が痛くなるマッチであったと、心から言える。2つのチームが前に進もうと繰り広げた乱打戦にいまだ目を輝かせながら、キーボードを前にしてそう言うことしかできないのだが、この物語を確かにお伝えすることを試みよう。

 それでは、寛大な読者の皆さんには心の準備をしていただきたい。さまざまな経験がおありかもしれないが、この記事は各マッチの区切りに縛られることなく、全マッチのゲーム1、全マッチのゲーム2、そしてラウンドの行方を左右するゲーム3という分け方でお伝えする。ワールド・マジック・カップ準決勝の数々のドラマ、そして疲弊した対戦相手を前に、最後まで戦い続けた者に勝利の宣告が与えられるまでの決戦を。

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ギリシャ代表がトロフィーを持ち帰るという夢を繋ぐためには、「ジャガーノート」アメリカ代表を乗り越えなければならない。

それぞれのデッキ

 興味をそそるマッチアップを前に、多岐にわたるデッキが並んだ。

 まずA席、ソクラテス・ロザキアス/Socrates Rozakeasが「マルドゥ・ミッドレンジ」を手にアンドリュー・ベックストーム/Andrew Baeckstromの「白青『英雄的』」に対する。マルドゥ・デッキは強力で、手に余るほどの除去、とりわけ重要な《はじける破滅》を携えている。しかし「英雄的」のリストも磨き上げられ、地に足をつけ、わずかつまづきを咎めるだろう。

 B席には、おそらく世界で最高のプレイヤー、世界ランキング1位のオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldが座り、「黒緑『星座』」デッキを操る。対戦相手のビル・クロノポロス/Bill Chronopoulosは、「星座」が得意とするゲーム中盤に狙いを定めてダメージを積み重ねる「ティムール・ミッドレンジ」を駆っている。

 そしてC席にはニール・オリヴァー/Neil Oliverが着席し、今トーナメントで大活躍した「ジェスカイ・トークン」を持ち、パナギオティス・サヴィディス/Panagiotis Savvidisと彼の「シディシ・ウィップ」に対峙する。

 明確な境界は存在しない。リラックスできる余裕はない。ギリシャ代表はゲームに向かい、アメリカ代表が確かに迎え撃つ。

第1ラウンド

 最初に決着がついたのは、エース同士の一戦だった。

 ターテンワルドは《女王スズメバチ》を軸にしたゲームを構想していたようだが、はるかに遅れを取り、多くのダメージを受けすぎていた。ティムール・デッキは大軍でダメージを叩き出し、接死持ちクリーチャーの壁を築いて身を隠してもなお、世界ランキング1位プレイヤーがライフの射程圏内から逃れることはできなかった。ライフを高々と増やしてくれる《エレボスの鞭》は無く、クロノポロスが最初の勝ち鬨をあげた。

 次に敗北を味わうことになったのはベックストームで、早くから崖っぷちに立たされていた。双方のプレイヤーが早期に盤面を埋め尽くしたが、ロザキアスはクリーチャーをすべて「召集」して《かき立てる炎》を使い、ひとつひとつの戦闘フェイズが重要な「英雄的」デッキからその時間を奪い取ることで、ベックストームの出足を挫いたのだった。

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ギリシャ代表のロザキアスは、ゲーム1の重要な局面で時間を稼ぎきった。

 ベックストームがクリーチャー偏重のドローに見舞われ妨害呪文に欠ける中で、ロザキアスは返し技を恐れることなく除去呪文を効果的かつ効率的に使うことができた。ベックストームの戦線に並ぶ、白く小さなクリーチャーの群れを打ち破れずにしばらく膠着を強いられたが、1体の《ゴブリンの熟練扇動者》がついに突破口を生み出し、ベックストームを射程内に入れた。アメリカ側からは何の妨害もなく、ロザキアスのライフは《道の探求者》のおかげで30点にも達し、トークンが盤上を埋め尽くすのは時間の問題だった。

