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グランプリ・クアラルンプール2016

観戦記事

決勝:Mark Lawrence Tubola(フィリピン) vs. 松本 郁弥(石川)

By 伊藤 敦

 マジックの強さを、才能によって先天的に与えられるものと努力によって後天的に獲得できるものとに分類したとしたら、松本郁弥の強さはそのほとんどが後者と言えるだろう。

 昨年の松本のシールドデッキ練習についてのインタビューを読めばわかるように、松本は設定した目標に対する努力を惜しまない。さまざまな練習方法に挑戦し、フィードバックを得ては改良する。それをひたすら繰り返してきた。

 だが、どれだけ努力しても報われないときもある。プロツアーに焦がれた松本のグランプリでの成績は、いつも「あと1勝」が遠かった。

 自分に何が足りないのだろう? 何をすれば勝てるのだろう?

 松本は自問し、そして時には苦悩したに違いない。プロツアーを追いかけ続けることに、はたしてこの苦しみや辛さに見合った価値があるのか、と。

 だが諦めたとき、確率はゼロに変わる。松本は、諦めなかった。

 長きに渡る練習の日々。その果てに、グランプリ・京都2016で、ついに松本は念願のプロツアーの参加権利を掴み取ったのだ。

 それは松本にとって、「結果に結びつかないのではないか」と努力に対して不安を抱く必要がもはやなくなった、ということを意味する。

 そう、努力は必ずしも報われるとは限らない。だが努力をしないで得られた結果が己を成長させることもまたないのだと、松本は既に知っている。だから答えは簡単だ。練習、フィードバック、改良。いつも通り、努力をすればいいのだ。

 そしていま松本は、この場に立っている。

 京都では獲り逃した優勝トロフィーを、今度こそその手で掲げるために。

「強い人と戦うたび、青白フラッシュとの戦い方を覚えていったんです」

 4色の「機体」デッキを駆る松本にとって、このトーナメントで最大の課題は「青白フラッシュにいかにして勝つか」だった。

 最初は拙かったプレイングも、ラウンドが進むにつれて徐々にこなれていった。第14回戦で市川ユウキに敗れた際にミスの指摘を受け、第15回戦ではミスのない立ち回りでトップ8進出を決めた。準々決勝で高橋優太を打ち破り、準決勝では市川を倒してリベンジを果たした。その結果、最後の対戦相手となるマーク・ローレンス・トゥボラ/Mark Lawrence Tubolaの青白フラッシュと向かい合っている。

 練習、フィードバック、改良。松本の基本線は変わっていない。今日までの研鑽。そしてこの2日間の経験が、松本の血となり肉となっている。

 グランプリ・クアラルンプール2016、決勝戦。今日もまたそこには、いつもと変わらない「あと1勝」がある。

 予感も確信もない。ただ自分が積み上げてきたものの価値を知るために、松本は頂に手を伸ばす。

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ゲーム1

 先手マリガンのトゥボラが《密輸人の回転翼機》スタートを切るが、松本が《模範的な造り手》からの《屑鉄場のたかり屋》で6点クロックを形成すると、さすがに殴り合いに付き合う気はなく、3マナを立たせてターンを返す。

 《呪文捕らえ》に引っかかりたくない松本はそのまま2体をレッドゾーンに送り、《呪文捕らえ》が《模範的な造り手》への相打ち要員に差し出されると、この交換を受け入れる。松本はさらに第2メインフェイズに《耕作者の荷馬車》から《発明者の見習い》を展開。トゥボラに強烈なクロックを突きつける。

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 対しトゥボラは4枚目の土地がなく、《無私の霊魂》をプレイして《密輸人の回転翼機》と合わせて防御の構え。

 だが《経験豊富な操縦者》をプレイした松本が占術で見た2枚を両方ともトップに乗せると、それはトゥボラにとって絶望的な宣告に等しい。続く《屑鉄場のたかり屋》と《耕作者の荷馬車》のアタックは《密輸人の回転翼機》に「搭乗」してのブロックからの《無私の霊魂》生け贄で《屑鉄場のたかり屋》を討ち取って急場をしのぐものの、松本は《霊気拠点》を含めた2マナを立たせており、それは《屑鉄場のたかり屋》をいつでも戦場に戻せることを意味している。

