By 森安 元希

　プロツアー『霊気紛争』にて「マルドゥ機体」を駆り５位入賞（スイスラウンド３位）したリウ ユーチェン/Liu, Yuchenが神戸に来ていた。

　スタンダードの戦いぶりで世界に名を知らしめたが、中国でも稀なゴールド・レベルプロの１人だ。

　これまで日本に来ている頻度はそう高くないようだが、今シーズンは活動的なようで、アジアが誇るライジング・スターの１人であるリウの活躍を身近に見れる機会は今後増えそうだ。

　対する奈良谷も口数少なだが、勝利を第一優先としてリウと同じデッキを持ち込んできている。

　いまやモダンを代表するデッキのひとつ、「エルドラージ・トロン」。

　どちらのエルドラージトロン・マスターが勝つのか......第４回戦開始の合図がかかった。

ゲーム１

　先手のリウが《ウルザの塔》から《探検の地図》プレイ。対する奈良谷は、《魂の洞窟》で「エルドラージ」指定から《バジリスクの首輪》をプレイ。

　続く２ターン目、リウが《ウルザの魔力炉》をセットすると、奈良谷が一瞬表情を曇らせた。すでにリウの３種３枚７マナの到着は目前に迫っている。奈良谷は、これを止める手立てを持っていたが、悩ましい表情を深めてゆく。

　自らのマナ基盤を整えることを１ターン放棄して、《幽霊街》をセット。ターン終了時にリウが《探検の地図》を起動するのに合わせて《ウルザの塔》を破壊した。

　リウは《幽霊街》の効果によって《荒地》と、《探検の地図》によって《ウルザの塔》を併せて探しだす。

　リウがそのまま３ターン目に改めて《探検の地図》をセットしなおすと、「強い」と洩らす奈良谷。一度止めたはずの３種７マナにたどり着かれてしまった。

リウ ユーチェン

　《魂の洞窟》《エルドラージの寺院》という２枚の土地から《作り変えるもの》を唱えた奈良谷だが、返しに７マナを揃えたリウがそのビッグマナから《終末を招くもの》を呼び出した。

　奈良谷は《探検の地図》で２枚目の《幽霊街》を探し、圧倒的なマナ差をなんとか止める手立てを考えるが、すでに着地した《終末を招くもの》への対処と、マナ基盤を攻めることの両立ができない。

　その不自由な二択を狭まれている奈良谷とは対称的に、リウは殴らず《終末を招くもの》のドロー能力で手札を充実させてゆく。ほどなくして《現実を砕くもの》を引き込んで、２体でアタックを敢行し始めた。

　《終末を招くもの》１体こそ《四肢切断》で対応した奈良谷だが、ブロッカーとして用意した《バジリスクの首輪》を装備した《作り変えるもの》が《四肢切断》を受けてしまう。

　《現実を砕くもの》を受け止める肉の壁を用意できずに、奈良谷のライフが枯れた。

奈良谷 0-1 リウ

　エルドラージ・トロン。

　今回のグランプリ・神戸2017において確実にTier1であるこのデッキが、至るところで繰り広げているミラーマッチのうちの一戦だ。

　《全ては塵》のような明確な不要カードをサイドアウトしてゆき、クリティカルなカードだけで再構成してゆく。

ゲーム２

　奈良谷は《エルドラージの寺院》と《作り変えるもの》のある、軽快なスタートを切れそうな手札をキープ。

　リウはゲーム１で繰り返し《幽霊街》を受けたことも踏まえて、《世界のるつぼ》を含めた７枚をキープした。

　その結果は、最初の動きはお互いに《作り変えるもの》出し合いからの相打ちとなる。その結果、リウの盤面に《ウルザの塔》が、奈良谷の手札に《難題の予見者》が供給された。

　その奈良谷の《難題の予見者》能力誘発に合わせて、リウは《四肢切断》を唱える。《難題の予見者》によるドローが解決したあとのリウの手札は、《探検の地図》２枚、《世界のるつぼ》、《難題の予見者》というものだ。

