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EVENT COVERAGE
プロツアー『タルキール龍紀伝』
決勝:Martin Dang(デンマーク) vs. 八十岡翔太(日本)
By Masami Kaneko
2015年4月12日
プロツアーの決勝戦。全マジックプレイヤーにとっての憧れの舞台。その舞台に、今、2人のプレイヤーがたどり着いた。
1人は、日本の八十岡翔太。広く名前の知られたプロプレイヤーであり、デッキビルダーでもある。今回もオリジナルの「青黒ドラゴンコントロール」を使用し、準々決勝で「緑赤ドラゴン」を、準決勝で「緑赤信心」を打ち倒し、この席についた。
プロツアー・チャールストン2006で鍛冶友浩・斎藤友晴らとチームを組んでプロツアーを優勝し、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーおよびMagic Onlineプレイヤー・オブ・ザ・イヤーを獲得。個人タイトルもグランプリ・神戸2011で手にし、2012年のプレイヤー選手権では準優勝という輝かしい成績を残した。八十岡翔太の実績は疑いようのないものであり、毎年「マジック・プロツアー殿堂」の候補にノミネートされている。
その八十岡には、実際に殿堂に入るためにはどうしても足りていない、と言われる戦績があった。それが、「個人戦でのプロツアートップ8」だ。
そして今、八十岡翔太が座っているのは、プロツアーの決勝戦だ。
もう1人は、チーム「Thommo Thommo Thommo」に所属しているというデンマークのプレイヤー、マーティン・ダン/Martin Dangだ。友人のイマニュエル・ゲルシェンソン/Immanuel Gerschenson作成の「赤単タッチ《アタルカの命令》」を手に、このプロツアーの決勝戦という場に上り詰めた。
なんとここでダン、衝撃の告白。「今日の帰りの飛行機、19時なんだよね。」
このプロツアーの決勝を戦っている現在の時間は15時。......ダンのデッキ選択は、スケジュール的な意味でも正しかったのかもしれない。
もちろん、今この場で決勝戦を戦っていること。それが一番の正しさの証明だ。
名誉。賞金。プラチナレベル。世界選手権への出場権。
様々な想いを胸に、2人はこのプロツアー『タルキール龍紀伝』最後のマッチを開始した。
ゲーム1
事前に「1ゲーム目はほぼ勝てない。相手先手だし。」と話していた八十岡。なんとここでトリプルマリガン。
ゲームこそ始まってみるものの、土地も手札も不十分。
そのうえ、相手のダンは《僧院の速槍》から、《鐘突きのズルゴ》、《僧院の速槍》2体目という怒涛の展開。
なんとか《胆汁病》で《僧院の速槍》を2体排除してみるものの、《稲妻の狂戦士》が「疾駆」され、4点のダメージを受ける。そしてその状況に対処するカードを引くことのできなかった八十岡。最後は《乱撃斬》でとどめを刺された。
ダン 1-0 八十岡
トップ8が決まったあと、八十岡翔太が、友人たちに祝福され、それにいつもの「ヤソカッコイイ」飄々とした返答をしている中、たった一言、誰に対してでもなく漏らした言葉があった。
「......長かった。」
八十岡翔太という男は面白い男だ。練習量を訊けば、「いや、全然?」と解答し、初日を7-0-1で終えた翌日に今日の目標を尋ねれば「まあ普通に5-3」と解答する。デッキについてインタビューしてみれば、「前日の夜に組んだんですけど」から始まる答えが帰ってくる。
しかし現実はどうだ。「自分のデッキを回す」という練習はしていないかもしれないが、ずっと環境に存在する様々なデッキを練習していた。「普通に5-3」がまさにトップ8に入賞するラインであり、目標を達成した。準々決勝の対戦を待つ間には、ひたすらデッキレシピを読み込む姿もあった。
そして今、八十岡翔太はこの場に、プロツアーの決勝という舞台に立っている。
切望した、最大級の個人タイトル。その「長かった」待機時間を思い返しながら、八十岡翔太はゲーム2の準備を開始した。
ゲーム2
《忌呪の発動》からスタートという重めの手札をキープした八十岡。とはいえ、《氷瀑の執政》《ジェイスの創意》《龍王シルムガル》が控えており、今後の展望は十分だ。先手ならば《忌呪の発動》でライフが回復できる点も含めて大丈夫だと判断したのだろう。
そして、土地が1枚で止まって《鐘突きのズルゴ》といったクリーチャーを展開するダンに対して、八十岡のドローは100点満点の《悲哀まみれ》!