 《停滞の罠》を引けていないトゥボラにとって、このソーサリー除去が効かない上に5/5というサイズで討ち取りづらい《耕作者の荷馬車》と、何度でも戦場に戻ってくる《屑鉄場のたかり屋》によるビートダウンは如何ともしがたい。

 それでも返すターンでようやく4枚目の土地を引き込み、さらなる《無私の霊魂》をプレイするトゥボラだったが、エンド前に予定通り《屑鉄場のたかり屋》を戦場に戻した松本は、トゥボラの残りライフが8点しかないことを確認すると、《模範的な造り手》をプレイして《耕作者の荷馬車》に「搭乗」させつつ、《耕作者の荷馬車》《発明者の見習い》《経験豊富な操縦者》《屑鉄場のたかり屋》の4体で総攻撃。

 一応《密輸人の回転翼機》で《耕作者の荷馬車》をブロックし、誘発した能力によるドローを確認したトゥボラだったが、脇から致死ダメージが抜けているのを確認すると、すぐさまカードを畳んだ。

トゥボラ 0-1 松本


ゲーム2

 6枚となった手札を見たトゥボラは嘆息し、ダブルマリガンを選択。それでも《スレイベンの検査官》からの《密輸人の回転翼機》という最高の立ち上がりを見せる。これに対し《模範的な造り手》スタートの松本が2マナを立たせてターンを返すと、トゥボラは《蓄霊稲妻》を警戒してそのままターンを返す。

 ここでエンド前に《流電砲撃》を《スレイベンの検査官》に打ち込んでトゥボラの側をクリーチャーの追加展開が必要な盤面にした松本は、トゥボラがさらなる《スレイベンの検査官》を引き込んだことで目論見を外すものの、さらに《模範操縦士、デパラ》《密輸人の回転翼機》と送り出し、《模範操縦士、デパラ》を毎ターンエンド前に「搭乗」させることでカードアドバンテージを取り続けられる態勢を作り上げる。

 この恒久的なドローエンジンをさすがに放置できないトゥボラは、《密輸人の回転翼機》がクリーチャー化したところで《停滞の罠》でこれを追放するのだが、松本の手札からは2枚目の《密輸人の回転翼機》がプレイされ、伝説のドワーフと「機体」との蜜月関係が再び松本の手札を拡充し続ける。

 一方5マナに到達したトゥボラはマナを立たせて松本の攻撃を待ち続けるのだが、当然《大天使アヴァシン》をケアしている松本は十分に戦線が拡大するまで無駄な攻撃を一切せず、「搭乗」によって《模範操縦士、デパラ》の能力を起動しながらひたすら我慢を続ける。

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 2枚目の《停滞の罠》で《模範操縦士、デパラ》を追放されても、さらなる《模範操縦士、デパラ》を送り出してあくまでも待つ姿勢の松本を見て、トゥボラはやむなく松本のエンド前に《大天使アヴァシン》を出すのだが、これにはしっかり《蓄霊稲妻》が合わせられ、《霊気拠点》からのエネルギーと合わせてぴったり除去されてしまう。

 そして続くターン、トゥボラの側に《スレイベンの検査官》と《密輸人の回転翼機》しかないのに対し、松本には3体の《模範的な造り手》と《模範操縦士、デパラ》、それと《密輸人の回転翼機》という段になって、松本はついに全軍をレッドゾーンへと進軍させる決断を下す。

 戦闘前に《経験豊富な操縦者》をプレイし、《密輸人の回転翼機》に「搭乗」させてのフルアタックは、パワー5が1体、パワー4が3体、パワー3が1体という陣容。これに対し2枚目の《大天使アヴァシン》でどうにか抑え込みたいトゥボラだったが、松本が《密輸人の回転翼機》に《流電砲撃》を当てると、どうブロックしても15点以上の大ダメージを受けてしまう。

 トゥボラにできるのは、勝者を称えるべく右手を差し出すことだけだった。

トゥボラ 0-2 松本

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松本 郁弥、グランプリ・クアラルンプール2016優勝おめでとう!
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