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マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2025

決勝:矢田 和樹 vs. 原田 将吾 ~主人公になる日~
私たちは誰しもが、物語の中を生きている。
それは、自分自身が主人公の物語だ。だが当然、私たちが日常で目にするような映画、ドラマ、マンガ、アニメ、ゲーム、小説などの物語のように、尺という程よい区切りで何らかの結末へと落着することが保証されているものではない。生きている限り、人生は続く。先の見えない未来に関して日々様々な選択を迫られ、葛藤に悩まされている。
競技に身を置くということは、その葛藤と絶え間なく向き合い続けるということだ。
誰もがトロフィーを勝ち取れるとは限らない。「努力が足りない」なんて言葉は外野だから言えることだ。発想力で、思考のスピードで、メンタルで、対応力で、自分より優れたプレイヤーなど競技の世界にはいくらでも存在している。それ以上に「才能がない」という最も残酷な結論が出てしまったとき、「それでも」と自分を変える覚悟を持ち続けること。それができなければ、勝負の世界では生き残れない。
決勝まで勝ち上がったBIGsの矢田 和樹は、そんな葛藤と10年近く向き合い続けてきたプレイヤーだ。競技を志してからの成果は早く、グランプリ・東京2016やグランプリ・京都2017、グランプリ・台北2019と4年で3度のトップ8入賞。プロツアー等の招待制大会への出場経験も豊富で、直近でも3月末の「アリーナ・チャンピオンシップ8」でトップ16に入賞したほか、先日ラスベガスで開催されたプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』にも出場していた。
それでも、タイトルにだけは縁がなかった。「よく勝っている」「名前をよく見る」と言われることはあっても、絶対の記録とともにプレイヤーの鮮烈な記憶に刻まれる体験が欲しかった。しかも近年、プロシーンをともに戦う近しい日本人プレイヤーたちが次々と活躍していくのを間近で見ることが多くなっていた。プロツアー『サンダージャンクション』での、井川 良彦と高橋 優太との決勝戦。プロツアー『霊気走破』での、原根 健太の長年の苦闘の結実。そしてつい2週間前のプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』では、矢田自身が初日5勝3敗から2日目0勝5敗で辛酸を舐めた一方で、行弘 賢が見事な優勝を果たしていた。
「彼らと自分とでは、何が違うのだろう?」
マジックというゲームにはどうしても運が絡んでしまう以上、競技として向き合うならば少しでも正しい判断をして、少しでも多くの抽選を受けるしかないことはわかっている。その判断の精度がまだ足りないとすれば、プロツアー出場という抽選回数において差が出てしまうのは仕方がないかもしれない。しかし、報われる日は本当に来るのだろうか?
そんな思いをきっと抱えながらも矢田は、このジャパンオープン2025へのエントリーを決意した。単発の大会ではあるが、これも抽選だ。そしてその結果、ここまでたどり着いた。あれほど焦がれたタイトルに、あとたったの一歩というところにまで。
一方、対する原田 将吾はそんな矢田とは対照的に、カジュアルを突き詰めたようなプレイヤーだ。23年という長いマジックキャリアを持ちながらも、競技シーンとはほとんど無縁。一つのフォーマットに精通するよりも、MTGアリーナ上の特殊フォーマットでお題に合わせたデッキを使って対戦するような、バラエティ豊かな付き合い方を続けてきた。
だがそれが逆に、原田の地力を培ったのかもしれない。一次予選を抜けたオリジナルの《碑出告の第二の儀式》バーンは、このフォーマットのBO1対戦におけるソリューションの一つと言えた。また二次予選とこの決勝大会で使用した「黒単セフィロス」は、世界王者・高橋 優太のリストを記事から拝借したとのことだが、二次予選から決勝大会に進むにあたっての《更に闘う者達》ピン差しなどの独自のチューンは、限られたカードプールと向き合った経験抜きではなしえないものだった。
カジュアルであることと真剣であることとは当然両立する。原田にとっては勝つことや強くなることを最優先にしなくても、ただ楽しむことこそが結果としてそれらへの最短ルートなのだと、証明できる貴重な機会でもあった。
だから。
問われているのは結局、矢田と原田のどちらが物語の主人公になれるのかというだけだった。世界を救うのではなく、自分自身の物語を救うために。
決勝戦が、そして始まった。
ゲーム 1
先攻の矢田がワンマリガンながらも《ラノワールのエルフ》スタートなのに対し原田は《寄生の賢者》で応えるが、なおも矢田は2ターン目《ティファ・ロックハート》でプレッシャーをかける。ここで1マナ立っているため返す原田は《蛇皮のヴェール》の有無を確認すべく一旦第2メインまで入って優先権チェックするのだが、手練れの矢田は当然フルコントロールにしており情報を拾わせない。そして原田は《闇の腹心》を送り出す。
ここで矢田は《原初の力》X=2で《闇の腹心》を除去してからセットランドで上陸を誘発させ、6点アタックでターンエンド。だが原田は《寄生の賢者》攻撃から《踊り食い》を《ティファ・ロックハート》に当て、これが通って《蛇皮のヴェール》を持っていないことを確認。さらに送り出したのは2体目の《闇の腹心》!