 2人のチームメイトが最初のゲームを落としてしまったことで、オリヴァーにプレッシャーがかかることになった。不運なことに、彼もまた劣勢であった。

 オリヴァーは《道の探求者》、もう1枚の《道の探求者》、続いて《ゴブリンの熟練扇動者》というカーブを描いて、早期に攻撃に向かうことができ、瞬く間にサヴィディスを追い込んだ。しかし、《スゥルタイの魔除け》に続いて現れた《血の暴君、シディシ》が筋書きを変えてしまった。

 多数のブロッカーを擁し、懸案の《ゴブリンの熟練扇動者》もなくなると、サヴィディスは勝負を、そしてゲームの第1ラウンドを決めにかかった。決め技となる、極めて大きな《破滅喚起の巨人》によって。

 第1ラウンドはギリシャに軍配。幕間。

第2ラウンド

 第二部を迎え、何かが変わった。それはすぐに白日の下となる。

 A席では、ロザキアスがダブルマリガンを強いられていた。長くは生きられなかった。

 C席では、オリヴァーが苦境に陥っているようだった。《急報》2枚で攻撃を続けようと試みていたが、《悲哀まみれ》がその夢想を速やかに終わらせた。双方のプレイヤーが受け身のカードをサイドインしていたため、ゲームはしばらく落ち着きを見せ、ともにドロー・ゴーを続け、脅威になるものを探し求めていた。

 どうやらサヴィディスが先にたどり着いたようだ。積み上がった墓地を備えて、《エレボスの鞭》が着地する。しかし、これにより彼はタップ・アウトを強いられた。《軽蔑的な一撃》から守るには《否認》が必要だったのだ。それでも、1回の起動でゲームの行方はサヴィディスの側に傾くと見られていた。

 しかし、である。幸運はアメリカの側にあった。あるいは、より正確には、幸運はマッチ全体に広がっていた。

 《ジェスカイの隆盛》と呪文数枚の助けにより、オリヴァーは手札すべてを叩きつけ稲妻を走らせた。《ジェスカイの魔除け》でサヴィディスのライフは7、《かき立てる炎》で3、そして《稲妻の一撃》。丁度だった。

 スコアをタイにすべく、いまだ戦っているのはターテンワルドだった。しかしその道は険しい。そう、クロノポロスはサイドボードに強力な《自然に帰れ》を用意しており、「星座」プレイヤーが盤面を有利にしようとも、それを壊滅させることができるのだ。

 そしてその通りに、最初の《自然に帰れ》が《クルフィックスの狩猟者》と《破滅喚起の巨人》を薙ぎ払った。定価2マナとは何とお買い得なことか。

 だが、《高木の巨人》までは対処することはできなかった。2体が迫り、クロノポロスに対応を強いる。

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厳しい《自然に帰れ》に対して、アメリカ代表のターテンワルドは不屈の精神で戦う。

 マナ軽減に加え全力で放たれた《火口の爪》が6/6を除去したが、ターテンワルドは巧みな戦略で優勢を固めていく。クロノポロスは受動的なゲームに備えてきたわけではなかった。ティムールは怪物で殴るものなのだから、当然だ。そして今、彼は攻撃ではなく対応に向かっている。良くない予兆だ。ターテンワルドは手札の枚数を保ったまま、手札が空のクロノポロスを打ち倒し、両プレイヤー、両チームともにイーブンに持ち込んだ。

 そして勝負は最終ラウンド、3つのゲームに委ねられた。そのうち2勝によって、タイトルを争うチームが...あるいは、その重みを考える者が、決まる。

第3ラウンド

 3人のプレイヤーすべてが、それぞれの最終ゲームに移るにあたり、エネルギーの行方が明らかに変わった。チームが互いを頼り、すぐに助言を求め、自由に相談するようになったことを、ご覧になったかもしれない。彼らは緊張を、不安を、この一瞬の重みを感じていた。

 C席から始めることになった。そこでは、オリヴァーとサヴィディスが序盤から強打の応酬を繰り広げていた。オリヴァーの《急報》がまずサヴィディスのライフを削り、《稲妻の一撃》が《血の暴君、シディシ》を退け、ゾンビを出させなかった。オリヴァーは攻撃姿勢を崩さないよう努め、チームに未来を与えるべく押し通っていった。

