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プロツアー『機械兵団の進軍』
終わりなきストイアの物語
2023年5月13日
ネイサン・ストイア/Nathan Steuerはこんなことをするはずがない
誰もこんなことをするはずがないんだ。こういうことは、2023年には起こらないんだ。マジックは30年目で、プロツアーもほぼ同じ年数だ。これはカイ・ブッディ/ Kai Buddeとジョン・フィンケル/Jon Finkelのゲームであり、「Ocho」以前にESPNで放送されていたほどに古いトーナメントシリーズだ。プレイヤーたちは一生をかけて一度のプロツアートップ8入賞を追い求め、その登場回数を一桁で推し量る。2回のトップ8入賞は素晴らしいキャリアであり、4~5回であればかつての「殿堂ライン」だ。
それには時間が必要だ。何年もかけて努力し、厳しい教訓を学び、ありえないほどの不運に見舞われるかもしれない。そうしてやっとたどり着けるのがプロツアーなのだ。そして、一度プロツアーに参加すれば、進歩を確かめるのは一歩一歩の段階だ。すなわち、ドラフトで3-0し、2日目に進出し、「正しい」デッキを持ち込み、そして最終的にトップ8入賞へとすべてが結実するのだ。そうして初めて、プロツアーで優勝するということを真剣に考え始めることができるのだ。その先にあるのが、プロツアーとは異なりあまりにも現実味がなさすぎて会話にも出てこないものこそが、世界選手権の魅力であり、究極のタイトルだ。
それが計画表であり、決まった予定表などない。唯一言えることは、そんなものは無いということだけだ。こんなことを言うのは、私たちが愛するゲームの現実は、最高のプレイヤーが常に勝つとは限らないということだからだ。例えば、リード・デューク/Reid Dukeは周知のとおり、マジックの有名人になってからプロツアー・ファイレクシアで優勝するまで何年もの間、プロツアータイトルを追い求めていたのだ。そして、ストイアも同じ道を進んでいるかもしれないが、15ヵ月前にMagic Online Champions Showcaseで優勝して以来、誰も見たことのないような速さでその道を疾走している。
第28回マジック世界選手権、プロツアー・ファイレクシア、そしてプロツアー・機械兵団の進軍。世界最高のプレイヤーたちと戦う3連続でのイベント。3連続トップ8入賞。そして、先週末のミネアポリスでのトップ8ラウンドでは圧倒的なパフォーマンスを見せ、この間に2つのタイトルを獲得したのだ。
You can see the pure joy and exhaustion in my eyes after such a grueling day of competing. Now I’ll have a baby version of the worlds trophy to go along side of it too! pic.twitter.com/yCk6J4KbuL
— Nathan Steuer (@Nathansteuer1) 2023年5月8日
僕の目を見てもらえば、このような厳しい戦いの日を終えた純粋な喜びと疲労がわかると思います。今、世界選手権のトロフィーの横に、ちっちゃなバージョンのトロフィーを手に入れることになります!