　奈良谷はそこから《世界のるつぼ》を抜いて、長期的なアドバンテージの差を抑えてゆく。

　今度はリウが《難題の予見者》を唱えて、同じく奈良谷が能力に合わせて《四肢切断》。合わせ鏡のような展開が続く、これぞまさしくミラーマッチという様相だ。

　《作り変えるもの》《歩行バリスタ》と土地３枚という奈良谷の手札を確認したリウは、潤沢となりつつある奈良谷のマナ基盤を確認し、《歩行バリスタ》を嫌った。

　ここからお互い広大な砂漠を歩くように土地を引き続けた。ウルザランド３種類はとうに揃いながら、出せるものがなにもない。

　奈良谷がプレイしていた《作り変えるもの》だけが３点、３点と少しずつばかりリウのライフを刻んでゆく。

　しかし怪獣たちがひしめくこのマッチアップにおいて、この３/２というサイズが決定打になるとは言い難い。

　４ターンほど過ぎて、ライフの落ち込んできたリウが打開策を引いた！

　《解放された者、カーン》の［-3］能力で《作り変えるもの》を追放する。

　そこから［+4］［+4］と続けて盤石となるはずだったが......奈良谷も数少ない対策ともいえる《現実を砕くもの》を引き込んでみせた。

　《解放された者、カーン》が［+4］し、《現実を砕くもの》が５点を与える。合計４回のスマッシュ・アタックをその身に吸収してきた《解放された者、カーン》は墓地へと落ちた。

奈良谷 孝明

　リウは《解放された者、カーン》のあとも土地を引き続けたが、《精神石》経由から、ようやくのクリーチャー・カードにたどり着いた。

　《難題の予見者》。

　これでは奈良谷の《現実を砕くもの》が、止まらない。

奈良谷 1-1 リウ

　ゲーム１は奈良谷の《幽霊街》による妨害の上から、リウは《探検の地図》で、あるいはナチュラル・ドローで対抗した。

　ゲーム２はお互い合わせて20枚を超える土地を引いた。

　エルドラージトロン同型戦において、土地を巡る攻防は闘いの主戦場であるようだ。１枚１枚のカードパワーが非常に高いエルドラージであるからこそ、そのパワーを支えるマナ基盤を最初に攻める、「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」作戦の重要度は高い。

ゲーム３

　１ターン目は、やはりミラーマッチの宿命なのだろうか、鏡打ちとなった。《バジリスクの首輪》の出し合い。

　そのまま後手２ターン目に奈良谷が《エルドラージの寺院》から《作り変えるもの》をプレイする。絶好とも言えるスタートのひとつだろう。

　しかしリウはそれを遥かに上回るプレイをしてみせた。３ターン目、ナチュラルにウルザランド3種を揃えて、《現実を砕くもの》に《バジリスクの首輪》を装備して速攻アタック！ 奈良谷は度々のリウのパワープレイに、苦笑いを浮かべることしかできない。

　奈良谷が《バジリスクの首輪》を《作り変えるもの》に装備してブロッカーとして立てるものの、《歩行バリスタ》X=3に《バジリスクの首輪》を装備させたリウは、これをたったの＋１/＋１カウンター１個で排除してゆく。

　そして「接死ティム」と化した《歩行バリスタ》が、《現実を砕くもの》の行く道を空け続けた。

奈良谷 1-2 リウ

　エルドラージ・トロン同型戦を制したのは、リウ ユーチェン。

　絶え間なく変動するマナソースの管理を的確に行い続け、リウは奈良谷に、そして日本にその地力の高さを示した。

　ゲーム２の止めどないマナフラッドにはひと息ふた息ため息もついていたが、３ターン目に７マナを揃えたゲーム３の頃にはすっかり表情は晴れやかとなっていた。

　奈良谷も、いまだ１敗だ。自分のデッキが「自分に勝ったデッキ」と同じエルドラージ・トロンである以上、デッキ選択に後悔はないだろう。

　グランプリ１日目、残る５戦を信じたデッキとともに突き進む。