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『カルドハイム』チャンピオンシップ
憧憬、情熱、思い描く将来
2021年3月31日
競技シーンに身を置く者としての例に漏れず、アルネ・ハッシェンビス/Arne Huschenbethはトロフィーを手にするその瞬間を夢に見ていた。大舞台、沸きあがる観客、火花とスモーク。しかし、現実は彼が頭に描いていた風景とは大きく異なるものだった。静寂が自室を包み込む午前3時過ぎ、ドイツ、ベルリンの自宅にて、ハッシェンビスは最後の戦いに挑んでいた。
しかし、彼が『カルドハイム』チャンピオンシップの王者に輝いた瞬間に、それらはどうでも良いこととなった。
「優勝の喜びを言葉で表すのは困難だよ。いつだって夢に見てきたし、優勝することも思い描いてきた。でも、それが意味するところは今だって変わらない。私が興奮のあまり震えていたのを見たでしょ?」 チャンピオンシップマッチでグジェゴジェ・コワルスキ/Grzegorz Kowalskiをストレートで打ち破った1時間後、彼はそう振り返った。「今この瞬間に自分が王者であるという不変の事実、そしてそれが偶然の産物などではなく、これまでの努力が実を結んだ結果だという確固たる証拠、こういった決して失われることのないものが得られたことは、名状しがたい素晴らしさがあるよ」
元世界王者であるハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezに2度も勝利するなど、3日間を通して圧巻のパフォーマンスを見せた23歳のハッシェンビス。今回が自身2度目となる世界最高峰のイベントでのトップ8進出であったが、見事に頂点まで上り詰めたのだ。
7歳でマジックと出会ったハッシェンビスにとって、それは彼のこれまでの人生において極点となる出来事であったに違いない。欧州各地を飛び回り「プロツアー予選」に参加するなど、それが可能になるや否やマジックに打ち込み始めたハッシェンビスは、まだ高校を卒業していない若きプレイヤーであった。2015年、初めて参加したフライデー・ナイト・マジックでは『運命再編』のブースタードラフトに、『カルドハイム』チャンピオンシップで多くのファンを獲得した際に見せたものと違わぬ粘り強さで挑んだ――そこから彼が、憧れを抱いていたトッププロたちと同じ道を歩むまでに、そう長くかからなかった。
「どれだけやっても満ち足りなかったんだ。ただただ、足りなかったんだよ」 彼はそう振り返る。「17歳の頃、朝5時に起きて6時間かけてプロツアー予選に出た。電車に乗って国内を飛び回ってね。今思うと向こう見ずだったと思うよ。でも、このくらいの情熱がないといけないんだ」
十分すぎるほどの熱を宿していたハッシェンビスが好成績を残すようになるまでそう長くはかからなかった。3度目のグランプリでトップ8入りを果たすと、10度目にはトロフィーを握っていたのだ。着々と競技シーンでの立ち位置を押し上げたハッシェンビスは、4年間で7度もグランプリトップ8に輝くなど、その道程でも彼を支える仲間たちを驚かせた。
「アルネは未知のピースを巨大なパズルにはめることができる超人的な能力の持ち主だよ」 ライバルズ・リーグ所属選手であるトラルフ・セヴラン/Thoralf Severinはそう語る。
「プレビューカードについて話し合っている時、アルネはカードパワーに対する評価が恐ろしいくらい正確なんだ。メタゲームのようなとても複雑なシステムもしっかり考え抜き、たどり着いた仮説の中でも正しいものを選ぶ能力に秀でている。そしてたとえ間違っていたとしても、なぜそうなったかわかっているんだ。正直言って、アルネが二度同じ間違いを犯したところを見たことがないよ。彼の記憶力は凄まじいね。彼がカバレージを見たことのあるトップ8はすべて暗唱できるよ。こんな類まれなる能力を持ちながら、気が遠くなるほどの努力と練習を重ねてきた。つまり、アルネは何でも知っているってことだ」
