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プレイヤーズコンベンション千葉2025

原根 健太インタビュー:共有することが成長につながる
「アウトプットの質が自分を成長させる」。ビジネスや学習の分野で広く知られているこの考え方だが、カードゲームの世界でも同じことが言えるのだろうか? 競技シーンでは、緻密な戦略や経験が勝敗を分ける。そうした知見を言語化して他者と共有することには、どんな意味があるのか。
東京を拠点に活躍するマジックプレイヤー、原根健太。「j-speed」のハンドルネームでも知られ、プレイヤーズツアー名古屋20での優勝やワールド・マジック・カップでの日本代表チームとしての優勝など数々のタイトルを獲得してきた彼は、競技活動と並行して情報発信者としても耳目を集める存在だ。
その発信スタイルは、単なる戦術やプレイ内容の共有にとどまらず、多くのプレイヤーにインスピレーション──言い換えるならば"ワクワク感"を与えてくれる。そうした活動の原点には、かつて名もなきプレイヤーの一人だったころに感じていた「情報格差」に対するフラストレーションがあるという。
今回のインタビューでは、原根が考える情報発信の意義やその影響、そして競技シーンを支える活動に対する想いを語ってもらった。

原根 健太
――原根さんは長年、競技プレイヤーとしてプレイされながら記事や配信などを通じて情報発信を続けてこられています。こうした活動をするようになったきっかけについてお伺いしたいです。
原根「僕は昔からカードゲームをプレイしていたのですが、当時はコンテンツが不足していると感じていました。ネットで調べても情報があまりなかったんですね。当時、一部のプレイヤーが調整や練習で得た情報を独占していて、情報を持つか持たないかで結果に差がついていたんです。もちろん、プレイヤーが自ら手に入れた情報は本人たちの財産なので、それは決して悪いことではありません。ただ、いつか僕自身が勝てるようになったときにはみんなと情報を分かち合いたいと思っていたんです」
――情報格差をなくしたいという思いがあったということですか?
原根「うーん、そうとも言えますが実際にはもっとシンプルな話で、単純に僕自身がみんなで調整したり情報共有したりするのが好きなんです。それはチームでの調整という意味もありますが、読者や配信の視聴者の方も含む、広い意味での『みんな』です。一人で黙々やって結果を残す奴が一番強いのかもしれませんが、僕はそういうタイプではないですね。一人でやるとつまらないし、たぶん続かないと思います。読者や視聴者の方を含めみんなで遊んでいる感じです」

──そうした情報発信が原根さん自身の成績などに与える影響もありますか?
原根「ええ。自分の考えを世に出すと、何かしらのフィードバックがあります。それは必ずしも賛成意見ばかりでなく、疑問を持たれたり時には反対意見をもらったりすることもあります。そうした意見をもらうことで、改めて自分の思考を整理できたりして、それが結果としてプレイの精度を上げてくれることも少なくありません」
――視聴者や読者との対話が、競技プレイに与える影響も大きいんですね。具体的なエピソードがあれば教えてください。
原根「視聴者の質問がきっかけで気付いたことが何度かあります。たとえば、あるプレイを選んだときに『その選択の意図は?』と配信中に聞かれて、改めて説明しようとする中で、自分が無意識に行っていた判断基準に気付いたことがありました。そういう瞬間は、自分でも『なるほど、こういう考え方をしていたんだ』と新たな発見になりますし、次の試合に向けてモチベーションが高まりますね」
――特に記事を書かれたりする際、大切にしていることはありますか?
原根「大切にしているのは『読みやすさ』と『ワクワク感』です。本職の方から、見たら文章がぶつ切りになっているとか変なところに読点が入っているとか、ツッコミどころがあるかもしれません。ただ、僕は話し言葉をベースに記事を書くようにしていて、記事を出す前に音読するというのを5回くらい繰り返しているんです。読み切ってもらえるように、話が難しくなりすぎないようにしています。あとは、山場というか、記事を通して一番言いたかったところから書くということでしょうか。いつも『こういう話がしたいな』と思いついたメモするようにしていて、記事を書くときはその部分を書いて前後に文章を足していくようなやり方をしています。一番ワクワクする場所に向けて助走をつけていくような感じです」

──たしかに、先日原根さんが記事にされていたパイオニアのシミック眼魔デッキに関する記事などは《新生化》を見つけたあたりから畳み掛けるようにデッキが出来上がっていく様子が読んでいて爽快感がありました。ああした記事のアイディアがたくさんあるんですね?
原根「ありがとうございます。メモは『いつか書こうかな』と思ったままお蔵入りになってしまうものも少なくないですし、数年寝かせておくこともあります。たとえば少し前の記事ですが、サイドボードガイドの話などは文章にしようとすると重くて、時間がかかった記事です。中には記事ではなくXでポストしたり、配信で話す場合もあります。ただ、配信で話したことって、自分で過去の発言を見返そうと思っても検索ができないじゃないですか。アーカイブは残ってますが見つけるのは大変だし。なので、どちらかというと文章にする利点は大きいと思っています」
──発信を続けるモチベーションをお伺いしたいです。
原根「やりたいときだけやる、ということでしょうか。記事にせよ配信にせよ、仕事みたいにはしたくないと思っています。たとえば配信も、Tier1のデッキを回す配信のほうがウケはいいって分かってるけど、俺はこのデッキが回したいからこのデッキを回す、みたいな。さっき言ったメモの話もそうですが、アイディアを思いついたときに種だけは植えておいて、やりたくなったときに着手する感じです」
――マジックプレイヤーの中でも、自分の使っているデッキなどについて「記事を書いてみたい」と思っている人は多いと思います。でも、実際に空白のドキュメントを前にすると手が進まない。こうしたとき、どうすればいいのでしょうか?
原根「『最初の一回』が一番億劫になってしまうので、Xのポストなどでもいいからとりあえず書いてみるのがいいと思います。僕は中学生のころからブログをやっていますが、最初から言語化ができていたわけではなくて、やっていくうちにだんだんスタイルができあがっていった感じです。ハードルを自分で高く設定しすぎず、まずは世に出して視聴者の反応に耳を傾けながら、少しずつ工夫を加えていくといいと思います」

競技プレイヤーとしての実績だけでなく、情報発信者としての存在感をも確立している原根。彼はプレイヤー同士が情報を共有し合うことに価値を見出し、その考えを体現する形で活動を続けていた。
原根が発信で大切にしているのは、視聴者や読者にとって「読みやすさ」と「面白さ」が両立することだ。地道にアイディアの種を撒き、自身の思考を言語化してはフィードバックに耳を傾ける──そうした工夫の積み重ねが、結果的に自身の成長や競技シーン全体の活性化にもつながっている。
「一人でやるより、みんなで楽しみたい」その思いが、彼の情報発信活動の軸となっていることは明白だ。競技と発信を両立させながらも、自分が楽しむことを忘れない。そんな原根の姿勢は、これからも多くのプレイヤーに新たな可能性を示していくだろう。