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マジックフェスト・横浜2019
第9回戦:細川 侑也(東京) vs. 林 翔也(大阪)〜3回のサプライズ〜
細川 侑也(写真左) vs. 林 翔也(写真右) |
ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019で、井川 良彦に次ぐ成績を収め、来週のミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019への権利を手に入れている細川 侑也。長年にわたり追い求めてきたプロツアー/ミシックチャンピオンシップへの初出場をついに果たした彼は、それまでの努力が花開いたかのように、充実した成績を収め続けている。
グランプリ・名古屋2018でプレミアイベントの決勝ラウンド進出も経験し、このグランプリ・横浜2019でも初日をここまで全勝と、もはや堂々たる強豪の風格を漂わせている。
その細川と8勝0敗ラインで、初日全勝を懸けてぶつかることとなった林 翔也は、The Finals 2017で津村 健志と最後まで優勝を争った経験を持つ。
初日の好成績が確定しており、たとえ敗北してもトップ8への道が絶たれるわけではないこのラインでの戦いは、往々にして試合前に雑談が交わされることになる。
その例に漏れず、ふたりは短い時間ではあるが笑顔を浮かべながら雑談に興じる。だが、試合開始のコールがかかれば一気に空気は張り詰める。
0と1。たったひとつの敗北が、命運を分け得ると歴戦のふたりは知っているから。
グランプリ・横浜2019、初日最終戦が幕を開けた。
ゲーム1
先手の細川が第1ターンにセットした土地は……《溢れかえる岸辺》!
細川を知る人間にとって、これはサプライズと言えるだろう。細川がここまで使い込んでいたデッキは「ドレッジ」。《溢れかえる岸辺》は「ドレッジ」には一般的に入り得ないカードだ。先週のWPNプレミアムトーナメントでもトップ8入賞という好成績を残したその愛機を選択しなかった。確かに現在はメインデッキから《外科的摘出》や《大祖始の遺産》といった墓地対策が散見され、メインデッキ戦を勝利することが至上命題であった「ドレッジ」に逆風が吹いている環境ではある。
だが、同時にモダンは「やりこみゲー」と言われるほどに、使用デッキへの習熟度がものを言う環境だ。多大な時間を割いてきたデッキを使わないこともまた、大きなリスクと言っていいだろう。
だが、細川は踏み込んだ。ミシックチャンピオンシップを翌週に控え、前哨戦となるこのグランプリで新たなデッキを使用する決断を下した。それは、ここまで8勝無敗で勝ち進んできていることからも英断だったと言える。
話をゲームに戻そう。林のファーストアクションは《ミシュラのガラクタ》で自分のライブラリートップをチェックすると、即座に《汚染された三角州》を起動。不要牌をシャッフルしつつ《湿った墓》をアンタップインし、《コジレックの審問》。林はモダンの王道デッキのひとつである「グリクシス・シャドウ」を選択している。
細川は抵抗することもなく、手札を露わにする。
《呪文嵌め》
《マナ漏出》
《拘留の宝球》
《選択》
《汚染された三角州》
「青白コントロール」
マジック黎明期から存在する古き良きコントロール、細川はそのモダンバージョンを手にとった。このデッキもまた、現在のモダンでは有力なデッキであり、王道と言っていいだろう。
細川のデッキ選択が明らかになったところで、林は細川の手札から《選択》を墓地へと送る。先手を取られている以上、《マナ漏出》は間違いなくどこかで刃を向けてくるだろう。《瞬唱の魔道士》くらいにしか刺さらない《呪文嵌め》は置いておくとして、どんなクリーチャーにも対応できる《拘留の宝球》も厄介そうだ。一見すると非常に難しい選択に見える。だが、林は前述の通りドロー操作である《選択》を捨てさせた。それはつまり、その妨害呪文たちを乗り越えるだけの手段があるということだ。
林は《通りの悪霊》サイクリング、2枚目の《ミシュラのガラクタ》と、キャントリップを重ね墓地を肥やしていく。
そして、《湿った墓》を立たせながらの、《グルマグのアンコウ》。見えていた当然の《マナ漏出》に対し《頑固な否認》でまずは細川の繰り出す妨害呪文を1枚、弾いてみせる。
あとは《拘留の宝球》をどうにか…というところだったが、なんと細川は3枚目の土地が引けない。
結果、細川は《拘留の宝球》を唱えることすらできず、さらに林は《死の影》を追加する。細川はドローステップを経て短く「負けました」と早くも投了を宣言した。
林 1-0 細川
林 翔也 |
ゲーム2
またも林が《通りの悪霊》2枚、《思考掃き》という、キャントリップを重ねていく立ち上がり。
土地を並べターンを静かに返す細川に対し、林は「グリクシス・シャドウ」らしくフェッチランドから《湿った墓》《血の墓所》を連続でアンタップインし自らのライフを減らしつつ、はやくも《グルマグのアンコウ》! 細川の手からカウンター呪文は……飛んでこない!
