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プロツアー『異界月』

観戦記事

第8回戦:Louis Deltour(フランス) vs. 渡辺 雄也(日本)

川添 啓一
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Marc Calderaro / Tr. Keiichi Kawazoe

2016年8月5日


ルイ・デルトゥール/Louis Deltour(ジャンド「昂揚」) vs. 渡辺 雄也(緑赤ランプ)

(デッキリストの掲載は第16回戦以降となります。)

 数ラウンド前に発表されたばかりのことだが、世界ランキング12位の渡辺雄也は(同2位のオーウェン・ターテンワルドとともに)プロツアー殿堂に選出された。そしてルイ・デルトゥールは、まさに彼とと対戦しようとしていた。両プレイヤーは6勝1敗でこのラウンドに臨んでいたが、デルトゥールにとっては殿堂顕彰者の6-1を相手にすることとなる。知らない人のために説明しておくと、それはただの6-1とは大きく異なるのだ。

 チーム「Cygames」に所属する渡辺雄也の名声は広く知れ渡っており、2012年のプレイヤー選手権優勝に始まって、2013年・2014年(この年は3位であった)の両世界選手権でも活躍し、そして御存知の通り複数のプロツアーでトップ8に進出している。彼は日本人が多く持ち込んだ赤緑ランプを使っている。これは《約束された終末、エムラクール》をメインとして、《ゴブリンの闇住まい》、《炎呼び、チャンドラ》、《龍王アタルカ》、そして《集団的抵抗》と固められている。

 テーブルを挟んで向かい合うのは、フランスのルイ・デルトゥールだ。彼は2度のグランプリ決勝進出という実績で頭角を現しつつある。このプロツアーにおいて、彼はチーム「EUreka」に籍を置くことになった。彼はゴールド・レベルを確かなものとしつつあるが、それ以上に勝利を勝ち続けることを目指していた。その点において、チーム「EUreka」に加わったことは彼を確かに助けていた。

「素晴らしかったよ、本当に」と彼は言う。「素晴らしい体験だった。僕はチームのプロプレイヤーの中で一番弱いうちの一人だったけど、チームから多くのことを学ばせてもらった。あとは貢献で返せることを望むだけさ。」

 彼が使うのは、チームが長い時間を描けて作り上げたジャンド「昂揚」デッキだ。「このデッキは、僕らが幾度となく回してきたんだ」と言う。「僕らはあらゆるものを組み合わせてきたんだ。組み直して、組み直して、そしてまた組み直したんだ。多分20種類以上は作ったんじゃないかな。」

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チーム「EUreka」のルイ・デルトゥールとチーム「Cygames」の渡辺雄也は、初日を7-1で終えるための戦いに臨んでいる。

 どちらのデッキもゲーム中盤での爆発力に優れたデッキであり、何があろうとも1枚で状況を打開できるだろう。もしどちらかが早い段階で足場を得ようと試みても、お互いのデッキにはそれを無に帰せるような爆弾を多く抱えているのだ。デッキは一撃必殺級のカードで満たされている。

ゲーム展開

 渡辺は《搭載歩行機械》にカウンターを1つ置いてゲームを始めた。デルトゥールは《過去との取り組み》を使い、そして《最後の望み、リリアナ》を唱え、能力を使い忠誠度を1とした。

 両者ともそれぞれカウンターを使っていたが、渡辺が取ったプレイは不慣れな人がしそうにさえ見えるものだった。彼はアンタップ前にクリーチャーを強化するのではなく、《焦熱の衝動》をそこに打ち込み、2つのトークンを得た。デルトゥールはこのプレイに多少戸惑ったように見えた。しかし、その戸惑いは《墓後家蜘蛛、イシュカナ》が現れたことで得心へと変わった。

「そうか、昂揚か。わかったよ」とデルトゥール。《焦熱の衝動》と《搭載歩行機械》が昂揚のための2番目、3番目、4番目のカードタイプとなったのだ。渡辺の次のターン、彼は《炎呼び、チャンドラ》を盤面に加えてトークンを走らせ、デルトゥールの戦力を大きく揺らした。整理すると、彼はこの2ターンの間に、2/2の《搭載歩行機械》を13点分の攻撃手段へと変えたのだった。

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殿堂に選出された渡辺雄也は、なお対戦相手を恐れさせるプレイヤーになろうとしていた。

 デルトゥールは対応を迫られていた。しかし、トークンを集めるよりも《過去との取り組み》によって墓地にカードを集めることを選んだ。そこには《コジレックの帰還》があったが、大量のクリーチャーが殴りかかってきている状況をすぐに打開できる助けには全くならなかった。