4 《硫黄泉》 10 《沼》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 1 《山》 2 《反逆のるつぼ、霜剣山》 4 《黒割れの崖》 4 《憑依された峰》 -土地(26)- 3 《黙示録、シェオルドレッド》 2 《墓地の侵入者》 4 《税血の収穫者》 -クリーチャー(9)- |
2 《希望の標、チャンドラ》 3 《切り崩し》 4 《勢団の銀行破り》 4 《鏡割りの寓話》 4 《絶望招来》 2 《強迫》 1 《夜を照らす》 1 《削剥》 4 《喉首狙い》 -呪文(25)- |
2 《ヴェールのリリアナ》 2 《剃刀鞭の人体改造機》 2 《ぎらつく氾濫》 1 《魂転移》 1 《抹消する稲妻》 2 《強迫》 2 《石術の連射》 1 《削剥》 1 《切り崩し》 1 《腐敗した再会》 -サイドボード(15)- |
マジックの歴史上、連続した3回でのプレミア・イベントで日曜日のプレイオフに進出したのはわずか3名しかいない。すなわち、スコット・ジョーンズ/ Scott Johns(プロツアー・ロサンゼルス1996、プロツアー・コロンバス1996、世界選手権1996)、ジョン・フィンケル/Jon Finkel(プロツアー・ニューヨーク1998、世界選手権1998、プロツアー・シカゴ1998)、そしてルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas(2016年の『ゲートウォッチの誓い』、『イニストラードを覆う影』、プロツアー『異界月』)だ。
こんなことが起こるはずがなかったんだ。
この25年で我々はあまりにも遠くに来てしまったとマジックのご意見番たちは言うだろう。「ジャーマン・ジャガーノート」ブッディがトップ8に進出したすべてのトーナメントで優勝していたころ(彼は7個のタイトルを持っており歴代首位だ。他に4個以上タイトルを持っている者はいない)、プロツアーにおいて参加者たちの使用デッキは半数が自作であったり中途半端なコンボだったのだ。フィンケルが17回を誇るトップ8入賞のほとんどを達成したとき、参加者の中には2、3個の本物の調整チームがいたかもしれない。ストイアは弱冠20歳であり、ブッディとフィンケルの支配は彼が最初のカードを手にするずっと前に終わり、スコット・ジョーンズの引退に至ってはストイアが生まれる前のことだ。
今とは状況が大きく異なる。プロツアー・機械兵団の進軍のトップ8に6ヵ国が示されていたように、マジックが当時からどれほどの成長を遂げたかを容易に理解することができる。数重ものチームがイベント前には調整部屋を立ち上げ、リミテッド(ドラフトのゲームプレイだ)のリソースは当時想像もできなかったほどだ。Magic OnlineやMTGアリーナでの何千というゲームがフォーマットを数日のうちに成熟した段階まで磨き上げる。要するに、プレイヤーたちはあまりにも優秀であり、90年代に活躍した彼らに匹敵するには、同等の力を持つプレイヤーが多すぎるのだ。それゆえに、我々はキャリアを10年の単位で測るのだ。7年前、スコット=ヴァーガスが連続で3回目のトップ8入賞を果たした時、そのような特別なパフォーマンスを見るのはそれが最後だろうと長い間思われていた。誰かがそのような偉業に近づくにはあまりにも難しい状況だったのだ。
ネイサン・ストイアは歴史書を破り、私たちがいかに間違っていたかを証言している。偉大な人間は、可能性について考え直させてくれる。誰も62本のホームランを打つことはできない。誰もカリーム(・アブドゥル=ジャバー)の通算得点を超えることはできない。誰もNFLで45歳までプレーすることはできない。そして、誰もプロツアーレベルのイベントで3連続トップ8を達成することは二度とできないだろう。
エキスパートたちが不可能であると言っても、ストイアにとってはあまり意味をなさない。今現在マジックの対戦で忙しい時に過去に畏敬の念を抱いて生きるのは難しい。現在このゲームで世界最高の調整チーム(チーム「Handshake」はこのプロツアーで4人のメンバーをトップ8に送り出し「チーム50%」というニックネームの期待に応えた)の貴重な一員であり、リーダーとしてストイアは過去の偉人たちが何百ものトーナメントで成し遂げてきたことを心配することはますますなくなっている。マジックのGOAT(Greatest of All Timeの略、史上最高の意)の影は彼の重荷にはなっていない。それが付きまとっているのは私たちのほうだ。
「彼らが成し遂げてきたことと比べられることで、幽体離脱したような気分になることもありますよ」とストイアは認めた。「プロツアー・機械兵団の進軍のトップ8ラウンドをプレイしていた時、僕は優勝がどれほどの意味を持つのかすらわかっていませんでした。解説者の人たちがそのことを話していたので、他の人たちはみんなわかっていたんでしょうけどね!」
大渦の渦中にいるストイアは、自分がプロツアーの歴史的な偉業を達成していることを自覚している。そして、12歳のころから競技レベルのトーナメントでプレイし続けているこの神童は、自分の希望的な目標ですらはるかに上回っているのだ。
「優勝した後、チームのみんなとお祝いをしましたけど、プロツアーから帰ってきて一気に実感が湧きましたよ」と彼は説明した。「数日間休みを取らなければいけませんでした。使い物になりませんでしたからね。あまりにも多くのことがありすぎて、まともに頭が働きませんでした。カイ・ブッディと比べられることは感慨深いです。僕は当時の古いプロツアーを見て育ちましたからね。この歴史的な歩みを続ける大きなチャンスを手にしたと考えていますし、それこそが僕のやりたいことです。次のプロツアーや世界選手権に向けて、できる限り努力して準備するつもりです」
Inspiring to see Nathan crush it again and again. There really is that much of an edge to be had for anyone willing to match his dedication.
