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プロツアー『戦乱のゼンディカー』
『戦乱のゼンディカー』ドラフトへの招待
Jacob Van Lunen / Tr. Tetsuya Yabuki
2015年10月16日
『戦乱のゼンディカー』は、近年で最も複雑で面白いドラフト環境を私たちにもたらしてくれた。この環境では、ある色の最強カードよりもシナジーの柱となるカードをピックできたプレイヤーこそ成功を収めることができる。独特な「アーキタイプ」が数多くあるこの環境においては、プレイヤーたちは空いたところを見つけてそのアーキタイプで最高のデッキを組み上げることになるのだ。
まずは、ドラフトにおいて挑戦すべき各アーキタイプをしっかりと理解する必要があるだろう。
『戦乱のゼンディカー』リミテッドのアーキタイプ
「白赤同盟者」は、この環境最速/最高効率のアーキタイプだ。このアーキタイプは軽量クリーチャーと強化呪文に優れており、大きなシナジーを組み上げようとする対戦相手を圧倒する。このアーキタイプが理想通りに動けたとき、《毅然たる刃の達人》がさらに力を高め、ゲームを瞬く間に終わらせることだろう。
「白黒ライフゲイン」は、ライフ回復をおまけに持ったカードを駆使してアドバンテージを積み重ねていく、アグレッシブなアーキタイプだ。このアーキタイプの攻撃力はライフ回復による誘発型能力によって向上し、対戦相手は勝てる望みの薄いライフ・レースへ挑むことになるだろう。
「白青飛行」は、高いタフネスで地上を止めてから、『戦乱のゼンディカー』リミテッドでは回答が限られる飛行クリーチャーで、空から攻勢を仕掛けていくアーキタイプだ。
「赤緑『上陸』」は、コストの軽い「上陸」持ちのクリーチャーからゲームを終わらせる《領地のベイロス》まで、序盤も終盤も強烈なプレッシャーをかけていくアーキタイプだ。このアーキタイプは、『戦乱のゼンディカー』に隠されたシナジーの恩恵をたっぷりと受けることができる。《荒廃した森林》や《進化する未開地》といったマナを安定させるものが、痛烈なダメージ源に変わるのだ。
「赤緑『欠色』」は、緑の優秀な無色呪文とそれを活かす赤のカードの組み合わせであるアーキタイプだ。『戦乱のゼンディカー』リミテッドにおけるベスト・アンコモンのひとつである《不快な集合体》が特にこのアーキタイプでは強く、大量のエルドラージ・末裔トークンを生み出せる緑の力を借りて瞬く間にパワーを伸ばすことができるだろう。そしてエルドラージ・末裔もまたこの戦略の立役者であり、大型のエルドラージに満ちた強烈なマナ域を扱えるようにしてくれる。
「黒赤『欠色』」は、赤の無色シナジーを除去でバックアップした、アグレッシブなアーキタイプだ。カード・パワーの点では最も強力な戦略のひとつだが、しかしその力を引き出すのは難しい。多くのプレイヤーがこのアーキタイプを狙うため、必須となるカードをドラフトできるチャンスが極めて少ないのだ。
「青黒『嚥下』」は、「嚥下」を持つ優れたクリーチャーの枠を費やしながらも「昇華者」を採用し、対コスト効果の高い「昇華者」の能力を「嚥下」で機能させて戦うアーキタイプだ。このアーキタイプはまた、青黒の道が断たれても青赤や黒赤の「嚥下」デッキに収めることができる、という強みも持つ。
「青緑ランプ・テンポ」は、エルドラージ・末裔を広く展開して地上を止め、その上から飛行クリーチャーや大型のクリーチャーで攻撃し、また《逆境》のようなカードで膠着状態を突破するアーキタイプだ。しっかり組めれば極めて強力なアーキタイプだが、理想的なカードを集めるのは難しいだろう。
