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グランプリ・千葉2016
決勝:山本 賢太郎(東京) vs. 木原 惇希(東京)
By Masashi Koyama
マジックの歴史はマジックを愛する人たちの歴史だ。
マジックが初めて発売されてから二十余年。2016年の今もずっとマジックが続いていて、毎週のようにグランプリが各地で行われているのも、多くの人がこのゲームを愛し、それぞれの想いを紡いで来たからからこそだと、筆者は思う。
マジックの歴史上ほぼ全てのカードを使うことのできるレガシー構築戦で開催されたグランプリ・千葉2016。ここにあったのは、そのことを象徴するかのように、2500名以上もの人々がが皆それぞれに愛を持ってマジックを楽しんでいる姿だった。
そして、この決勝戦まで勝ち上がってきたふたりももちろん、それぞれにマジックへの愛を持っている。
山本賢太郎がプロシーンで初めて栄光と挫折を味わったプロツアー・サンディエゴ2007決勝戦から9年以上が経過した。
その間も山本は数々のプレミア・イベントトップ8入賞を経験し、その分だけ敗北を経験してきた。あと一歩のところで頂点に届かない......その悔しさは筆者には想像すらつかない。
けれど、ひとつだけ分かることがある。山本は時に寸暇を惜しみMagic Onlineに時間を費やすほどにはマジックに夢中だということだ。
山本がその気持ちを言葉にしたことは寡聞にして知らないが、トーナメントを戦い抜いた後も楽しそうにドラフトに興じている彼の姿を度々見かけたことがある。それほどまでに熱中できるマジックを、山本が愛していないと言えばきっと嘘になる。
一方、今回が初めてのグランプリ・トップ8となる木原惇希もまた、マジックを愛するプレイヤーだ。彼が初めて表舞台に登場した「第1期神決定戦」、そのインタビューからは溢れるようなマジックへの愛が伝わってくる。今、恋い焦がれたプロツアーへの権利を得た木原は、これからも新たな舞台の経験を積み、自身の歴史を紡ぎ、またマジックへの愛を新たにしていくことだろう。
今、両者は静かにシャッフルをし、きたるべき最後の試合へ向けて自らの想いを整理する。そこに言葉は必要ない。
だから、我々は刮目してただ見守ろう。
マジックの歴史と人々の愛がありったけにこもった、グランプリ・千葉2016の決勝戦を――
ゲーム1
通常、スニーク・ショウ vs 奇跡コントロールのメインデッキ戦においてはスニーク・ショウ側に分があるといって差し支えない。盤面を処理しながら徐々にゲームをコントロールし《師範の占い独楽》《相殺》のコンビネーションや《精神を刻む者、ジェイス》によるソフトロックで勝つことをメイン戦略としているため、盤面に関知しないスニーク・ショウに対し、《剣を鍬に》や《終末》がほとんど影響を与えないカードになってしまうからだ。
奇跡コントロールの目指すプランとしては、カウンター呪文か《ヴェンディリオン三人衆》で山本の初動を弾き、二の矢が飛んでくる前に「独楽相殺」か《精神を刻む者、ジェイス》で慎重に蓋をしていく形か......
......などと筆者がとりとめなく戦前の予想を立てているうちに、決勝戦第1ゲームは急加速する――
シャッフルを終えた山本が伏せられたカードを確認すると、そこにあったのは《実物提示教育》《引き裂かれし永劫、エムラクール》《水蓮の花びら》《呪文貫き》《意志の力》《裏切り者の都》《汚染された三角州》の7枚――
完璧なオープンハンド!
この手札を確認した山本は一瞬の逡巡もなくコンボを始動する。
《裏切り者の都》から《水蓮の花びら》。そしてこれから青マナを捻出し唱えるのは――
木原の手札に《意志の力》はなく、あったとしても山本の手札には《意志の力》が控えている。
そして、もちろん山本の手札から降臨するのは――
山本、驚異の1ターンキル!
