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プロツアー『異界月』

戦略記事

プロツアー『異界月』 初日ドラフト全勝者たち

矢吹 哲也
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Chapman Sim / Tr. Tetsuya Yabuki

2016年8月5日


 プロツアーの第3回戦を終えて全勝でスタートを切れたときの気分たるや、最高のものだろう。プロツアー『異界月』では、300人を超えるプレイヤーのうち初日のドラフト・ラウンドで全勝を果たしたのはわずか37人となった。従来の『イニストラードを覆う影』におよそ200種類の新カードが追加された今回のドラフト環境は、多面的で様々な戦略がある、というのが全体的な意見だ――ここは高い技術が求められ、同時にエキサイティングな環境なのだ!

 「グランプリ・マスター」の座を獲得したばかりのブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinは、今大会でも早朝から圧倒的な力を見せつけ、肩書きに相応しい結果を残した。《ギサとゲラルフ》を主力とした「青黒ゾンビ」をドラフトした彼は、《墓地からの徴用》や《嘆きのグール》といった多くのプレイヤーが使用に耐えないと判断してサイドボードに押しやるカードを大いに活躍させた。最高のドラフトとデッキ構築が平均的なカードを純金に変えるのは、昔からよくあることだ。彼はその上で《末永く》を2枚手に入れ、墓地を中心にしたこのデッキを大きく強化したのだった。

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(左から)パスカル・メイナード/Pascal Maynard、ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duin、シャヒーン・ソラニ/Shaheen Soorani

 グランプリ・サンパウロ2016でブラウン=デュインとチームを組んだ2名も、彼に負けていない。ブラジルのグランプリでともにトップ4に入賞した彼らは、今大会初日のドラフト・ラウンドを無敗で切り抜けた。面白いことに、シャヒーン・ソラニもまたブラウン=デュインと同じく《嘆きのグール》を2枚採用し、《過去との取り組み》や《夜深の死体あさり》と完璧に噛み合った動きを見せた。彼らの活躍を見ると、墓地を再利用する戦略は使用に耐えるだけでなく「勝ち組」の戦略だったようだ! 一方パスカル・メイナードは《霊廟の放浪者》と《呪文捕らえ》を擁する「白青スピリット」をドラフトし、空から全勝をもぎとったのだった。

 おいおい、スタンダードの試合はまだだよ!

 親友同士だというパトリック・ディックマン/Patrick Dickmannとヴァレンティン・マックル/Valentin Macklも、今シーズン最後のプロツアーの序盤を土付かずで乗り切った。両者は「ゴールド」レベルのプレイヤーであり、今回のドラフト・ラウンドは「プラチナ」レベルを目指す上で最高のスタートとなっただろう。両者は偶然にも、『異界月』の赤のカードにおいて《流電砲撃》に続くトップ・コモン、《猛々しい狼》を2枚手に入れることができた。

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(左から)ヴァレンティン・マックルとパトリック・ディックマン

 ディックマンの場合、《くすぶる狼男》(『異界月』のアンコモンで上位3位に入る1枚)に《爪の群れのウルリッチ》も獲得し、「最高の結果だった」という。一方のマックルは《悪魔の棲家の狼》で戦場を壊滅させたという。お聞きの通り、イニストラード次元は到底安全な場所とは言えないようだ。探検者は常に、《狂気の一咬み》を受ける危険があるのだから。

アーキタイプ全勝者数
白青3
白黒3
青黒3
青赤6
黒赤5
黒緑5
赤緑3
赤白2
緑青3
緑白4

全勝者数
12
15
16
16
15

 ここオーストラリア・シドニーにて今大会を迎えるにあたり、黒がそのカード・プールの浅さから弱い色のひとつだと考えられていた。強い色だと認識されていたのは、『異界月』に強力なコモンを多数擁する赤だった。しかしながら、それらは真理とならなかった――どの色の組み合わせも最高の成績を収め、一線級の活躍を見せたのだ。

 上記の表を見てわかるように、37人のドラフト全勝者の中で黒と赤の採用数は同じだった。青と緑も同数だ。だが白はどうだろう? 本当にこの色も一線級なのだろうか?

 マックルは以下のように述べる。「個人的なベスト・カラーは赤と白だ。逆に、黒と緑は単体で使いたくないね。最高の色の組み合わせは『青赤』だと思う。青と赤のカードは単体でも使い道が多彩で、様々な戦略で使える。例えば《熱錬金術師》や《巧妙なスカーブ》はコントロール寄りのデッキでもアグロ寄りのデッキも使えるね。白は十分戦えるまとまったデッキを組みやすいんだけど、全体として力が足りないかな。安定したカード・プールを持っているのに全勝者が少ない理由がわかるよ」

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2016年度の殿堂顕彰者に選出されたオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwald(左)と渡辺 雄也は、その実力を証明した!

 2016年度の殿堂顕彰者に選出されたオーウェン・ターテンワルド(世界ランキング2位)と渡辺 雄也(同12位)は、ドラフト終了後の時点で全勝を果たせるとは思っていなかったそうだ。しかし彼らはそれぞれの卓で対戦相手を粉砕し、その実力を証明したのだった。だがいつも謙虚な渡辺は、恥ずかしそうに「珍しいミスをしてしまった」と言う。

最初の『異界月』からこの2枚が出てきたら、君ならどっちを取る?

「初手でフォイルの《実地研究者、タミヨウ》と《縫い師の移植》のどちらを取ればいいか悩みました。プレインズウォーカーを取れば多色デッキに行くことになりますが、装備品を取れば色を開けておくことができます。しかしほとんどのプレインズウォーカーと同じく、リミテッドでの《実地研究者、タミヨウ》は本当に、本当に強いです」

 結果的に、渡辺は輝く《実地研究者、タミヨウ》の魅力に抗えず、3色のカードをピックすることにした。だが彼はすぐにその選択を後悔することになる。その後のドラフトは赤に寄っていき、最終的に《実地研究者、タミヨウ》はサイドボードへ置かれることになり、《縫い師の移植》の方が欲しいデッキに仕上がったのだ。だが問題はない。渡辺は《気紛れな霊》と《熱錬金術師》を中心にしたイゼットの教科書のようなデッキを組み上げ、勝利をものにしたのだった。

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今大会初日ドラフト・ラウンドを全勝で飾り、「リミテッド・マスター」レースで先頭に立ったマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalho。

 マルシオ・カルヴァリョが初日ドラフト・ラウンドで全勝したことで、いち早く更新されたものがある。この輝かしい成績によって、彼が「リミテッド・マスター」をめぐるポイント・レースの先頭に立ったのだ。現在クリスティアン・カルカノ/Christian Calcanoが3点差で後を追い、ジョン・フィンケル/Jon Finkelと八十岡 翔太が4点差で続いている。

 他にもブラッド・ネルソン/Brad Nelson、オリヴィエ・ルーエル/Olivier Ruel、アントニオ・デル・モラル・レオン/Antonio Del Moral Leon、スティーヴ・ルービン/Steve Rubin、サム・パーディ/Sam Pardee、齋藤 友晴、マット・スパーリング/Matt Sperling、アンドリュー・クネオ/Andrew Cuneo、リード・デューク/Reid Duke、ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas、覚前 輝也と、よく名の知られたプレイヤーたちが今大会で最高のスタートを切っている。彼らはこれから、40枚のデッキを60枚のデッキに持ち替え、構築ラウンドに挑む。

 さあ、これでリミテッド環境がどうなったのか理解できたね。今度はマルク・カルデラーロ/Marc Calderaroの「スタンダード・アーキタイプ分析」を読みにいこう!

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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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