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第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

トピック

龍、妖精の如く空を舞う

Meghan Wolff

2021年10月18日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものです。)

「やった!」

 

 「第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」を観ていた者にとって、あるいは瞬く間に拡散されたクリップやリプレイを観た者にとって、この瞬間は忘れがたい光景となっただろう。スイスラウンド最終戦を勝利で飾った高橋優太は、喜びの涙に濡れた顔を手で覆い、ゆっくりを椅子にもたれかかると歓喜の雄叫びを上げた。0-3からのスタートという、突破はほぼ不可能だと思われた逆境に立たされてなお、高橋はトップ4へと駒を進めた。

 そう、「ほぼ」不可能だったのだ。

 高橋の旅路は「世界選手権1999」で「ジャーマン・ジャガーノート」ことカイ・ブッディ/Kai Buddeが使用し、見事戴冠を果たした「赤茶単」のコピーデッキを手に取ったことから始まる。マジックと出会ってからすぐに、彼はいつかブッディやジョン・フィンケル/Jon Finkelのような伝説的プレイヤーになることを夢に抱いた―競技マジック史上最強と名高い2人だ。

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「プロツアー・シカゴ2003」にて7度目のプロツアー優勝を果たしたカイ・ブッディ

 

「僕にとっての競技マジックの入り口は、ブッディやフィンケルに憧れを抱いたことでした」と高橋は言う。

 それから20年、高橋は自らの力で夢を手繰り寄せ、憧れであった伝説的プレイヤーになったのだ。初のプロツアートップ8入賞となったのは、山本賢太郎とともに挑んだ双頭巨人戦の「プロツアー・サンディエゴ2007」。これにより「世界選手権2007」の出場権を得ると、約400名が参加したこのイベントで24位の好成績を残した。

 そして2008年、「グランプリ・静岡2008」で高橋にとって初となるグランプリ優勝を果たすと、「グランプリ・神戸2008」で2つ目のトロフィーを手にした。スタンダード構築戦で行われたグランプリ・静岡での優勝こそ、「フェアリー」の使い手として広く名が知られるようになるきっかけだった。グランプリ・神戸はブロック構築戦であったが、これも静岡ほぼ同一の「フェアリー」デッキで制したのだ。

 かくして、「フェアリーの王」が誕生した。

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グランプリ・神戸2008優勝、高橋優太

 

「前回高橋がフェアリーを使ってグランプリの決勝戦に挑むカバレージを書いていた時、正直に認めるけど彼が勝つとは思っていなかったんだ」 カバレージレポーターのティム・ウィロビー/Tim Willoughbyは当時そう記していた。「でも今なら高橋が世界一のフェアリー使いだと自信を持って言えるよ」

 この二度のグランプリ優勝によって、「フェアリー」デッキへの寵愛は確固たるものとなり、それと同時に高橋は日本人初となるグランプリ連覇の偉業を果たしたのだ。

 そしてまたしても、高橋はインスタント・タイミングで対応可能な呪文や、ドロー呪文、そして打ち消し呪文をふんだんに搭載した、「フェアリー」デッキを思わせるデッキリストをもって、彼のキャリアを飾る入賞を果たした。「青白デルバー」でトップ8入りした「グランプリ・北九州2013」。このトップ8プレイヤープロフィールでも「フェアリー」に関する言及は外さなかった。また、最も思い入れのあるカードとその思い出に関する質問に対し、当時の高橋はこう答えている。「《謎めいた命令》。フェアリーの劇的な勝利はいつもこのカードだった」

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 世界選手権以前のキャリアハイについて高橋はこう語っている:「プロツアー『異界月』でのトップ8入賞ですね」 2016年に開催されたこのイベントで、彼は「バント・カンパニー」を相棒に選んだ。青黒でこそないものの、《呪文捕らえ》、《集合した中隊》、《ドロモカの命令》、そして《反射魔道士》と、インスタント・タイミングで対応可能な呪文や、ドロー呪文、そして打ち消し呪文を搭載しており、これも高橋が得意とするデッキに仕上がっていた。

 高橋が「第27回世界選手権」へと至る道は、「プレイヤーズツアー・名古屋2020」でトップ4に入賞したことから始まる。これにより「マジック・ライバルズ・リーグ」への参入を決めると、快進撃は止まることなく2020-2021シーズンをリーグ内4位で終え、世界選手権出場をものにしたのだ。

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高橋 優太

 

 世界選手権に向けた準備に際し、高橋は出場を共にする井川良彦と佐藤レイ、あと1勝というところで惜しくも出場を逃した熊谷陸、そして津村健志とチームを組み調整を進めた。津村は高橋が初めて優勝を果たしたグランプリで、準決勝をミラーマッチで戦った盟友だ。

