EVENT COVERAGE

プレイヤーズコンベンション静岡2024

観戦記事

決勝:浅野 達郎(千葉) vs. 小笠原 智明(東京) ~忘れ物を取りに来た~

大久保 寛


 2023年6月。千葉で開催されたチャンピオンズカップの決勝戦で、小笠原 智明は韓国のプレイヤーであるアレクサンダー・ヴォン・ステンジにあと一歩のところで敗れた。

 栄光へと王手をかけながらも、それでいて一歩及ばない。その悔しさは想像するに余りあるだろう。小笠原はその雪辱を濯ぐべく挑戦を続けた。

 チャンピオンズカップファイナルは参加権利を獲得するだけでもエリア予選を突破する必要があり、毎回参加するだけでも一苦労だ。しかし、小笠原は昨年の悔しさをバネにこの1年間挑戦を続けてきた。三度の初日落ちを喫しながらも臥薪嘗胆の思いでその腕を磨き、今後こそ優勝の栄冠を目指して。

 

 そうして今、小笠原はチャンピオンズカップファイナル シーズン3 ラウンド1の決勝戦のテーブルへと付いていた。

「忘れ物を取りに来た」

 ふと漏れたその言葉は、小笠原のまっすぐな内心だったに違いない。そしてそんな小笠原のその言葉を聞き届けたのは、小笠原とともに予選を巡っていた友人の一人、浅野 達郎だった。直前の準決勝ではトリプルマリガンを喫しながらも大逆転で勝利を収め、見事ここまで勝ち進んできた。

 浅野と小笠原の2人は、関東の競技プレイヤーとして、日々ともに練習したり調整をしてきた仲間だ。この日2人が使用していたデッキである「黒単デーモン」も、メインデッキに採用されるカードは58枚が共通している。ともにデッキを調整し、プレイを磨き上げてきた2人は、言葉少なに、しかし決して剣呑とした空気とは言えない独特の緊張感の中で、決勝戦を前に向かい合っていた。

 

 「黒単デーモン」。『ダスクモーン:戦慄の館』リリース以降登場した比較的新しいアーキタイプであるこのデッキは、パイオニアで開催された今大会において、まさしく台風の目だった。

 デッキを象徴するパワーカード、《不浄な別室 // 祭儀室》は《変わり谷》とのシナジーによってドローエンジンとして機能しつつ対戦相手のライフを削る飛び道具にもなる。そして環境トップクラスの性能を持つクリーチャーである《止められぬ斬鬼》は、《アクロゾズの放血者》とともに並べば一撃死のコンボも狙える。カードパワー、シナジー、そしてコンボ要素の全てが揃ったこのデッキに、2人は《ドロスの魔神》不採用など独自の調整を加えている。

 迎えた最後の試合。はたして小笠原は昨年の忘れ物をここで取り戻すことができるのか。あるいは浅野が小笠原を阻むのか。竹馬の友とも言える2人による決勝戦は、彼らの友人たちに見守られながら幕を上げた。

浅野 達郎(千葉) vs. 小笠原 智明(東京)

 
ゲーム1

 先攻の浅野が《強迫》をプレイし、1度のマリガンを行った小笠原の《思考囲い》、《アクロゾズの放血者》、そして2枚の《止められぬ斬鬼》というラインナップから《思考囲い》を捨てさせ、続くターンにさらに《思考囲い》。小笠原の手札から1枚の《止められぬ斬鬼》を奪い、手札を攻めていく姿勢を見せる。

浅野 達郎(千葉)

 

 マリガン後の手札破壊連打に小笠原も痺れるかと思われたが、浅野は3枚目の土地を引くことができない。この隙に小笠原は引き込んだ《思考囲い》で浅野の手札の《不浄な別室 // 祭儀室》を捨てさせ、リソースを稼ぐ手段を奪うと《止められぬ斬鬼》をプレイする。

 

 わずか3マナにして、攻撃が通れば10点近くのライフを奪っていく強烈なクリーチャーの登場。この対処を迫られる浅野だが、運良く引いてきた《シェオルドレッドの勅令》で一度はこれを除去する。

 だが、なぜか除去耐性まで持っているというのが《止められぬ斬鬼》というクリーチャーのおそろしいところだ。麻痺カウンターが乗ってはいるものの、稼いだターンでもなお土地を引くことができず、有効なアクションができずにいる浅野の前に再び小笠原の《止められぬ斬鬼》がアクティブになる。

小笠原 智明(東京)

 

