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グランプリ・千葉2018

観戦記事

決勝:川崎 慧太(神奈川) vs. Guillem Salvador Arnal(スペイン)

Moriyasu Genki

サルヴァドール「Good luck, have fun!」

 スペイン人プレイヤーのギエム・サルヴァドール・アルナル/Guillem Salvador Arnalが、決勝という大一番を直前にして対峙する川崎 慧太に声をかけた。

 サルヴァドールはマジック・ショップのオーナーであり、フランスの大会にも顔を出しているようだ。

 いわゆるプロ・プレイヤーの遠征の類ではなく、日本への来国とグランプリ参加は友人との旅行の一環だと語る。

 声かけの意味はシンプルに「幸運を祈るよ。楽しんでね」。ゲーム前の定型句的なあいさつのひとつだ。

川崎「You too」

 「君もね」 川崎もあいさつに応える。

 しかし、マジック:ザ・ギャザリングは対戦型ゲームだ。

 対戦に勝つことそのものをもし幸運と定めるならば、1人にはきっと幸運は訪れることだろう。

 もう1人にそれが訪れることはない。

 それでも"have fun"。お互いに楽しむことはできるはずだ。

 遠く異国・スペインから来国しているサルヴァドール。

 最近、関西から関東へ拠点を移した川崎。

 マジック:ザ・ギャザリングのグランプリがなければ接点を持たないであろう2人が、グランプリ・千葉2018の決勝という舞台で知り合った。

 
決勝:川崎 慧太 vs. ギエム・サルヴァドール・アルナル

 川崎の近年の戦績を紹介するなら、「安定した成績」の一言だろう。

 グランプリ・シンガポール2015トップ4、グランプリ・広州2016トップ8、グランプリ・北京2017準優勝。そして今回。川崎のグランプリ・トップ8は毎年の風物詩のようにもなってきている。モダンとリミテッドという軸の異なる2フォーマットを得意とする日本が誇るシルバー・レベル・プロの1人だ。

 それのみならず、先日のグランプリ・シンガポール2018でベスト8入賞した佐藤レイのスタンダード・デッキをビルドしていたことも知られており、もはや不得意なフォーマットといえそうなものはなさそうだ。

 サルヴァドールもグランプリ・トップ8入賞をかけたバブルマッチは度々の経験があると語る。

 川崎とサルヴァドール、積み上げられた戦績に関していえば「わずか」という表現もできるが、しかし確実に川崎の方に積み重ねの分があると言えるだろう。

 今回使用するドラフトデッキの比較では、どうだろうか。

 卓で唯一白をメインカラーにした「白赤アグロ」を作り上げたサルヴァドール。

Guillem Salvador Arnal
グランプリ・千葉2018 決勝ドラフト / 『基本セット2019』ブースタードラフト (2018年7月22日)[MO] [ARENA]
10 《平地
7 《
-土地(17)-

1 《新米騎士
1 《金剛牝馬
1 《オレスコスの速爪
2 《防御牝馬
1 《どぶ潜み
1 《民兵のラッパ手
1 《ペガサスの駿馬
1 《凛々しい騎兵隊
1 《レオニンの戦導者
1 《星冠の雄鹿
2 《暁の天使
2 《電光吠えのドラゴン
-クリーチャー(15)-
2 《確実な一撃
1 《力強い跳躍
1 《返報
1 《光明の縛め
1 《アジャニ最後の抵抗
1 《英雄的援軍
1 《地盤の裂け目
-呪文(8)-
 

 アーティファクトシナジーを十分に、飛行クリーチャーも打点も十分な「青白アーティファクト」を組んだ川崎。

川崎 慧太
グランプリ・千葉2018 決勝ドラフト / 『基本セット2019』ブースタードラフト (2018年7月22日)[MO] [ARENA]
10 《
7 《平地
-土地(17)-

