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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2017
世界選手権2017 注目の出来事
Frank Karsten and Blake Rasmussen / Tr. Tetsuya Yabuki
2017年10月8日
2016-2017年シーズンで最も活躍した24人による戦い。新たな王者に贈られる100,000ドルの賞金。記念すべき第1回プロツアー・チームシリーズの決着。この週末、私たちは競技マジックの頂点を目にしてきた。世界選手権2017で起きた記録すべき出来事を厳選し、以下に掲載する。
ウィリアム・「Huey」・ジェンセンが初日の7戦を全勝で終え、12連勝まで無敗を貫く
この週末で最も大きな話題になったことのひとつは、ウィリアム・ジェンセン/William Jensenが今大会を席巻し、誰よりも早くトップ4入賞を確定させたことだ。彼は驚くべき勢いで勝ち進み、予選ラウンド12連勝を果たした。この時点で、2位のプレイヤーとの差は4勝も離れていたのだ!
その成功の理由として、今大会の会場が彼にとって特別な場所であったことが挙げられるかもしれない。ジェンセンはここボストンで生まれ育ち、この場所は彼にとって「ホーム」だった。家族も会場へ足を運び、彼に声援を送っていた。
もうひとつ理由を挙げるなら、良い形の「ティムール・エネルギー」を生み出したことだろうか。スタンダードの達人であるブラッド・ネルソン/Brad Nelsonは次のように語る。
「『Peach Garden Oath』の『ティムール・エネルギー』は、《本質の散乱》や《暗記 // 記憶》、《奔流の機械巨人》、《慮外な押収》を搭載した、かなり変わった形だ。これで《スカラベの神》への解答を厚く取ることができて、『ティムール・エネルギー』の同系にも有効な形に仕上がってる。天才的だよ。今大会に向けて本当によく考えられたものだと思う。そういうデッキを持ち込んだんだ」
4 《森》 1 《島》 2 《山》 4 《植物の聖域》 4 《根縛りの岩山》 3 《尖塔断の運河》 4 《霊気拠点》 -土地(22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 4 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー(23)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 2 《本質の散乱》 1 《削剥》 1 《慮外な押収》 1 《暗記 // 記憶》 -呪文(15)- |
2 《奔流の機械巨人》 1 《チャンドラの敗北》 4 《否認》 1 《削剥》 2 《人工物への興味》 1 《至高の意志》 1 《天才の片鱗》 1 《慮外な押収》 1 《霊気圏の収集艇》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
しかしジェンセンの成功を支えた最大のものは、彼のマジックへの熱意と入念な準備だろう。彼は今大会に向けて多くのプレイテストを積み重ねてきた。大会5週間前から準備を始め、文字通りほぼ毎日、1日あたり約10時間をプレイに充てた。チームメイトのリード・デューク/Reid Dukeいわく、ジェンセンほど熱心にトーナメントの準備をするプレイヤーは見たことがないそうだ。その努力が報われたことは、誰の目にも明らかだろう。
「青黒コントロール」がトップ4の席をふたつ占める
『イクサラン』導入後のスタンダードで行われた今大会では、新たな戦力が素晴らしい結果を残した。それが新型の「青黒コントロール」だ。このデッキはサム・ブラック/Sam Blackとジェリー・トンプソン/Gerry Thompson、ジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leytonの3人組が今大会に持ち込み、ケルヴィン・チュウ/Kelvin Chewも独自調整のすえに同様の形のデッキにたどり着いた。そしてアター=レイトンとチュウはトップ4へ進出し、どちらも準決勝で敗れたもののトップ4で最も注目を集めるデッキとなった。
6 《島》 5 《沼》 4 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 4 《進化する未開地》 3 《廃墟の地》 -土地(26)- 2 《スカラベの神》 3 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー(5)- |
4 《致命的な一押し》 4 《検閲》 4 《本質の散乱》 3 《アズカンタの探索》 4 《不許可》 2 《本質の摘出》 4 《ヒエログリフの輝き》 3 《ヴラスカの侮辱》 1 《天才の片鱗》 -呪文(29)- |
3 《禁制品の黒幕》 2 《多面相の侍臣》 4 《強迫》 2 《否認》 1 《アルゲールの断血》 1 《宝物の地図》 1 《本質の摘出》 1 《廃墟の地》 -サイドボード(15)- |