 土地事故ももまたマジック。アンタップ・ステップを迎えた小笠原は思わず「来た来た来た……」と漏らし、浅野も苦笑を浮かべながら「最悪だ」と呟く。ラフなやりとりも彼らの仲を表すようだが、盤面の状況はシビアだ。小笠原は待ち切れないとばかりにコンバット宣言を行い、《止められぬ斬鬼》の攻撃が通ると浅野のライフは16点から一気に7点、そして続くターンの攻撃で2まで減ってしまう。

 

 浅野もまた手札に《止められぬ斬鬼》を抱えており、3枚目の土地さえ置くことができればブロッカーを立てることができるのだが、遅れてやってきた3枚目の土地はタップインの《ロークスワイン城》(浅野の土地は《変わり谷》と《見捨てられたぬかるみ、竹沼》)。これには両者とも苦笑いを浮かべ、小笠原は浅野を介錯せんと2枚目の《止められぬ斬鬼》を並べる。

 マリガンした手札を執拗に攻められた小笠原だったが、《止められぬ斬鬼》の強烈なカードパワーで第1ゲームの勝利をもぎ取った。

浅野 0-1 小笠原

ゲーム2

 先行の浅野が土地を置くのみでターンを終えると、後攻の小笠原が《思考囲い》をプレイする滑り出し。今度はしっかりと土地のある手札をキープした浅野だったが、その手札にあった最も軽いアクションである《止められぬ斬鬼》を抜き去られてしまう。

 

 能動的なアクションを取れなくなってしまった浅野だったが、じっくりと土地を並べる小笠原に対して先に《アクロゾズの放血者》から動き出す。これに対し、小笠原は落ち着いて《廃墟の地》を起動。浅野の《変わり谷》を破壊しつつ「紛争」を達成し、《致命的な一押し》で《アクロゾズの放血者》を破壊。隙のない動きで浅野に対応する。

 さらに続くターン、浅野がフルタップしている間に小笠原は《思考囲い》。これが浅野の《絶望招来》を抜き、その手札に残された《シェオルドレッドの勅令》を嘲笑うかのように《止められぬ斬鬼》を叩きつける。

浅野 達郎(千葉)

 

 的確に手札破壊され、《アクロゾズの放血者》も即座に除去されてしまった浅野。完全に行動を封じ込められてしまっているが、それでもめげずに小笠原のアップキープまで待ってから《シェオルドレッドの勅令》で《止められぬ斬鬼》を除去。冷静に、一手一手ゲームの主導権を取り戻しにいく。

 ならばと小笠原は《アクロゾズの放血者》をプレイ。さらに浅野が《不浄な別室》を3マナでプレイすると、返しに《絶望招来》!

 

 小笠原のビッグアクション。浅野の《不浄な別室》を生け贄に捧げさせながら、《アクロゾズの放血者》の攻撃と合わせて一気に12点のライフを奪う。

小笠原 智明(東京)

 

 残るライフは6点となってしまい、もう後がない浅野。小笠原の手札破壊によって反撃の糸口を掴めぬまま、浅野は最後にドローした《強迫》で小笠原の手札を覗く。そこにあった小笠原の2枚目の《絶望招来》は捨てさせるが、《アクロゾズの放血者》に対してはなすすべがない。浅野が小笠原へと右手を差し出した。

浅野 0-2 小笠原

 小笠原の優勝が決まり、彼らの戦いを見届けていたギャラリーから拍手が送られる。フィーチャーマッチテーブルのかぶりつきの席に集まっていたのは、普段小笠原と浅野とともに予選やトーナメントに参加している友人たちだ。やや緊張の面持ちで対戦をしていた小笠原と浅野も思わず表情をゆるめ、互いの健闘を称え合いながらギャラリーへと目線を送った。先程まで優勝の栄冠を前に相対していたライバルも、試合が終われば友だち同士なのだ。

 小笠原は、一年前の悔しさを胸に秘め、栄冠を手にすることで自身の歩みを証明した。浅野もまた、友であり、ライバルでもある相手と真剣勝負を繰り広げ、勝利には届かずとも観客の心にその気概を刻みつけた。浅野と小笠原、どちらが欠けても成り立たなかった決勝の物語は、固く握られた握手という形で幕を閉じる。

 「忘れ物を取りに来た」。小笠原が試合前に放ったその一言は、ただ勝利を求めるだけの言葉ではなかったのかもしれない。友と競い合い、過去の悔しさを乗り越えることこそが、彼にとって本当の「忘れ物」だったのだろう。

 勝利と敗北。それぞれが違う形の忘れ物を持ち帰ったこの日が、二人の競技人生にとってどれだけ大切な意味を持つのか。

 それを知るのは、これから再び彼らが歩む未来の道の先だろう。

 
  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

サイト内検索