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プレイヤーズコンベンション愛知2024

観戦記事

決勝:矢嶋 竜明(北海道) vs. Cho Jeongwoo(韓国) ~君の名が~

富澤 洋平(撮影者:瀬尾 亜沙子)


 総勢256名が参加したジャパンスタンダードカップ:『サンダー・ジャンクションの無法者』Supported by 楽天ブックス。スタンダード史上最大のカードプールで行われる環境末期の大会であり、つまりは答え合わせ的な意味合いを持っている。最多数を誇ったアゾリウス・コントロールやエスパー・ミッドレンジ、ボロス召集は脱落していき、残ったは2つの攻撃的なデッキである。

 その決勝戦の始まりは1日前のスイスラウンド終了時点まで巻き戻る。ご覧いただきたいのは、マジック日本公式によって発表された今大会のトップ8プレイヤーツイートだ。

 肩を組んでいるのはCho Jeongwoo/チョウ ジョンウ(韓国)と田辺 哲也の2名。往年の友人かのように思っていると「今日対戦し、友人になったばかり」と教えてくれた。

 チョウ曰く、「スイスラウンドで唯一の敗北であったが、対戦を通じて意気投合した。マジックの良いところですね」と流暢な日本語で語ってくれた。

 その後、決勝ラウンド初戦で田辺はアゾリウス・コントロールに敗れてしまったが、去り際に次に同デッキと対戦するチョウへアドバイスをくれたという。チョウは田辺からのアドバイスを得て、見事勝利し、決勝戦まで駒を進めてきたわけだ。

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 韓国から海を渡りやってきたチョウは今大会へ挑むにあたり、友人の勧めでラクドス・ミッドレンジからゴルガリ・ミッドレンジへと変更している。選択は功を奏したといえるだろう、スイスラウンドを1敗で切り抜けて、さらには決勝戦まで勝ち進んできたのだから。

 かつての韓国選手権2017の覇者はリスペクトと情に厚く、友人たちと調整を重ねてきたデッキを手に栄冠を目指す。

 

 対する矢嶋 竜明(北海道)が使用するのはメインボードに《ウラブラスクの溶鉱炉》を採用した赤単ミッドレンジだ。

 矢嶋 竜明(やじま たつあき)の名を聞いてピンとくるプレイヤーはほとんどいないかもしれないが、このネームならばどうだろうか。

 ryuumei

 MO(Magic Online)上で毎週末に開催されているStandard Challenge上位の常連、強豪であるryuumeiこそ、矢嶋 竜明その人なのだ。

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 『サンダー・ジャンクションの無法者』加入後のStandard Challengeでは毎週末Top16以内に入っており、赤単のメインボードに採用された《ウラブラスクの溶鉱炉》は、いまやryuumeiにとってシンボリックな1枚となっている。

 「練習はオンラインで一人で黙々としています」と語る彼の姿は、MOやMTGアリーナで黙々とラダーへと調整し続けるryuumeiその人でしかなかった。

 しかし、オンラインの強豪もオフラインでの戦績は残せていない。過去の戦績はグランプリで10勝5敗がベストであり、本名文化の根付いたマジックのトーナメントシーンにおいては矢嶋 竜明の名は浸透していないのだ。

 矢嶋は自分自身が信じたデッキを手に、決勝戦へと挑む。己が名を刻むために。

 両者はオンライン大会での対戦経験があり、その際はチョウに軍配があがったとのこと。互いの健闘を祈り、最終戦は始まった。

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ゲーム1

 スイスラウンドの順位の高かった矢嶋が先手を選択し、ノータイムでキープを宣言。チョウはマリガン。

 《僧院の速槍》が颯爽と駆け抜けここから赤単ミッドレンジ、矢嶋の怒濤の攻めが始まる…かと思いきや、チョウは《強迫》で矢嶋の手札を白日の元へとさらし

ウラブラスクの溶鉱炉
ロノムの発掘家、フェルドン
火遊び
稲妻の一撃
》×2

ウラブラスクの溶鉱炉》に待ったをかける。

 マナカーブ通りに《ロノムの発掘家、フェルドン》が追加されチョウのライフは16へと落ち込む。

 そしてむかえた3ターン目、矢嶋は3枚の《》をタップすると、トップデッキしたばかりの《ウラブラスクの溶鉱炉》をプレイグラウンドへ力強く送り込む。これにはチョウも笑いを隠せず、思わず吹き出してしまう。

 後の脅威となる《僧院の速槍》こそ《喉首狙い》したものの、手札に2枚の火力をかかえた段階で淡々とボードでダメージを稼がれていく。

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 チョウは《ヴェールのリリアナ》で手札を攻めつつ、攻撃を集中させることで一時的な延命措置とするが、それもわずか1ターンにすぎない。すでに《ウラブラスクの溶鉱炉》上の油カウンターの数は4つ。

 矢嶋はマナを立てて、火力を構えながら丁寧に攻め続ける。

 チョウは《苔森の戦慄騎士》で自傷しながらドローを勧め、トークンに対して《喉首狙い》などで処理しながら必死に延命を図る。

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 しかし、ブロッカーとして配備された《苔森の戦慄騎士》へ《焦熱の射撃》がプレイされると、油カウンターが6個の《ウラブラスクの溶鉱炉》を前に、さしものチョウも耐えられはしないと悟った。

矢嶋 1-0 チョウ

 矢嶋は《僧院の速槍》、《ロノムの発掘家、フェルドン》を抜き、各種プレインズウォーカーを投入。対照的にチョウは《敵意ある調査員》など重い部分を抜き、《強迫》や軽量クリーチャーなど延命措置を追加する。

 長引かせたいチョウと長期戦を見据えた矢嶋、両者の思惑は交錯していく。

 

