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グランプリ・静岡2017春

観戦記事

決勝:桐野 亮平(岡山) vs. Qi, Wentao(中国)

By 矢吹 哲也

 マジックを始めた頃を覚えているだろうか?

 ルールもよくわからないままに友人と手探りで遊んだ日々。やがてこのゲームの面白さと奥深さに魅入られ、最寄りの店舗イベントに参加し始めた者もいるだろう。そこで交友の幅を広げ、実力をつけ、別の会場で開催されるプロツアー予備予選やグランプリ・トライアルに参加。そしていよいよ、全国規模の国内グランプリへ......

 岡山の桐野 亮平は、『異界月』でマジックを始めた。たちまちこのゲームに魅了された彼は地元のゲーム店へ通いはじめ、半年足らずでグランプリ・トライアル優勝。初参加となる今大会にて不戦勝2つから初日全勝を遂げ、トップ8入賞へと向かうレースの先頭集団へ。2日目も上位卓のオーラに呑まれながらもひとつ、またひとつと勝利を重ね、15回戦を終えたとき、自分の名前が会場中に響いたのを聞いた。

 湧き上がる拍手に現実感がないままフィーチャーマッチエリアへ足を踏み入れると、たくさん写真を撮られた。プロフィールを書いた。自分のことを知ってもらうのは少し恥ずかしいけれど、気分は悪くなかった。

 そしてまた、手強い相手と競い合った。どれも最後までわからない試合で、これまでにないスリルを感じた。楽しかった。見るものすべてが、体験したことすべてが新鮮だった。こんなに最高のグランプリ・デビューを飾れるなんて、自分は幸運だ――

 そして桐野は今、眩しいくらいのライトとこちらを見つめるカメラ、ぐるりと周囲を取り囲むギャラリーたちの視線の中にいる。あと1勝で、過去にもほとんど例がないグランプリ初出場での優勝という大偉業を成し遂げる。

 極限の緊張の中、震える手で1枚ずつ丁寧にディールシャッフルを行う桐野。自身の緊張をほぐすためか、対戦相手のチー・ウェンタオ/Qi, Wentaoに少しだけ話しかけてみたり、フィーチャー・マッチ・エリアの外から視線を送る友人に手を上げて応えてみたりする。

「グランプリ・静岡2017春、決勝戦、始めてください」

 最後の戦いの合図が鳴った。

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桐野 亮平(マルドゥ・バリスタ) vs. チー・ウェンタオ(マルドゥ・バリスタ)

 予選上位のチーの先手で試合が始まった。「機体」同系戦における先手の意味は、極めて大きい。

 チーは1ターン目《模範的な造り手》から2ターン目《歩行バリスタ》と展開し、挨拶代わりに3点のダメージを与えた。さらに攻撃を続けると《異端聖戦士、サリア》も戦線に加え、後手の桐野に対応を迫る。

 桐野は《歩行バリスタ》を繰り出し、チーの《歩行バリスタ》を対象に1点を飛ばした。チーは不意を突かれたように「こっちですか?」と声を上げたが、実はこれが勝負の決定打となる。桐野は続けて《致命的な一押し》で《異端聖戦士、サリア》も除去し、ターンを渡した。

 そしてアーティファクトを失ったチーは《産業の塔》から色マナを捻出できず、手札の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイできなかった。

 桐野はその隙に《屑鉄場のたかり屋》と《キランの真意号》を展開し、反撃に出た。《模範的な造り手》を盤面に加えることしかできないチーを尻目に、続くターンにはもう1体《屑鉄場のたかり屋》を加えて攻撃を続ける。

 《キランの真意号》は《致命的な一押し》で対処されたものの、桐野は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を即「紋章」にして畳み掛けた。《致命的な一押し》とチャンプブロックでなんとか一命を取り留めたチーだが、迎えたターンのドローを確認すると「投了します」と宣言した。


極限の緊張の中でも、桐野のプレイに淀みはない。

 「機体」の同系戦はここからが本番だ。両者ともデッキの速度を落とし「マルドゥ・プレインズウォーカー・コントロール」のような形に変わり、スピード勝負のメイン戦から、第2ステージの消耗戦へ移行する。

 第2ゲームはマリガンを喫した桐野。消耗戦を行う上で、この1枚は大きい。

 チーは1ターン目《スレイベンの検査官》をプレイし、一方の桐野は2ターン目まで動きなし。3ターン目のファースト・アクションとして《異端聖戦士、サリア》を繰り出した桐野だが、チーはその返しに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を着地させた。

