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プロツアー『サンダー・ジャンクション』
いつでも次の目標を
2024年5月4日
井川 良彦は、最後の数枚のカードをすぐに手札から出すことができなかったようだ。
先週末のプロツアー『サンダー・ジャンクション』での3日間に渡る激闘の末、井川は《フェアリーの黒幕》高橋優太と対戦することになった。元世界王者とのプロツアー決勝戦。これ以上難しい結末は描けないだろうが、信じられないことに、井川は最後の不安な機械的な手順をノーミスで乗り切れば、王者をほぼ完封する、と言えるような状況だった。
だが、心配は無用だった。井川が一連の呪文を解決し終わる前に、友人でありチームメイトでもある高橋が握手を求め、世界王者はこの長年のプロツアープレイヤーのキャリアを決定付ける勝利を祝福した。
井川のチームメイト、森山ジャパンのメンバーが井川をステージに上がらせ、井川はトロフィーを高々と掲げた。完璧な物語の結末だ。
Congratulations to Yoshihiko Ikawa, winner of Pro Tour Thunder Junction!
— PlayMTG (@PlayMTG) April 29, 2024
This is the first Pro Tour win for the longtime player, who piloted Domain Ramp to victory with only a single match loss over the entire weekend!
井川さんおめでとうございます! pic.twitter.com/on7fXKt3ks
井川はマジックと共に人生を歩んできた。2000年にマジックを初めて手にし、すぐに日本の地元コミュニティでステップアップしていった。彼は2010年のプロツアー・サンディエゴでトップ8入賞を果たし、地域のグランプリ・サーキットの中心となった。それは素晴らしいキャリア以上のものであり、傑出した地域の傑出した存在だった。
しかし井川はそこで止まらなかった。彼はマジックを続け、プロツアーサイクルにコミットし続け、2019年にオータム・バーチェットがバーチェットブルー(青単)で優勝したことで有名なミシックチャンピオンシップでの決勝進出を果たしたのだ。
さらに井川は歩みを進めた。地域チャンピオンシップのタイトルを賭けたチャンピオンズカップファイナルの決勝へと進出し、優勝を遂げたのだ。しかし彼にとって最も重要だったのは、バーチェット戦でのトップフィニッシュから5年後のプロツアーへの帰還だった。
井川は先週末にシアトルで行われたプロツアーの決勝戦に舞い戻り、今度は劣勢に立たされることはなかった。高橋との対戦は、《群れの渡り》が印刷されて以来スタンダードを踏み荒らしてきた「ドメイン・ランプ」デッキを自在に駆る、マスタークラスと呼ぶにふさわしいものだった。井川がマジックプレイヤーとして輝かしいキャリアを築いたプロツアーに復帰することが、20年以上のキャリアのこの上なく印象的な締めくくりになるというのなら、トロフィーを掲げることは、人生をマジックとともに歩んできた男にとって特別な瞬間に違いない。マジックとの25年の人生の集大成であり、井川の物語にふさわしい結末のはずだ。
ただ、その物語にはひとつ問題がある。井川はまだ歩みを終えていない。彼の物語の結末はまだ書かれていないのだ。
「高橋優太やハビエル・ドミンゲス/ Javier Dominguez、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaといったスーパースターたちのように、自分のカードが欲しいんです」と彼は述べた。「プロツアーで優勝することは長年の夢でしたが、それだけで満足はしていません。僕の目標は世界選手権で優勝することです」
優勝を果たしても、井川は次の挑戦を見据えている
プロツアーに一度でも出場することは、多くの競技マジックプレイヤーにとって栄冠となる快挙だ。それは形ある目標であり、何ヶ月も何年もかけて獲得した多くの形なき進歩が反映されている。マジックにおける段階的な練度の向上は通常、成績にすぐに反映されるわけではない。世界中の最高レベルのマジックプレイヤーたちは忍耐と過程について説くが、そのすべてを然るべきトーナメントで然るべき瞬間に結集しなければならないのだ。しかし、それが実現したとき、それは何年もの歳月をかけたトーナメントやテスト、旅の経験がすべて一つの非常に現実的な瞬間に結実する。「プロツアーの権利を得た」という瞬間だ。
マジックのプレイヤーは何百万人といるが、一回のプロツアーでプレイするのは通常300人以下だ。予選を突破するだけで、不可能と思われることをやってのけている。ではプロツアーでトップ8に入る確率は?トロフィーを掲げたことのあるプレイヤーはもっと少ないだろう。
井川はこのゲームにおける偉人たちの仲間入りを果たし、すでに次の挑戦を見据えている。間違いなく、井川にはまだプロツアー優勝の余韻を味わう権利があるはずだ──スイスラウンドを圧倒的な強さで勝ち抜き、12勝1敗でトップ8の座を確定させ、15勝1敗で大会を終えたのだから──しかし、飛行機が東京に降り立ったとき、井川はすでに次のことを考えていた。
それこそが偉人たちの考え方であり、彼を育てた黎明期のマジックのレジェンドたちが持つ規範なのだ。
