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The Finals 2018
準々決勝:斉田 逸寛(東京) vs. 大谷 哲哉(群馬)
これまで斉田 逸寛ほど、実力と実績が乖離していたプレイヤーもそういなかっただろうと思う。確かな構築力と的確なプレイで大会などでは常に高いアベレージを保ち続けてきたものの、大型大会での実績に欠けるきらいがあった。
しかし2018年に入ってからの活躍は目覚ましく、グランプリ・京都2018とグランプリ・千葉2018ではそれぞれ11勝3敗と12勝3敗でプロポイントを獲得すると、エターナル・ウィークエンド・アジア2018のレガシー部門でも準優勝という成績を残すに至っている。
そこにきて、先日のグランプリ・静岡2018(スタンダード)でのトップ4入賞……そう、3週間前にも斉田は同様のジェスカイ・コントロールで、自身初のグランプリトップ8入賞をついに果たしたばかりなのである。それでいて今日もまたトップ8進出を果たしているというのだから、もはや名実ともにこの環境の「ジェスカイコントロール・マスター」と呼んで差し支えないパフォーマンスだろう。
そしてそれゆえに。デッキと自身のプレイとの相性が最も噛み合っている今だからこそ、タイトルまで取っておきたいという気持ちもあるに違いない。
しかし、ここからは対戦前に互いのデッキリストが公開となる。そして確認のために大谷のデッキリストを受け取った斉田の表情が、目を見開き、頭の上に「?」が乗ったような状態で急に固まった。
それもそのはず、第7回戦のカバレージで先に少し紹介したとおり、大谷 哲哉のデッキはちょっとばかりスパイスの効いた特別製なのだ。
大谷「恥ずかしい……電波なのがバレてしまう(笑)」
斉田「いやいやトップ8にまで残ってますから、そんなことはない……でしょう(笑)」
その構築はThe Finalsというイベントにゆかりのあるものでたとえるならば、さながら齋藤 友晴の「スノウ・ストンピィ」のようだった (もちろん現代のスタンダードの定石に則してマナカーブは2マナから始まっているが) 。《アダントの先兵》《風雲船長ラネリー》といった最低限のクロックを展開してから《呪文貫き》で奇襲するというその思想は、紛れもなくクロック・パーミッションのそれだ。
あまりにテンプレートとは異なるレシピを前に、斉田は脳をフル回転させてその構成を記憶し、そして乗り越えるための戦略を練っていく。
やがてデッキの確認が終わると、ジャッジが2人のデッキリストを回収し、対戦の準備に入る。年末という時節柄あるいは秋葉原という場所柄もあってか、トップ8に残れなかった者たちは三々五々に帰っていき、気づけば150名以上ものプレイヤーたちがいた会場は既にまばらで、シャッフルの音がよく響くようになっていた。
大谷「急に静かになりましたね……」
斉田「みんないなくなっちゃいましたね」
大谷「もうちょっとガヤガヤしてて欲しいんですけどね(笑)」
『ドミナリア』からマジックを始めて大きな大会はこれが初めてだという大谷は、いきなりの大舞台で緊張が隠せない様子。対して斉田は落ち着いている。大舞台なら、たった3週間前に経験したばかりなのだ。
斉田は取り逃したタイトルを今度こそ獲得するために。大谷は自らの構築思想の正しさを証明するために。
それぞれの思いを抱えながら、準々決勝の戦いに臨む。
斉田 逸寛 vs. 大谷 哲哉 |
ゲーム1
後手の大谷はタップインを処理しつつ3ターン目から《トカートリの儀仗兵》《トカートリの儀仗兵》という、ジェスカイ・コントロールに対してあまりにもプレッシャーの弱い立ち上がり。対し、《選択》3連打で手札を整えた斉田は、ライフプレッシャーが少ない中で順調に土地を伸ばしていく。
どうにか《ベナリア史》をプレイする大谷だったが、これには返しで《轟音のクラリオン》が合わせられ、せっかく並べた《トカートリの儀仗兵》ごと流れてゆく。ならばと《アダントの先兵》を送り出すも、これには《悪意ある妨害》が飛ぶ。
そして満を持して、7枚目の土地を置いたのちに5マナから斉田の《ドミナリアの英雄、テフェリー》が着地する。
そう、デッキリストの公開は斉田にとって僥倖というほかなかった。通常の対戦であれば初見ではほぼノーケアで突っ込んでいたであろう大谷の《呪文貫き》を、所与の前提としてプレイすることができたからだ。さらに騎士・トークンには《裁きの一撃》を打ち込み、更地に《ドミナリアの英雄、テフェリー》という場が完成する。