2 《耕地這い
1 《前兆語り
1 《波濤牝馬
1 《飛行の先駆者
1 《弱者の師
1 《鏡像
1 《ペガサスの駿馬
2 《噛みつきドレイク
1 《星学者
1 《願いのジン
1 《機械職人の守護者
1 《秘密の回収者
1 《地平の識者
-クリーチャー(15)-
1 《分散
1 《返報
2 《萎凋
1 《取り消し
1 《抗戦
1 《騎士の勇気
1 《道迷い
-呪文(8)-
 

 がっぷり四つで互いのデッキパワーをぶつけあうことになりそうな熱戦の予感をさせながら、グランプリ・千葉2018の最終戦が幕を開けた。

ゲーム1

 サルヴァドールが《オレスコスの速爪》をプレイするところから、ゲーム・メイクがはじまる。

 先手をとった川崎も《波濤牝馬》を用意してゲーム・スピードを落とすことで、自分のフィールドに持ち込みたい。

 サルヴァドールの次手は《ペガサスの駿馬》。環境トップクラスのコモン・カードという評価もされており、特に攻めるデッキで使うとその破壊力で一瞬でゲームを終わらせることも少なくない。

 《ペガサスの駿馬》が強い、ということは《ペガサスの駿馬》を対処できるカードが少ない。《大蜘蛛》に一方的に打ち取られない1/3というサイズが優秀だ。

 しかし川崎は《噛みつきドレイク》の3/2飛行というサイズを着地させる。《ペガサスの駿馬》が評価されていることで、それを超える《噛みつきドレイク》もまた、強いカードだ。

 サルヴァドールは《噛みつきドレイク》の登場にもひるまず、《ペガサスの駿馬》で《オレスコスの速爪》に飛行をつけて殴っていく。

 見た目は《噛みつきドレイク》で《ペガサスの駿馬》をブロックすれば《ペガサスの駿馬》が一方的に落ちるというものだが、もちろんコンバット・トリックが豊富な白赤相手に不用意な戦闘を受ける川崎ではない。

 特に一部のプレイヤーのみのピックを放送するビデオ・カバレージによる情報格差を埋める都合上、準々決勝からは事前に「ピックしたカードがお互いにすべて公開される状態」でのマッチアップだ。サルヴァドールが《確実な一撃》と《力強い跳躍》をピックしていることを川崎は知っている。

 この2種類のコンバット・トリックが今後もその「存在の影」でもって、サルヴァドールの戦闘を支える基盤となっていった。《光明の縛め》で《噛みつきドレイク》の戦闘を封印したことで、サルヴァドールの攻勢はより顕著だ。

 川崎も《ペガサスの駿馬》をプレイして新たな飛行クリーチャーを用意した。《ペガサスの駿馬》《オレスコスの速爪》コンビ・アタックには、《オレスコスの速爪》を《ペガサスの駿馬》でブロックする。

 「あるよ。」と言わんばかりにサルヴァドールはブロックされた《オレスコスの速爪》に《確実な一撃》を打ち込んで、一方的に川崎の《ペガサスの駿馬》を落とす。

 川崎は《萎凋》を《オレスコスの速爪》につけることで一気にサルヴァドールのクロックを遅らせる。

 サルヴァドールの戦線には他に《金剛牝馬》(指定:白)しかなく、《ペガサスの駿馬》とのコンビアタックでも2点ずつだ。

 再び戦況を大きく動かしたのは、サルヴァドールから。

 《アジャニ最後の抵抗》を貼って、自軍の生物が破壊されたときにはそれに勝るサイズのアバター・トークンを用意できるようにした。

 もちろん川崎はこれが的確に機能しないような立ち回りが必要となってくるが……サルヴァドールは「自前」でこのアバターを戦場に呼び出すことにした。

final_salvador.jpg

 《萎凋》のついた《オレスコスの速爪》で攻撃宣言を仕掛ける。これがブロックされればアバターが生み出されるし、川崎が選択したようにスルーして0点の戦闘ダメージを解決した後の第2メイン・フェイズで《返報》をタップ状態の《オレスコスの速爪》に当てれば、クリーチャーの死亡という手順を経てやはりアバターは戦場に舞い降りる。

