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The Finals 2019

観戦記事

第8回戦:藤田 俊英(広島) vs. 佐山 辰ノ介(東京) ~宝剣 vs.ガドウィック~

村上 裕一

 The Finals 2019のスイスラウンドは8回戦である。そしてこれからお送りするのが第8回戦、6勝1敗同士の激突だ。いわゆるバブルマッチなので、勝てばトップ8に入り、優勝を争う権利を得る。負ければ残念ながら敗退となる。たったの1回の敗北しか許されない。トーナメントはいつも厳しい。

 そんな厳しいトーナメントを、この二人は心から楽しんでいるようであった。フィーチャー席に着座するなり、こんな言葉を交わし合う。

藤田「ホントみなさん紳士的ですね」

佐山「競技的になればなるほど、みなさんいい人ですよね」

 その表情には疲れらしきものは一切なく、ただただ相棒たるデッキとともに、心ゆくまでデュエルを楽しみたいという晴れやかさが感じられた。

藤田 俊英(写真左) vs. 佐山 辰ノ介(写真右)
ゲーム1

 先手を取ったのは藤田。《神聖なる泉》を、祈るようにタップインする。そう、彼のデッキは今大会のメタゲーム上では少数派と言える「アゾリウス・コントロール」である。

 一方、1マリガンの手札をキープしたのが佐山だ。《》から《漆黒軍の騎士》をプレイする。「ラクドス・騎士」である。

 辛くも万全の先手を取ることができたが、第4回戦の観戦記事でも見たように、序盤から激しい攻勢をかける「ラクドス・騎士」は、立ち上がりの遅いコントロールに対しては天敵のように見える。果たして藤田はこの相性をどう乗り越えるのか。

 《寓話の小道》を置いてGOの藤田に対し、このマッチアップ最大のポイントとも言える動きが佐山から繰り出される。《試合場》を置いてからの《嵐拳の聖戦士》だ。

 このカードは、カードを補充しながらライフを削り、しかも威迫持ちということでなかなかブロックすることができない。手札が潤沢になりがちなコントロールデッキにとっては、せっかくのドローもそこまで劇的なメリットにならない。

 藤田は《寓話の小道》から《》を呼ぶと、次のターンには《アーデンベイル城》を置いてターンを返す。都合よく《嵐拳の聖戦士》を除去することができない。

 《》を置いて3マナ目を揃えた佐山、お伺いするように《漆黒軍の騎士》と《嵐拳の聖戦士》で攻撃する。対応がないと藤田が述べると、浮いたマナで《漆黒軍の騎士》の能力を起動すると佐山は言う。

 そこに狙いすましたように藤田が唱えたのが《厚かましい借り手》の出来事《些細な盗み》である。これのおかげで、藤田は最小限のダメージでこのターンを凌ぐことに成功した。

 とはいえメインですることがない藤田。土地だけは止まらずに置き続けるが、一度に動ける運動量は、さすがに「ラクドス・騎士」の方が多いと言える。帰ってきたターン、藤田のライフを戦闘で13まで減らした佐山は、《どぶ骨》、《漆黒軍の騎士》という順番にプレイする。

 対応を考えて動きが止まった藤田だったが、最終的にクリーチャーについてはすべて通し、ターンエンドに《薬術師の眼識》を唱えて手札を増やしていく。

 次のターンに藤田は土地を追加するが、それでも手札が8枚という状況になり、《老いたる者、ガドウィック》を捨てることになる。

 この《老いたる者、ガドウィック》、パワー/タフネスも馬鹿にできず、誘発のタップ能力もクリーチャーデッキを制圧する上で強力なため重要なカードに見えるのだが、{U}{U}{U}という厳しい制約がある。一応、現在の藤田の土地状況は《神聖なる泉》《》《アーデンベイル城》《アーデンベイル城》《寓話の小道》という形なので、唱えるだけなら唱えられる。だが、そうなると青マナを支払えない状態でターンを返すことにもなってしまう。

 とはいえ、捨てるには惜しすぎるカードのようにも思えるが……。土地を立たせたまま、佐山のターンがやってくる。

 土地をプレイして、4体のクリーチャーで攻め立てる佐山。ライフはあっという間に17対7にまで推移する。ライフは1点(もしくは火力で死なない3点)あればよいという考え方はコントロール使いの矜持だと思うが、そうは言ってもいよいよ際どいところになってきた。藤田は《寓話の小道》を《》に変えつつ、《薬術師の眼識》を再活で唱えていく。こちらを優先したかったのだろうか。

 次のターン、《》を足しつつ藤田が唱えたのは、手札にもう1枚確保していた《老いたる者、ガドウィック》!

