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プロツアー『指輪物語』
プロツアーが真に想起するもの
2023年8月5日
トーナメント開幕時の数分、全員にその瞬間は訪れる。ある時点で、数秒の間自分だけの時間を過ごし、会場やドラフトポッドを見渡し、そして3ターン目に降臨したウラモグのような衝撃を受ける。つまり、ついに自分はプロツアーに出場したのだと。
その瞬間は人それぞれだが、普遍的な経験だ。より重要なのは、それはコミュニティの経験であるということだ。その経験はプロツアーのコミュニティを結びつける。畏敬の念、という言葉が正しいとは思わないが、プロツアーレベルでプレーできる誰しもが、これまで戦った最高の選手と渡り合える能力がないというわけではないのだが、しかしその時間は深遠な内省の瞬間だ。プレイヤーたちは何年も、何年もをかけて世界とまみえ、一撃を与える機会を追い求めるのだ。
そして、それら長年の研鑽、サイドボード戦略、トーナメントのセオリーやドラフトのピック順、そして幾度ものPTQ遠征を結実させる外的な何かがある。
長年のプレイヤーであり解説者であるタノン・グレイス/Tannon Graceにとって、その瞬間がやってきたのは第1回戦のペアリングシートを見た時のことだった。そして彼はプロツアー王者と相対することになったのだ。人によっては、それは金曜日朝一番のドラフトであったり、木曜日のプレイヤー歓迎会で何年も追いかけてきたレジェンドたちと交流する時だったりする。
ほとんどの人にとって、それは充実した経験として終わることになる。大きなものをかけて世界最高のプレイヤーたちを相手に、誰でも勝てるような知恵をもって高いレベルのマジックでプレイするのだ。もちろん、実際にはPT初参加のプレイヤーが優勝するようなことはほとんどない。プロツアーはただあまりにも過酷で、日曜日の舞台のプレッシャーは不慣れなものにとっては計り知れないほど大きい。しかし、私が述べなければいけないのは、プロツアー初参加者たちと話をすると、最終結果にかかわらず、可能な限り戻ってきてプレイしたいという大きな願望を抱いて帰路につくのだ。
多少の差こそあれ、ジェイク・ビアズリー/Jake Beardsleyをプロツアー・指輪物語で待ち受けていたのはそういうものだった。晴天のバルセロナで、PTと並行してバケーションをパートナーと楽しみながら戦えることに有頂天になっていた。大学院の期末試験を終えたばかりの時に、プロツアーは彼に一世一代の旅行と、一世一代のトーナメントに参加する機会を与えてくれたのだから。長年をかけて参加権利を手にするため努力してきた彼が、ここにいるんだという瞬間はすぐに訪れた。
「マルシオ・カルバリョ/Márcio Carvalhoが歩いてきて、僕の隣に座ったんだ。『プロツアーで史上最高のリミテッドプレイヤーかもしれない人が僕の上家で、初めてのプロツアーが本当に始まっちゃうの?』って思ったよ」とビアズリーは驚愕した。「あれこそが僕の『プロツアーにようこそ』の瞬間だったね」
『神河謀叛』でビアズリーが初めてカードを手にして以来、ほぼ20年越しの瞬間だった。意気揚々と、この23歳はドラフトをプレッシャーを背負うことなく、しかしマジックに満ちた人生の思い出が溢れ出すような光景を目にした。
Our featured drafter on Day 1 at #PTLOTR is none other than PT Champion @Nathansteuer1!