 川崎も《鏡像》で新たな《噛みつきドレイク》を用意して、航空戦力の確保に努める。それでも4/4 対 3/2ということで、サルヴァドールは攻勢の態度を崩さずアバター・トークンでアタックを仕掛ける。

 川崎、これをブロックしたあと……《抗戦》を合わせた。4/3破壊不能となった《噛みつきドレイク》でアバターを落としつつ、空の支配権を一気に取り返しにかかる。

 《前兆語り》からの《地平の識者》、そして《機械職人の守護者》とつなげた川崎、これまでの防戦で大分ライフは心もとないが、展開するサイズでは勝ってきた。

 サルヴァドールも地上をほとんど等速で展開してゆくので、お互いに戦闘を控えるシーンが続いた。《どぶ潜み》、《凛々しい騎兵隊》。サイズでは劣るが、すでにひと桁台にまでライフを攻め切れているのはサルヴァドールにとって大きいメリットだ。

 そして、しばらく鳴りを潜めていたサルヴァドールの《ペガサスの駿馬》が戦線騒がしい中、動き出した。2/2警戒の騎士・トークンとともに2体のコンビアタック。

 《噛みつきドレイク》、《地平の識者》がいる上でのアタックだ。「怪し」すぎる。

 その上で川崎は《地平の識者》で《ペガサスの駿馬》を、《噛みつきドレイク》で騎士・トークンを止めた。

 サルヴァドールが持つコンバット・トリックが《力強い跳躍》であれば、《地平の識者》は落ちない算段だ。

 しかしここで飛び出してきたのは……2枚目の《確実な一撃》。

 一瞬、動きを止める川崎。デッキリストを確認しているのであることは知ってはいるはずだが、それでも驚いている様子にも少し見えた。

 この戦闘の結果、《地平の識者》が一方的に落とされて飛行戦力を失い、《どぶ潜み》の誘発でライフも削られる。

 次の《ペガサスの駿馬》とのコンビアタックを受けられる飛行クリーチャーは、すでに川崎の手勢にはいなかった。

川崎 0-1 サルヴァドール

 ゲーム2が始まる前、サイドボーディング中には再びデッキリストを確認しあことが認められている。

川崎「Is this two(2)?」

「これ、2(って書いてある)?」

 サイドボードをはじめながら、川崎が紙リストの一か所を指さしてサルヴァドールに確認をとった。

 サルヴァドールが視線を落とした先には、Sure Strike(《確実な一撃》)の文字。

サルヴァドール「two」

 「2」だね。サルヴァドールがシンプルに答える。

 つまり川崎が「1」と「2」を読み間違えたということだろうか……と川崎の持つ紙に遅れて視線をやると、先ほど川崎が驚きの表情を見せた理由が分かった。

 枚数を記録するリストのマスにはしっかりと「縦の棒」が書き込まれているのだ。

 通常、これを「1」と読むことになんの差支えもないだろうというものだが、マスのなかには少し離して2本の「縦の棒」が書かれていた。

 よく見ると、他のマスにも「縦の棒」が2本のものが時々ある。

 川崎はこれをゲーム開始前に確認したときには「1」の書き損じと判断していたのだろう。これは実際には「ローマ数字」での「2」、つまり「Ⅱ」という表記であった。

 客観的事実として、デッキリスト記載の上でローマ数字の記載は日本では全くといって良いほど一般的ではない。

 しかしローマ数字で記載していけないという決まりも紙に書かれていないし、スペイン人のサルヴァドールがローマ数字を用いるのも自然なことのひとつなのかもしれない。

 川崎は自分自身を納得させようとするためか、ほんの小さな溜め息をついた。

 
ゲーム2

 サルヴァドールは言うなれば「今日の人」の引きをしてみせた。

 《》2枚と《匪賊の斧》、《金剛牝馬》といくらかの白いカードという手札を挑戦的にキープした。

 そのうえでファースト・ドローで《平地》、セカンド・ドローで《オレスコスの速爪》を引き込んで、ゲーム1と変わらぬ展開力を示した。

 展開を変えたのは川崎だ。1マリガンながら《飛行の先駆者》から《鏡像》で2体の1/2、2体の飛行機械・トークンを用意した。《オレスコスの速爪》を牽制し続ける。サルヴァドールは《どぶ潜み》を追加するも攻勢に出られない。