X=0

 

 追加のドローを諦めることと引き換えに土地を残しているのは、《老いたる者、ガドウィック》の誘発型能力で盤面を制御しようとしているからにほかなるまい。

 とはいえ佐山も黙ってそれを見ているわけではない。藤田のターンエンドにそっと《黒槍の模範》でお伺いを立て、それが通ると見るやもう1枚《黒槍の模範》を追加していく。完全に次のターンには仕留める構えだ。

 続く佐山のターン。《嵐拳の聖戦士》の誘発でライフを失い、16対6。《ロークスワイン城》を追加した後、戦闘に入ろうとする佐山を藤田が制し、まずは《些細な盗み》。《老いたる者、ガドウィック》の誘発で《嵐拳の聖戦士》をタップ、《漆黒軍の騎士》をバウンスした。

 残りのクリーチャーは《黒槍の模範》2体である。総攻撃を仕掛けた佐山は、片方が《老いたる者、ガドウィック》にキャッチされたのを見ると、空いている方を対象にして《エンバレスの宝剣》を唱える。装備しようとすると、間髪入れずに藤田が投了を宣言した。

藤田「強いなあ……」

 藤田が思わずぼやいてしまうのも無理のないプレイングだったと言えるだろう。

ゲーム2
藤田 俊英

 ゲーム2、お互いに初手をキープすると、先手の藤田は《寓話の小道》から入る上々の立ち上がり(1ターン目にタップインを処理できるため)。一方、佐山も勢いは止まらず、《血の墓所》アンタップインから《熱烈な勇者》を繰り出す。さらに、《》を置いてターンを返すのみの藤田に対して、佐山はまたも2ターン目に《嵐拳の聖戦士》をプレイ!

 しかしながら次のターンに藤田は最速での《老いたる者、ガドウィック》の召喚に成功する。

 《老いたる者、ガドウィック》に居座られては溜まったものではない、ということで佐山が即座に《迅速な終わり》(《残忍な騎士》の出来事)で退場を強いる。それにしても「出来事」のパフォーマンスは異常だ。相手の脅威を対処した後に、追加の戦力として待機する。息切れなどという概念とは全く無縁に見えるほどである。

 そうかと言っていると、藤田は追加の《老いたる者、ガドウィック》をプレイすると、さらに見慣れないカードを追加する。《巨人落とし》である。

 出来事で唱えると除去になるが、単体でも機能するタッパーとして、かなりの時間稼ぎをしそうな渋いカードである。佐山も見慣れないカードだったようで、カードを引き寄せてテキスト確認していた。

 とはいえ佐山としてはすることが変わるわけではない。むしろ土地がフルに寝ている今こそがチャンスだ。手元の軍勢を全て攻撃に送り込む。威迫つきの《嵐拳の聖戦士》は触りにくいので、1/1のままの《熱烈な勇者》を藤田はダブルブロックする。すると、まるで勇者を囮にするように佐山が《エンバレスの宝剣》を唱え、《嵐拳の聖戦士》に装備させる。

 《熱烈な勇者》の犠牲により、その誘発も合わせて4/4の二段攻撃を繰り出した《嵐拳の聖戦士》は、8点のダメージを藤田に通す。ライフは14対4。

 どう見ても押されているとしか思えない藤田だが、《平穏な入り江》を置いてライフを1点得ると、《老いたる者、ガドウィック》で攻撃する。佐山のライフは11。だが、《老いたる者、ガドウィック》をブロックに回さなくてもよかったのだろうか?

 よかったのである。

 藤田は戦闘前に《薬術師の眼識》を唱えると《老いたる者、ガドウィック》の誘発で《嵐拳の聖戦士》をタップさせる。このターンはもう佐山は相手のライフを詰められない。

 とはいえできることがないわけではない。《砕骨の巨人》の《踏みつけ》で意味合い的には天敵とも言える《巨人落とし》を粉砕すると、残ったマナを使って進行中の出来事だった《残忍な騎士》をプレイ。次のターンの詰めに備える。

 しかし藤田はまるで意に介した様子もなく、またも《老いたる者、ガドウィック》をレッドゾーンに送り込む。チャンプブロックになってしまうため、佐山も通すしかない。この時点で佐山のライフは7、藤田の方は《平穏な入り江》をプレイし、1点回復する。7対5。いつのまにかライフ差と呼べるものはなくなりつつある。

 佐山、いよいよ際どい局面に入ったことを察知してか、少し長考をする。そして、攻撃に入ろうとすると、藤田が動く。まずは《些細な盗み》。《老いたる者、ガドウィック》の誘発で《残忍な騎士》をタップ、《嵐拳の聖戦士》をバウンス。戦闘を継続できなくなった佐山は仕方なく進行中の出来事だった《砕骨の巨人》をプレイ。ターンエンドしようとするが、そこで藤田は見えていた進行中の出来事の《厚かましい借り手》をプレイする。

 佐山はこのタイミングを狙っていたのだろう。藤田の土地が寝た隙に、《迅速な終わり》で《老いたる者、ガドウィック》を除去する。しかし、誘発により《砕骨の巨人》はタップされることとなる。

 もっともその代償は大きすぎた。《迅速な終わり》のライフ損失で佐山は残り4。《厚かましい借り手》が上空から攻撃して残り1。一方の藤田のライフは、追加の《平穏な入り江》により5。すでに戦況は逆転していた。

 とはいえ、ライフ5は一撃で仕留めることが可能な数値である。佐山は慎重にドローをすると、盤面に放置されていた《エンバレスの宝剣》を《残忍な騎士》に装備。戦闘に入る。

