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第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

トピック

最強を決める戦い

Rich Hagon

2021年9月27日

 

 パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaがホノルルでマルシオ・カルヴァリョ/Márcio Carvalhoを下してマジック世界王者のタイトルを手に入れた2020年の2月から、私たちが知っている世界は全く異なるものになったように見えます。

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 それから、私たちが目にしたのは複雑で、挑戦と変遷のシーズンでした。

  • このゲームの最高のプレイヤーたちによる7回のリーグ・ウィークエンド
  • 新星と歴戦の猛者が入り混じった3回のチャンピオンシップ
  • 最高のプレイヤーたちを選りすぐるためのポストシーズン、3回のガントレット

 さあ、頂点を決めるイベント、第27回マジック世界選手権の時間です。トーナメント自体はMTGアリーナを通じてオンラインで行われ、昨年のイベントで象徴的だった太陽と海はありません。しかしそれでもなお、マジック最高のイベントが繰り返し行われることはきっと私たち皆がこのゲームをこんなにも愛している理由を思い出させてくれるはずです。

 諸行は無常なれど、変わらないものもあります。常に突きつけられる一つの問い。「勝つのは誰か」。

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 2020年2月の日曜日を振り返ると、トップ4のうち3人がこの舞台に戻って来ます。さあ、現世界王者その人、ブラジルのパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサから始めようではありませんか。

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パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ

 

 「The Greatest Of All Time(史上最高)」=「GOAT」論争は常に行われるものですが、各時代の最高の選手から始めるのが妥当でしょう。

 ダモ・ダ・ロサのキャリアの始まりは2006年、パリで行われた世界選手権のトップ8に、ティーンエイジャーで入賞したのです。それに世界選手権2008、2010、2011、2012を加えましょう。もちろん、2020もね。プロツアー・サンファン2010と、2017年に京都で行われたプロツアー『破滅の刻』のタイトルも忘れずに。非の打ちどころのないトップフィニッシュのリストは、さらに2008年、2009年、2012年、2015年、そして2020年により確固たるものになりました。それに添えられるのがグランプリでの実績たち。世界各地のです。それらの中には2015年に母国で開催されたグランプリ・サンパウロでの素晴らしい優勝も含まれていますね。2006年からどの都市を見ても、パウロは世界のプレイヤーの上位6人に入ってきました。毎年、15年間。ええ、15年間もですよ。

 ダモ・ダ・ロサはこれまでプロツアーや世界選手権のフォーマットを制覇すべく結成されてきた偉大なチームの一員でした。今年のタイトルへの戦では、出場者の仲間であるサム・パーディー/Sam Pardeeと調整を行っています。

「思うに、世界選手権に向けてサポートしてくれるグループがいることは絶対に助けになります。しかし、それは全員がともに調整するビッグトーナメントほど重要ではありません。プロツアーでは、10人から20人がグループとなります。全員が出場資格持ちで、優勝を目指しています。つまり、基本的にはこの多人数によるチームは乗算的に情報を持つことができるのです。網羅的に異なるデッキ、カード、そして戦略をテストすることができます」とダモ・ダ・ロサは語りました。「ほとんどの調整を行うのは資格持ちの人間で、ほとんどのことを自分たちで考えなければいけないものです」

 ダモ・ダ・ロサがルーティン的にしてきたことのほぼすべてをこなし、もし彼がタイトルを2大会連続で勝ち取ったなら、間違いなく、「史上最高のプレイヤーは誰か」という議論に終止符を打つ大本命となることでしょう。

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セス・マンフィールド

 

 第26回マジック世界選手権を3位で終えたのはセス・マンフィールド/Seth Manfieldでしたね。ダモ・ダ・ロサと同じく、マンフィールドは殿堂顕彰者です。ダモ・ダ・ロサと同じく、マンフィールドは世界王者経験者です。彼は2015年にシアトルでタイトルを手にしました。ダモ・ダ・ロサと同じく、彼は他にもメジャータイトルを持っています。アルバカーキで行われたプロツアー『イクサラン』と、2020ミシックインビテーショナル。類似点はまだありますね。マンフィールドのトップフィニッシュは二桁に届き、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサを下した2007年のグランプリ・デイトナビーチでの優勝を含む、グランプリでの大いなる実績があります。