 じりじりと飛行機械・トークンでクロックを詰められてゆくサルヴァドールだが、先手後手をひっくり返す一手を放った。

 《地盤の裂け目》。

 ブロックのために立っていた《飛行の先駆者》(本体)ではブロックできなくなった。

 《どぶ潜み》の誘発と合わせてライフを半分ほどにも減らされるような呪文とタイミングだったが……

final_kawasaki.jpg

 川崎はサイドインした《不快な冷気》をここぞと合わせて急場をしのいだ。

 タイミング次第では一気にゲームを決めるエンドカードを見事にいなした川崎が再び盤面を制圧にかかる。

 《機械職人の守護者》を出して、地上をピタっと止める。サルヴァドールの《電光吠えのドラゴン》には《萎凋》を合わせたあと、《噛みつきドレイク》をプレイ。

 マリガン分が響いて川崎の手札はすでに無いが、展開は噛み合っているようだ。

 噛み合う。といえば、ここからのサルヴァドールのドローもすさまじいものだった。

 《レオニンの戦導者》ドロー。

 トップレアの1枚だが、現状《機械職人の守護者》のサイズに止められているため殴れない。

 ただ、次のドローが《星冠の雄鹿》だった。これで《機械職人の守護者》を超えてアタックを仕掛けられるようになった。

 《ペガサスの駿馬》も用意できて、この3枚のハイパワー・カードによって川崎が築き上げた盤面が崩壊するのに時間はかからなかった。

 9マナまで伸びたところで《願いのジン》プレイからの能力起動で《萎凋》をめくるという逆転につながりそうな一手をつないだが、サルヴァドールは《確実な一撃》と《力強い跳躍》の2種類のコンバット・トリックをすでに手中に収めていた。

 《どぶ潜み》による直接のライフダメージも合わせて、一時劣勢だったことを少しも匂わせないような進撃で、川崎を一瞬にして攻め切ったのだった。

川崎 0-2 サルヴァドール

final_shakehands.jpg

Good Luck.

 幸運の女神は地元から遠く異国で戦った旅人に微笑んだ。日本グランプリ、初のスペイン人戴冠となった。

 サルヴァドールは普段ショップ・オーナーとしてマジックと接しているという話だ。プレイヤーとしての入賞経験は少なくとも、場慣れ自体は充分にしているようにも見えた。決勝中でも常に気負いせず、プレイを楽しんでいる様子であった。

final_champion.jpg

 ギエム・サルヴァドール・アルナル。優勝、おめでとう!

 そして2度目のグランプリ・準優勝という戦績となった川崎をあたたかく迎えいれたのは、観戦していた多くの仲間たちであった。

 そこには佐藤レイも含まれている。彼が一番、準優勝という輝かしい戦績と、しかし目の前の敗北と両方を背負った川崎の様子を細やかに見ていた。慰めの言葉もあったが、「前を向こう」というように、はっぱをかけているようでもあった。

佐藤「今シーズンのグランプリでもう1回勝とう! 後が楽になるよ!」

 そうした発言の出る具体的な理由には、プロ・プレイヤーズ・クラブのシーズンの制度変更や切り替えの都合の話もあるのだが、むしろ感覚的なところで川崎にとって今回の結果が敗北ではなく勝利だったのだと伝えたいようでもあった。

――事実、今回の勝ち星でもって川崎のますますの活躍を期待するファンは、きっと多いことだろう。

 普段、優勝が決まる決勝戦の記事でこの表現をすることはしないようにしているのだが、今回だけは筆者も追って記したい。

 川崎 慧太、準優勝おめでとう。

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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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