それでも矢田も《サッズのヒナチョコボ》《旅するチョコボ》と召喚。トップが《苔生まれのハイドラ》なのを確認したのち、少し悩むが最後の手札である《森》を置いて《サッズのヒナチョコボ》を2/3にまで育てる。だが返す原田は昆虫トークンで1点アタック後に《真夜中の死神》を召喚すると、さらに《踊り食い》2枚目で《旅するチョコボ》を除去。相手のリソースエンジンは潰し、自分はリソースエンジンを定着させる基礎に忠実な動きで矢田を締め上げていく。
続くターンに矢田は《魂石の聖域》をクリーチャー化して《サッズのヒナチョコボ》ともども攻撃させ、《魂石の聖域》と《真夜中の死神》とが相打ちとなりつつ原田の残りライフを9点まで追い詰めるのだが、なおも原田は《大群への給餌》で《サッズのヒナチョコボ》を除去から《真夜中の死神》2枚目と丁寧な捌きを見せる。
しかし矢田も《苔生まれのハイドラ》+《冒険者の装具》と展開して粘りを見せる。《闇の腹心》のダメージもあり、この時点で原田のライフは残り7点。《進化する未開地》さえ引ければ、盤面の展開と関係なくいきなりの20点ワンショットが狙える。返す原田の《マラキールの門番》キッカーも《ラノワールのエルフ》生け贄でかわし、続けて5点アタックを受けても矢田のライフはまだ11。《暗黒騎士、セシル》も戦場に追加されるが、見た目上では矢田が死ぬまでにはまだ2ターンの猶予がある。
その1ターン目、祈りながらの矢田のドローは……残念ながら《苔生まれのハイドラ》で、そのまま出してターンを終えるしかない。
返すターン、《闇の腹心》がめくったのは《更に闘う者達》で、ライフ4点まで下がりあわや自爆という局面になるが、原田は冷静に《暗黒騎士、セシル》だけアタックして残り2点としつつも《覚醒のパラディン、セシル》へと変身&アンタップさせると、戦闘後に《魔晄都市、ミッドガル》の出来事側を唱えて自ら《闇の腹心》を処分。《真夜中の死神》の能力が発動するがそれでも残りライフ1点でギリギリ耐えている。《マラキールの門番》キッカーで2体の《苔生まれのハイドラ》のうち1体を除去してターンエンド。
すなわち、《進化する未開地》を引けば勝ちという状況に変わりはない。引けば勝ち、引けなければ……。
そんな矢田のラストドロー。その1枚はしかし、《蛇皮のヴェール》なのだった。
矢田 0-1 原田
ゲーム 2
先攻7枚キープながらも2ターン目までアクションがない矢田に対し、原田は《寄生の賢者》から《暗黒騎士、セシル》と順調にクロックを展開する。それでも矢田が初動となる《春花のドルイド》でマナを伸ばしたのに対し、返す原田は3マナ目が《魔晄都市、ミッドガル》タップインで3点アタックのみでターンエンド。するとここで矢田は《春花のドルイド》1点アタック後、《苔生まれのハイドラ》をポン置きして勝負に出る。もしエンド前にインスタント除去→メインでソーサリー除去という流れなら《蛇皮のヴェール》すらも貫通されてしまう状況だが、はたして2マナ構えた原田の手札にインスタント除去は……ない!