「僕がマジックを始めたのは、ジョン・フィンケル/Jon Finkelやカイ・ブッディ/Kai Buddeのようなヒーローたちのおかげです。数少ないプロツアー王者になれるとは夢にも思っていませんでした」と井川は振り返る。「最高の気分です。プロツアーはマジックで最高の経験で、とても楽しいものです」
「これで一つの目標は達成できました。そして、次の目標を達成するための新たなスタートでもあります」
1 《ラフィーンの塔》 4 《ジアトラの試練場》 3 《平地》 4 《魂の洞窟》 4 《スパーラの本部》 1 《島》 3 《森》 4 《ジェトミアの庭》 1 《沼》 1 《耐え抜くもの、母聖樹》 -土地(26)- 3 《偉大なる統一者、アトラクサ》 4 《怒りの大天使》 1 《イモデーンの徴募兵》 4 《装飾庭園を踏み歩くもの》 -クリーチャー(12)- |
4 《群れの渡り》 3 《太陽降下》 1 《地図作りの調査》 3 《集団失踪》 1 《中心核の瞥見》 1 《長い別れ》 4 《力線の束縛》 2 《洞窟探検》 3 《豆の木をのぼれ》 -呪文(22)- |
1 《向上した精霊信者、ニッサ》 2 《温厚な襞背》 2 《金属の徒党の種子鮫》 3 《否認》 3 《長い別れ》 2 《一時的封鎖》 2 《安らかなる眠り》 -サイドボード(15)- |
そう、勝利の余韻を楽しむのは数日間だけだ。そして、そこから前へ進んでいく。すなわち、次の地域チャンピオンシップがあり、手助けすべきチームがあるということ。
後者についても触れておきたい。ジョンやカイ、PV、ハビエル、ストイア/Steuerをはじめとする多くの優秀なマジック・プレイヤーを世界王者に導いた一因は、素晴らしいチームの貢献だ。昨年テーブルトップのプロツアーが復活して以来、トップ8のメタはいくつかのチームによって埋め尽くされてきた。しかしプロツアー『サンダー・ジャンクション』で最も人気のあったデッキが不本意な成績に終わったことで、別のグループが躍進する機会が訪れた。
そのチームこそが森山ジャパンだ。井川は、プロツアー『サンダー・ジャンクション』の予選突破者を10人まで伸ばし、信じられないことにメンバーのうち3人をトップ4に送り込んだ調整チームの基盤となっている。この日本のスターチームが、他のトップチーム(シカゴで開催された「ラクドス吸血鬼」を駆ったチームCFBや、シアトルで開催された「4色レジェンズ」を駆ったSanctum of All を思い出そう)と同じように、この新しいプロツアーを圧倒できることを世界に宣言したのだ。
「僕たちはセットチャンピオンシップの頃にチームを立ち上げ、プロツアー『ファイレクシア』から本格的に始動しました。各分野のスペシャリストが揃っていて、日本を代表する調整グループのひとつです」と井川は説明する。「プロツアーで一番嬉しかったのは、トップ8に残った3人だけでなく、他の多くのメンバーが目標を達成できたことですね」
井川が第30回マジック世界選手権に挑戦するのは年度末まで待たなければならないが、その前に井川と有力選手たちで構成された日本勢は6月末にアムステルダムで行われるモダンで次のチャンスへと挑む。
【お祝い】仲間と共に辿り着いたプロツアーの王座。頂に至ってなお、彼はさらなる高みを目指す。井川良彦選手(@WanderingOnes)、「プロツアー『サンダー・ジャンクション』」優勝おめでとうございます!https://t.co/lE75FrPflE#mtgjp #PTThunder pic.twitter.com/FOlCEOpHKe
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) April 30, 2024
第30回マジック世界選手権への道
世界選手権への道のりは、10月末にラスベガスで行われるマジックの世界王者決定戦へと続く。それまでは、フランク・カーステン/Frank Karstenと私で、バンド能力とマジックの競技プレイ黎明期からの世界選手権を振り返ってみよう。
フランクについて説明すると、2000年8月のブリュッセルで世界選手権デビューを果たし、そこで17位に入賞した殿堂入りプレイヤーだ。フランクがMetagame Mentorシリーズで構築戦のメタゲームをことごとく分析してくれたことは、はどれだけ幸運だったことだろう。彼の偉大な功績になるものの序章といえるものだ。
先週(見方によっては前世紀)、私たちは1999年の世界選手権を取り上げ、そこでカイ・ブッディが圧倒的な強さを見せつけ、タイトルを獲得したことを紹介した。しかし、井川が先に言ったように、常にカイとジョンだった。
1999年がカイがカイになった年だとすれば、2000年はフィンケルが自らの伝説を固めた年だった。ゲーム開始6年目にはすでにプロツアーとチームの世界王者になっていたこのアメリカの選手は、2000年の世界選手権でチーム世界王者と個人王者の両方を獲得するという壮大な偉業を成し遂げた。《闇の腹心》ことボブ・マーハー/ Bob Maherとの決勝戦はESPN2(訳注:アメリカのテレビチャンネル)で放送されたことで有名だが、この勝利によってフィンケルは単なる世界チャンピオンではなく、このゲームの巨頭となったのだ。
2000年マジック世界選手権王者、ジョン・フィンケル
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