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ワールド・マジック・カップ2014
準々決勝:アメリカ代表 vs. スロバキア代表
Blake Rasmussen / Tr. Tetsuya Yabuki
2014年12月7日
色々な意味で、この対決はちょっと早いのではないかと感じてしまう。ヤンキース対レッドソックスがディビジョン・シリーズで行われたり、UEFAチャンピオンズ・リーグでマンチェスター・シティ対バイエルン・ミュンヘンの試合がトーナメント1戦目から実現してしまったり、といった感覚だ。優勝チームを決める最後の決勝戦にこそふさわしいほどの、「巨人」同士の対決となる。
これらふたつのチームは国の希望と期待を背負っているだけでなく――もちろんどの国もそうだろうが――、ただ単純に考え得る限り最強クラスの「ジャガーノート」だ。両チームとも決勝進出を果たしてもなんら不思議でない、今をときめく選りすぐりなのだ。
スロバキア共和国を代表する3人のプレイヤーは、プロツアー・トップ8入賞合わせて5回を数え、グランプリ・トップ8入賞も6回を記録している。キャプテンのイヴァン・フロック / Ivan Flochはコントロール・マスターであり、プロツアー・チャンピオンでもある。コーチ役を務めるマテイ・ザトルカイ / Matej Zatlkajはプロツアー・トップ8入賞2回を誇り、彼のアドバイスはスロバキア代表に斬新な視点を加えている。国内最強プレイヤーの一角をコーチ役にしていることから、彼らはすでに伝説になるほどの才能を遺憾なく発揮し、それを絞って出る最後の一滴まで活用しようとしているのだろう。
アメリカ合衆国代表プレイヤーの戦績は、スロバキアのものと比べてとりわけ良いわけではないものの――プロツアー・トップ8入賞2回という記録は、キャプテンのオーウェン・ターテンワルド / Owen Turtenwaldひとりで持っているものだが――、世界ランキング1位(ターテンワルド)と過去最大のグランプリの優勝者(グランプリ・ラスベガス2013優勝のニール・オリヴァー/Neil Oliver)を擁し、こちらも才能に事欠かないチームだ。残るふたりもグランプリ・トップ8入賞経験を持ち、星条旗を掲げるこのチームは高いレベルでの経験値が豊富だ。
面白いことに、両チームは予選ラウンドで一度当たっていた。スロバキア代表としては、アメリカ代表が勝利し日曜日へ進出する弾みがついたその試合は忘れたい一戦だろう。
それぞれのデッキ
この試合がどのように展開していくのかを予想するのに、あまり遠くまでさかのぼる必要はない。アメリカ代表はつい2試合前にこの準々決勝の相手を見事打ち倒しており、それはこの決勝ラウンドの見込みを示していると言えるだろう。
ミカル・グルダン / Michal Guldanとの「黒緑『星座』」デッキのミラー・マッチに突入するターテンワルドにとって、主にこのデッキの知識とプレイ技術の点では彼に分がある。両チームとも、世界ランキングの頂点にいるプレイヤーと対峙するというのはスロバキア代表にとって望ましくないことだ、と認めるところだろう。スロバキア代表はサイドボード・プランを見直し、ミラー・マッチの練習を繰り返してその差を埋めようと試みた。それでも、ドローがひどくない限りターテンワルドが勝つ、というのが両チームの見立てだ。
アンドリュー・ベックストーム / Andrew Baeckstrom対ジャン・トムカーニ / Jan Tomcaniの試合でも、アメリカ代表が優勢に見える。ベックストームは第12回戦も試合を有利に進めた。両チームとも、彼の「白青『英雄的』」デッキがトムカーニの操る「ジェスカイ・アグロ」に対して有利であることを感じていた。トムカーニのデッキにはサイドボードに《マグマのしぶき》が1枚あるだけで、この相性差を埋める手段が多くなかった。それでも、どちらか片方に一方的な展開にはならない、と両チームとも考えるほどに接戦の様相を見せている。