ならばと《再燃するフェニックス》を送り出す大谷だが、斉田はなおも[+1]能力で手札を補充しつつ、《弾けるドレイク》をブロッカーに立て、これは《溶岩コイル》されてしまうものの、《再燃するフェニックス》の攻撃にはきっちり《封じ込め》で応える。
斉田 逸寛 |
「もしも更地に《ドミナリアの英雄、テフェリー》が着地してすぐに返せないようなら、速やかに投了した方がいい」とは、《ドミナリアの英雄、テフェリー》の強さを表すためにまことしやかに言われる俗説だ……だが、そこからのゲームはそれがまるで真実と感じられるかのように、あまりに一方的なものとなった。
2体目の《再燃するフェニックス》を返しの[-3]能力で対処した斉田は、《ベナリア史》をもはや何ら脅威ではないと言わんばかりに秒でスルーすると、《パルン、ニヴ=ミゼット》をも着地させる。
大谷も《黎明をもたらす者ライラ》を出して対抗しようとするのだが、マナの総量を計算した斉田は、ゲームを速やかに締めくくった。
斉田「[-3]を《黎明をもたらす者ライラ》に。《発展 // 発破》X=8で8枚ドローと8点本体、の《パルン、ニヴ=ミゼット》で倍の16点」
斉田 1-0 大谷
ゲーム2
大谷の初動は3ターン目、タップイン土地の整理が原因でプレイが遅れてしまった《アダントの先兵》だが、これは《本質の散乱》に撃墜される。
ならばと「本日のMVPカード」にも挙げていた《風雲船長ラネリー》をプレイ。これがカウンターされずに通ると「通ったー!」と無邪気に喜ぶ大谷……だったが、それもぬか喜びに終わる。
斉田「出ました。で、宝物・トークンが出るのにスタック」
大谷「あーれー」
あえてタップさせてからプレイされたのは《封じ込め》。宝物・トークンの生成は許されるものの、さすがにクロックの定着は許されない。
続けて大谷は、斉田が《弾けるドレイク》をプレイしてフルタップになった返しで《ドミナリアの英雄、テフェリー》を着地させ、[-3]で《弾けるドレイク》を対処しにいく。
大谷 哲哉 |
しかしこの《ドミナリアの英雄、テフェリー》は、斉田の《ドミナリアの英雄、テフェリー》の[-3]能力でカウンター気味に対処されてしまう。
それでも《黎明をもたらす者ライラ》を送り出し、ブロッカーとして出てきた2体目の《弾けるドレイク》には《溶岩コイル》を合わせて《ドミナリアの英雄、テフェリー》を落としにいくのだが、ここで斉田は引き込んでいた《封じ込め》できっちりと受ける。
さらに、ならばと余ったマナから唱えられたX=2の《苦悩火》にも、斉田の《呪文貫き》が突き刺さる!
この斉田の丁寧な捌きがハマり、《ドミナリアの英雄、テフェリー》は1ゲーム目と同様、もはや完全に定着していた。ライブラリーの上から戻ってきた大谷の《ドミナリアの英雄、テフェリー》も《呪文貫き》で撃退した斉田は、続けて自身の《黎明をもたらす者ライラ》をも盤面に立てると、《ドミナリアの英雄、テフェリー》2枚目には《悪意ある妨害》でお出迎え。
挙句の果てに《弾けるドレイク》をも追加して盤石な体制ができあがると、もはや大谷にはこの盤面をひっくり返す手段は残されていないのだった。
大谷「……投了します」
斉田 2-0 大谷
大谷「《封じ込め》2枚引かれてるとどうしても……白マナ引かれなきゃワンチャンくらいなんて、どっちにしても相性的にきついっすね」
斉田「相性差ありますよね。リスト見て『めっちゃゴルガリ殺してきてそう』って思いました(笑)」
大谷「あとはやっぱりメインの《呪文貫き》がバレちゃうと……」
斉田「リスト公開はめちゃめちゃ響いてますね。知らなかったら《神聖の発動》もサイドインしてましたし」
予選ラウンドでは4人ものゴルガリと当たってきた大谷だが、この準々決勝ではハズレくじを引いたようだ。「ジェスカイ・コントロール」は、白系ミッドレンジである大谷にとって残念ながら最も当たりたくないデッキの一つだった。しかもリスト公開ともなれば、狙える勝ち筋は精々《アダントの先兵》《風雲船長ラネリー》からの《呪文貫き》というハメパターンくらいだったかもしれない。
大谷「ビッグレッドとゴルガリを全部踏んで勝つつもりだったんですけど……ゴルガリに当たりたかったなぁ……」
とはいえ少なくとも、マジック歴が浅い中でこれほどまでに独創的なデッキを作り上げ、見事結果を残した大谷の奮闘は称賛されてしかるべきだろう。
というわけでせめて勲章代わりに、大谷が去り際に残して言った言葉をカバレージに記録しておくことで、大谷の努力に報いたいと思う。
大谷「《風雲船長ラネリー》は強い! 1000枚!」
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