 2020年よりもひとつ先の試合を目指している彼はこのイベントに向けて彼ひとりで調整を行います。そのことは他のプレイヤーがつけこむチャンスなのか、予測不可能なチャンスとなるのでしょうか。

「チームに入らないことは少し不利だと思うよ。それ無しで世界選手権に参加するのは私にとって初めてのことだからね」とマンフィールドは語った。「リミテッドとスタンダードの間には、わずかな猶予で網羅しなければいけないところがたくさんある。そして私には他に仕事があるから、24時間体制ではプレイできない。しかし、私は他の競争相手にはない豊富な経験がある。そして、望むべくはそれがアドバンテージになればいいね。普段以上に頑張らなければいけないだろうが、フィールドに対して良いデッキを見つけることができれば、ひとりでいることは大きく有利に働くだろうね」

 そしてそのことは15人のポテンシャルのある対戦相手たちが心配していることでもあります。マンフィールドは適切な場において適切なデッキを見つけ出すことには、比類ないと言っても過言ではない能力を持っており、他の選択肢が自分にとって最高のチャンスとなるならば、どんなスタイルでもプレイすることをいとわないのです。

 輝かしいキャリアを持っているにもかかわらず、マンフィールドはGOAT論争において確固たる地位を築いていません。今のところは。ふたつめの世界選手権のタイトル獲得? ええ、そうですとも。それは何かしらの論争のきっかけになるでしょうね。

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ガブリエル・ナシフ

 

 殿堂顕彰者になるには理由があります。さて、誰もが認めるおしゃれなスタイルというのは悪くありませんが、ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifは「イエローハット」を被っているというだけでそこにたどり着いたわけではありませんよ。ナシフはおよそ20年間にわたって15回のトップフィニッシュを記録してきました。しかし、その20年の間には本質的にふたつのキャリアが隠されています。

 ひとつめのキャリアは2009年に終わりを迎えました。ナシフはそれまでにヴェニス、ニューオーリンズ、神戸でトップ8に入賞し、そして京都でプロツアータイトルと、2005年にアトランタでチームプロツアーのタイトルを手にしました。加えて、世界選手権は2004年、2006年、そして2007年には世界選手権でトップ8入賞。さて、ある時点での最高のプレイヤーという発想を覚えていますか? この2004年のプレイヤー・オブ・ザ・イヤーは確かにそう主張できるでしょうね。ただし、「キャリアナンバー1」に限った話ですが。

 物語の続きはノスタルジックな一幕、グランプリ・リール2018のトップ8から始まります。そこで私たちは、彼らがかつて誰であったのかを思い出させてくれるのを見ているだけだと思っていました。ナシフはウォーミングアップをしていただけだったのです。ミシックチャンピオンシップⅤ、プレイヤーズツアー・オンライン4、2020ミシックインビテーショナル、2020年シーズン・グランドファイナル、第26回マジック世界選手権。何と呼ぼうと、そこにいたのはナシフでした。何度もトップフィニッシュを叩き出し、再び最高のプレイヤーたちの仲間入りを果たしたのです。

 彼が世界選手権の出場権を手にしたシーズン、舞台裏で彼の助けとなった人脈は多くの、本当に多くのトロフィーを暖炉に飾る無敵艦隊なのです。ウィリアム・ジェンセン/William Jensen、リード・デューク/Reid Duke、アンドリュー・クネオ/Andrew Cuneo、そしてシャハール・シェンハー/Shahar Shenhar。そしてGOAT論争の候補者である2人、カイ・ブッディ/Kai Buddeとルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas。第27回世界選手権においてはその規模を縮小し、手ごわい競争相手であるイーライ・カシスとマット・スパーリング/Matt Sperling、そしてヤン・メルケル/Jan Merkelと力を合わせることになりました。