ターンが返ってきた原田は再び3点アタック後、《蛇皮のヴェール》の匂いを強烈に感じ取りながら《踊り食い》を唱えるしかないが、これは矢田が《蛇皮のヴェール》でしっかりとかわす。そしてそのまま返すターンに《サッズ・カッツロイ》から《森》サーチしつつそのまま置いて《苔生まれのハイドラ》を4/4にまで育てると、2体アタックで《春花のドルイド》と昆虫トークンとが相打ちになるも、なおも《カビのマムシ》をも盤面に追加する。
それでも原田はライフが矢田13対原田11という状況で《暗黒騎士、セシル》を攻撃に向かわせ、矢田が変身を嫌って《サッズ・カッツロイ》で相打ちさせたところで、2体目の《暗黒騎士、セシル》を送り出しつつ《苔生まれのハイドラ》に《死の印》と上々の捌きを見せる。そのまま返しのターン、3/3となった《カビのマムシ》の攻撃は《暗黒騎士、セシル》で相打ちに打ち取り、互いの盤面は更地。これで矢田が息切れしてくれれば……という状況。
だが第2メインを迎えた矢田のアクションは、《苔生まれのハイドラ》召喚からセット《魂石の聖域》、そのまま《旅するチョコボ》!
土地が3枚で詰まってしまった原田はこれに対して《威名のソルジャー、セフィロス》をブロッカーに立てることくらいしかできない。そのまま矢田の《旅するチョコボ》が1ゲーム遅れでライブラリートップから《進化する未開地》を連れてきたところで、32点パンチを見届けるまでもなく原田のアバターが爆発したのだった。
矢田 1-1 原田
ゲーム 3
先攻の原田が7枚キープ、後攻の矢田が《森》《ラノワールのエルフ》《ラノワールのエルフ》《サッズのヒナチョコボ》《サッズのヒナチョコボ》《ティファ・ロックハート》《蛇皮のヴェール》という7枚をマリガンしてゲームが開始する。《寄生の賢者》に対し送り出された《サッズのヒナチョコボ》には《突き刺し》を当て、さらに2体目の《寄生の賢者》を送り出して原田がマナを使いきりながら展開で先行する。しかも後手2ターン目のアクションがない矢田に対し、原田がダメ押しで送り出したのは《闇の腹心》!
矢田も《春花のドルイド》でマナを伸ばすが、返すターンに《闇の腹心》が《踊り食い》をめくりながら送り出されたのは《威名のソルジャー、セフィロス》!もはやリソースには事欠かないと判断したか、2体の《寄生の賢者》のうち1体を生け贄後に《闇の腹心》ともう1体で攻撃し、贅沢にも役目を終えた《春花のドルイド》と相打ちという結果になりながらも、矢田のライフを13点まで追い詰める。
それでも矢田も《サッズ・カッツロイ》で《サッズのヒナチョコボ》サーチからそのまま展開して耐えようとするが、なおも原田は《大群への給餌》《踊り食い》と連打し矢田のクリーチャーを殲滅すると、《威名のソルジャー、セフィロス》で昆虫トークンをドローに回しつつ攻撃。かくして矢田は盤面更地でライフ6点、原田の側に《威名のソルジャー、セフィロス》に昆虫トークンと未起動の《魂石の聖域》、手札もまだ2枚残っているという絶望的な状況まで追い詰められてしまう。
0/1の《サッズのヒナチョコボ》にまで除去を当てられたのだから、残る2枚の手札にも除去がある可能性が高い。普通に考えれば矢田が置かれたシチュエーションは、そこに座っているのが誰であろうと今にも投了ボタンに手を伸ばしかねない状況だった。
それでも矢田は諦めずに再び《サッズ・カッツロイ》から《サッズのヒナチョコボ》をサーチして送り出し、《進化する未開地》を立てる。すると返す原田のアクションはやはりと言うべきか《マラキールの門番》キッカー!《サッズのヒナチョコボ》が生け贄に捧げられ、そのまま原田が2体で攻撃しながら《マラキールの門番》をドローに変換すると、《威名のソルジャー、セフィロス》は《サッズ・カッツロイ》で相打ちとなるも、ついに矢田の残りライフはわずか2点。しかもまだ原田には手札があり、盤面にも昆虫トークンと未起動の《魂石の聖域》がある。
しかしこの状況でも矢田は《サッズのヒナチョコボ》から《旅するチョコボ》と展開。トップの《ティファ・ロックハート》を確認しつつ《薮打ち》の格闘で昆虫トークンを除去し、ついに原田の公開リソースを《魂石の聖域》だけに絞る。だがライフは矢田2点に対し原田の側は27点もあり、ここからまくるのに一体どれだけの幸運をくぐる必要があるだろうか?
