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EVENT COVERAGE
2020年シーズン・グランドファイナル
10年にわたる驚くべき軌跡
2020年10月15日
オースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichは2020年シーズン・グランドファイナルで優勝した瞬間、寝室でただ1人でプレイしていることは忘れたようだ。
彼は勝利を派手に祝い、昔からよく使われるようなお決まりのパフォーマンスを披露した。これは最高の舞台で語られてきた立身出世の物語の中でも完璧な結末を迎えたものの1つだった。バーサヴィッチは最終的な勝利を求めて敗者側ブラケットからスリル満点の復活劇を見せて、タイトルを持ち帰ったのだ。
たまにプロツアーに顔を出すプレイヤーからトップ8の常連へ、そしてついにチャンピオンにまで登り詰めたバーサヴィッチは、この12か月間にマジックのプロシーンで爆発的な活躍を見せた。何気なく見ていた者にとって、それは彗星のような躍進に見えたことだろう――どこからともなく現れ、成功を続けてトップに立ったことを宣言したスター選手のようにだ。
マジックの歴史の中にはそういったプレイヤーもいたし、彼が28歳の若さであることを考えるとそう思えても無理はない。バーサヴィッチはグランドファイナルのタイトルを奪取するため、現在マジック・プロリーグに所属している殿堂顕彰者2名に加え、同じくマジック・プロリーグ所属のもう1人をも倒し、エリミネーションマッチ6連勝という厳しい条件を乗り越えた。配信視聴者は、彼の生き生きとした反応と揺るぎない自信を見ることになった。自身が所属するチームはこのイベントのため――そして過去1年間のほとんどのイベントでも――最高のデッキを最高のバージョンに仕上げてきたのだ、という彼の信念を感じられたはずだ。
2019ミシックチャンピオンシップVI(リッチモンド)準々決勝にて
バーサヴィッチは誰がどう見ても、今や押しも押されぬチャンピオンであるように見える。過去12か月の主要なイベントでトップ16に何度も彼の名が挙がり、3度の優勝も果たしている。それよりも良い戦績を残してきたと言えるのは、4度の優勝を成し遂げている――そしてこのグランドファイナル・トップ8でバーサヴィッチに敗北した――ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifのような、マジックの偉人たちぐらいなものだ。
これは10年にわたる「驚くべき」軌跡だ。世界はかの週末に、対策を詰め込んだデッキを用いた世界レベルのプレイヤー2名――エマ・ハンディ/Emma Handyとオータム・バーチェット/Autumn Burchett――をバーサヴィッチが打ち倒したところを見届けたが、彼がサイドボードを完璧に整えるために何時間もかけてあらゆるカードから選択していったことを知る者は少ない。2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)でバーサヴィッチが《王冠泥棒、オーコ》を用いてトップ8に入り、成功への快進撃を始めたところは目撃したが、彼がリミテッドで6勝0敗という成績に至るまで磨き上げた150回におよぶ『エルドレインの王権』ドラフトでの研鑽について尋ねる者はいなかった。そしてバーサヴィッチが自身の優勝を祝すところは誰もが見ていたが、唯一バーサヴィッチだけは、長年あと一歩で及ばない日々が続いたことを、そして同じ年月を歩んできた競争相手も同じく結果の出ない日々を過ごしてきたことを思い返していたのだ。
バーサヴィッチが2020年シーズン・グランドファイナルを制したのは、この1年で見られたハイレベルな舞台での結果だけによるものではない、ということは間違いない。これは2011年に彼が初めてグランプリのトップ8に入賞したときから始まった、10年間にわたる忍耐強い専心の結果だ。
「プロツアーで初めてうまくいったのは、2015年のプロツアー『運命再編』のときだった。準備不足で、たまたま良いデッキを握っていて8勝0敗というスタートを切れたんだ」と彼は振り返る。「結局トップ8には届かなかった。そういったトーナメントのための正しい準備についてよくわかっていなかったんだ」
ハイレベルなイベントに参加することと、そこでコンスタントに結果を残すことは全くの別物だ。それはチャンピオンであっても頭を抱えるような(リンク先は英語)挑戦たりえる。バーサヴィッチはあと一歩というところまでたどり着き、そこからあとどれだけ先に進まねばならないかも理解していた。