 藤田は3マナを支払うと《巨人落とし》の出来事《切り落とし》を唱え、《砕骨の巨人》を葬る。だが巨人の誘発で藤田も2点の傷を負う。残り3。このままでは騎士の宝剣が貫通してしまう――はずだった。

その風が宝剣を吹き飛ばさなかったなら。

 

 こうして騎士は2点のダメージを与え、ライフは3対1となり、残すは藤田のターンのみとなったように見えた。だが、まだ何か策があるのだろうか。考えを巡らす佐山がターンの引き渡しを焦らす。

 ようやくターンが帰ってくると、藤田は恐る恐る《厚かましい借り手》をレッドゾーンに送り込む。

 「何かある?」と顔で伺う藤田に対して、佐山はにやりと笑うと「負けました」と言った。

佐山 辰ノ介

藤田「楽しいなあこのゲームは! これだからやめられないんだよ!」


 
ゲーム3

 《エンバレスの宝剣》をめぐる駆け引きがあまりにも面白かったのか、決着もつかないまま早くも感想戦を始めてしまう2人。だが、残る時間は15分を切っており、まだ2人はサイドボードの入れ替えも終わっていなかったのである。

 トップ8に進む1人を決める戦いが引き分けに終わってよいはずがない。筆者が残り時間を促すと、2人はいそいそとシャッフルを始める。焦りか、それとも楽しさゆえか、わずかばかりの手付きの震えとともに、最後のゲームが始まった。

 両者、初手をキープした上で、先手を取るのは佐山である。

 残り時間を意識してか、圧倒的なテンポの良さで展開が進む。

 佐山、《》から《どぶ骨》。

 藤田、《平穏な入り江》。

 佐山、攻撃して《》を置いて《嵐拳の聖戦士》……。

みたび、2ターン目に登場。

 

 この時点でかなり佐山に天秤が傾いているようにも見えるが、返しのターンで藤田が繰り出したのは《徴税人》!

 佐山が《漆黒軍の騎士》などを追加する裏で、藤田はさらに《徴税人》を重ね、瞬速を生かした相手の行動を咎めていく。事実、次のターンに《黒槍の模範》を相手ターンに出そうとした佐山は、それができないプレイだと指摘されて手札に戻すことになったのだ。

 とはいえ毎ターン自動的にライフ損失を強要しつつ、威迫で殴ってくる《嵐拳の聖戦士》のプレッシャーは無視できない。かといってタフネス1の徴税人を2体犠牲にして《嵐拳の聖戦士》と引き換えにするわけにもいかない。

 そこで藤田が繰り出したのが《時を解す者、テフェリー》であった。

 [-3]能力で《嵐拳の聖戦士》をバウンスして、マウントを阻害する。とはいえ、軽量クリーチャーばかりの「ラクドス・騎士」。あっという間に佐山の戦陣は回復してしまう。

気づいたらまた5体も……。

 

 さすがにスルーしきれないと見るや、佐山の総攻撃に仕方なく藤田も《徴税人》を当てていく。しかし《徴税人》には「死後1」があるため、2体のスピリット・トークンがさらに場を保たせてくれる。

 さらに藤田は《栄光の終焉》をX=3で唱え、2/2トークンを3体追加。チャンプブロックも辞さない覚悟で、なんとかこの急場を乗り切ろうとする。

 気づけばライフは18対5。佐山には+1/+1カウンターが置かれた《漆黒軍の騎士》と《どぶ骨》、藤田には2/2の兵士トークンが2体と《時を解す者、テフェリー》。油断すれば膠着しかねない戦場で、ふと佐山が本体に唱えたのが《踏みつけ》。そして返す刀で《砕骨の巨人》を唱える。藤田の残りライフは3。

 藤田はテフェリーの[+1]を使って忠誠度を増やしつつ、《平穏な入り江》でライフを4に回復させながら、起死回生の1枚を繰り出す。

 だが、神の合流も流石に遅きに失したのかもしれない。

 戦闘前に《迅速な終わり》で《時を解す者、テフェリー》が葬られたときに、すでにその予感は確信に変わりつつあった。

 佐山が全員で攻撃を繰り出すと、1点も通さぬとばかりに藤田はブロック・クリーチャー指定を行うが、《漆黒軍の騎士》に《エンバレスの宝剣》が装備されると、3/3、二段攻撃、トランプルのスペックが、藤田の残り4点のライフをもぎ取っていくのだった。

藤田 1-2 佐山

佐山 win!


 試合を終えた佐山に、これだけの成績を挙げている以上愚問ではあるのだが、なぜ今回「ラクドス・騎士」を持ち込んだのかを聞いてみた。

佐山「実はずっと『グリクシス・騎士』を回していたんですよ! それがバチ弱くて、昨日晴れる屋で大会に出たら0−5しちゃったんです。それでもラクドスにするしかないと思ってラクドスにしました!」

 直前に大会で検証することの重要さが染み渡る、非常に味わい深いコメントであった。

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