そうして原田はついに《魂石の聖域》を起動し、攻撃に向かわせる。するとここで矢田は《旅するチョコボ》で相打ちにもできたところ、これを失っては勝ちの目がないと判断したか、意を決して《サッズのヒナチョコボ》でチャンプブロック。そのままターンをもらって見えていた《ティファ・ロックハート》を引き込むと、見えたトップは《苔生まれのハイドラ》!《旅するチョコボ》でトップから土地をめくって《苔生まれのハイドラ》を育て、ワンショットで逆転するという細い細いプランは見えてきたが、はたして間に合うのか。
何せ、除去でも《威名のソルジャー、セフィロス》でも、それどころかおよそ原田のデッキに入っている《沼》以外のすべてのカードがトップデッキとなる状況なのだ。
続くターン、はたしてそんな原田のアクションは……何もない!
ついに矢田の《苔生まれのハイドラ》が着地する。しかもこの局面でライブラリートップが《魂石の聖域》で、一気に4/4まで育つ。その次のトップは《カビのマムシ》だが、《ティファ・ロックハート》で4点アタックして原田のライフを23点まで落とすと、一筋の光明が見えてきた。
だが返す原田のアクションは《大群への給餌》で《苔生まれのハイドラ》を除去というもの。矢田の逆転が遠のくが、そもそもこれがあと1ターン早かったら負けていたため文句は言えない。そのまま矢田がエンド前に《魂石の聖域》を起動し、続くターンに攻撃するとこれがスルーされ、原田はライフ17点。戦闘後に《カビのマムシ》が着地する。
次のターン、原田は《マラキールの門番》をキッカー。だがこれも1ターン遅く、もはや矢田の盤面には十分な数のクリーチャーがいる。既に役目を終えた《ティファ・ロックハート》が生け贄に捧げられ、あと残りたった2点という矢田のライフを、原田はどうしても削りきることができない。
それでも矢田はなおも《魂石の聖域》で攻撃し、原田の残りライフを14点としつつ《苔生まれのハイドラ》を送り出すが、見えているトップも《苔生まれのハイドラ》で、なかなか決定的な盤面を作れない。相変わらず、《威名のソルジャー、セフィロス》を引かれた瞬間にいつでも負けうるという状況。
そんな状況でドローを見た原田のアクションは……《魔晄都市、ミッドガル》の受け入れまで作っているというのに……またしても何もない!
ありえないことが、起きようとしていた。矢田は《苔生まれのハイドラ》を引き込むと、ライブラリートップは《魂石の聖域》。召喚からそのままセットすると4/4トランプルが2体誕生。《魂石の聖域》で忘れずに攻撃し、気づけば原田のライフは11点。
ここで原田はトップした《死の印》で《苔生まれのハイドラ》2体のうち1体を除去するのだが、エンド前に《魂石の聖域》起動から返しで矢田がフルアタックすると、もはや原田は《魂石の聖域》と《マラキールの門番》という自身のすべてのクリーチャーをブロックに回さざるをえず、クリーチャーを生き残らせる余裕がない。そうしてようやくライフが1点だけ残せるという状況なのだ。
それはもはや、原田が《威名のソルジャー、セフィロス》をドローしたとしても勝てなくなったということを意味していた。唯一の解答はおそらく、《更に闘う者達》のみ。
そして原田のデッキは、結局最後まで原田の想いに応えることはなかったのだった。
矢田 2-1 原田
「矢田くんは本当に諦めないんですよ」「そうだね、投了しない」放送解説を終えた原根と行弘が、矢田というプレイヤーについてそう語った。
思えば物語の主人公も、いくつもの苦難を乗り越えた先だからこそ輝かしい結末にたどり着いていた。羨んでも腐っても現実は変わらない。ならばどんな苦難に遭遇しても変わらず戦い続けられる忍耐強さこそ、実は物語の主人公たるに相応しい資質なのだろう。なぜなら主人公になる日は、それに備え続けた者にしか訪れないからだ。
だから、そう。きっと矢田の物語は、ここから再び始まるのだ。
マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2025、優勝は矢田 和樹!おめでとう!!
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