「青赤『欠色』」は、赤の無色シナジーと《空中生成エルドラージ》のような強力な青のカードを組み合わせたアーキタイプだ。明確に強力なカードが満載のこのアーキタイプは、ドラフト・テーブルで最も狙いたいものになるだろう。
「白緑『展開』」は、他のアーキタイプと比べてシナジーに欠けるところがあるものの、アグレッシブなクリーチャーと強化呪文、そして《タジュールの戦呼び》のような切り札も持つこの戦略は、対戦相手が盤面を膠着させるより先にゲームを終わらせることができるだろう。
「黒緑『生け贄』」は、《吸血の儀式》のような黒の生け贄に捧げる能力と緑のカードが生み出す大量のエルドラージ・末裔でアドバンテージを得ていくアーキタイプだ。地上はチャンプ・ブロックで延々と止め、回避能力を持つクリーチャーには除去を差し向けるこの戦略は、この環境で人気のアーキタイプの数々を長期的なゲーム・プランで圧倒できるだろう。
「多色『収斂』」は、ある程度シナジーよりもカード・パワーに頼った形のアーキタイプだ。《空乗りのエルフ》のような強力な「収斂」カードは序盤のピックに影響を与え、マナを安定させるカードの優先度が上がることだろう。
こうして、『戦乱のゼンディカー』におけるドラフト・アーキタイプは理解できた。だがこの環境を攻略するのはまだ難しいだろう。そこで幸運にも、世界最高のプレイヤーたちに、誰もが聞きたかった質問に答えてもらうことができた。
『戦乱のゼンディカー』ドラフトにおける、2マナ域のクリーチャーの重要性は?
殿堂顕彰者にして「リミテッドの達人」として知られる、現在世界ランキング23位のベン・スターク/Ben Starkは、『戦乱のゼンディカー』ドラフトにおけるほとんどのアーキタイプにおいて2マナ域が重要だとは感じていないようだ。彼いわく、「普段だったら、相手が2マナ域を繰り出してきてこっちにいなかったら超怖いんだけど、今回の環境なら手札1枚分優位に立てて嬉しいくらいだね」とのことだ。
世界ランキング8位のブラッド・ネルソン/Brad Nelsonと同14位のアリ・ラックス/Ari Laxもまた、2マナ域のクリーチャーは使用に耐えるものではあるものの、その重要性は低くなっていると見ている。その理由は、『戦乱のゼンディカー』リミテッドにおいて設定されたカードの強さの基準だ。3マナ域のクリーチャーのほとんどが、2マナ域のクリーチャーを圧倒し、4マナ域のクリーチャーが3マナ域のクリーチャーを圧倒し、というようにできているのだ。ネルソンは、恐らくまだ解明されていない「特定のアーキタイプでうまく機能する特定の2マナ・クリーチャー」を見つけ出すことが重要だと感じている。例えば、《オラン=リーフの発動者》はその起動型能力を活かせるほどゲームを長引かせることができ、盤面も複雑になる「黒緑『生け贄』」戦略で使うのが最も有効なのだ。
特定のドラフト戦略においてなら、2マナ域のクリーチャーが極めて重要だと考えるプレイヤーは他にもいる。つい最近ワールド・マジック・カップ予選で優勝しリミテッドの見識も深いニール・オリヴァー/Neal Oliverは、デッキのアグレッシブさによって2マナ域のクリーチャーの重要性は様々だと感じている。例えば、「白赤同盟者」や「赤緑『上陸』」では、それらの戦略を成立させるために、コストの軽いクリーチャーで序盤からプレッシャーをかけるのが必須となるだろう。
この環境では「空いているところ」を見つけて特定のアーキタイプにまとめたいところだが、そのアーキタイプはいつ、どうやって決める?