先程と同じく、序盤の脅威にさらされることとなった細川は、しかしながら《廃墟の地》で林が立てていた《湿った墓》を破壊し、基本土地の少ない林のデッキのマナベースを攻めていく。そうして、第2メインフェイズに《斑岩の節》!
これで《グルマグのアンコウ》を失ってしまうことが確定した林は、《通りの悪霊》をサイクリングし、自らのライフを6まで減らしつつ、先のプランを立てるため《集団的蛮行》で細川の手札を確認する。
《謎めいた命令》
《精神を刻む者、ジェイス》×2
《終末》
細川の手札は濃厚だったが、しかし4枚目の土地がなく、全てが現状はプレイできないものだ。
林はここから《謎めいた命令》を墓地へと送る。《グルマグのアンコウ》は《斑岩の節》と交換になってしまうが、2枚目の《グルマグのアンコウ》で脅威を切らさず、4枚目の土地さえ引かれなければ一気にマウントを取れる状況に。
そして、細川は4枚目の土地を……引けない。ただ力なく「終わりです」と言葉を発しターンを返すことしかできない……ように見えた。
林は、すこしバツの悪そうな表情を浮かべながらも、迷いなく《グルマグのアンコウ》をレッドゾーンへと送る。その刹那、細川は引き込んでいた《流刑への道》を《グルマグのアンコウ》へと唱えた。
土地ではなかったがしかし、細川は林の脅威への回答を手に入れていた。
林の3枚目の《グルマグのアンコウ》に対しても、細川は《瞬唱の魔道士》からの《流刑への道》を「フラッシュバック」し、対処してみせる。
そして、このたった2点のクロックは、度重なる土地からのダメージで既にライフが4となっている林にとっては致命傷になり得る。マナフラッド気味な林は《四肢切断》でこれを除去するが、しかし細川はこのタイミングで4枚目の土地を引き込んでいた。つまりは、《精神を刻む者、ジェイス》の時間だ。
林は《死の影》をプレイするが、細川は《精神を刻む者、ジェイス》でこれをバウンス、さらにこちらもまた強大な力を持つプレインズウォーカー《ドミナリアの英雄、テフェリー》を降り立たせる。
先ほどまで攻め立てられていたはずの細川が、一転して盤面を掌握した。
林は《ドミナリアの英雄、テフェリー》のプレイに《瞬唱の魔道士》を合わせ、《思考掃き》でドローを進めつつ返す攻撃で《精神を刻む者、ジェイス》を退場させたものの、続く《思考囲い》に対して細川は《瞬唱の魔道士》の2枚目をプレイする。
林は手札に残る2枚目の《精神を刻む者、ジェイス》を落とし、《死の影》を再展開するが、《思考囲い》により、《瞬唱の魔道士》の一撃でライフが0以下となることが確定してしまった。
細川がこの詰将棋を間違えるはずもなかった――《拘留の宝球》で《死の影》を追放、然るのちに《ドミナリアの英雄、テフェリー》が[-3]能力を起動すると、林を《瞬唱の魔道士》の攻撃から守る手立ては一瞬で失われ、王道デッキ同士の戦いは3本目へともつれ込むことになった。
細川 1-1 林
細川 侑也 |
ゲーム3
林が《血清の幻視》《ミシュラのガラクタ》と続け、またしても《思考囲い》で細川の手札を検閲する。
土地が3枚に《天界の粛清》《選択》《大祖始の遺産》……そして《変遷の龍、クロミウム》!?
