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プレイヤーズコンベンション千葉2025

観戦記事

決勝:松本 竜宗(静岡県) vs. 岩渕 大允(三重県) ~王者は1人、勝者は2人~

富澤 洋平(撮影者:堀川 優一)


 日はとうに落ちてあたりの空気が冷え切ったころ、それでもなお熱気に包まれた場所があった。

 総勢477名が参加したジャパンスタンダードカップ:『霊気走破』発売記念スペシャル Supported by 楽天ブックス(以下、ジャパンスタンダードカップ)、その決勝だ。477名いたプレイヤーは8回戦を経て8名に減り、やがて4名に、遂には2名へとなった。

 決勝の舞台へと勝ち進んできた2名のプレイヤーを紹介しよう。

 遥々三重県から遠征してきた岩渕 大允はカードボックス名張店を拠点に、フライデーナイトマジックを楽しんでいる。本命はスタンダード、ではなく統率者戦とのことで好きな伝説のクリーチャーを聞くと《報奨の祝賀者、イモーティ》の名前があがった。

岩渕「卓の空気は悪くなるんですが、好きなんですよね。自分だけ違うゲームができる感があって」

 この独特なゲーム感覚はジャパンスタンダードカップへ持ち込まれたデッキへも反映されている。

 岩渕が持ち込んだのはグルール昂揚。しかし、既存の昂揚要素に加えて、アフターバーナーの専門家》と消尽によるリソースエンジンを搭載している。この緑の新戦力は岩渕本人をして「スタンダード版《弧光のフェニックス》」とのこと。

 環境最初期にもかかわらず『霊気走破』のメカニズムを活かし、既存の戦略とのハイブリッドに成功したのだ。グルール昂揚は新たな攻め手を得て、格段にアップデートされた。

 対するは松本 竜宗静岡のピノキオでフライデーナイトマジックへ参加している。昔からスタンダードはプレイしており、ここ最近本格復帰したとのことだが、決勝へ進んだ結果からも地力の高さが伺える。

 モダンではエスパー眼魔を使用しているとのことで、戦略の共通する部分があるアゾリウス眼魔を相棒に選択した。軽量ドローや切削カード、1マナのリアニメイト呪文、低マナ域のハードパンチャーとプレイの指針はブレない。

 今大会はグルールアグロを筆頭とした軽量アグロ寄りのメタゲームを的確に見抜いており、メインボードに採用した《一時的封鎖》は大成功だったと教えてくれた。予選ラウンドではグルールアグロと3回、ジェスカイ召集と1回対戦しており、この事実からも《一時的封鎖》がどれほど活躍したかは想像に難くない。

 また、「今日はドローがノっていた」と語り、1ターン目にセットランドした《行き届いた書庫》で《忌まわしき眼魔》が落ちる最速リアニメイトパターンもあったとのこと。

 慣れた戦略を選択し、的確にメタゲームを読み解き、ドローもついてきている。まさに”今日の人”としか言いようがない。

 これより行われる決勝、勝利するのは果たしてどちらのプレイヤーだろうか。

 ここはジャパンスタンダードカップ、競技マジックの原点にして新たなタイトルとなるべき場所である。

 さぁ、勝者を決める時間だ。

ゲーム1

 

 後手岩渕は《継ぎ接ぎのけだもの》を2連打、松本は《行き届いた書庫》から続くターンに《第三の道の創設》、I章で《フェイの解放》をプレイし《救いの手》と、両者ともに好発進。

 ターンは松本へ返り《第三の道の創設》をII章へ進め切削するも、肝心要のクリーチャーが落ちず。

 対して岩渕の《浚渫機の洞察》、《商業地区》と連続してプレイし、結果3ターン目にして昂揚を達成し6点クロック

 そのエンドに《決定的瞬間》を経由してもクリーチャーの落ちない松本は、III章から《決定的瞬間》を再キャスト。やっとのことで《忌まわしき眼魔》を墓地へ落とすことに成功する。

 

