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EVENT COVERAGE
グランプリ・クアラルンプール2016
準々決勝:市川 ユウキ(神奈川) vs. 覚前 輝也(東京)
By 伊藤 敦
プロプレイヤーには、それぞれに強みがある。
それは個性的なデッキを作れることでも、ブースタードラフトのピックがとても上手なことでも、とにかく何でもいい。たとえばプロツアー『カラデシュ』で優勝した八十岡なら「コントロール対決なら絶対負けない」といった具合に、これだけは他のプレイヤーには負けない!という誇りがある。
自らの強みと弱みを認識し、それに沿ったデッキ選択やプレイングを行うこともまた、プロプレイヤーには必要な資質と言える。
覚前「デッキリストが公開されると困っちゃうなー」
市川「特に困ることないでしょ! どうせ4枚入った《無許可の分解》で勝ってきたんでしょ」
覚前「うっ、なぜそれを......と思ったけど確かに別に見られて困ることないかも」
市川「ないない!デッキリストは見られ得(?)!」
市川と覚前......同じ"Team Cygames"に所属する気心の知れた間柄同士の対戦だけあって、グランプリの準々決勝だというのに他の3卓と比べて一際和やかなムードで対戦前のデッキリスト交換を終えた2人。
そんな彼らにもおそらくそれぞれの強みがあり、その強みとそれに対する自身の認識は、青白フラッシュと赤白「機体」という彼らのデッキ選択にもきっと表れている。
そしてプロプレイヤー同士の対戦は、その互いの強みがどのように発揮されるのかが一つの焦点となる。
彼らの強みとは一体何なのか。
その答えは、この対戦を通じて明らかになる。
ゲーム1
マリガンスタートで《スレイベンの検査官》を送り出した市川に対し、覚前は《霊気拠点》から《模範的な造り手》スタート。どうやら覚前は7枚キープとはいえ、白マナの確保に難がありそうだ。
続くターン、覚前が《密輸人の回転翼機》をプレイして《模範的な造り手》を強化しつつアタックすると、市川は《鎖鳴らし》でこれをキャッチし、交換を厭わずにライフ水準を高く保つ。
そして3ターン目には、セットランド前にメインで手掛かり・トークンを起動してから、《大草原の川》をセットしターンエンド。目立たないが、こうした細かなプレイングの一つ一つに、市川の強みは見てとれる。
一方、後手3ターン目に《山》《山》《霊気拠点》と並べて白マナが出ない覚前は、《蓄霊稲妻》で《スレイベンの検査官》を処理しつつ、浮いたエネルギーを使って《霊気拠点》から《スレイベンの検査官》をプレイ、《密輸人の回転翼機》に「搭乗」させてどうにか攻勢を維持しようとする。
だが、そのぎこちない動きを見逃す市川ではない。4ターン目、フルタップで繰り出したのは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》。覚前の場にはアクティブな《密輸人の回転翼機》があるものの、覚前がアンタップインの白マナを引けない限り《経験豊富な操縦者》や《模範操縦士、デパラ》が出せないことから、忠誠値が一撃で削り切られることはないだろう、と読んでのプレイだ。
はたして覚前は返しのターンも《平地》が引けず、やむなく《密輸人の回転翼機》で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の忠誠値を削りつつ2枚目の《密輸人の回転翼機》をプレイし、《感動的な眺望所》を「タップイン」で置くにとどまる。
その1ターンが分水嶺となった。
5枚目の土地を置き、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を再び[0]で起動した市川は、《経験豊富な操縦者》をプレイした覚前の《密輸人の回転翼機》2機のアタックに合わせて《大天使アヴァシン》を着地させ、うち1機を撃墜。
さらに「機体」に搭乗したことで無防備となった覚前に8点アタックをお見舞いすると、《無私の霊魂》2枚を追加展開。いつでも「変身」できる態勢を整え、《大天使アヴァシン》が完全に盤面を支配した格好だ。
対し、《耕作者の荷馬車》をプレイして《密輸人の回転翼機》とともにブロッカーに立たせた覚前だが、2/2のトークン2体、《無私の霊魂》2枚、そして《大天使アヴァシン》でフルアタックされると、《スレイベンの検査官》《経験豊富な操縦者》に「機体」が2枚という盤面では、ブロッカーを最大2体しか用意できない。