 しばらく考えたあとで、デルトゥールは「13点受けて、4点になるよ」と言い、ゆっくりとアンタップした。

 デルトゥールはこの惨状をなんとか打開しようと試みた。しかし、彼が唱えた3度目の《過去との取り組み》は、ライブラリーから何の助けも引き出すことができなかった。要求されるマナ・コストのせいで、彼の手札には《約束された終末、エムラクール》が立ち往生していた。彼は《コジレックの帰還》を持っていたが、それを次のターンで死を食い止めライフ1で耐えるために使った。

 そして、この最後の瞬間、彼は成し遂げた。このターンは彼にとってエムラクールを唱えられる最後のチャンスだった。しかしエムラクールは、渡辺からターンを取り上げるためには遅かった。

 デルトゥールは《炎呼び、チャンドラ》を[-X]能力で処理し、《進化する未開地》を生け贄に捧げた。もちろん彼は渡辺のために土地を見つけるつもりはなかったが、デッキの中身を見たかったのだ。

「さて、何があるかな......」とデルトゥールはつぶやきながら見た。「なんだって!? ちょっと待て、エムラクール3枚だって!?」

「そう、3枚だよ」

「《集団的抵抗》!?」デルトゥールは息を呑んだ。もし次のターンで渡辺がこのカードを引き当てたら、このフランス人のライフは1しか残っていないがゆえに負けてしまうのだ。

 渡辺は笑いながら、「頼む!」と言った。そして手を合わせ、その赤い呪文のために祈った。デルトゥールは渡辺のターンを終え、次はこの日本のプロにとってのターンが始まる。

 彼は自分の「追加の」ターンのカードを弾いた。彼は、《集団的抵抗》を引くしかない。

「おぉぉ!」と言いながら、渡辺は《苦しめる声》を見せた。今、彼はその呪文を探すためにさらに2枚のドローを得たのだ。彼は興奮し始めた。

 1枚目、《》。何の助けにもならない。

 そして次のカードを伏せたままテーブルに置いた。そのカードが、13/13の約束された終末から彼を救う魔法の如き変身をすることを祈りながらめくるとそれは......

集団的抵抗》!! 渡辺はそのカードをテーブルに置き、拳で叩いた。デルトゥールを3点で焼き、もとより1点しかなかった彼にとってそれは十分であった。

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デルトゥールはチームと多くのことを学び、そしてゴールド・レベルを射程に収めていた。

 2ゲーム目、デルトゥールは《精神壊しの悪魔》に向かう力強い一手として《知恵の拝借》からゲームを開始した。この黒の手札破壊呪文で、《龍王アタルカ》、《ニッサの巡礼》、2枚の《苦しめる声》、そして《不屈の追跡者》が公開された。考えこんだあと、アタルカの上にあった《ニッサの巡礼》を選んだ。選択のあとで彼は疑問手だと言ったが、渡辺はそれが正しい選択であると保証した。

 《精神壊しの悪魔》がデルトゥールの昂揚を容易に達成すると、次のターンに《墓後家蜘蛛、イシュカナ》がより強力になって現れた。さしあたって、彼の船が動き始めたのだ。

 しかし、《龍王アタルカ》が待っている。渡辺が一貫して土地を置き続けていたことで、デルトゥールはそれをよく理解していた。

 そのドラゴンが現れると、まずデーモンを処理した。デルトゥールはそれをイシュカナと蜘蛛トークンと、そして唱えたばかりの《巡礼者の目》でブロックしようとした。それらが正しい選択であることを祈りながら、一掴みにしてドラゴンの前に押し出した。

 しかし、渡辺は《コジレックの帰還》の準備を整えていた。デルトゥールの盤面を片付け、ダメージを貫通させたのだ。デルトゥールは肩をすくめた。もう幸運すぎるような事態は望めないとしても、別の可能性を探し始めたのだ。まだゲームを取り戻すことは可能ではあるが、しかし彼の手札は強烈な一撃を欠いていた。

 渡辺は《疫病風》のごとき追撃として、《ゴブリンの闇住まい》から《ウルヴェンワルド横断》を唱えてエムラクールを探した。それは次のターンに差し迫った脅威となった。それは《Infernal Spawn of Evil》の「来るぞ!」能力――それは手札で公開して起動する――のように、不気味に感じられた。そして、デルトゥールは何か迅速な対応を取らなければならないことを知った。

 自分のターン、彼はカードを引いた。

「来るぞ...」

 デルトゥールは考え、更に考えた。

「来るぞ...」

 しかし残念ながら、デルトゥールは到達できなかった。次のターン、闇住まいとアタルカのためにエムラクールが十分すぎる露払いを始めたのだった。

 殿堂に選ばれた渡辺雄也は、選出を祝うべく初日を7勝1敗で終えた。ルイ・デルトゥールは6勝2敗となった。

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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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