 最高中の最高のオールスターの名簿ではありませんか。ナシフはどのようにしてこのタレントの名簿を独占したのでしょうかね。

「意識してきたことではないけれどね。最高のプレイヤーたちと友達なのはラッキーだよ」とナシフは語ります。「こんなに素晴らしいプレイヤーたちが周りにいるのは絶対に大きなアドバンテージだよ。人脈でアドバンテージがあるのはどこか不公平な感じがするし、一度トップに立ってしまえばそれを維持する難易度が下がるね。だけどすべてのゲームやスポーツ、そして人生ににおいても一般的に言えることだと思うよ。彼らが何かを言ったときに、彼らを信じることができて、すべてのことにおいて再度考える必要がないのは非常に大きいよ(まあそれでもたまに間違ってしまうことはあるけれどね)」。

 誰しも間違うことがあるのは事実ですよね。ですが、歴史の教科書が教えてくれるのです。ナシフはマンフィールドやダモ・ダ・ロサのように、他の誰よりも正しくある頻度が多いのだと。

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 さて、ここで簡単な計算問題を。

 16名のプレイヤーは金曜日の朝を『イニストラード:真夜中の狩り』の3回戦のドラフトを行います。初日は2回戦のスタンダードをもって終えます。スタンダードは数週間前とは全く異なる様相を呈しているようですね。土曜日にはスタンダードがさらに5回戦が全員の身に降りかかります。7勝すれば日曜日のトップ4への進出です。ここで大事なことがあります。仮定の話ですが、ええ本当に仮定の話ですよ。適切に評価された3人の殿堂顕彰者たちがまたしても名演技を披露してくれたとして、世界選手権の栄光の扉はまだ開いているのですよ。そこに割り込んで日曜日のスポットライトを奪い取る準備ができているのは誰なのでしょうか?

 非常に心強いことに、答えはシンプルです。そう、全員です。まずは日本から見ていきましょう。古くからの競技マジックにおける強豪国であり、現代においてはさらに競争力を増しています。

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佐藤 啓輔(写真1枚目)、佐藤 レイ(写真2枚目)

 

 佐藤はふたりいます。佐藤啓輔は3連続で負ければおしまいの試合を勝ち抜き、チャレンジャー・ガントレットから現れました。彼が優勝すれば、2020年12月の予選ウィークエンドから始まる、彼のMTGアリーナにおける競技生活を振り返ることができるでしょう。佐藤レイは精鋭たちの一員として今シーズンをMPLとして過ごしてきました。その地位はグランプリトップ8の5回の入賞と、2回の優勝の上に築かれています。勝とうが負けようが、レイを観ているのはとても楽しいものです。彼はいつだって感情を表に出してくれますからね。

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高橋 優太(写真1枚目)、井川 良彦(写真2枚目)、茂里 憲之(写真3枚目)

 

 レイがともに調整を行っているのは、ふたりの有名な日本のプレイヤーたち、高橋優太と井川良彦です。高橋は長きにわたって「フェアリーの王」として知られています。というのも、彼ほどにその力の象徴である部族の花、《苦花》を綺麗に咲かせたプレイヤーはいないのです(唯一そう言えるとすればおそらく、ダモ・ダ・ロサその人でしょう)。そしてさらに彼は驚くべきグランプリの実績を残していることも挙げられます。3回の優勝です。

 井川はグランプリで5度のトップ8と、ふたつのトップフィニッシュという堂々たる実績を持っています。そして、茂里憲之。異端のニューカマーは最も信頼できるであろうゲームプランを持っています。睡眠、研究、マジック。その繰り返し。

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ジャン=エマニュエル・ドゥプラ(写真1枚目)、ヤン・メルケル(写真2枚目)

 

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アルネ・ハッシェンビス(写真1枚目)、スタニスラフ・ツィフカ(写真2枚目)、オンドレイ・ストラスキー(写真3枚目)

 

 さあ、ヨーロッパのファンの皆さん。3か国がそれぞれこの最大の舞台にふたりずつを輩出しましたよ。フランスの仲間、ジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Deprazがナシフに合流。3回のトップフィニッシュと、グランプリ優勝を一度。最高の瞬間は、同国の仲間たちと2018年にワールド・マジック・カップを勝ち取った時でした。