やむなくトークンを《耕作者の荷馬車》で、《大天使アヴァシン》を《密輸人の回転翼機》で受け止めつつ、《無私の霊魂》を《蓄霊稲妻》で撃ち落とす覚前だが、これにより《大天使アヴァシン》の「変身」能力が誘発。さらに返す覚前のアップキープ、《浄化の天使、アヴァシン》の「変身」時の誘発型能力に合わせて市川が残った《無私の霊魂》で自陣のクリーチャーを保護すると、覚前のクリーチャーだけが薙ぎ払われ、残りライフも1点。
ドローを確認した覚前は、カードを畳むほかなかった。
市川 1-0 覚前
私見だが、市川の場合、とにかく「起こりうるシチュエーションに対する想像力」が群を抜いている。
もちろん「次に何が起こるか」「相手はどんなプレイをしてくるか」については、どんなプレイヤーでもある程度の抽象度で予想を立てているはずである。
しかし市川の場合、毎ターン相手がどんなカードを使ってどんなタイミングで自分を上回ろうとしてくるのかについて、極めて具体的な予測を立て、それに基づいて自分のプランを決めているのである。
枝分かれした未来の一つ一つについて、個々のカード単位まで具体性を持ってイメージを描くというのは並大抵の想像力ではないが、おそらく市川にはそれができる。
だから市川はプレイング面で「ケア魔人」だし、「マナベース警察」と揶揄されるほどに、組み上げたデッキの土地構成に妥協がない。引き込んだ土地の組み合わせによって起こりうる、常人ならレアケースといって片付けがちな事故を具体的に想像できる、いやしてしまうからこそ、その克服に躍起になるのだろう。
それに対して、覚前は己の強みを「ビートダウン使い」という部分に置いている。
その強みを最大限発揮するべく、覚前は「先手で」と短く宣言し、新しい手札に手をかける。
ゲーム2
先手の覚前がマリガンののち、今度は事故の心配がない《感動的な眺望所》2枚から《密輸人の回転翼機》を送り出すと、市川はこれに《密輸人の回転翼機》の鏡打ちで応える立ち上がり。
続けて3ターン目を迎えた覚前は対青白フラッシュの必殺兵器、《稲妻織り》を送り出し、すぐさま《密輸人の回転翼機》に「搭乗」させてアタック。一見不要な2枚目の《密輸人の回転翼機》をディスカードする。
だが市川が《スレイベンの検査官》をプレイ、「搭乗」させてアタック後に《断片化》で《密輸人の回転翼機》を破壊すると、覚前の攻め手が止まる。
市川の《密輸人の回転翼機》と《折れた刃、ギセラ》を立て続けに《流電砲撃》で処理したはいいものの、クロックとなるのは《稲妻織り》のみ。それも《スレイベンの検査官》で実質止まっている。
どうにか攻め手を作りたい覚前だが、引けども引けども土地が続く。その間にも市川は悠々とマナを伸ばし、マナとライフの両面で《ウェストヴェイルの修道院》を起動する余裕すら生まれている。
事前にデッキリストを確認した市川は、覚前のデッキに《不敬の皇子、オーメンダール》を対処する手段がないことを知っている。
そしてそれを市川が知っているであろうことを知っている覚前は、市川がエンド前の《ウェストヴェイルの修道院》起動で5体目のクリーチャーを用意した段階で、市川がアンタップフェイズを迎える前に《無許可の分解》を、あろうことか《スレイベンの検査官》に対して当てざるをえない。
それでもようやく《屑鉄場のたかり屋》を引き込み、レッドゾーンにクリーチャーを送り出した覚前だったが、市川が満を持して《大天使アヴァシン》で迎え撃つと、覚前の手札に既に除去はない。
さらに《折れた刃、ギセラ》をも追加されると、覚前は右手を差し出したのだった。
市川 2-0 覚前
対戦が終わった後、覚前が即座に「ミスなかった?」と観客の中にいた知り合いたちの誰にともなく問いを発した。
それに対し、対戦を見ていた八十岡が「1ゲーム目、後手3ターン目に《山》《山》《霊気拠点》とあったところで打った《蓄霊稲妻》は、相手の《スレイベンの検査官》を焼くためにエネルギー2個使ってから《霊気拠点》から《スレイベンの検査官》出してエネルギー使いきってたけど、あのとき手札に《模範操縦士、デパラ》があったから、エネルギーを使わずに空打ちした方がよかったね。そしたら《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を返しで4/4の《密輸人の回転翼機》で落とせてたから」と答えると、覚前は「そっかー、ミスだったかー......」と、2ゲーム目のマナフラッドを嘆くでもなく、自らの敗北に納得した様子だった。
己はまだ未熟なのだと、どこまでも謙虚にマジックをプレイする姿勢もまた、紛れもなくプロプレイヤーとしての覚前の何よりの強みなのだろうと思う。
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