「彼らはあらゆるマッチアップの練習に付き合ってくれて、苦難もともにしてきた友人なんです」

 激闘の開幕を目前とし、高橋はリミテッドが彼の弱点となり得ることを認識していた。「僕は構築の方が得意なので、構築ラウンドの方が多いのは幸いでした。リミテッドはどうも苦手なので、とにかく練習に励みます。スタンダードに関しては、メタゲーム上のデッキ全てを最も信頼のおける友人たちと試しました」

「ドラフトも200回は練習したんですが、結果は良くなかったですね」

 言うまでもなく、ここで彼が言及しているのは世界選手権で行われた『イニストラード:真夜中の狩り』ドラフト・ラウンドで0-3を喫したことだ。これは世界最高の舞台での発進としてあまりにも厳しく、誰もが精神的に立て直すことができるような苦境ではない。

「0-3からのスタートとなってしまったので、トップ4に残るには一戦も落とすことができませんでした」 彼が挑まなければならなかった難関についてこう語る。「それでも、一戦一戦集中することができました」

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 自身の強みや好みを存分に活かした上でメタゲームを読み調整する高橋は、現環境と過去に彼が経験した環境を横並べにして俯瞰した。これが奈落からの発進を余儀なくされたドラフト・ラウンドに光柱をもたらし、スタンダード・ラウンドでの傑出した快進撃への道筋を作り出したのだ。

「メタゲームの中心となっていた『緑単アグロ』を見て、『アブザン・アグロ』を思い出しました」と高橋は振り返る。「『ダーク・ジェスカイ』が『アブザン・アグロ』に対して非常に強かったんです。なのでそれに近いものをイメージしました。4点火力、序盤はブロッカー、終盤はフィニッシャーとしての活躍が見込める《くすぶる卵》、レガシー級のドロー呪文に、速攻を持つ飛行クリーチャーですね」

回転

 数週間の調整期間を経て導き出されたスタンダードのメタゲームにおいて、高橋が選択した「イゼット・ドラゴン」は異彩を放っていた。全16名の出場者のうち他に使用者のいないデッキを登録したプレイヤーは3人のみ。チームメイトたちが「白単アグロ」を手に取る中、彼はこの3人のうちの1人となった。そしてこのリスクある選択と、彼の熟達した調整スキルが最高の結果に結びついたのだ。

「『イゼット・ドラゴン』を選んだ理由は、『フェアリー』のようにインスタントのドロー呪文や打ち消し呪文を搭載したデッキと相性が良いからです。」と高橋は説明する。「《くすぶる卵》は最高の2マナ呪文だと感じました。『イゼット天啓』のようなコンボ依存の形よりも、ドラゴンで攻勢を仕掛けるデッキの方が環境に合っていると思ったんです。このデッキは僕の中ではフェアリーですよ。青赤フェアリーです」

 それは筆舌に尽くしがたいほどに完璧な決断であった。高橋は1日目、2日目、そしてトップ4をもスタンダード・ラウンドを無敗のまま制圧した。それどころか、5ラウンドを戦ってたったの1ゲームすら落としていない。世界選手権で優勝すること――多くの者にとって、それは大きな夢である。予想外のデッキでトーナメントを圧倒的に制することもまた、憧憬の対象だろう。今回の「フェアリー」はどこかドラゴンのように見えたかもしれないが、高橋優太は「フェアリーの王」の名に忠実でありながらこのいずれをも成し遂げたのだ。

 長年の夢が叶った今、高橋は次にどこを目指すのだろうか?

「また世界王者になることですかね?」と高橋は答えた。「欲張りすぎですか?」

 マジックに愛を注ぐプレイヤーが感情をむき出しにして勝利を喜ぶ様を目にすることは、何ものにも代えがたい体験だ。崖っぷちからの快進撃でトップ4に進出し、そして夢にまで見た称号を勝ち取った高橋の記録的で劇的な活躍は、世界を感動の渦に包んだ。そんな彼の口から出た言葉だからこそ、到底「欲張り」だという印象は受けない。これは確かに高橋が勝ち取った勝利だ。だが、戴冠の瞬間を見守った誰もが、この勝利が意味するところを、その重みを、その喜びを、高橋とともに分かち合ったのだ。

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 かつてその姿を見て、名を連ねることを夢に見た偉大なプレイヤーたち―今や自身もその1人となった。高橋は世界選手権優勝と同時に、長年の夢が成就した喜びも噛みしめることができた。

カイ・ブッディ:優勝おめでとう!

高橋優太:子どもの頃にカイのワールドチャンピオンデッキ(赤茶単)を購入しました。これが僕の競技マジックの原点だったので、カイからお祝いのメッセージをもらえて感無量です。


 
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