最後に、プロツアー王者にニール・オリヴァーが挑む戦い。このマッチアップが試合の要になりそうだ。グループリーグでは、フロックと彼の操る「青黒コントロール」デッキがオリヴァーの「ジェスカイ・トークンズ」を完膚なきまでに打ち破った。両チームとも、その結果は至極当然の相性差だと考える。オリヴァーは、自身の勝率が30から35%くらいしかないと予想していた。それでも、様々な意味でこの戦いが試合全体の鍵を握っている。
「もし私が勝てれば、この試合も私たちの勝ちになりそうです」とオリヴァーが言う。「チームメイトを信じていますから」
ベックストーム対トムカーニ
速いデッキ同士のマッチアップゆえに、ベックストームとトムカーニによるジェスカイと「白青『英雄的』」の戦いが極めて早く終結を見せたのは驚くことではなかった――事実、テーブル中央で行われている「黒緑『星座』」のミラー・マッチが1ゲーム目を終える前に、決着がついたのだ。
ゲームを始めるにあたり、両プレイヤーとも素早くマリガンを選択し、ベックストームが序盤に《液態化》を引き込むとさらに加速した。トムカーニはブロック不可能になった「英雄的」クリーチャーへ効果的に干渉する手段がなかった。いくつかの呪文、キャントリップ、最初のゲームは瞬く間に終わった。
第2ゲームも同様の展開を見せた。《ラゴンナ団の先駆者》が《液態化》を身にまとい、最序盤から強打を加えていく。ベックストームは5ターンにわたって《ゴブリンの熟練扇動者》を放っておくことになったが、あと一歩が届かなかった。9/13のブロックされない《ラゴンナ団の先駆者》が最後の一撃を加えたそのとき、《ゴブリンの熟練扇動者》が呼び出したトークンたちは「どうして俺たち5体では足りないのか」と扇動者を寂しそうに見つめたていたのだった。
グルダン対ターテンワルド
テーブル中央のミラー・マッチに目を向けると、アメリカ代表が1勝目をあげる一方で、彼らのキャプテンは苦境に立たされていた。
ターテンワルドは《破滅喚起の巨人》で序盤のリードを得ていたが、《クルフィックスの狩猟者》2体を前に攻めあぐねていた。そしてグルダンが《ニクスの祭殿、ニクソス》を引き込むと、彼は次第に追いついていく。
このマッチアップではたびたび起こることだが、両プレイヤーとも《エレボスの鞭》と《クルフィックスの狩猟者》を引き込んだため、盤面は瞬く間に混迷を極めた。それでも、グルダンと彼へ肩越しにアドバイスを送る役のマテイ・ザトルカイが、《苦悶の神、ファリカ》で見る見るうちにアドバンテージを得ていく。《ニクスの祭殿、ニクソス》がマナを生み出し、グルダンの盤面上の優位は急激に伸びていった。
だが、ターテンワルドが世界ランキング1位の座にいるのは、それだけの理由がある。ターテンワルドは、《破滅喚起の巨人》とグルダンの《苦悶の神、ファリカ》が生み出したトークンを駆使し、グルダンの盤面をなんとか抑えていた。実際に、大差をつけられながらも少しずつアドバンテージを取り戻しそうに見えたくらいだ――だがそれも、グルダンが《エレボスの鞭》から《破滅喚起の巨人》を使い出すまでだった。
互いのライフが極めて大きな値で跳ね上がり、急落し、隆盛し、凋落する。グルダンの《苦悶の神、ファリカ》がターテンワルドの強力な動きを抑えるが、《エレボスの鞭》が彼を敗北から遠ざけた。かなりの時間を経たのちに、グルダンはようやくターテンワルドを打ち倒し、1ゲーム目を奪ったのだった。
しかしこうして中央の卓が第1ゲームを戦っている間に、隣の卓が決着を迎えていたのだった。
フロック対オリヴァー
開幕を極めて良い形で飾ったのは、フロックの方だった......