 残る2マナから《再稼働》で《忌まわしき眼魔》をリアニメイトし、岩渕のアップキープに戦慄予示で戦線を横に広げる。

 岩渕は構わず2体でアタックし、松本はブロックせずスルーし、残ライフは8まで落ち込む。

 第2メインに《浚渫機の洞察》を2連続でプレイし、土地と《探索するドルイド》を手札へと加えながら3点ゲインしてライフは23。この分ならダメージレースは一方的なものとなりそうだ。

 

 しかし、ターンが返ると強烈な一撃が岩渕を見舞った。先程の戦慄予示の正体が2枚目の《忌まわしき眼魔》だったのだ!一挙11点が入る。

 《傲慢なジン》が《救いの手》され、さらに戦慄予示によるブロッカーも予告されている。

 

 岩渕は《太陽の執事長、インティ》をプレイすると、片方の《継ぎ接ぎのけだもの》へと+1/+1カウンターを置く。2体ともブロックされトランプルにより2点抜けて松本のライフは残6へ。第二メインフェイズに《抹消する稲妻》で《傲慢なジン》を対処し延命を図る。

 松本のクロックは11、岩渕のライフは《希望の種子》を挟んで14とギリギリのところで踏みとどまる。

 松本は《航路の作成》から《傲慢なジン》を《再稼働》し、《忌まわしき眼魔》2体でアタックする。

 岩渕は祈るようにドローする。待っているのはたった1枚のクリーチャー、《竜航技師》だ。竜航技師》さえトップデッキできればその消尽により、墓地から2体の《アフターバーナーの専門家》が舞い戻り、ビートダウン完遂となる

 しかし、ドローしたのは《逸失への恐怖》。いちるいの望みを託しプレイ、ルーティングしつつ《太陽の執事長、インティ》の誘発型能力により、土地が追放される。

 セットランドすると、《継ぎ接ぎのけだもの》2体と《太陽の執事長、インティ》をアタックへと送り出す。そして《太陽の執事長、インティ》の誘発型能力でカードが追放される。

 

 ここで追放されたのは《竜航技師》。わずかに1枚届かなかったのである

 第二メインフェイズで《竜航技師》をプレイし、消尽を即起動。墓地から《アフターバーナーの専門家》を戻しつつ、3枚の《浚渫機の洞察》の常在型能力によるライフゲインするも──生き延びることは叶わなかった。

岩渕「《竜航技師》がもっと早ければ勝てたのに……」

松本 1-0 岩渕

 時刻は午後8時半。2人の小気味よいシャッフル音が響く。

 彼らはこの空間でマジックをプレイすることを許された、たった2名のプレイヤーなのだ。

ゲーム2

 岩渕はタップインから《希望の種子》で土地を回収しつつ、《継ぎ接ぎのけだもの》をプレイ。

 

 松本もエンジン全開で《第三の道の創設》から《決定的瞬間》をプレイし、早くも《傲慢なジン》を墓地へと送り込む。

 ここで岩渕は《浚渫機の洞察》で昂揚を達成し3点を刻み、《継ぎ接ぎのけだもの》2枚目を続ける。

 

 ターンが返ると松本はII章の切削で《忌まわしき眼魔》まで手に入れる。《第三の道の創設》2枚目から《再稼働》をプレイし、《忌まわしき眼魔》が戦場へと舞い戻る。

 岩渕の《継ぎ接ぎのけだもの》が切削した中には《アガサの魂の大釜》の姿が。また1ターン遅いよ、と岩渕の心の声が聞こえるようなタイミングである。

 立ち止まることは許されない。岩渕は2体でアタックへと向かい、ブロックにより《継ぎ接ぎのけだもの》1体を失いつつも、ダメージの入った《忌まわしき眼魔》を《焦熱の射撃》で何とか処理する。

 しかしながら、第三の道の創設》は2枚とも章を進め、III章で《救いの手》をプレイされ、除去したばかりの《忌まわしき眼魔》が再び舞い戻る

 松本は戦慄予示でアタックし、岩渕の残ライフは20へ。《第三の道の創設》3枚目(!)をプレイし《決定的瞬間》で、手札と墓地の質を高めていく。これには岩渕も苦笑せざるを得ない。