林の表情が一気に怪訝なものへと変わる。それはそうだ、これまで「青白コントロール」の動きしかしていなかった細川のデッキに突如異物が現れたのだ。対戦席に座る林は気が気でないだろう。このゲーム2度目のサプライズは、やはり細川がもたらした。
さすがに不穏なものを感じたか、林は細川が7マナに到達するであろうと見越し、紛れもないフィニッシャーである《変遷の龍、クロミウム》を墓地へ落とす。ここで細川が初めて《溢れかえる岸辺》から《湿った墓》をサーチし、改めてデッキに潜んでいた黒マナの存在を明らかにする。
とはいえ、細川のサプライズは不発に終わっている。まずは《大祖始の遺産》で林の墓地を縛り、《グルマグのアンコウ》の「探査」を妨害しつつ《瞬唱の魔道士》への牽制とする。
だが、林はそれでも《瞬唱の魔道士》をプレイし、細川に《大祖始の遺産》を消費させる。もったいないようにも見えるが、しかし細川のデッキが普通の――林が想像しうる範囲の――「青白コントロール」でないとわかった以上、林としては速やかにゲームを終わらせたい。まだ細川のデッキにサプライズが眠っている可能性があり、しかも恐らくそれは林にとって嬉しいものではないはずだ。2点とはいえ、クロックの設置は林にとって急務といえ、そしてひとまずそれは成功した。
林はさらに《ミシュラのガラクタ》で自らのライブラリートップをチェックする。そして、《汚染された三角州》を起動せず残したままターンを返した。
細川はその些細な動きを見逃さなかった。間違いなく、林の続くドローは有効牌と見ていい。そう判断して細川は《ミシュラのガラクタ》の誘発型能力の解決許可を求める林を制し、《廃墟の地》で強制的にライブラリーをシャッフルさせる。細川にとっては、きっと当たり前のプレイなのだろう。だが、こういった細かい手順からこそ、細川の経験を、強さを垣間見ることができる
とはいえ、現状攻めているのは林だ。《思考掃き》で再び手札と墓地を整えると、またしても《思考囲い》。合わせられた《謎めいた命令》を《軽蔑的な一撃》で弾き、《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》《瞬唱の魔道士》《天界の粛清》《終末》から《瞬唱の魔道士》を落とし、攻撃を継続する。
さらに細川が引き込んだ《精神を刻む者、ジェイス》も《軽蔑的な一撃》で退け、《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》も《否認》し、2点ずつダメージを与えつつ、細川のライフを8まで落とし込む。
結局、細川は《瞬唱の魔道士》1枚に対して《終末》を使わざるを得ず、《天使の粛清》をもさらなる《思考囲い》で失い、林がフィニッシャーとして繰り出した《死の影》を対処する術を手札から失ってしまう。そう、手札からは――
みたび起きたサプライズは、林にとって嬉しくないどころか、致命的なものだった。ライブラリーから降ってきた「奇跡」は林が現在用意しうる最後の脅威を、ライブラリーの文字通りどん底へと突き落とした。
細川は、ノータイムで《天界の列柱》による攻撃に回る。度重なる《思考囲い》と土地からのダメージでライフが7まで落ち込んでいた林は、《集団的蛮行》をただの2点ドレインとして使わざるを得ない。
ここに至っても冷静な細川は《廃墟の地》で林が持つアンタップ状態の唯一の黒マナ――《湿った墓》を破壊する。林のライブラリーに基本土地は、もうない。《致命的な一押し》もケアし切って《天界の列柱》での攻撃を継続する細川は、初日全勝を決めると思わず咆哮したのだった。
細川 2-1 林
細川 侑也 初日全勝! |
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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