このデッキのゲーム・プランの核となるのが、最高のコントロール向けカードである《アズカンタの探索》だ。このデッキについて、アター=レイトンは次のように語る。
「対戦相手の動きをすべて1対1交換に取ることができれば理想ですね。4ターン目に《アズカンタの探索》をプレイしつつ、相手への回答も持っているのが望ましいです。その後《アズカンタの探索》が戦場に残って盤面もクリアなら、もう負ける要素はありません。このデッキなら《アズカンタの探索》が素早く『変身』し、長期戦で絶対的なエンジンとなるのです」
確かに、サイクリングやコストの軽い妨害手段を駆使すれば、墓地に7枚のカードを貯めるのは簡単だ。それから土地に「変身」するため《不屈の自然》のようなマナ加速にもなり、青いデッキでそれができるのは尋常ではない。そして《水没遺跡、アズカンタ》の能力は、アター=レイトンの言うように「長期戦で絶対的なエンジン」となるのだ。
このデッキについてもっと詳しく知りたい方は、デッキテクもあわせてご覧いただきたい。
最高のプレイヤーたちが繰り広げる最高の週末
2016-2017年シーズンで最も活躍した24人が一堂に会する今大会では、次々と飛び出す見事なプレイから目が離せなかった。特に目を引いたのは、プレイヤーたちがカードを通常ではあり得ない使い方でプレイする頻度だ。
リード・デューク/Reid Dukeは《慮外な押収》を自身の《逆毛ハイドラ》を対象に唱え、オーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldとウィリアム・ジェンセンは《蓄霊稲妻》を自身のクリーチャーを対象に唱えた。エリック・フローリッヒ/Eric Froehlichとハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezは自身のクリーチャーへ《削剥》を撃ち込み、ケルヴィン・チュウは対戦相手のクリーチャーに《吸血鬼の士気》を唱えた。
カメラに映ったものだけ取り挙げても、これだけあるのだ!
もちろん、これらすべてに理由がある。例えば《逆毛ハイドラ》や《牙長獣の仔》を強化するためのエネルギーを得てクロックを1ターン短くするため。または《ヴラスカの侮辱》によるライフ回復を防ぐため。あるいは、チュウの場合は手札の《軍団の裁き》を機能させるためだ。
歴戦の勇士たる今大会のプレイヤーたちは、これらをすべて「通常ではあり得ない使い方」だと思っていない。以前から幾度となく選択してきたプレイであり、彼らはマジックというゲームの真の達人たる自信と誇りを持って決断を下しているのだ。
チーム「Musashi」が初代チームシリーズ・チャンピオンに
2016-2017年シーズンが閉幕したとき、チームシリーズのランキング上位に残ったのはチーム「Musashi」と「Genesis」だった。「Musashi」が擁するのは山本 賢太郎、渡辺 雄也、行弘 賢、市川 ユウキ、覚前 輝也、八十岡 翔太の6名。「Genesis」にはブラッド・ネルソン、ルーカス・ブロホン/Lukas Blohon、セス・マンフィールド/Seth Manfield、トーマス・ヘンドリクス/Thomas Hendriks、マーティン・ダン/Martin Dang、マーティン・ミュラー/Martin Mullerが名を連ねる。両チームとも有名プレイヤー揃いだ。
そしてこの週末、彼らは初代チームシリーズ・チャンピオンを懸けた戦い「チームシリーズ決勝」に挑んだ。
3人ひと組のチームふたつで行われる『イクサラン』チーム・シールドの決戦は、最初の試合を「Genesis」が勝ち取った。中でもルーカス・ブロホンと八十岡 翔太の戦いは記憶に残るもので、ブロホンは《溢れ出る洞察》で7枚のカードを引いたにも関わらず、そのターンの終了時にカードを捨てる必要がないほどの総力戦だった。
第2戦を制したのは「Musashi」。マーティン・ダンがあと1勝すればチームの優勝を決めるところまで迫ったが、《太陽鳥の祈祷》と《覚醒の太陽の化身》をもってしても、《輝くエアロサウルス》を対処することはできなかった。
1勝1敗となった両チームは、チャンピオンを決めるため優勝決定戦を行うことになった。試合は複雑な戦闘を乗り越え的確なコンバット・トリックを決めることが求められる激戦になったが、最後は市川の《巧射艦隊の略取者》が決定打を届かせたのだった。
ウィリアム・「Huey」・ジェンセンが世界選手権2017を制覇する
プロツアーには多くの人に好かれる良いプレイヤーがたくさんいるが、ウィリアム・ジェンセンほど尊敬され、愛され、そして祝福されるプレイヤーはほとんどいないだろう。驚異的な活躍を見せた今大会を最後まで勝利で締めくくると、この長年のプロが自身初の世界選手権優勝トロフィーを掲げた姿に会場中が喜びを爆発させ、歓喜の声を上げた。
ジェンセンを祝福する声はオンライン上でもまたたく間に広がった。
Can't set words on how happy I am for @HueyJensen! One of my best friends that I'll always cherish. Can't find anyone more deserving. Wow.
