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プレイヤーズコンベンション横浜2023

観戦記事

決勝:佐藤 レイ(東京) vs. セゴウ ケンジ(愛知) ~すべてのマジック:ザ・ギャザリング~

大久保 寛

 パシフィコ横浜のDホール。プレイヤーズコンベンション横浜2023の会場となったその場所の奥──チャンピオンズカップファイナル サイクル2のフィーチャーマッチ席は、静かな緊張に包まれていた。

 物々しいまでのカメラとスタッフ、ギャラリーに包まれるただ一つのテーブル。194名いた参加者のうちたった2人しかたどり着けない決勝戦の舞台だ。

     


 歴史の積み重ねは物語そのものだ。

 歴史上最初のトレーディングカードゲームとして生まれたマジックは、2023年に30周年を迎えることとなった。

 その長い歴史の中で繰り広げられてきた数多のトーナメントは、たくさんのドラマを生み出して、その歴史を物語へと昇華させてきた。

 もちろんこのチャンピオンズカップファイナル サイクル2も、物語を紡ぎ出す大きな機構の一部である。

 そんな、この日最後の戦いに臨む2人。物語の主人公は、佐藤 レイセゴウ ケンジの2人だ。

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佐藤 レイ

 競技マジックに関心のある人なら、佐藤 レイの名を知らぬ者はいないだろう。元マジック・プロリーグ(MPL)所属プレイヤーであり、マジックのトッププロとして一線を駆け抜けてきた一人だ。MPL制度自体は昨年で終了してしまったが、現在でもプロとして国内のコミュニティである「さとれいサロン」を主催し、メンバーたちと日々腕を磨いている。

 そんな彼のプレイスタイルはひたすらに効率的であることに尽きる。構築にしてもゲームにしてもとにかく勘所を抑えるスピードが尋常ではない。マジック以外にも、麻雀やポーカーといった駆け引き中心のゲームでも高い実力を誇り、まさしくゲーム巧者という言葉の定義にぴたりと当てはまるタイプと言えるだろう。

 使用デッキはセレズニア・ポイズン。環境屈指の攻撃力を持つアグロデッキで、毒性メカニズムを活用する鋭角な戦略は佐藤の持ち味である勝負勘も活きやすいアーキタイプであるように思える。実際に今大会のスイスラウンドでも、9勝1敗2分(ID)という圧倒的な成績で決勝ラウンドへと駒を進めてきた。

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セゴウ ケンジ

 対するセゴウ ケンジは佐藤ほどのネームバリューはないかもしれないが、近年実力を伸ばしているプレイヤーの一人だ。名古屋のコミュニティで腕を磨く彼は、先日開催されたプロツアー・ファイレクシアにも出場。全218名の世界の強豪たちの中で敢闘し、28位に入賞と好成績を残している。

 セゴウの使用デッキはエスパー・レジェンズ。大量の伝説のクリーチャーを採用したアグロデッキで、今大会ではグリクシス・ミッドレンジに次いで人気のあったアーキタイプだ。仲間たちからシェアしてもらったというリストで、彼らの思いを乗せて決勝の舞台に臨む。

 互いに対戦テーブルにつくと、お互いのデッキリストを確認する。佐藤とセゴウはスイスラウンドでも当たっているが、そのときはIDを選択したため、これが初めての対戦となる。佐藤はセゴウのデッキリストのインスタントをメモし、セゴウも佐藤のリストのカードテキストを確認する。決してミスがないように、終始万全、最高のプレイで戦い抜けるように。

 今日のこの大会に参加するまでに積み上げてきた調整や練習の日々。さらに全12回戦のスイスラウンドと、準々決勝と準決勝。もっと言うなら、彼らが初めてマジックのカードを手に取り、そして青春の中に思い出を刻んできた全ての日々。その歴史の全てがこの瞬間に溶け合って、また新たな物語を紡ごうとしていた。

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ゲーム1

 後攻のセゴウはダブルマリガン。開幕から雲行きが怪しい。

 試合前、セゴウは佐藤のデッキとの相性をはっきり「不利」と語っていた。アグロ同士の対決ではあるが、トップスピードは佐藤のセレズニア・ポイズンの方が上。エスパー・レジェンズはセレズニア側のアグロプランに対して干渉する手段も乏しく、《天上都市、大田原》や《皇国の地、永岩城》をうまく使ってダメージレースを入れ違えるしかない。