— PlayMTG (@PlayMTG) 2023年7月28日
Watch Steuer and the rest of the featured draft pod live now at https://t.co/GF4H5s6srS pic.twitter.com/23bSfuXQZg
#PTLOTR 初日のドラフトでフィーチャーするのは、他でもないPT王者
@Nathansteuer1です!ストイアと注目のその他のフィーチャーポッドの様子はhttp://twitch.tv/Magicで放送中です。
このトーナメントはモダンがプロツアーに帰ってくるという、前評判の非常に高いものだった。構築ラウンドを彩るのは最新で、これまでに印刷された中で最も強力なカードたちだ。その最新弾を使いこなすことが3日間の成功を左右するのだが、ビアズリーは最初のパックを開封する前から勝つような気がしてならなかった。
そう、プロツアー・指輪物語が開幕した金曜日はビアズリーの誕生日だったのだ。そして、父親がマジックのカードを初めて彼に手渡してから18年が経とうとしていた。つまり親が読み書きを学ばせるための実績のある作戦なのだが。今、彼の父親は彼を家から応援し、パートナーのクレアは彼のそばにいて、プロツアーが待ち受けている。
幼いころからマジックの深い理論について議論しプレイヤーとしてのキャリアをスタートさせた子供にしては悪くない。実際にその議論は、白いカードのマナシンボルが実際には太陽のように黄色いかどうかだったし、彼はわずか4歳だったけれど、誰だってどこかで始めるものだろう?
「僕は父親にプロのマジックプレイヤーになると言っているような7歳だったよ。最初は、カードが何をするかをアートで覚え始めたんだ。例えば、《鼠の影張り》の槍みたいなね。完全に夢中になったよ」と彼は振り返った。「大きくなってからは、店舗に通うようになった。最初のフライデー・ナイト・マジックはローウィンの頃で、そこからずっとプレイを続けているんだ」
人生をマジックと共に過ごして成長してきた人間を見分けるある方法とは何だろう?年単位ではなく、セット単位で時間を測る傾向があることだ(なぜ私が知っているかは私に聞いてくれ)。
「実際に大会でプレイするようになったのは10年ほど前のことで、学校に集中しながら、できる限りプレイしていたんだ」とビアズリーは説明した。「去年、地域チャンピオンシップが復活した時、ヴァージニア州ロアノークの大学院に入学したところで、そこでできる限り多くの予選でプレイを始めたんだ」
その旅路は彼を遥々スペインまで連れて行き、そしてビアズリーはプロツアーが忘れられない経験になるだろうと分かっていた。しかし、彼が知らなかったのはそれがどれほど正しいことなのかということであり、ラウンドを重ねるごとに面白い出来事は起き続けた。
「そこにいるだけで幸せだったのに、勝ち続けてしまったんだ」
勝って。また勝って。これ以上勝てなくなるまで。ビアズリーは週末を通じて復活を遂げ大ブレイクしたデッキ(トロンを「大ブレイクした」デッキと呼んでいいのであれば、の話ではあるが)を撃破し、プロツアー・指輪物語で全てを勝ち取ったのだ。
「こんなことは想像もしていなかったよ」とビアズリーは述べた。「ガールフレンドのクレアの全てのサポートに感謝しなければいけない。彼女なしにはこのトーナメントを優勝することはできなかったと思う。彼女は僕がこのゲームにどれだけくるっているか見てきたんだ。彼女はプレイするし、父もプレイする。兄弟もプレイするし、もうひとりの兄弟もプレイする。だから、この経験を彼女と分かち合えたことは本当に素晴らしいことなんだ。夢のようだよ」。
ヤン・メルケル/Jan Merkel が想像を絶する偉業を成し遂げて以来17年間、誰も成し得なかったことをビアズリーが成し遂げたのを、何万人もの観客が見守った。つまり、プロツアー初出場での優勝という偉業だ。
ビアズリーはカメラの前で忘れられないパフォーマンスを披露した。プレイしている時は活気に満ち、そうでないときはストイックに、祝うときは熱狂的に。プロツアー・指輪物語を駆け抜けたこのアメリカ人の活躍は、マジックの歴史の中でしばらく語り継がれるだろう。
「私たちはリミテッドをよく準備しており、何にも勝てるリストを持っていることは分かっていましたが、彼があのようにイベントを打ち破るとは思ってもいませんでした」とビアズリーと共にこのプロツアーに向けて準備したチーム「Sanctum for All」の一員であるリアム・ケイン/Liam Kaneは言った。「つまり、トップ8で彼のプレイを見るまでは。トップ8の試合というとてつもないプレッシャーの中で、彼があれほど正確かつ冷静にプレイするのを見て、合点がいきました。決勝戦までには、私たちのチームはステージの右側に集まっていましたが、その3倍の人が(準優勝の)クリスティアン・カルカノ/Christian Calcanoを応援していました。他人の試合でこれほど緊張したことはありません」
Obviously I talked a lot about my gf yesterday and for good reason, but I would absolutely be remiss to not shoutout @SanctumOfAll one more time for all the help prepping, and specifically @liamkane_ for being the genius behind fable scam.
