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第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権
第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権 トップ4ラウンド ハイライト
2021年10月10日
(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものです。)
『イニストラード:真夜中の狩り』ドラフトとスタンダード合わせて10回戦を経て、「第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」のトップ4プレイヤーが出揃った。
長年競技の舞台に立つ者もあればここ数年で名を上げた者もあり、古きと新しきが混在する見事な顔ぶれ。16名のうち12名が敗退した今、「世界王者」のタイトルを懸けて最終日に臨むは、オンドレイ・ストラスキー/Ondřej Stráský、ヤン・メルケル/Jan Merkel、ジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Depraz、高橋 優太の4名となった。
今回のトップ4にはいくつもの驚きがある。殿堂顕彰者の不在もその1つだが、特筆すべきは彼らの使用デッキだろう。「グリクシス天啓」のメルケルと「イゼット天啓」のストラスキーに加え、この世界選手権決勝ラウンドの舞台に、使用者1名のデッキを使う者(「イゼット・ドラゴン」の高橋と「ティムール・トレジャー」のドゥプラ)が2人いるのだ。
7 《山》 5 《島》 3 《凍沸の交錯》 4 《河川滑りの小道》 2 《ストーム・ジャイアントの聖堂》 2 《廃墟の地》 -土地(23)- -クリーチャー(0)- |
3 《消えゆく希望》 1 《棘平原の危険》 4 《感電の反復》 3 《表現の反復》 3 《ジュワー島の撹乱》 2 《才能の試験》 4 《ゼロ除算》 2 《悪魔の稲妻》 4 《予想外の授かり物》 2 《記憶の氾濫》 3 《家の焼き払い》 4 《アールンドの天啓》 2 《髑髏砕きの一撃》 -呪文(37)- |
3 《くすぶる卵》 2 《心悪しき隠遁者》 2 《黄金架のドラゴン》 1 《棘平原の危険》 3 《バーニング・ハンズ》 1 《環境科学》 1 《才能の試験》 1 《アルカイックの教え》 1 《マスコット展示会》 -サイドボード(15)- |
7 《島》 4 《山》 3 《凍沸の交錯》 4 《河川滑りの小道》 2 《ストーム・ジャイアントの聖堂》 -土地(20)- 4 《くすぶる卵》 4 《黄金架のドラゴン》 -クリーチャー(8)- |
1 《消えゆく希望》 1 《棘平原の危険》 4 《ドラゴンの火》 4 《表現の反復》 3 《ジュワー島の撹乱》 2 《轟く叱責》 1 《否認》 2 《ゼロ除算》 1 《雲散霧消》 1 《プリズマリの命令》 1 《襲来の予測》 4 《記憶の氾濫》 3 《アールンドの天啓》 4 《髑髏砕きの一撃》 -呪文(32)- |
4 《心悪しき隠遁者》 1 《消えゆく希望》 3 《バーニング・ハンズ》 2 《燃えがら地獄》 1 《プリズマリの命令》 1 《白熱する議論》 1 《環境科学》 1 《才能の試験》 1 《マスコット展示会》 -サイドボード(15)- |
5 《森》 1 《山》 4 《岩山被りの小道》 4 《樹皮路の小道》 4 《河川滑りの小道》 2 《バグベアの居住地》 2 《ハイドラの巣》 -土地(22)- 4 《ヤスペラの歩哨》 4 《厚顔の無法者、マグダ》 4 《裕福な亭主》 2 《無謀な嵐探し》 3 《月の帳の執政》 4 《黄金架のドラゴン》 -クリーチャー(21)- |
4 《レンジャー・クラス》 3 《ドラゴンの火》 2 《否認》 4 《エシカの戦車》 4 《髑髏砕きの一撃》 -呪文(17)- |
2 《ケッシグの自然主義者》 2 《茨橋の追跡者》 2 《無謀な嵐探し》 4 《バーニング・ハンズ》 3 《絡み罠》 2 《軽蔑的な一撃》 -サイドボード(15)- |
1 《島》 2 《山》 4 《河川滑りの小道》 3 《難破船の湿地》 3 《清水の小道》 4 《憑依された峰》 4 《荒廃踏みの小道》 2 《ストーム・ジャイアントの聖堂》 -土地(23)- 1 《くすぶる卵》 3 《溺神の信奉者、リーア》 -クリーチャー(4)- |