 つまり、まっすぐ自分のゲームをすればいい佐藤よりも、エスパー・レジェンズ側の方が初手の要請が大きい。いわんや手札事故を起こしている場合でもないため、ダブルマリガンは痛恨ではあるが、妥協も許されないのだ。セゴウは熟考しながら5枚になった手札をキープし、第1ゲームの火蓋が切って落とされる。

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 先攻の佐藤は《離反ダニ、スクレルヴ》、《スクレルヴの巣》、《ふくれた汚染者》と3ターン続けて強烈な連打。絶好の滑り出しで、まずはセゴウに毒カウンターを一つ与える。

 だが、セゴウも2ターン目に《敬虔な新米、デニック》、3ターン目に《離反ダニ、スクレルヴ》とブロッカーを展開して佐藤の展開の速さに対応していく。

 ならばと佐藤は自身のダニトークンを対象に《離反ダニ、スクレルヴ》の能力を起動。《ふくれた汚染者》とともにレッドゾーンに送り込む。セゴウは《皇国の地、永岩城》の起動型能力で《ふくれた汚染者》を処理するが、ダニトークンの攻撃は通って累計3つの毒カウンターを得る。

 さらに佐藤は第2メインで《別館の歩哨》をプレイし、セゴウの《離反ダニ、スクレルヴ》を除去し、攻撃の手を緩めない。

 返すセゴウは《輝かしい聖戦士、エーデリン》を召喚。《敬虔な新米、デニック》で攻撃してダメージレースを挑む。毒カウンターの数に余裕があるうちに、佐藤のライフを削り始めることにしたようだ。

 が、佐藤も《ダニの突撃》でセゴウの《輝かしい聖戦士、エーデリン》を除去。さらに《スクレルヴの巣》から出てきたダニトークンたちとともに一斉攻撃を仕掛け、セゴウの毒カウンターは7つに。佐藤は7枚の手札をキープしていることもあるが、その7枚がとにかく強かった。対照的に、5枚の手札でゲームを開始したセゴウはほとんど身動きを取ることができず、《敬虔な新米、デニック》とともに佐藤の攻撃をほんの少しだけ押し留める。

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 ダメ押しに佐藤は《殺戮の歌い手》をプレイ。さらに4体の毒性持ちのクリーチャーを攻撃に向かわせて、セゴウに致死量の毒を浴びせた。

佐藤 1-0 セゴウ

 佐藤がマジックを始めたのは中学生のころだったという。当時カードをスリーブに入れるという発想もなかったという佐藤は、剥き身のカードに輪ゴムをかけてポケットに忍ばせ、こっそりと学校にデッキを持ち込んでクラスメートたちと放課後にマジックに興じていたそうだ。

 やがて徐々にマジックにのめり込んでいき、カードショップへも頻繁に足を運ぶようになっていく。関東のマジックコミュニティに顔を出すようになった佐藤は、やがて世界選手権2011のチャンピオンとなる彌永 淳也や、やがてオンラインにおける最高峰のトーナメントであるMagic Onine Championship Seriesで2度優勝することとなる石村 信太朗らと出会い、競技マジックの世界へ足を踏み入れた。

 青春の日々をマジックで彩ってきた佐藤の歴史、その物語に新たな1ページが加わろうとしている。

ゲーム2

 先攻のセゴウが《鴉の男》と《策謀の予見者、ラフィーン》を続けてプレイ。さらに《鴉の男》で攻撃し、《策謀の予見者、ラフィーン》の謀議を誘発させる。

 第2ターンに《敬慕される腐敗僧》2枚をプレイしていた佐藤は、この《鴉の男》を2枚の《敬慕される腐敗僧》でダブルブロックして戦線を押し留める。《鴉の男》と《策謀の予見者、ラフィーン》が並んだ今、早々にこの《鴉の男》を討ち取っておかないとセゴウの戦場は瞬く間にカラスだらけになってしまう。