山本 1-0 木原
不運、と言うにはあまりにも酷な形で第1ゲームを落とした木原。だが、メインデッキの相性からすれば、ここを落とすことはある程度織り込み済みだろうし、彼はここから這い上がる力を持っている。
何せ、木原は逆境でこそ勝利をもぎ取ってきた経験があるからだ。
冒頭で触れた第1期神決定戦の決勝戦。木原はあの八十岡翔太と対峙し、第1ゲームを落とした。だが、木原はそこから2ゲームを連取し、八十岡を破るという大立ち回りを見せ、頂点までたどり着いたのだ。
だから1ゲーム目を落としてしまっても、木原は落ち込む素振りも見せず淡々とサイドボーディングを進め、第2ゲームをもぎ取るべく備えている。
後がない木原だが、こういう状況でこそ力を発揮してきた |
一方の山本にとってもこの状況は経験済みだ。2013年に行われたThe Last Sun決勝戦。山本はあの時もまたスニーク・ショウを、《引き裂かれし永劫、エムラクール》を駆って、決勝戦で勝利を収めている。
両者が築き上げてきた歴史からすれば、ともに勝利の前兆とも取れるこの状況。ギャラリーが固唾を呑んで、ふたりの、そしてグランプリの歴史の行く末を見つめている。
ゲーム2
先手の木原は2ターン目、「フラッシュバック」する対象が無いにも関わらず《瞬唱の魔道士》でクロックを用意する。山本の駆るスニーク・ショウに対し、奇跡コントロールを操る木原としては序盤のダメージ源の設置が急務となる。とにもかくにも制限時間を突きつけなければ、山本がコンボへ向けて万端の準備を整える猶予を与えることになるからだ。
一方、手札に《騙し討ち》を抱えるものの土地を2枚しか持たない山本は《渦まく知識》をプレイする。するとそこには2枚目の《騙し討ち》と《古えの墳墓》《溢れかえる岸辺》があり、後顧の憂いの無くなった山本はコンボ始動へ向けていよいよ動き出す――
山本が勝利すれば初のプレミア・イベント優勝となる |
まずは《ヴェンディリオン三人衆》で木原から《赤霊破》をあぶり出すと、まず1枚目の《騙し討ち》をプレイ。
これに対し木原は《意志の力》で応じたところに、山本が《赤霊破》、木原は2枚目の《意志の力》でカウンター合戦を制するが、これで手札が空になってしまい、あとは《師範の占い独楽》に賭けるのみとなってしまった。
だが、前述の通り山本の手札には2枚目の《騙し討ち》が控えている。これはもちろんカウンターされることなく設置される。
木原は山本が繰り出した《引き裂かれし永劫、エムラクール》を一度は《終末》で躱すものの、山本の手札には2枚目、3枚目のエムラクールが出番を待っているのだった。
山本 2-0 木原
山本が結果を残す時、いつも傍にいたのは《引き裂かれし永劫、エムラクール》だった。前述した通り優勝したThe Last Sunでは今回と同じスニーク・ショウを使用していたし、彼がモダンで使い続けていて、グランプリ入賞を2度果たしたデッキは《引き裂かれし永劫、エムラクール》をふんだんに使った《御霊の復讐》デッキだ。
試合後、ニコニコ生放送でのインタビューで山本ははにかみながらこう答えた。
「(《引き裂かれし永劫、エムラクール》への)愛ですかね」
確かに山本の愛を証明するかのように、決勝戦では《引き裂かれし永劫、エムラクール》が山本の勝利を祝福すべく手札に駆けつけていたように見えた。
一方で、現実問題として愛という形のないものが物理的なマジックのドローに影響を及ぼすことは無いだろうし、あくまでも結果が出たからこその後知恵での思い込みなのかもしれないとも思う。
けど、それでも筆者は信じたい。
この勝利は《引き裂かれし永劫、エムラクール》を、そしてマジックを大好きであり続けた山本の愛の結晶なのだと。
初の戴冠おめでとう、山本賢太郎! 君がグランプリ・千葉2016チャンピオンだ!!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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