 ドイツからはヤン・メルケルとアルネ・ハッシェンビス/Arne Huschenbethというふたつの世代にわたる危険な存在がやって来ます。メルケルは2006年にプロツアー・神戸で優勝しました。その丸15年後に、ハッシェンビスが『カルドハイム』チャンピオンシップで優勝を果たしたのです。そして、チェコの仲間たち。チェスの名手であり、プロツアー『ラヴニカへの回帰』王者のスタニスラフ・ツィフカ/Stanislav CifkaとミシックチャンピオンシップⅥの勝者オンドレイ・ストラスキー/Ondřej Stráskýです。チェコのデッキが私たちの度肝を抜いてくれることを期待しましょう。何せ、ツィフカのデッキ構築の実績は、枚挙にいとまがありませんからね。

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サム・パーディー(写真1枚目)、イーライ・カシス(写真2枚目)、マット・スパーリング(写真3枚目)

 

 さて、残すところはマンフィールドと競い合い、世界選手権のトロフィーを掲げんとするアメリカの3名です。

 サム・パーディーは、前述の通り最高の調整相手といえるダモ・ダ・ロサとビジネス上のパートナーを組んでいます。パーディーの『ストリクスヘイヴン』リーグ・ウィークエンドでの優勝は、待ちわびた画期的な出来事でした。そして、チャレンジャー・ガントレットから出場権を得たことは間違いなくそれ以上のことでしょう。

 イーライ・カシス/Eli Kassisとマット・スパーリングはナシフの調整チームのメンバーであり、彼らもまたチームワークを欠かすことはないでしょう。カシスは物腰柔らかで勤勉で控えめ。才能あふれるライバルズ・リーグをひそかに支配するシーズンを過ごし、早い段階でチャンスを手にし枠を確保しました。その後、すぐにスパーリングが続きます。もっとも興味の惹かれる参加者のひとりです。史上でも最高クラスのプレイテスト・チームに何年も参加してきたスパーリングは(今シーズンのチャンピオンシップで13位、19位、そして3位の成績を残しました)、「学びたければ自分よりもうまいプレイヤーとプレイする」という戦略を取ることが難しくなってきていることに気づいているかもしれません。スパーリングよりもうまいプレイヤーなんてそうそう残っていませんからね。そして、彼は学んできたことすべてを駆使して、このフィールドでは手に負えないレベルのプレイをするようになってきたのかもしれません。

 そして、ええもちろん。このような参加者が限定されたフィールドの素晴らしいところは、誰もが最高だということです。誰もが勝ち得るのです。ええ、「ビッグ3」がいますね。しかし、この魅力的なラインナップの中の誰かが「ビッグ1」となり、究極のマジックトーナメントに名を刻もうとしているのです。

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 歴史が紡がれる瞬間を忘れずに目撃するのです。マリア・バーソルディとチームは第27回マジック世界選手権のすべてのドラマ、テンション、パッション、そして素晴らしさの真髄をお届けします。世界が変わってしまっても、世界選手権はまだここに。10月8~10日、太平洋時間9時(東部夏時間12時、ヨーロッパ中央時間18時、日本時間25時)より始まるイベントを各日 twitch.tv/magic でお楽しみあれ!


「第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」日本語版放送ページ・放送日程
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日程 放送日・放送時間 放送ページ
DAY1 10月8日(金) 24:30~ Twitch」「YouTube
DAY2 10月9日(土) 24:30~
DAY3 10月10日(日) 24:30~

日本語版放送出演者

  • 実況:石川朋彦(@katuobusi717) 担当:DAY1、DAY3
  • 実況:ブルナー実久(@mksnake007) 担当:DAY2、DAY3
  • 実況:海老江邦敬(@kuroebi_games) 担当:DAY1、DAY2
  • 解説:八十岡翔太(@yaya3_) 担当:DAY1、DAY2、DAY3
  • 解説:行弘賢(@death_snow) 担当:DAY2、DAY3
  • 解説:原根健太(@jspd_) 担当:DAY1
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