 先ほどと打って変わって受けに回らざるを得なくなった佐藤は、《邪悪を打ち砕く》で《策謀の予見者、ラフィーン》を除去して《敬慕される腐敗僧》でようやく1つ目の毒カウンターを与える。しかし、除去にマナを使わせられてしまったこのターンは後続の展開はできなかった。

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 対するセゴウは《切り崩し》で《敬慕される腐敗僧》を除去。ここでさらにクリーチャーを展開できればよかったのだが、セゴウもまた《鴉の男》と《策謀の予見者、ラフィーン》の2枚を除去されてしまって後続を続けることができなかった。

 返す佐藤は3枚目の《敬慕される腐敗僧》と《ふくれた汚染者》をプレイ。反撃の狼煙を上げる。

 しかし、セゴウが5枚目の土地を置くと状況は一変する。全ての土地をタップしてセゴウがプレイしたのは《夜明けの空、猗旺》。超強烈なクリーチャーの登場に佐藤は頭を抱えつつ、しかし《ふくれた汚染者》と《敬慕される腐敗僧》で決死の攻撃を仕掛ける。

 セゴウは《敬慕される腐敗僧》の方をブロック。その指定を聞き届けたところで、佐藤の手札からは2枚目の《邪悪を打ち砕く》。《夜明けの空、猗旺》は除去され、その死亡誘発型能力が解決される。セゴウがデッキから7枚のカードをめくると、そこから飛び出したのは《黙示録、シェオルドレッド》。エスパー・レジェンズのリストの中でも屈指のパワーカードの登場に佐藤は再び頭をもたげることとなった。

 返すセゴウはこの《黙示録、シェオルドレッド》で早速攻撃。がら空きの佐藤に4点のダメージを与え、残りライフは14。まだまだたくさんあるようにも思えるが、《黙示録、シェオルドレッド》のクロックは実質6点。佐藤に残された時間はそれほど長くない。

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 ゆえに佐藤の最善の戦略は、セゴウの《黙示録、シェオルドレッド》と四つに組んでライフレース(厳密にはライフと毒のレース)を挑んでいくことだ。だが、もちろんセゴウもそんなことは織り込み済み。佐藤の攻撃宣言を確認すると、手札から2枚の《皇国の地、永岩城》を捨てて《ふくれた汚染者》と《敬慕される腐敗僧》を除去する。

 《皇国の地、永岩城》による除去は呪文ではなく起動型能力なので、《敬慕される腐敗僧》の能力も誘発しない。これによりセゴウは毒による死亡からは遠のく。

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 こうなってしまうと蝕まれるのは佐藤の方だ。《黙示録、シェオルドレッド》の圧倒的な速度のクロックがどんどん佐藤を追い詰め、そして第2ゲームの引導を渡したのだった。

佐藤 1-1 セゴウ

 セゴウもまた、中学生のころに友人たちとマジックで遊び始めたという。佐藤と異なるのは、中学時代はあくまでもちょっと触った程度で、そこまでのめり込んだというわけでもなかったということ。高校受験を機にマジックから離れ、再びマジックと出会ったのは大学生になってから。それからマジックの魅力に急速に取りつかれ、競技マジックの世界に入り込む。

 やがてプロツアー『イクサラン』で10位に入賞することとなる名古屋の強豪・坪内や、現在トッププロの一員として活躍する原根 健太たちとPPTQなどのイベントで競い合いながら、着実に実力をつけてきた。今では彼自身が東海のマジックコミュニティの第一人者として、多くのプレイヤーたちと親交を深めている。

 マジックによって人との付き合いを広げ、深め、ともに成長してきたセゴウの物語もまた、新たな章に突入しかかっている。

ゲーム3

 先攻の佐藤が手札から軽快にプレイしたのは《敬慕される腐敗僧》と《スクレルヴの巣》の2枚。セレズニア・ポイズンの絶好のスタートダッシュを切る。

 セゴウは1ターン遅れて《スレイベンの守護者、サリア》をプレイ。先攻と後攻が逆であれば《スクレルヴの巣》の着地を遅らせることができたはずだったのだが、なんとも噛み合わない展開となってしまった。