4 《消えゆく希望》 2 《強迫》 2 《棘平原の危険》 1 《血の長の渇き》 4 《表現の反復》 2 《感電の反復》 2 《ジュワー島の撹乱》 1 《安堵の火葬》 1 《燃えがら地獄》 1 《パワー・ワード・キル》 3 《セレスタス》 1 《悪魔の稲妻》 1 《プリズマリの命令》 3 《記憶の氾濫》 1 《家の焼き払い》 4 《アールンドの天啓》 -呪文(33)- |
4 《心悪しき隠遁者》 2 《マインド・フレイヤー》 3 《竜巻の召喚士》 1 《強迫》 1 《パワー・ワード・キル》 2 《真っ白》 1 《魂の粉砕》 1 《予想外の授かり物》 -サイドボード(15)- |
トップ4までの道のりには、ありとあらゆる物語があった。その筆頭となるのは、ここ数年にわたりスタンダードを席巻しているストラスキーだろう。
プレイテスト・チーム「Czech House」が輩出したこの選手は、幾度となくスタンダード環境を定義してきた。その彼が世界選手権の大舞台でも開幕7連勝の圧倒的な活躍で、早々にトップ4入賞を決めた。
そしてさらに信じられないことに、スタンダード・ラウンド全勝は彼だけではない。
高橋は開幕のドラフト・ラウンド3回戦で全敗を喫し、最悪のスタートとなった。しかし残るスタンダード・ラウンドに一縷の望みをかけて挑んだ彼は、やり遂げたのだ。それは、驚異的なまでのメタ読みから生まれた「イゼット・ドラゴン」と非の打ち所がないプレイがもたらした結果だった。序盤に希望を失いかけたところから、完璧な7連勝でトップ4進出まで走り抜けたのだ。
メルケルとドゥプラは、タイブレーカー・マッチを乗り越えてこの舞台に立っている。メルケルはチームメイトのマット・スパーリングを自らの手で敗退させなければならず、ドゥプラは不屈のサム・パーディー/Sam Pardeeとの(その日3回目となる)戦いを制する必要があった。
今回の世界選手権は、マジックの競技の歴史に残る伝説的なものだった。その物語は、この4人から始まる。
トップ4ブラケット
決戦の火蓋を切ったのは、スイス式ラウンド上位のストラスキーとメルケルだった。世界選手権では過去にも圧倒的な成績で優勝したプレイヤーがいるが、ストラスキーは前人未到の全勝優勝を目指していた。
だがその不滅の記録への期待は、あえなく打ち砕かれることになった。プロツアー・神戸2006王者のメルケルは「グリクシス天啓」の強みである妨害に徹し、2連勝でストラスキーを下したのだ。こうして全勝優勝の夢は終わったが、それでもストラスキーには「世界王者」のタイトル獲得の夢は残っている。
次に注目が集まったのは、もう1人のスタンダード・ラウンド全勝プレイヤーだ。ここまで7連勝を記録している「イゼット・ドラゴン」を操る高橋が、独自の「ティムール・トレジャー」を手にするドゥプラと対峙する。ドゥプラにとって、このマッチアップはできれば避けたいものだった。それは、この週末に高橋と対戦した全員が感じたことだろう。
日本のスーパースターは期待通り2連勝でドゥプラを撃破したが、それは決して簡単な試合ではなかった。2ゲーム目はドゥプラが高橋のライフを残り3点まで追い詰める展開になったのだ。それでも高橋は《マスコット展示会》で盤面を盛り返すと、《黄金架のドラゴン》の背に乗って勝利へ突き進んだ。
「フェアリーの王」は今、「ドラゴンの王」になりつつある。
こうして勝者側ブラケット決勝では、メルケルと高橋が王者決定戦の席を懸けて激突することになった。長年のプレイヤーである両者は、こういったプレッシャーのかかる決戦も経験済みだ。その2人によるスタンダードの試合は、まさに最高の一戦になった。
メルケルと、同じく世界選手権に出場したマット・スパーリング/Matt Sperling、イーライ・カシス/Eli Kassis、ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifが組み上げた「グリクシス天啓」はこの週末に話題を呼び、1名をトップ4へ送り込み、他の3人もあと一歩のところまで迫る大きな活躍を見せた。ここでメルケルが当たる相手にはほとんど備えてこなかったが、これに勝てば優勝トロフィーまであと1つの高みへ至れる。