 

 岩渕は《竜航技師》をプレイし、即消尽起動から《アフターバーナーの専門家》を戻し、攻撃へ向かう。戦慄予示と《アフターバーナーの専門家》は相打ち、3点が抜けて松本11―21岩渕。

 一見すると、地対空のほどよいダメージレースのように見える。しかし、それも第三の道の創設》が《救いの手》で《傲慢なジン》をリアニメイトするまでのことだった

 《忌まわしき眼魔》がアタックし、岩渕のライフは16に。さらに《フェイの解放》で墓地を肥やし《悪魔祓い》で《継ぎ接ぎのけだもの》を対処。

 岩渕に打開策は残されているのだろうか。

 《逸失への恐怖》を1枚、さらに1枚プレイするも解決策を届けてはくれない。

 

 《傲慢なジン》はその名の通り、一撃の下に岩渕のライフを削りきった。

松本 2-0 岩渕

 対戦が終わった直後、岩渕は松本へ声をかける。

岩渕「今日どんなデッキと対戦しました?」

松本「上位にいったらグルールとディミーアばかりでしたね」

 対戦を終え、勝敗が決まった直後にもかかわらず、まるでスイスラウンドかのように和やかに今日1日を振り返る。

 それは予選ラウンドから数えて全11回戦を戦い抜いた戦友同士、お互いの健闘を称えあう瞬間だった

 目的地をどこに定めるかでゴールは変わるが、勝利という意味ではどの大会であっても1名しか辿り着くことはできない。岩渕は寸でのところでそのゴールを逃してしまった。

 「互いに墓地を活用した戦略ながら軍配はアゾリウス眼魔の松本へ上がった。ドローがノっているとの言葉通り、見事にダメージレースを制してみせた」などと、この対戦を締めくくることは容易だ。

 だが、岩渕の発した言葉は、単なる勝ち負けの垣根を越え、対戦を、大会自体を、マジックを楽しむ姿勢が垣間見えた。マジックは1人ではできない。対戦相手がいて、初めて成り立つ。その意味で、岩渕も勝者であった。

 彼が持ち込んだグルール昂揚消尽パッケージを組み込んだグルール昂揚は愛用の《報奨の祝賀者、イモーティ》と同じく、自分だけ違うゲームができる感があるものだ。始まりは面白さや目新しさだったかもしれないが、『霊気走破』リリース直後に持ち込んだこのデッキは、岩渕の名とともにスタンダードシーンへと刻まれることだろう。

 

 そして松本はジャパンスタンダードカップというタイトルを手にした。寡黙だった松本からホッとしたような表情が見え、同時に優勝の二文字を噛みしめているようだった。

 先ほど述べた通り、勝利という意味ではどの大会であっても1名しか辿り着くことはできない。それにはわずかなミスも許されず、対戦相手はもとより、プレッシャー、運、何よりも自分との戦いに勝つ必要がある。実際、決勝ではダメージレースで後れを取りながら、見事にまくり制しての勝利だった。

 手にしたトロフィーは優勝の重みであると同時に、松本のこれまでの研鑚の証でもある。マジックは手放しに運だけでは勝てない。練習し、敗北と学びを積み重ねて、やっとスタートラインへ立てる。容易なことではない。だからこそ、松本の勝利は美しく価値がある。

 ジャパンスタンダードカップの王者として、松本の名は刻まれる

 ジャパンスタンダードカップはタイトルのひとつではあり、王者は1人である。

 しかし、勝者は決して1人ではない。本日また1人の王者が生まれ、2名の勝者が誕生した。

 ジャパンスタンダードカップは新たな価値と歴史と、何よりもマジックの素晴らしさを教えてくれる。なぜなら。

 ここはジャパンスタンダードカップ、競技マジックの原点にして新たなタイトルとなるべき場所なのだから。

 新たな王者の誕生を祝福しようではないか。

 「ジャパンスタンダードカップ:『霊気走破』発売記念スペシャル Supported by 楽天ブックス」、優勝は松本 竜宗!!

 おめでとう!!

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