 さらに佐藤は《殺戮の歌い手》。これによって《敬慕される腐敗僧》は2/3となり、《スレイベンの守護者、サリア》のブロックでも止まらないサイズとなる。まずは1つ目の毒がセゴウを侵食する。

 返すセゴウは3枚目の土地を置くことができない。この隙に佐藤は《ランタンのきらめき》で《スレイベンの守護者、サリア》を除去し、《スクレルヴの巣》がもたらしたダニトークンと、《殺戮の歌い手》、そして《敬慕される腐敗僧》で攻撃をしようとする。

 セゴウはかろうじて(《スレイベンの守護者、サリア》が除去されたおかげもあって、だが)《喉首狙い》で《殺戮の歌い手》を除去。毒カウンターは一気に5つとなり、佐藤の盤面は《スクレルヴの巣》によって無限にクリーチャーが増えていく状況。とてもじゃないが、たった2枚の土地しかパーマネントをコントロールしていないセゴウに、この盤面を返すのは難しい。

 それでも。セゴウはドローした土地をプレイし、ブロッカーとして《敬虔な新米、デニック》をプレイ。続く佐藤のターンに2枚目の《敬慕される腐敗僧》が並びそうになれば《切り崩し》を唱え、なんとか佐藤に食らいつこうとする。

 しかし、佐藤はセゴウのさらに上を行っていた。《切り崩し》にスタックで《タイヴァーの抵抗》を唱えて除去を躱すと、《敬慕される腐敗僧》の誘発型能力によってセゴウの毒は7つに。さらに、続く佐藤の攻撃によってさらに2つの毒カウンターが与えられてしまう。

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 もはや誰もが戦いの終わりを予感していた。それはもちろん、セゴウ自身もだ。

 セゴウを蝕む毒は9つ。佐藤の盤面には4体のクリーチャー。セゴウの土地は3枚のみで、ブロッカーはいない。

 この状況を打開できるカードはデッキの中に存在しない。つまり、この時点で戦いの勝者は決しているようなものだった。

 なればこそ、散り際にほんの少しの抵抗を。あくまで戦って散ることを選ぼう。

 しばしの間机に視線を伏し、意を決したように土地をタップする。唱えたのは《敬虔な新米、デニック》と《スレイベンの守護者、サリア》。無論、わずか2体のブロッカーでは、佐藤の攻撃を止めることはできない。

 セゴウの最後の1ターンを見届けた佐藤は、自身の敗北を受け入れたセゴウを前に、ただ無言でクリーチャーたちを縦向きに直し、そしてもう一度横向きに寝かせる。

 わざわざドローを確認したり、改めて打点を数え直したりといった儀式でさえ野暮の極みだ。

 そう言わんばかりに。粛々と、敬意を持って、一閃。

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 佐藤の総攻撃の号令。決勝の戦いに終止符が打たれた瞬間だった。

佐藤 2-1 セゴウ

 戦いが終わり、一つの物語が終幕を迎えた。

 佐藤は軽やかにカードを片付け、もう一人の主人公であったセゴウと軽く感想戦を交わす。セゴウも表情に悔しさを滲ませつつ、しかし勝者である佐藤を称え、感想戦に応じる。

 惜しくも優勝を逃すこととなったセゴウだったが、今回の準優勝により次なる舞台「世界選手権2023」の切符を手にしている。競技マジックの至高とされる大会での佐藤へのリベンジ、そんなストーリーが紡がれることもあるかもしれない。セゴウにとってもまだまだこれから大きな展開が待ち受けているのである。

 そしてまた、佐藤の、放課後に友人たちと遊んだ少年の日々が。競技プレイヤーとして各地で戦果を目指した日々が。そしてプロとして栄冠を掴み、さらなる高みを目指すこの日の夜が。佐藤の歴史の断章の一つひとつが、マジックの歴史の大きな潮流の中に刻み込まれてゆく。

     

 明日、誰かのポケットの中のデッキが、この新たな歴史を継承するかもしれない。30年の歴史のその先へ、物語はこれからも続いてゆく。

 佐藤の物語が。セゴウの物語が。

 マジックに関わる全ての人の物語が。

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 チャンピオンズカップファイナル サイクル2、優勝は佐藤 レイ! おめでとう!!

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