-- Joel Larsson (@JoelLarsson1991) October 8, 2017
@HueyJensen、おめでとう! こんなヤツは他にいないってくらい大切な親友が勝って、もう言葉が見つからないよ。
"What's new Huey?" I said. "Nothing, just the most prepared I've ever been," he said. The champ is here. @HueyJensen
-- Paul Rietzl (@paulrietzl) October 8, 2017
「これまでのHueyとの違いは?」と尋ねると、彼は「特にない。ただこれまでで一番練習しただけだ」と答えた。これが世界王者だ。@HueyJensen
Hueeeeeeeyyyyyy
-- Gerry Thompson (@G3RRYT) October 8, 2017
開幕から12連勝を達成し向かうところ敵なしと思われたジェンセンだが、優勝への道のりは決して簡単なものではなかった。
ケルヴィン・チュウを相手に今大会初黒星を喫すると、続けてハビエル・ドミンゲスにも敗北。聞き覚えのある名前だと思っただろうか。彼らこそ、ジェンセンが優勝トロフィーを手にするために決勝ラウンドで乗り越えなければならない相手なのだ。
まずはチュウとの戦い。ジェンセンはこの「青黒コントロール」使いの牙城を崩すべく、貴重な打ち消し呪文を的確に放った。一進一退のゲームのすえに、チュウはついにジェンセンの手綱を握り切れなくなったのだ。
しかしスリリングな戦いはこれからだ。ドミンゲスの操る「ラムナプ・レッド」は土曜日の上位卓で猛威を振るい、準決勝でもジョシュ・アター=レイトンを3連勝で打ち破ってきた。通常、「ラムナプ・レッド」は「ティムール・エネルギー」に対しメインデッキは有利とされる。3本先取の決勝ラウンドでは、メイン・ボードで行われる最初の2ゲームをドミンゲスが取るものと思われた。
しかし思わぬことが起きた――ジェンセンが第1ゲームを奪ったのだ。
その後第2ゲームを落とした彼は、第3ゲームも致命打に直面した。だがさすがのジェンセン・マジックと言うべきか、隙があると思われた彼の体勢はフェイントであり、的確な《マグマのしぶき》でこの状況を生き残ると、すぐさま勢いを取り戻した。ジェンセンは頂点まであと1ゲームのところに立ったのだ。
そして再び思わぬことが起こった。第4ゲーム、ドミンゲスは機先を制するために素早く飛び出したが、そのために土地からダメージを受け続けた。ジェンセンによる攻撃でドミンゲスは追い詰められたが、それでも《ラムナプの遺跡》の連打で第5ゲームへの望みをつなげられるところまで持ち込んだ。《山》でもいいし《ショック》でもいい。《稲妻の一撃》でも、《反逆の先導者、チャンドラ》でもいい。
だが彼は、そのどれも引き込めなかった。
「30秒だけ、浸らせてくれ」 試合後、ジェンセンは言った。
もう30秒、想いを馳せるのも大歓迎だ――故郷ボストンで世界選手権優勝を果たした実感を、噛みしめてほしい。
「この特別な大会で優勝することの意味は、あらゆるインタビューで答えたし誰にでも話した」
勝利を噛みしめたジェンセンは、感謝の言葉を口にする。
「まずはオーウェンとリードに感謝を。彼らがいなければ、マジック・プレイヤーとしての今の私は存在しない。それから、チームメイトたち、特にベン・ルービン/Ben Rubinやアンドリュー・クネオ/Andrew Cuneoにも感謝の気持ちを伝えたい」
ジェンセンは友人とチームメイト、そして家族に感謝の気持ちを伝えた。とりわけ家族には深い愛情を込めて。ジェンセンが優勝トロフィーを掲げ、100,000ドルの小切手を高々と持ち上げる場では、ひとりの男が彼の肩に腕をまわし、満面の笑みを浮かべていた。この週末を通して会場で声援を送り続けた、ジェンセンの父親だ。
彼は、息子がマジック:ザ・ギャザリング世界選手権2017王者になる姿を見届けたのだ。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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