— Jake Beardsley (@makememesnotwar) 2023年7月31日
昨日、ガールフレンドについてたくさん話したけど、それには正当な理由があったんだ。でも、準備を手伝ってくれた@SanctumOfAllと、特に寓話的詐欺の天才である@liamkane_に対してもう一度叫ばないのは間違いなく怠慢だ。
チームという側面は、特に直接会うものは、プロツアーでの経験を無二のものにしている大きな要素だ。ビアズリーのチームは彼が優勝するとすぐに彼に駆け寄り、あの熱狂的な週末を終えたビアズリーは非常に興奮していた。そして、彼は即座にチームメイトを称える一方、ケインはビアズリーが多様なチームに欠かせないひとりであることを強調した。
「かなり早い段階で『ラクドス想起』がこのフォーマットで勝てるデッキだということは分かっていました。ジェイクと私がこのデッキに乗った最初の二人で、私たちは別々に多くの同じ結論に達したことに気づきました。最終的に、チームの他のメンバーはラクドスが非常に優れていることを認識していましたが、スタイルの好みもあって他のデッキに乗り換えたんです。イベントまでの数日間で詳細を調整するのはジェイクと私だけになりました」。
「ジェイクはとても正直で謙虚な男です。彼はデッキ構築における決断の多くにおいて私を信頼してくれました。その多くについて私が提案する前にすでに理由が分かっていた時もです」
2 《新緑の地下墓地》 2 《湿地の干潟》 2 《血染めのぬかるみ》 3 《汚染された三角州》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 3 《黒割れの崖》 4 《血の墓所》 3 《沼》 -土地(20)- 4 《激情》 4 《悲嘆》 4 《オークの弓使い》 1 《死の飢えのタイタン、クロクサ》 4 《ダウスィーの虚空歩き》 4 《敏捷なこそ泥、ラガバン》 -クリーチャー(21)- |
4 《鏡割りの寓話》 4 《思考囲い》 2 《終止》 3 《不死なる悪意》 3 《フェイン・デス》 2 《致命的な一押し》 1 《血染めの月》 -呪文(19)- |
2 《黙示録、シェオルドレッド》 1 《死の飢えのタイタン、クロクサ》 1 《終止》 2 《稲妻》 1 《真髄の針》 1 《虚無の呪文爆弾》 3 《虚空の杯》 2 《仕組まれた爆薬》 2 《血染めの月》 -サイドボード(15)- |
マジックだらけの人生がビアズリーにこの瞬間をもたらした。プロツアー優勝者という現実が、なかなか沁み込んでこないことを彼は認めている。実際、彼はBlu-rayが発売される以前には見られなかったマジックのキャリアの軌跡と向き合っている。
「たくさんの人たちからお祝いのメッセージや電話をもらって、僕の携帯は2日間まったく使えなかったよ」と彼は笑いながら言った。そうだね、まだなんとなくしか実感がわかないんだと思う。僕はいつも次の試合や次のトーナメントに集中しようとしていて、MTGMeleeの通知が来るとスイッチが入る潜伏工作員のようなものだと冗談を言っているんだ」
「世界選手権でプレイできることに興奮している。ずっと夢だったんだ。オータム・バーチェット/ Autumn Burchettやケイン・リアンハルト/Cain Rianhardとまた一緒に取り組むことができるし、このプロツアーの後は、これからのイベントでベストを尽くすことに集中したい!素晴らしいチャンスなんだ」
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