 しかし、サヴィディスも諦めてはいなかった。《破滅喚起の巨人》がアタッカーを一掃し、オリヴァーの道を塞ぐバリケードとなった。そして《エレボスの鞭》はおそらく通り、効果的にゲームを片付けてしまうはずだった。

 そこに、《エレボスの鞭》はなかった。

 再びギアを上げたのはオリヴァーの方だった。《宝船の巡航》を連鎖させ、《破滅喚起の巨人》を力づくで除去する。サヴィディスは現状を変えうる呪文を求め、もがいていた。とうとう、《ジェスカイの隆盛》と2枚の《急報》により、サヴィディスは兵士・トークンに1対1除去を使わざるを得なくなった。間違いなく、望んだものではなかった。数枚の呪文が、数多くの誘発を生み出し、そして幾ばくかの火力呪文がサヴィディスに直接投げつけられ、オリヴァーはアメリカに1勝をもたらした。

 一列に並んだドミノ倒しのごとく、次はB席と決まった。クロノポロスとターテンワルドは殴り合いを演じていた。クロノポロスは、先ほどよりは受け身のカードを引いておらず、《嵐の息吹のドラゴン》のような多くの仕事をこなす重量級を手にしていた。世界ランク1位は態勢を整える前に圧力にさらされ、嵐の息吹と呼ばれる怪物の爪によって粉砕されたのだった。

 そしてここに至り、ロザキアスとベックストームのもとに全員が集まった。すべてが帰結する。決勝までの1ゲーム。栄光までの1ゲーム。他の誰かの物語の足跡になど、なってやるものか。

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ギリシャ代表とアメリカ代表の試合の行方は、ソクラテス・ロザキアスとアンドリュー・ベックストームの最終ゲームに委ねられた。

 序盤、ロザキアスはマナに苦しめられ3枚目の土地を置けなかったが、1ターン後に立て直すことができた。除去と妨害を手札に満載し、それを恐れずに使っていることは明白だった。除去につぐ除去、時には1体や2体のトークンのみになっても、ロザキアスはゲームを保ち、守っていった。

 無慈悲な除去の連打により、ベックストームは疲弊していた。しかし的確な場面で、右に座るターテンワルドの助言を受けながら、《ヘリオッドの巡礼者》で《ヘリオッドの試練》を引き出した。しかし、それが攻撃できたのは一度きりで、毎ターン《頑固な否認》を警戒してプレイしていたロザキアスが、《対立の終結》を打ち下ろすまでだった。

 盤面の対立をすべて集結させ、一瞬の平和を求めていくのは、明らかにロザキアスの計画通りだった。盤面は一掃され、ベックストームは息切れし、双方のチームは円陣を組んでいた。そしてロザキアスとギリシャ代表は、攻撃に向かった。

 《軍族の解体者》、《道の探求者》、ゴー。

 ベックストーム、そして円陣を組むチームメイトたちは、手札の《頑固な否認》を見つめるだけだった。《果敢な一撃》が《軍族の解体者》の上で「サイクリング」され、もう1枚の《ヘリオッドの巡礼者》が《層雲歩み》を持ってきた。しかしそれが、アメリカ・チームに集められるすべてだった。マルドゥの恐怖の化身たるデーモンに直面するのは、1/2が1体。

 最初の攻撃がアメリカ側のライフを11に落とし、次いで4になった。そして、注意深く、念入りに、このゲームが唯一無二であることを知る者の正確さで、ロザキアスは盤面を、ベックストームの手札を、あらゆるものを確認した。すべてを。

 そして、ゲームを決める《かき立てる炎》を唱えた。

 ギリシャ代表が感情を爆発させた。3つのマッチ、9つのゲーム、そして1つのトーナメントの大本命を後に、ギリシャがワールド・マジック・カップのタイトルを争う決勝に進出したのだった。

ギリシャ代表 2-1 アメリカ代表
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RESULTS

対戦結果 順位
S2-3 S2-3
S2-2 S2-2
S2-1 S2-1
S1-3 S1-3
S1-2 S1-2
S1-1 S1-1
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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