— David Inglis / tangrams (@tangrams) 2023年5月7日
ネイサンが何度も何度も突き進む姿を見るのは刺激的だ。彼のように献身的な努力を惜しまない人には本当に優位性がある。
現段階で私はこのようなことが繰り返されることになるだろうと感じている。つまり、今後30年間のプロツアーではこのような快進撃を見ることがないかもしれないのだ。トーナメントのフォーマットが何であれ、例えばドラフト、パイオニア、スタンダード、Magic Online、MTGアリーナ、もしくはテーブルトップマジックであっても、ストイアは世界最高の選手であり、それに近しいようなものではないのだ。私は10年前にカバレージを始めて以来、ブッディの伝説的な活躍について書き続けてきた。おそらく私は10年後もストイアの成功譚について書き続けていることだろう。
「ネイトとプレイするのは謙虚な気持ちになるよ。彼はこのゲームにおいて、現段階で他の誰よりも技術的に飛びぬけて優れている」とチームメイトのオースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichは説明してくれた。「彼はここ5年間、他人が怠けているかもしれない間も、オンラインで切磋琢磨することに身を捧げてきたし、定期的にコーチングをしているから、多種多様なフォーマットに携わっていて、彼はいまだに全てをかけてマジックに集中している。彼以外の人間にとってはとても危険な組み合わせだね。とても素晴らしいし、彼がすぐにペースを落としてしまうことはないだろうね」
ストイアにそんな気はさらさらないだろう。コーチングのスケジュールを埋めるだけでなく、彼はスポンサーのUltimate Guardと協力し、コンテンツ制作に大きく傾倒している。次の Magic Online Champions Showcaseでは解説を担当し、月末には次のアリーナ・チャンピオンシップに出場する(そして、連続4度目のトップ8入賞を目指すのだ)。おっと、加えてバルセロナで開催されるモダンのプロツアーという新たな挑戦へ、わずか2ヵ月という短い期間で備えなければいけない。
旋風は決して終わらない。ストイアはそのつもりだ。
「僕は今もマジックに超夢中です」とストイアは言った。「正直言って、このプロツアーでまたメラメラ燃えてきました。この機会を得たことでプロツアーに出場する前よりも、終わった後のほうがモチベーションが上がりました。この連続記録がが続くかどうかに関係なく、マジックにより多くのキャパシティを費やし関わるつもりです。自分がこれまで他の人から助けてもらったように、このゲームにおいて他の人の助けになることに情熱を持っています。そして、私と同年代や、少し後にやってくる人たちに伝えていくことができるようになりたいのです」。
誰から見てもキャリアがスタートしたばかりの人間からこの類の思慮深い言葉を聞くのは違和感がある。まだ21回目の誕生日も迎えてない人間から聞く言葉ではない。
しかし、ストイアは自分のすべきことに限界を設定することを気にしたことがない。おかげで、マジックはより良いものとなる。
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