セヴランは熱を込めて、このように締めくくった。「これらすべてを合わせると、アルネは無類のデッキビルダーだということがわかる。私たちのような普通の人が試行錯誤を繰り返して辿り着くところ、彼はそこからスタートをするんだ」
同郷の盟友であり、2019ミシックチャンピオンシップⅣにおいて王者に輝いた英雄であるセヴランから贈られた最大の賛辞だ。ハッシェンビスはグランプリでトロフィーを獲得してからもなお、ハイペースで好成績を叩き出していった。しかし、ここで思わぬ壁に突き当たる:世界的な大会で目立った成績を残したことはなかったのだ。
「なかなかブレイクするには至らなかったんだ」 ハッシェンビスはぶっきらぼうにそう語った。「そのまま突き進むべきなのか、疑問に思っていた。3大会連続で良い成績を残せないと、ただ時間を無駄にしてるだけなんじゃないかと思い始めるんだ。その時は自分自身に満足していなかったね。2020プレイヤーズツアー・オンラインではトップ4に入れたものの、2020年シーズン・グランドファイナルでは成績が振るわず、少し休憩を取ることにした」
間もなくして、かつてハッシェンビスの内に煌々と灯っていた火種はくすぶることとなる。参加資格のある世界規模のトーナメントがなくなり、母にせがまれていた学業に集中すべく、競技シーンからは距離を置くことにした。
これはハッシェンビスにとっては待望の休息だった。周りの環境を再編成し、彼に初めてマジックを教えた張本人である兄ニコラスを頼ることにした。ニコラスはチェスの競技シーンに身を投じ、2012年にはグランドマスターの称号を手にしたプレイヤーだ。
「もちろん、彼からはいつも良い刺激をもらっていたよ。兄であるだけでなく、素晴らしい能力も持っていたからね。ドイツ史上最も若いチェスのグランドマスターの1人なんだ。それにチェスとマジックどちらもプレイする弟もいるから、戦術に長けた血筋だね」 ハッシェンビスはそう説明した。「父は兄が5歳の時にチェスを教え、彼が7歳になるとチェスクラブに通うようになった。私も5歳でチェスを始めたが、その時兄はすでに11歳。トーナメントで戦うたびに惨敗したので、チェスにはまることはなかったね。そこまで面白くも感じなかったんだ。そこで兄はマジックを教えてくれて、長期休みにとにかく遊んだ。プロツアーとか、そういうものの存在なんて知らずに、ただブースターパックを開けて80枚のカードで遊んだんだ」
それがハッシェンビスの胸に火が灯った瞬間であった。十分な休息を取り、マジックに出会った頃を回想すると、今こそ再び戦いの場へと戻る時だと決意を固めた。以前に挑んだトーナメントでは『カルドハイム』チャンピオンシップへの出場権を獲得することができなかったため、まずはMTGアリーナでの予選を通過しなければならなかった。
1月の予選ウィークエンドで目標を達成したハッシェンビスは、研ぎ澄まされた集中力を持って競技シーンへと舞い戻った。妙々たるメタゲームの分析力と、3日間を通して見せた目ざましいプレイにより、彼が獲得したのは王者の称号だけではなかった――火はかつてのように激しく輝き、自信は再びその胸を満たした。
「人間というのは、自分自身を低く評価しがちなんだ。今回の経験で私が学んだのは、情熱と時間を注ぎこんで何かに打ち込めば、達成できないことなんてないということだ」 彼はそう語った。「今の目標はMPLに入ることと、世界王者になることだね。あとはもっとコンテンツを作りたい。私のインタビューやプレイ中のリアクションを見た人の感想を聞くと、自分の性格に無限の自信を持てるんだ。そうすると、配信だったりコーチングだったり、Youtubeのチャンネルを作ったりとか、あらゆることに自信が持てる」(編訳注:リンク先は英語)
「トーナメント参加中は本当に凄まじい応援をいただいた。圧倒されたし、本当に感激した。電話がひっきりなしに鳴ってて、自室に1人でいる感覚がなかったね。ものすごく勇気づけられた。だから彼らにそれを誇らしく思ってほしかったんだ」
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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