まだ土地が引けないダンに対して、《忌呪の発動》から《氷瀑の執政》を普通に展開し、攻撃しきって勝つモードに。
ダンも《ドラゴンの餌》などを唱えるも、八十岡が落ち着いて《龍王シルムガル》を追加し、ビートダウンしきった。
ダン 1-1 八十岡
あまりの対戦時間の短さに、サイドボードがスタッフのチェックから戻ってきていない。笑いながらサイドボードを請求する八十岡。一緒に笑うダン。同じゲームが好きな、真剣勝負をしている仲間。しかし今、この瞬間は最大のライバルでもある。次のゲームでのお互いの健闘を祈り、第3ゲームに進んだ。
ゲーム3
後手で始まる八十岡、後手にしては除去が3マナ域からという不安な手札だったが、最初のドローが値千金の《悲哀まみれ》! 3ターン目にこれを炸裂させ、《僧院の速槍》2体をなぎ払う。
が、この返しにダンが展開したのは《ゴブリンの熟練扇動者》。手札の除去が《忌呪の発動》しかない八十岡にとっては、悪夢のようなクリーチャーだ。《ゴブリンの熟練扇動者》に触れず仕方なくターンを返した八十岡に足しいて、追い打ちの《鐘突きのズルゴ》が「疾駆」で走ってくる。この攻撃により八十岡のライフはわずか6。
《氷瀑の執政》で盤面に対処しようとするも、《鐘突きのズルゴ》《僧院の速槍》と走ってきたため、八十岡のライフはわずか3。風前の灯だ。結局、《氷瀑の執政》だけでは場を抑えきれず、八十岡のライフは尽きてしまった。
ダン 2-1 八十岡
2ゲーム目はあっという間に落としたダンだったが、3ゲーム目を奪い取り、その目には闘志が宿っている。
ダンもまた、「長かった」男だ。
2002年のプロツアー・ニースでプロデビューし、10回のプロツアーや世界選手権出場の経験があり、しかし残念ながらこれまで大きなタイトルには恵まれなかった。
そのダンが13年の時を経て、グランプリ・リバプール2015で優勝を飾り、そして、このプロツアー『タルキール龍紀伝』決勝戦の席に座っているのだ。
ゲーム4
《悲哀まみれ》はある。《シルムガルの嘲笑》2枚がある。《龍王シルムガル》がある。《時を越えた探索》がある。何が無いのか? そう、土地が、《島》2枚しか無いのだ。
これがゲーム4の八十岡のオープニングハンドだった。
熟考した八十岡が選択したのは、「マリガン」。呪文を唱えられないのでは、マジックは勝てない。それがストイックな八十岡の選択。
マリガン後は、土地が5枚と《究極の価格》という満足ではない手札。しかし始めるしかない八十岡。まずはこの《究極の価格》が、ダンの《大歓楽の幻霊》に対処する。そしてこれで、八十岡の手札の呪文は尽きてしまった。
《軍族童の突発》でゴブリントークンを3体追加したダンに対して《悪性の疫病》を引くという噛み合いこそ見せるも、その後のダンの展開に対処しきることができない。追加の《大歓楽の幻霊》はなんとか《英雄の破滅》するが、《僧院の速槍》が止まっていない。手札が土地だけとなってしまった八十岡、トークンの出ない《ゴブリンの熟練扇動者》でさえも脅威だ。
《層雲の踊り手》を「変異」で出すものの、攻勢を止めているわけではない八十岡。これが《ゴブリンの熟練扇動者》と相打ちをするが、ダンの赤い軍勢はさらに追加されていく。
そして、ダンの赤い軍勢の前に、対処手段を引けなかった八十岡は、プロツアー『タルキール龍紀伝』チャンピオンを称えるために、右手を差し出した。
ダン 3-1 八十岡
プロツアーにはドラマがある。人には物語がある。今、この場で、このプロツアーというストーリーの最後の結果を刻んだ2人。
そして彼らのマジックプレイヤーとしての、人としての物語は、まだこれからも刻まれていく。
しかし今この瞬間は、物語を語るのではなく、祝福を語る瞬間だ。
おめでとうマーティン・ダン、プロツアー『タルキール龍紀伝』チャンピオン!
10 《山》 1 《森》 4 《樹木茂る山麓》 1 《奔放の神殿》 4 《マナの合流点》 -土地(20)- 4 《鋳造所通りの住人》 4 《僧院の速槍》 3 《鐘突きのズルゴ》 1 《激情のゴブリン》 1 《稲妻の狂戦士》 2 《ゴブリンの熟練扇動者》 -クリーチャー(15)- |
4 《乱撃斬》 4 《アタルカの命令》 4 《ドラゴンの餌》 4 《稲妻の一撃》 4 《軍族童の突発》 4 《かき立てる炎》 1 《強大化》 -呪文(25)- |
4 《大歓楽の幻霊》 2 《ゴブリンの熟練扇動者》 1 《ゴブリンの踵裂き》 4 《焙り焼き》 1 《破壊的な享楽》 1 《洗い流す砂》 2 《凱旋の間》 -サイドボード(15)- |
6 《島》 3 《沼》 4 《汚染された三角州》 4 《陰鬱な僻地》 4 《欺瞞の神殿》 2 《華やかな宮殿》 2 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 1 《精霊龍の安息地》 -土地(26)- 3 《氷瀑の執政》 2 《龍王シルムガル》 1 《漂う死、シルムガル》 -クリーチャー(6)- |
2 《思考囲い》 4 《シルムガルの嘲笑》 2 《胆汁病》 2 《究極の価格》 3 《英雄の破滅》 2 《解消》 2 《忌呪の発動》 3 《命運の核心》 3 《ジェイスの創意》 1 《残忍な切断》 3 《時を越えた探索》 1 《精霊龍、ウギン》 -呪文(28)- |
2 《層雲の踊り手》 3 《強迫》 2 《軽蔑的な一撃》 1 《胆汁病》 1 《否認》 1 《究極の価格》 3 《悲哀まみれ》 1 《悪性の疫病》 1 《龍王の大権》 -サイドボード(15)- |
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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