2度の世界王座獲得を果たし、現在世界ランキング15位のシャハール・シェンハー/Shahar Shenharは、基本的には4手目に特定のアーキタイプで強いアンコモンを見たときに「空いている」アーキタイプが判断できるという。強力なアンコモンを3人のプレイヤーが流したということは、それを用いるアーキタイプは空いている可能性が高くなるというわけだ。とはいえ、シェンハーもその判断が早計に過ぎる場合もあることは認めた。ときに強力なレアやアンコモンが出てきて、まったく偶然にアーキタイプが空くこともあるのだ。
ニール・オリヴァーは、特定のアーキタイプではなく1手前にピックしたカードに重心を置くドラフトを好んでいる。例えば、1手前に《不快な集合体》をピックしたら、それと噛み合うカードの優先度が上がる、という形だ。全体ではなく各ピックに重きを置いてドラフトを進め、やがて特定のアーキタイプに進めるほどカードが集まれば、そのアーキタイプに使えるカードを集中してピックするのだ。
この環境では大型のクリーチャーを使っていきたいところだが、それと組み合わせたいカードは?
プラチナ・レベル・プロにして現在世界ランキング12位のスティーブ・ルービン/Steve Rubinは、劣勢を巻き返すのに役立つカードが必要だと感じている。ルービンは《エルドラージの壊滅させるもの》のために8マナを目指すよりは、《バーラ・ゲドを滅ぼすもの》や《板金鎧の破壊屋》、《タジュールの獣使い》、《破滅の昇華者》の方を使う考えだ。大型のクリーチャーを用いるデッキで最も大切なカードは、劣勢を巻き返せるものや対戦相手の攻勢を阻むものだという。その観点でとりわけ優れているのは、ライフをもたらし、より大きなクリーチャーを用意するまでブロックに活躍できる《グリフィンの急使》のようなカードだ。基本的に、ルービンは前のターンより状況を悪化させずに済むようなカードを使用したいと考えている。
世界ランキング15位のシャハール・シェンハーが大型のエルドラージを使う場合に求めるのは、《コジレックの媒介者》や《目なしの見張り》、《面晶体の記録庫》といったカードだ。この場合、《末裔の呼び出し》には魅力を感じず、最も重いエルドラージ呪文を唱えるためにより良い選択肢を取るべきだと彼は考えている。
「昇華者」と「嚥下」はどのように評価すべきか? のちに「昇華者」をピックできることに賭けて「嚥下」を持つクリーチャーをピックするべきか?
話を聞いたプロ・プレイヤーのほとんどが、大抵の場合は「昇華者」より「嚥下」を持つクリーチャーを優先すべきだという意見で一致した。対戦相手のカードを追放できない状況での「昇華者」はまったく魅力がないため、まずは「嚥下」を持つクリーチャーを優先したいというのは納得できるだろう。
世界ランキング8位のブラッド・ネルソンは、カード単体で見ても強いものを高く評価するのが大切だと感じている。《霧の侵入者》のような、それ単体では強くないものを序盤にピックするのは避けたい、というのが彼の考えだ。例えば、《ウラモグの失却させるもの》や《水底の潜入者》はコストに対してサイズも悪くなく、単純にピックする価値がある。そのままドラフトが上手くいけば、それらはさらに優れたカードになるだろう。ネルソンは、デッキの各カードが単体でも強力なものであることが望ましい、と考えているのだ。
マナを安定させるカードの重要性は? それらをどれくらい優先すべきか?
世界ランキング23位のベン・スタークは、「収斂」のために特別な努力をしてもその見返りは十分に得られないと考える。それよりも卓内での立ち位置を確定させることが大切で、マナを安定させるカードは中程度の強さ以上には評価できないという。その点はシャハール・シェンハーも同意見だが、《進化する未開地》については「上陸」とのシナジーに注目している。
世界ランキング12位のスティーブ・ルービンは、カード単体で強力なものが集まった場合に限り、マナを安定させるカードも優秀だと感じている。特に《巡礼者の目》は生み出せるマナを安定させるだけでなく、カード・アドバンテージやクロックにも繋がり、さらに無色シナジーももたらしてくれる1枚だ。
今こそ戦乱のとき!
進むべき道を決め、デッキビルダーの心構えを持とう。今こそ『戦乱のゼンディカー』ドラフトに挑むときだ!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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