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マジックフェスト・横浜2019
準決勝:辻川 大河(東京) vs. 髙橋 哲大(茨城) ~起こしたのは奇跡ではなく~
辻川 大河(写真左) vs. 髙橋 哲大(写真右) |
「メルボルンの奇跡」。
グランプリ・メルボルン2018で優勝を遂げた辻川大河を称した二つ名……らしい。
人に対する呼称というよりは「マイアミの奇跡」に代表されるスポーツ用語のように聞こえる気がするが、それはさておき、本人もこの呼び名を気に入っているようで、生放送の勝利者インタビューでスタジオに招かれた際には自ら積極的に言及していた。
ともあれ、今、辻川が2度目のグランプリ決勝ラウンドに勝ち進み、準決勝に臨まんとしているのは紛れもない現実だ。異なるフォーマットでのグランプリトップ8――辻川はその偉業が奇跡でも何でもなく、実力によるものだと証明してみせたのだ。
髙橋「またドレッジ……」
対する髙橋哲大は、辻川のデッキリストを目にし、そう呟いた。
髙橋の「バント・スピリット」に採用されている墓地対策はサイドボードの《安らかなる眠り》2枚のみと、本大会におけるデッキの中ではかなり薄めの構成となっており、一見すると対「ドレッジ」には苦戦を強いられそうにも見える。
それでも、髙橋はこの準々決勝でその「ドレッジ」を破り、この椅子に座っている。それはやはり奇跡でも何でもなく紛れもない事実だ。
そして、決勝戦の座に着くことができるのはどちらか、ひとり。どちらかが振り落とされなければいけない、それもまた変えることのできない現実である。
準決勝の幕が上がる。
辻川か、髙橋か。
「横浜のファイナリスト」となるべく、ふたりが相まみえる。
ゲーム1
「バント・スピリット」の髙橋がマリガン。その髙橋が《無私の霊魂》でのスタートに対し、辻川が《安堵の再会》で《壌土からの生命》2枚を捨て、これがさらに《臭い草のインプ》を呼ぶ。一気に10枚以上を墓地に送るロケットスタートを切る。
「発掘」持ちのカードこそ墓地に落ちなかったものの、《這い寄る恐怖》と《恐血鬼》《秘蔵の縫合体》があり、序盤のクロックとしては申し分ない。
2枚目の《安堵の再会》は髙橋が先手の利を活かし、《呪文捕らえ》で押し止めるが、これにより《臭い草のインプ》《壌土からの生命》が落ち、続くターンからの連鎖も約束されている。《叫び角笛》で《ナルコメーバ》が落ちる。
序盤からダメージレースを突きつけられた格好の髙橋は《至高の幻影》でスピードアップを図る。《無私の霊魂》の攻撃で辻川のライフは14に。
辻川は続くドローを「発掘」に置換。《ナルコメーバ》こそ戦場に降り立つものの、《秘蔵の縫合体》が《流刑への道》されたことでクロックが一気に下がり、タイトなダメージレース模様となる。とはいえ、《至高の幻影》に加え、さらなる「ロード」が並べられればクリーチャーサイズの都合上、攻撃を通すことは難しくなるだろう。
ゆえに、まずは《無私の霊魂》を除去し、髙橋を減速させつつ、《至高の幻影》を守る防御壁を剥がさなければならない。辻川はこれに対し墓地に落ちていた《燃焼》を「フラッシュバック」する。手札から1枚のカードを捨ててX=1で――
ん? X=1??