勝負は互いに1ゲームずつ取り合い、最終ゲームまでもつれ込んだ。昨日トップ4入賞を果たしたときには感極まっていた高橋だが、今日は一転、1つ1つのプレイを完璧に遂行することだけを目指す男になっていた。高橋は長い最終ゲームを渡りきり、勝利をもたらす《アールンドの天啓》を決める体勢を整えた。世界王者決定戦へと続く扉は、彼の前に開かれたのだ。
高橋は喜びを爆発させない。まだやるべき仕事が残っているのだから。
敗者側ブラケット
残るは、高橋の対戦相手を決める戦いだ。ここからの2試合は、「2マッチ先取」で行われる。先に舞台に上がったのは、ストラスキーとドゥプラ。多くの者がストラスキー有利と見るこの試合で、「Czech House」が生んだスターは逆転のチャンスを掴むべく戦いに臨んだ。
しかし、ドゥプラの「ティムール・トレジャー」はその力を存分に発揮した。第1ゲームは序盤からプレッシャーをかけたドゥプラが《エシカの戦車》を立て続けに繰り出し、物量でストラスキーを圧倒したのだ。
苦しい状況からさらに敗退へ向けてもう一歩進んだストラスキーだったが、それでも踏みとどまった。続く第2ゲームでは驚異的な巻き返しを見せ、次へつなぐ。
体勢を立て直したストラスキーは難しい第3ゲームも巧みに渡り、攻められる展開から盤面を落ち着かせることに成功した。戦場には《灰口のドラゴン》がいて、マナも残っている。しかし今日のドラゴンはドゥプラに味方した。ここぞという場面での《ドラゴンの火》と《黄金架のドラゴン》が形勢を一変させ、ドゥプラに勝利をもたらした。
この敗北は、それまで難攻不落を貫いたストラスキーの「イゼット天啓」を完全に打ち砕くものだった。第2マッチは一方的な展開でドゥプラが2連勝を飾り、敗者側ブラケット決勝へと進出したのだった。
そこでドゥプラが出会うのは、《アールンドの天啓》との再戦だ。メルケルが操る「グリクシス天啓」との戦いに勝てば、高橋が待つ王者決定戦の舞台に立てる。
この試合においてドゥプラが目指すのは、コンボの成立ではなくグリクシスが放つ妨害の嵐を乗り切ることだった。その結果第1ゲームは、両者が互いのリソースを交換しているうちに《裕福な亭主》が少しずつメルケルのライフを削っていく展開になった。コンボを戦略の中心に据えた「イゼット天啓」と異なり、「グリクシス天啓」は除去や手札破壊を豊富に揃えている。爆発力と引き換えに、コントロール的な立ち回りを実現しているのだ。
しかしドゥプラはここぞというタイミングで《黄金架のドラゴン》を引き込み(トップ4ラウンドをはじめ今大会を通して何度も見られた光景だ)、最初のダウンを奪ってみせた。
続く第2ゲームも見慣れた展開が繰り広げられた。ドゥプラはメルケルに強力な脅威への回答を迫りつつ《レンジャー・クラス》によるアドバンテージを積み重ね、対処できなくなるのを待った。メルケルが切り札たる《溺神の信奉者、リーア》を着地させた頃には、彼のライフは残り8点まで落ち込んでいた。
これで一時は体勢を立て直したものの、ドゥプラがそこへ除去を差し向けると、試合は第2マッチへと移行することになった。
第2マッチはメルケルの動きが冴え渡った。今度は残りライフ3点まで追い詰められても、《悪魔の稲妻》で《黄金架のドラゴン》の除去に成功し逆転することができた。このマッチも第3ゲームまでもつれ込んだものの、《溺神の信奉者、リーア》に導かれたメルケルのデッキは力強さを見せ、最終第3マッチへと望みをつないだ。
『イニストラード:真夜中の狩り』導入後のスタンダードで行われる今大会では、幾度となく大逆転が起きた。メルケルもまさにその大逆転を起こすべく最終マッチに臨んだが――しかし、それは叶わなかった。
ドゥプラは《黄金架のドラゴン》の高速展開をしっかり決めて、第1ゲームを奪った。そして続くゲームでもメルケルの状況が好転することはなかった。3枚目の土地をタップインする隙にドゥプラが《エシカの戦車》を繰り出すと、あっという間に手がつけられないほどのトークンの群れが並び、勝負は決したのだった。
こうして、今シーズンの世界王者を決める戦いの舞台が整った。「第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」優勝を懸けて、高橋 優太とジャン=エマニュエル・ドゥプラが決戦に挑む。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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