ゲーム2

 チョウの「キープ」を聞くと、矢嶋は《熊野と渇苛斬の対峙》×2、《血に飢えた敵対者》、《焦熱の射撃》、《抹消する稲妻》、《》×2の7枚でゲームを始めることを選択する。

回転

 《熊野と渇苛斬の対峙》からスタートすると、2ターン目にして分岐が発生する。マナカーブ通りに《血に飢えた敵対者》をプレイすべきか、それともチョウのアンタップ状態の土地から《喉首狙い》を推察し2枚目の《熊野と渇苛斬の対峙》をプレイすべきか、だ。

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 矢嶋は小考すると、後者《熊野と渇苛斬の対峙》をプレイする。

 そして3ターンに渡り土地を置くのみのチョウに対して、《熊野の食刻》へと変化させると単体で攻撃へと送り出す。このアタックに対してチョウは《喉首狙い》をプレイし、それを見届けると矢嶋は第2メインフェイズに《血に飢えた敵対者》を出しその上に+1/+1カウンターを乗せる

 矢嶋は瞬間的なダメージのみを追い求めているわけではない。むしろいかにして相手の狙い通りに除去を打たせず、継続的なクロックを用意できるか、最大効率を考えてプレイを選択している。

 4ターン目もフルオープンで返すチョウに対し今度は《ミシュラの鋳造所》を置きつつ、《熊野の食刻》と《血に飢えた敵対者》の2体で攻撃する。《保安官を撃て》がプレイされ、チョウのライフは16へ。

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 チョウはこのゲームで初めて自分から動き《強迫》をプレイ。ここで明らかになったのは、

焦熱の射撃》×2
抹消する稲妻

 ここから《抹消する稲妻》を落とし、除去に耐性を持つ《苔森の戦慄騎士》をプレイする。《焦熱の射撃》ならば出来事から再召喚が可能なためだ。

 しかし、それでもなお、今日という日が矢嶋の日であることが証明されてしまう。何とここでトップデッキしたのは《血に飢えた敵対者。ピッタリ5マナから追加コストを支払うと先ほど落とされたばかりの《抹消する稲妻》が《苔森の戦慄騎士》を追放領域へと追いやる。《血に飢えた敵対者》自身は《喉首狙い》されたものの、《ラノワールの荒原》のダメージも合わさりチョウのライフは13に。

 ここにきてチョウは《苦難の収穫者》をプレイし、ボードをリセット。《焦熱の射撃》を強要する。

 予定調和に《焦熱の射撃》との交換を経て、矢嶋はこのゲーム3枚目となる《熊野と渇苛斬の対峙》をプレイ。続くターンには《ミシュラの鋳造所》をアクティベートし、残るライフを10とした。

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 2度目のアタックは許さず《切り崩し》するも、間の悪いことに次のドローが《廃墟の地》と如何せんドローが噛み合っていない。

 対して、ここで矢嶋がドローしてきたのは……

 デッキの代名詞でもある《ウラブラスクの溶鉱炉》!続くターンには《レジスタンスの火、コス》までもトップデッキし、チョウの残ライフを1とする。

 チョウも《眠らずの小屋》で《レジスタンスの火、コス》の忠誠度を減らしつつ生成されたばかりの食物・トークンをライフに変換し、《羅利骨灰》で《ウラブラスクの溶鉱炉》を対処、とギリギリのラインで踏みとどまってみせる。

 矢嶋はドローすると、《魅力的な悪漢》でゲームに幕をひいた。

矢嶋 2-0 チョウ

 

対戦後

 あまりのトップデッキの連続に思わず

矢嶋「回りすぎでしょ」

 と思わずもらしたのは矢嶋自身だった。特にゲーム1の《ウラブラスクの溶鉱炉》はゲームの流れ自体を決定付ける完璧なものであり、デッキポテンシャルと彼自身の強さをまざまざと見せつけられた瞬間でもあった。

 対戦を振り返りながら互いの健闘をたたえ合っていると、おもむろにチョウは矢嶋へと1枚のカードを差し出す。試合を決めた《ウラブラスクの溶鉱炉》だ。さらにサインペンを手渡すと、「サインを」と一言添える。

 矢嶋は自身のMOネームであるryuumeiと書くと、チョウはさらに日付もと伝え、2024年5月26日と書き加えられる。

 2人が出会い、頂点を目指し競ったジャパンスタンダードカップ:『サンダー・ジャンクションの無法者』の決勝戦にあたる2024年5月26日が記されると、チョウは嬉しそうにカードを受け取った。

 チョウは矢嶋からのサイン入りの《ウラブラスクの溶鉱炉》を、まるでトロフィーかのように掲げてみせてくれた。

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 こうしてまたひとつのマジックの輪が広がり、プレイヤー同士を繋げていく。

 これまでの矢嶋はオンラインの強豪であるryuumeiであり、先ほどのサインにしてもMOのハンドルネームであるryuumeiと綴っていた。

 しかし、オフラインの世界で初優勝を果たしたことで、ジャパンスタンダードカップ王者として矢嶋 竜明の名前は刻まれる。

 プレイヤーとプレイヤーが出会いマジックの輪が広がっていくように、マジックを通じてプレイヤー自身の情報も伝播していく。

 2024年5月26日、我々はryuumeiであり、ジャパンスタンダードカップ王者でもある矢嶋 竜明を知ったのだ。

 オンラインとオフラインを繋ぐ架け橋であり、競技マジックの原点にして新たなタイトル、それがジャパンスタンダードカップなのだから。

 さて、そろそろ今大会の王者を盛大に祝おうではないか。

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 ジャパンスタンダードカップ:『サンダー・ジャンクションの無法者』Supported by 楽天ブックス、優勝は矢嶋 竜明!!

 おめでとう!!

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