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プレイヤーズツアー・名古屋2020
準決勝:石村 信太朗(埼玉) vs. 原根 健太(東京) ~信心対スピリット。誰も見たことのない境地へ~
原根「力線(《予期の力線》)が試合に与える影響が大きすぎる」
「バント(白青タッチ緑)スピリット」対「青信心タッチ真実を覆すものコンボ」の展開をそう予想する原根。石村も同意していた。
もともと「瞬速」のクリーチャーを多用し、相手の隙を見計らいつつゲームスピードをコントロールするのが得意なのが「白青スピリット」の特徴であり、タッチされている《集合した中隊》もその戦法・戦略をより強めるカードとしての採用だ。
《予期の力線》は石村が唱えるすべての呪文に瞬速を付与する。「スピリット」の特徴を1枚で無力化するカードだ。
しかし「スピリット」が得意とするゲームスピードに合わせるためには、ゲーム開始時に手札にあることが条件だ。通常に唱える「4マナ」という重さは1ターンを費やすということであり、その時点で盤面に影響を及ぼさないカードの存在は決して大きいものではない。
「石村の初手に《予期の力線》があるかどうか」
原根からしてみれば、自らが干渉のしようがないところで大きく戦略を変えざるを得ないことについて、明らかに不安の様子を見せていた。
石村「不利なはずなんだよな」
石村の「青信心タッチ真実を覆すものコンボ」は、コンボ特化という形ではない。「黒単アグロ」のようなビートダウンデッキに対し、ブロッカーとなる2マナ・クリーチャーを用意しつつ、相手を遅らせる中で自らが主導権を握るデッキとしての側面がある。
しかしスピリットは全てが飛行であり、逆に石村のクリーチャーは飛行を持たないものが多い。《厚かましい借り手》や《マーフォークのペテン師》など一部を除いて「接触する戦闘」自体が発生しにくく、原根の展開を的確に妨害する手立ては少ない。
どう戦うべきなのか。互いに互いの不利と利点を踏まえて、脳内で仮想ゲームを繰り返しつつ、準備を進めていた。
石村 信太朗(写真左) vs. 原根 健太(写真右) |
プレイヤー、デッキ紹介
プレイヤーズツアー・名古屋2020、準決勝。緻密細密な環境理解の末、「バント・スピリット」を選択して大会に挑んだ原根 健太。グランプリ・京都2015のベスト4から始まったそのプロプレイヤー・キャリアは5年目。グランプリで数多く入賞する姿が顕著だが、最も大きい戦績は「ワールド・マジック・カップ2017国別対抗戦優勝」だろう。
選手生活10年や20年を超えるプロが多い中で、決して長いとは言えないプロ期間だが、密度の濃い質と量を持つ練習を積み重ねていることと、練習の結果をアウトプットする能力する高さでも知られており、世界を制したときもその積み重ねが「活きた」と表現していた。
今回もパイオニアに対して「やりこみ」を公言している。事実デッキ選択は成功しており、今この準決勝の舞台に立っている。
ただし「青黒・真実を覆すものコンボ」や「黒単アグロ」の隆盛は当然予想していたようだが、石村の「青信心型」、また隣で準決勝をこれから始める行弘 賢の「白黒オーラ」の2つに関しては予想外の角度であったことも認めて隠さない。「本当にどうなるか分からない」、そう発言する原根の気持ちに嘘はないだろう。
「ライザ」と通称される石村 信太朗は逆に「長い」プレイヤーだ。当時あった「高校選手権」という学生限定の国内大会では2004年に準優勝しており、そこから数えても16年だ。若くして始まったキャリアのため、実年齢はまだまだ若いと呼ばれるのだが、同時に「古豪」の1人と呼ばれることも珍しくない。
「シールドマスター、ライザ」とも形容されるように「リミテッダー」という印象も強いが、戦績としてはフォーマットを問わず広く多く残している。デッキ構築に関しても優れた腕前であり、今回の「青信心タッチ真実を覆すものコンボ」はチームで調整した期間を経ているが、骨格のほとんどは彼ひとりによるもののようだ。
原根 vs. 石村。パイオニア攻略となる鍵をそれぞれ見つけた2人が、ついに正面衝突した。
ゲーム展開