 しかし桐野も負けじと《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイ。同盟者・トークンを1体生成する。チーは《異端聖戦士、サリア》へ《石の宣告》を撃ち込むと《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をクリーチャー化してトークンとともに攻撃。2点のダメージを桐野のギデオンに与えた。さらに2枚目の《スレイベンの検査官》も追加して地上を固め、桐野のターンを迎え撃つ。

 しかし桐野は《無許可の分解》と《致命的な一押し》でチーのブロッカーを排除すると、自身の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》でチーのギデオンを打ち倒した。同盟者・トークンによる反撃で忠誠度は1まで減ったが、まだ生き残っている。

 今度は桐野の盤面が先ほどのチーのものと似た状況になった。《スレイベンの検査官》2体と同盟者・トークンが《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を守る形だ。

 チーの盤面には《屑鉄場のたかり屋》と同盟者・トークンが1体。その2体で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》へ攻撃を仕掛けると、ダブルブロックで戦闘を有利にしようとした桐野のクリーチャーへ《無許可の分解》が刺さり、チーは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》含め桐野の盤面のすべてを取り去ることに成功した。

 その後も飛び交う除去、激しい盤面の奪い合いが続く。毎ターン天秤が反対側へ傾くシーソーゲームは、しかしチーの側に軍配が上がった。

 ゲーム序盤から色マナに苦労していたチーだが、長い消耗戦の末についに必要なものが揃うと《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》をプレイ。追加のドローに後押しを受け、桐野が繰り出した《大天使アヴァシン》も《リリアナの誓い》で除去、さらに《反逆の先導者、チャンドラ》も戦線に加えた。

 《歩行バリスタ》でチーの攻撃をなんとか防ぐ桐野だが、ダメ押しの《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がチーの盤面に降り立つ。


絶望的な軍勢が桐野を襲う。

 プレインズウォーカーたちの猛攻を前に、ついに桐野は「次行きましょう」とカードを片付けた。


中国からの遠征で、2719人の頂点に手をかけたチー。

 迎えた最終ゲーム。桐野は1ターン目《スレイベンの検査官》、チーは2ターン目《屑鉄場のたかり屋》でこの最終戦の火蓋を切った。

 そして桐野は3ターン目に《グレムリン解放》を放ち盤面の優位を握ると、4ターン目《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を決めた。この2日間をともに戦い抜いたデッキは、最後の最後まで桐野のプレイに応えてくれた。

 チーは、ここにきて動けなかった。2枚目の《屑鉄場のたかり屋》を攻撃に送り出してグレムリンと交換すると、土地を置いてターン終了。

 さらに《先駆ける者、ナヒリ》を戦線に加えた桐野は、満を持してクリーチャーたちで攻撃に出る。墓地から《屑鉄場のたかり屋》を戻したチーは《無許可の分解》と攻撃で《先駆ける者、ナヒリ》を墓地へ送ったものの、桐野は2枚目の《先駆ける者、ナヒリ》を持っており、タップ状態になった《屑鉄場のたかり屋》を追放した。

 《ショック》で《先駆ける者、ナヒリ》を退場させたチー。最後に引き込んだ《無許可の分解/Unlicensed Disintegration(KLD)で桐野の攻撃をしのぎライフを1点残したものの、この状況をひっくり返す手立ては存在しなかった。

桐野 2-1 チー

 チーが投了の意思を示しカードを片付け出した瞬間、桐野は思わず身を乗り出しで右手を伸ばした。握手せずにはいられなかった。手を固く握って、「ありがとうございました」と伝えずにはいられなかった。

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 ひときわ大きな拍手が桐野を包んだ。駆け込んで来た友人が、自分以上に喜んでくれた。優勝トロフィーを手渡され、またたくさん写真を撮られた。トロフィーを手にポーズを決めるなんて初めてのことで、身体は固くなりぎくしゃくしてしまった。

 生放送の配信ブースに呼ばれ、画面を通してたくさんの人に祝福の言葉をもらった。今大会に向けた取り組みやマジックとの出会いを世界に発信した。最後にインタビューも受けた

 きっと、今日の出来事すべてが桐野の一生の思い出になり、彼はこれからもたくさんの思い出を紡いでいくのだろう。こうして、多くのプレイヤーに夢を与える王者がまたひとり誕生したのだった。


 これは、私たちと同じひとりのマジック・プレイヤーの物語。

 人はそれを「シンデレラ・ストーリー」と呼ぶ。

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桐野 亮平がシンデレラ・ボーイへの道を見事踏破!
グランプリ・静岡2017春 優勝おめでとう!
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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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