フロックはオリヴァーの序盤の動きを《胆汁病》で捌き、彼の手札の《紅蓮の達人チャンドラ》も《思考囲い》で抜き去った。オリヴァーは《ジェスカイの隆盛》を置くチャンスを得たものの、ここではプレイしなかった――これがその後の運命を決める選択となった。
なおもフロックは良い形でゲームを進めていった。《解消》が《ゴブリンの熟練扇動者》を抑え、《陰鬱な僻地》と《光輝の泉》が彼のライフを高い値で維持する。まさに、フロックが望む理想通りの序盤戦だった。
だがここで、《ジェスカイの隆盛》だ。
オリヴァーがついに《道の探求者》と《ジェスカイの隆盛》を戦場に加えたが、その頃にはフロックは《真珠湖の古きもの》を「瞬速」で繰り出せるほどの豊富なマナを有していた。《ジェスカイの魔除け》が1ターンの猶予を生み出すが、攻勢に出る有効な手立てがなく、何かプランを考え出さなければならなかった。
ありがたいことに、《ジェスカイの隆盛》が新しいプランを掘り起こしてくれた。
《急報》がオリヴァーに更なるアタッカーと「ルーター能力」を与える。2枚目の《ジェスカイの魔除け》が今一度攻撃のチャンスを生み、これにはフロックも、ドロー・ステップを守るために土地を手札に戻すことを検討しなければならなかった。《稲妻の一撃》が再び《ジェスカイの隆盛》の誘発型能力をスタックに積み――フロックの手札はなく、これでもう致死量となった――、オリヴァーは1ターンでフロックのライフを14点から0へ落とし込んだのだった。
こうして、アメリカ代表は最悪の相性のゲームをひとつ奪った。試合全体で見ても、すでに1勝リードしている。
第2ゲーム、フロックは再びオリヴァーの序盤の動きを《胆汁病》で制したが、3ターン目に繰り出された《ジェスカイの隆盛》を止めることはできなかった。第1ゲームでこの試合の鍵であることを証明したエンチャントが、オリヴァーの手札を理想通りに作り上げていく。
それでも、フロックの手札もまた極めて良い状態だった。《悲哀まみれ》が盤面を流すと同時に、彼に「占術」を与える。
ここでオリヴァーが真のプランを明らかにした。《かき立てる炎》をフロックに直接撃ち込み、バーン戦略を始めたのだ。続くターンには《宝船の巡航》が放たれ、彼の手札を補充する。この相性の悪いマッチアップで、オリヴァーはうまく落とし穴をかわして進んでいった。フロックが最初の《時を越えた探索》を解決する頃には、彼のライフは14点まで落ち込んでいた。《時を越えた探索》で2枚目の《悲哀まみれ》と《ジェイスの創意》を得たが、このプレイをきっかけに、この後の試合は一変した。
オリヴァーが《ゴブリンの熟練扇動者》を通しトークンで1点のダメージを与えると、フロックは選択に迫られた。フロックには《英雄の破滅》を《ゴブリンの熟練扇動者》に撃ち込むか、あるいは《悲哀まみれ》でトークンごと除去するかの選択肢がある。オリヴァーがインスタントを持っていれば《ゴブリンの熟練扇動者》が生き残るというギャンブルだが、フロックは後者を選んだ。
しかしその選択が、彼を罰した。
オリヴァーはインスタントを――しかもこの上ない《稲妻の一撃》を――持っていて、《ゴブリンの熟練扇動者》を生かすことに成功した。これでフロックは《英雄の破滅》も使わなくてはならなくなり、タップ・アウトでターンを渡すことになった。オリヴァーは2枚目の《ジェスカイの隆盛》と《宝船の巡航》を通すチャンスを得て、大きく前進する。試合前、カードをドローする手段の多いデッキ相手にカード・アドバンテージでの勝負は良くないと話していたオリヴァーは、なんと、そのカード・アドバンテージの勝負で明確な勝利を収めたのだ。
フロックは明らかに劣勢に立たされ、《ジェイスの創意》によるドローも彼の助けになるものではなかった。《思考囲い》がカードを1枚抜き去ったが、それでは足りない。2枚の《ジェスカイの隆盛》がオリヴァーのデッキをかき回し、《かき立てる炎》と《ジェスカイの魔除け》をもたらす――《思考囲い》によって残りライフ8点になっていたフロックを倒すには、それで十分だった。
こうして、アメリカ代表が今大会トップ4進出を決めた。
その頃、2ゲーム目も接戦となっていた中央のテーブルでは、チームの勝利を知らされたターテンワルドが安心したような表情を浮かべた。
「この試合は僕の負けだったよ」
だがそれは、この準々決勝全体の負けではない。この試合はアメリカ代表のものになったのだ。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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