「えっ」
瞬間、髙橋が声を上げ、固まる。本当に「1」でいいんですか、そう言いたげに、バツの悪そうな表情で辻川に視線をやる。
そして、気づいた辻川の動きも固まる。
《無私の霊魂》は《至高の幻影》により+1/+1の修整を受けており、つまりタフネスは2。
つまり、この《燃焼》を解決すると、《無私の霊魂》は1点のダメージを受けて、戦場に残る。
辻川は声にならない声を上げ、思わず腕を組んで天井を見上げる。気の短いプレイヤーであればこの瞬間に畳んでいたかもしれない。
だが、辻川は諦めなかった。ターンを返した。
結果としてはこのミスが勝敗に直結するような展開にはならなかった。
髙橋のフルアタックに意を決し、《無私の霊魂》を2体の《ナルコメーバ》でブロックする。そこで放たれた《集合した中隊》は「ロード」である《ドラグスコルの隊長》を髙橋にもたらすことになる。
仮に《無私の霊魂》が除去できていた場合、辻川がもう1枚の《燃焼》を《至高の幻影》に向けた段階で、髙橋は《集合した中隊》をプレイしたことだろう。そうなれば《燃焼》は対象不適正で打ち消されていたことになる。《秘蔵の縫合体》を失った辻川が、髙橋の軍団のクロックを上回るダメージ源を用意できるような状況には見えない。
それでも、起きてしまった事実は覆せない。
思わず「《燃焼》……」という心の声が出てしまう辻川だったが、我に返り「負けですね……何やってんだか」とさらにひとりごちた。
辻川 0-1 髙橋
辻川 大河 |
あまりにイージーなミス。辻川には一瞬の間に後悔、羞恥、その他さまざまな感情が駆け巡ったはずだ。何度も手札と戦場に目をやり、そして頭を抱え自らの過ちを「信じられない」という風に受け止めていた。
「ティルト」――合理的な判断ができなくなってしまうような状況に陥ってしまうのではないか。誰しもミスの後には動揺がつきまとう。
そう心配になって辻川の方を見ると、しかし先ほどコロコロ変わっていた表情が嘘のように、落ち着いた表情で髙橋のデッキリストに目を通しサイドボードのプランを確認している。
仮にもう平静を取り戻しているのであれば、恐るべき精神力だ。
トッププレイヤーに必要な要素のひとつとして、メンタルの重要さを説くプレイヤーは多い。もちろん、他にも数多の要素が必要とされるのであろうが、今の辻川にはそれが備わっているように、傍目からは見えた。
ゲーム2
辻川が《信仰無き物あさり》。《暗黒破》と《秘蔵の縫合体》が墓地に落ちる。《暗黒破》はアップキープにプレイし、「発掘」で置換し手札に戻すことでタフネス2までのクリーチャーをシャットダウンすることができる。対「バント・スピリット」に申し分のないカードだ。
髙橋は《霊気の薬瓶》スタート。辻川はさらに《信仰無き物あさり》を重ねる。《ナルコメーバ》が墓地に落ち、《秘蔵の縫合体》を引き連れ戦場に舞い戻り、4点のダメージ源が形成される。
そして、辻川が最も懸念していたであろう墓地対策。サイドボードから間違いなく入ってくる最強クラスの対「ドレッジ」対策は髙橋の手には……ない!
辻川は勢いよく攻撃に向かい、髙橋のライフは16。後手に回った髙橋は《霊気の薬瓶》からの《霊廟の放浪者》で《壌土からの生命》こそ打ち消すものの、2枚目の《霊気の薬瓶》でターンエンドと。クロックを設置できない。そして辻川はカウンターが2つ置かれた《霊気の薬瓶》を《自然の要求》で割ると、返す「発掘」で《ナルコメーバ》が墓地に落ちる。これが先ほどから墓地に落ちていた2体の《秘蔵の縫合体》を引き連れてくる。
髙橋は《集合した中隊》を唱え、《無私の霊魂》と《呪文捕らえ》を呼び出すのだが、《無私の霊魂》には《暗黒破》が当てられ、ライフが5となったところで、辻川は流れるように《燃焼》「フラッシュバック」をX=5でプレイした。
辻川 1-1 髙橋
髙橋 哲大 |
ゲーム3
髙橋がこのマッチ、初めての7枚キープ。手札には対「ドレッジ最強兵器」《安らかなる眠り》があり、《貴族の教主》スタートと順調な立ち上がりを見せる。
辻川はなんと、《燃焼》X=0という立ち上がり。これに対し、髙橋は意図を計りかねてか、悩む。結果、現段階では大した成果を得られない《安らかなる眠り》を温存し、《無私の霊魂》でクロックを作ることを優先する。
辻川の2ターン目は《燃焼》「フラッシュバック」で《燃焼》を捨て、《無私の霊魂》を除去するというもの。
髙橋は、やはり不穏なものを感じてか、《至高の幻影》を展開し、《安らかなる眠り》を温存する。
髙橋の戦場には4マナあり、《否認》を構えつつ《安らかなる眠り》を設置できるのだが、辻川が《自然の要求》を複数枚持っていることをケアしたのだろう。確実に成果を得られる場面で設置できるよう、機会を伺う。
そして、辻川は動かない。髙橋は《否認》を構えながらダメージを刻みつつ《無私の霊魂》を追加し、静かに辻川を攻めていく。
辻川は今度こそ《燃焼》X=2で《無私の霊魂》を落とすが、ここで《秘蔵の縫合体》を捨てたことで、絶好機と髙橋は《安らかなる眠り》を設置。
《自然の要求》には当然《否認》がノータイムで飛ぶが、やはり辻川の手には2枚目の《自然の要求》が。
最大の懸念材料を処理した辻川は、しかし動けない。いち早く押し切ることが目標となった髙橋は《ドラグスコルの隊長》を追加し、クロックはさらに増加する。
辻川は《信仰無き物あさり》を表裏でプレイするが、手札から捨てるのは《ナルコメーバ》《沸騰する小湖》という、「発掘」を絡めることのできないものだ。
最後に残った手札……《稲妻の斧》(コストは《山》)も《鎖鳴らし》で弾かれると、辻川は堂々と、髙橋の目を見据えて「負けました。決勝頑張ってください」と、決勝戦へ臨む対戦相手を祝福した。
辻川 1-2 髙橋
髙橋哲大 決勝戦進出!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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