第1ゲームの準備中、「土地7枚」という手を笑って公開しつつ、マリガンを宣言する原根。先手の石村は7枚をキープしてゲームを始めたが、キーカードと表現されていた《予期の力線》に関しては、「力線、なしで」とあえて口に出して第1ターンを開始した。
実際のゲームの動き出しは原根からだ。《霊廟の放浪者》、《幽体の船乗り》と続けて、クロックを細かくしっかりと刻みはじめる。
石村も対策を立てていく。《潮流の先駆け》をプレイしてダメージレースを繰り広げ始め、数少ない飛行クリーチャーである《厚かましい借り手》をそのままプレイして原根の攻め手に牽制をかけていく。《ニクスの祭殿、ニクソス》を経由して《神秘を操る者、ジェイス》を着地させ、盤面を取り戻していきたい。
だが原根は展開を緩めない。《天穹の鷲》を続けてプレイし、《厚かましい借り手》を乗り越えて飛行クロックを早めていく。《神秘を操る者、ジェイス》を総攻撃で落とすと、石村本体に矛先を向け直す。
対処に迫られた石村が原根の打点をいったん落とすため戦闘前にプレイしてきた《マーフォークのペテン師》を原根が《呪文捕らえ》で捕縛すると、スピリットたちの群れは石村のライフをついばみ終えた。
第2ゲームは先手の石村がスピーディに「真実を覆すものコンボ」を揃えに向かう展開だ。初手には《真実を覆すもの》が2枚あり、あとは《神秘を操る者、ジェイス》か《タッサの神託者》を待つばかりだ。土地をサイクリングしてライブラリーを掘り進み、《老いたる者、ガドウィック》も挟んでカードを引いていく。
原根も2ターン目には《鎖鳴らし》をプレイし、《呪文捕らえ》で《老いたる者、ガドウィック》(X=1)も止めつつ、妨害と展開を両立させていく。
原根が《天穹の鷲》を追加して土地を寝かせたところで、石村は《真実を覆すもの》を戦場に送り込み、コンボ完成の足音を原根の背後から鳴らしていく。
原根は《神秘の論争》と《軽蔑的な一撃》を握ってターンを渡す。ここで石村が用意したコンボの「相方」が《神秘を操る者、ジェイス》であれば対応できているが、すでに土地を5つ並べている石村が《タッサの神託者》をプレイしてきたときには、実はコンボを止める手立ては持っていなかった。
石村は1枚のライブラリーからカードを引き、メイン・フェイズに入って手札のカードを公開した。《タッサの神託者》か、《神秘を操る者、ジェイス》か。
それは、土地であった。そして敗北を示す握手を原根に差し出した。
すでに飛行クロックで余命のなかった石村はコンボが揃っていない状況で《真実を覆すもの》をプレイするしかなかったのだ。
石村 0-2 原根
ゲームを終えて
石村「力線ないと、こんな感じ」
2ゲームとも、原根の「順当な展開をする飛行戦力」に的確な回答を見いだせずにいた石村。これで《予期の力線》があれば、石村が主導的に戦闘をコントロールできた場面もあっただろうが、結果として石村のもとに《予期の力線》がゲーム開始時に届くことはなかった。
多少の感想戦を終えた後、原根の目線はすでに次の相手になるかもしれないプレイヤーのデッキリストに向けられた。
もう1卓の準決勝は行弘 賢 vs. 高橋 優太だ。高橋の「青黒真実を覆すものコンボ」への戦い方はすでに覚えているといった様子で、行弘の「白黒オーラ」のリストをじっくりと読み込み始める。
原根「これが勝ち上がってくると、困るんだよ。全く分かんないから」
会場でも有数の練習量を積んだであろう原根をもってして「全く分からない」と表現する「白黒オーラ」。行弘対高橋の準決勝は接戦の様子で、終わるにはもう少し時間がかかるようだ。そのことを確認してから原根は実際に自らのデッキを広げて、対「白黒オーラ」のサイドボーディングを検討し始めた。
果たしてその準備は杞憂となるのか。原根が一通りの試運転を終え、デッキをケースに戻して隣の卓の様子を見にいったタイミングあたりで、決着の時を迎えた。勝ったのは行弘 賢。
原根は今ここで練り上げていた戦略を武器にし、決勝へ挑むことが決まった。
原根 健太 Win!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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