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マジックフェスト・京都2019
「英雄譚」:井川 良彦~折れない心の根源~
ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019。日本勢で唯一決勝ラウンドに進出し、決勝戦まで上りつめた井川良彦。
惜しくも優勝こそ逃したものの、次サイクルより現行のプロポイントシステムで最高レベルとなるプラチナレベルに到達する。
2度目のミシックチャンピオンシップ/プロツアー3日目を経験し、一躍日本のトッププロまで駆け上がった井川だが、彼のここまでの道程は決して順風満帆なものではなく、むしろ苦難の連続だった。
ふたたび歴史に名を刻み、英雄となった井川の物語とは……?
Ⅰ マジックと、仲間との出会い。そして、初のプロツアーへ
井川がマジックと出会ったのは中学2年生の冬。一番仲の良かった友人から教えてもらったマジックを、カジュアルに楽しんでいくことになる。のめり込み過ぎることもなく、学業と両立しながら二度の受験を乗り越え、無事大学生となった。特に、大学受験の半年前からはほぼカードに触ることは無かったという。
だが、井川はマジックのことを忘れることはなかった。
「大学受験が終わったその日に『ミラディン』と『ダークスティール』のカードを全部揃えたんだよね(笑)」
マジックに復帰後、井川はイグニス大泉学園本店に通い詰めるようになる。そこで知り合った友人、井川からすれば「先輩」という表現が正しいだろうか。彼らの影響を受け、グランプリやプロツアー予選へ出場するようになっていく。
「田中久也さん、ユン・スハンさん、安富(浩人)さんたちと仲良くさせてもらって、彼らが競技志向だった影響があってそう(競技イベントに出場するように)なったね」
今でこそ「マジックオールイン勢」と言っていい井川だが、当時は授業やサークルといった大学生活をおろそかにすることもなく、全力で日々の生活を過ごしていた。
そんな井川がプロツアーの権利を得たのは大学4年生の時。「就活のスーツのまま出た」プロツアー・横浜2007直前予選を突破し、初めてのプロツアー出場を果たすことになる。
しかし、その待ちに待った大イベントは、井川にとって不完全燃焼に終わる――
Ⅱ 2度目のプロツアー出場、流した涙の先に待っていたもの
3勝5敗での初日落ち。
「フォーマットが悪かったよね」
インタビューの際、隣にいた鍛冶友浩(プロツアー・チャールストン2006王者、井川と旧知の友人)が思い出すように声をかけた。プロツアーの前日に行われ、井川が突破した直前予選のフォーマットはスタンダード。だが、肝心のプロツアー本戦は『時のらせん』ブロック構築で行われたのだ。当然、満足な調整ができる時間などあろうはずもなく、事前にプロツアー権利を得ていた仲間たちの調整に使っていたデッキを手に挑むこととなった。念願だったはずのプロツアーは、あまりにタイミングが悪すぎた。
そこから、井川は2度目のプロツアーを目指すことになるのだが、その道は長く苦しいものとなった。
井川はプロツアー予選、グランプリに出続けた。その数、実に40回以上。
時にはあと一歩まで迫りながら、権利を手にすることができなかった。何度も何度も見えない壁に跳ね返された。
そして、初めてプロツアーに出場してから2年半以上経過した2009年11月。ついにその時がやってきた。
プロツアー・サンディエゴ2010予選、優勝。長い長いトンネルを抜けた井川は決勝戦を終え、涙を流した。2年半、3年近くに渡る思いが凝縮されていたのだ。
「ずっと2回目(のプロツアーに)に出れなかったから……感慨深かったよね」
少し恥ずかしそうに振り返る井川。だが、その涙の後にはさらなる歓喜が待っていた。
横浜の時とは異なり、調整を重ね挑んだプロツアー・サンディエゴ2010で初のトップ8進出、栄光のプロツアーサンデーへ進出したのだ。
惜しくも準々決勝で敗れはしたものの、マジック最高の舞台での経験は井川をさらに魅了した。だが、井川に待っていたのは華々しいプロレベルでの活躍ではなく、またしても長いトンネルだった。
Ⅲ 苦しい時には、いつも仲間が側にいた
「順風満帆……ではなかったね」
井川は噛み締めるように当時を振り返った。井川はサンディエゴでの快挙から、しばらく時が経つとまたしてもプロツアー予選やグランプリでプロツアーの権利を目指す立場となっていた。
以前と異なり、コンスタントにプロツアーへ出場するようにはなったものの、プロツアーへ年間を通じて参戦できるプロプレイヤークラブのゴールドレベルには長い間到達することができなかった。あれだけ参加していたグランプリの決勝ラウンド進出も、グランプリ・北京2015まで達成することができなかった。
またしてもあと少しのところで届かない、長いトンネルの連続――辛くはなかったのだろうか。心は折れなかったのだろうか。
なぜここまで続けてくることができたのか――そうたずねると、井川は実にあっけらかんと答えてくれた。
「楽しいからじゃない? 楽しくなかったらやってないから。勝ったら嬉しいし、負ければ悔しい。全部ひっくるめて楽しいから続けてるんだと思うよ」
野良ドラフトでも、プロツアーでも、等しくマジックが楽しい。あと一歩目標に届かなくとも、何度挑んでも跳ね返されようとも、井川はマジックが楽しいからこそ続けてこれた。
それでも、プロツアーの権利が途切れた時には、「もう止めよう」という気持ちが頭をよぎったという。そんな時に井川を助けたのは、マジックの神様……ではなく仲間の存在だった。
「止めようと思ったタイミングで毎回勝っていたからね(笑)。僕はチームリミテッドにすごく救われてるんだよ。1回目がタキニキ(瀧村 和幸)、ライザ(石村 信太朗)と出たグランプリ・北京2015は次のプロツアーの権利が無い状態でトップ4に入賞して。2回目のグランプリ・シドニー2017の時はまさにシルバーレベルから落ちる手前だったんだけどナベ(渡辺 雄也)とカカオ(中村 肇)と出場して準優勝したおかげで、シルバーレベルを継続できて……。前回のグランプリ・名古屋2018の時も権利が切れそうなところで(中村)修平さんと松本 友樹さんと出て、プロツアー権利を継続できたんだよね」
「友達が強い(笑)」と謙遜する井川だが、その彼らと知り合いチーム戦をともにするまでの絆を培えたのは、彼がここまで真剣にマジックに取り組んできたからだ。その積み重ねがあったからこそ9年ぶりに最高峰の戦いで決勝ラウンドに進出し、ついにプラチナレベルへ到達したのだ。
MPL入りも見えてきた今、マジックの楽しさについて改めて問うと、井川からは即座に答えが返って来た。
「変わらないねえ(笑)。友達と共通の目標を持って練習する、っていうのが好きなんだろうね。大会本番に限らず、練習過程も楽しい……部活みたいなものなのかな。目標が変わっても楽しさの本質は変わらないから」
井川の周りにはいつも同じ目標を持つ仲間がいた。店舗の仲間、プロツアー予選を戦う仲間、プロツアーをともに戦う仲間、そして今ともに調整している「Kusemono」の仲間……。
MPL、そして世界選手権出場を目指す井川はこれからもマジックを楽しみ、それがどんなに長く苦しい道程であっても定めた目標に向けて、彼の英雄譚をさらに紡いでいってくれることだろう。
彼の周りには、ともに戦う仲間たちがついているのだから。
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