彼のマジック能力がレベルアップしたのはこの時が初めてではない。彼が高校生のときにMagic Onlineを見つけ、完璧なシールド・デッキを構築するために必要とされる難解な要素を貪欲に吸収していった時と同じように、バーサヴィッチは最大級のイベントで成功するために必要とされることに取り組んできたのだ。
「最も異なる点は準備の仕方だった――準備に焦点を当てはじめてから、うまくやれるようになったんだ」と彼は言った。「大型トーナメントに参加するまでの数週間を除くとあまりマジックをプレイすることができないので、本当にこのイベントへとオールインすることにしたんだ」
バーサヴィッチがグランプリのトップ8に入ってからここに至るまでは何年にもわたる労力を必要としたが、彼は正しい方法でマジックに取り組むことができていると確信している。「マジックを始めて以来、数多くの素晴らしいプレイヤーが学びと上達の助けとなってくれた」と彼は語った。「プロツアー『運命再編』後、私はセス・マンフィールド/Seth Manfieldやブラッド・ネルソン/Brad Nelson、ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duin、アリ・ラックス/Ari Lax、スティーブ・ルービン/Steve Rubinといった面々に加わって、トーナメントの準備方法について本当によく教えてもらったんだ」
バーサヴィッチは一歩進むごとに周りの人々から学び、彼自身の能力をレベルアップさせ始めた。そのすべては、リッチモンドでのトップ8という結果に結実した――そしてそれはその後も2度ほど続いた。
「常に目標に向かって突き進んできた。フライデー・ナイト・マジックから始まり、1年以内には『プロツアー予選』というものを知って競技的にプレイするようになっていたよ」と彼は説明した。「マジックを専業でプレイしたいと考えたことはないけれど、マジックはいつでも自分の競技心を発露させるための場所だったんだ」
「私には好戦的なところがある。しかし来年のどのトーナメントに参加できるかはわからないので、トーナメントが開催されるたびに追い詰められるような気持ちを感じることになるだろう」とバーサヴィッチは言う。「ライバルズ・リーグに参加したいね。今だ達成できていないし、新型コロナウイルス感染症があるから見通しが立たない部分も多いけれど、その目的を果たすまで止まるつもりはないよ。自分自身にそれが可能だと証明してやりたいんだ」
その決意が、これまでよりもバーサヴィッチをマジックに尽力させることとなった。彼はアレン・ウー/Allen Wu、アリ・ラックス、そしてアンドリュー・エレンボーゲン/Andrew Elenbogenといったトップ・プレイヤーや過去のチャンピオンが所属する「Team 5%」に参加している。バーサヴィッチは、過去1年間にわたる彼の成功をチームの手柄とした。
「それ以降すべてのイベントでアレン・ウーが一緒になって、私を大いに助けてくれたんだ」と彼は続けた。「このゲームに対する流儀や取り組み方はお互いに似ている。けれどお互い熱心に取り組み、また互いに責任を取り合うことで、我々はあらゆるトーナメントにいつでも最適な状況で参加できるようになったみたいだ。私は過去6回のトーナメントで、デッキのカードを1枚も変更していないからね」
マジックと競技プレイヤーが今年に直面した難問だけでなく、バーサヴィッチには彼の取り組みのためにやらねばならないことがさらにあった。一貫して競技プレイヤーであり続け、なおかつ女の子3人に気を配る父親であり続けることだ。グランドファイナルの配信視聴者たちは、バーサヴィッチが自室で優勝を祝したところは見ていたが、後ろの部屋で見守っていたパーティーメンバーがいたことには気づかなかったはずだ――2歳、3歳、そして6歳の子が静かに見守っているかぎり、それに気づくのは無理な話だ。
「そろそろ騒がしくなってくる頃かな」と彼は笑った。「私が優勝したときには娘たちはすでに寝ていたけれど、私のことで興奮していたのは間違いないだろうね。私は過去に優勝したときのトロフィーを持ち帰っているし、長女は……私がMTGアリーナをプレイしているところを見るのが好きなんだ。私が《不滅の太陽》をプレイするところを見て以来それが彼女のお気に入りのカードになって、今では私がプレイしているときはいつもそれについて聞いてくるんだ」
バーサヴィッチは自身の実力を証明してみせたが、それと同時に今年の成功は本当に家族の力があってのものだと言う。
「週末に娘たちを妻や両親に任せてトーナメントに参加できるようにしてもらったり、準備の時間を取れるようにしてもらったりしながらすべてのバランスを取っていくのは難しい」と彼は認めた。「正直に言って、大きなストレスを感じることになりかねない。こんなに協力的な家族がいることはとても幸運だ。家族の協力なしではやれていないだろうね」
2020年は他に類を見ない年だったが、その中でもバーサヴィッチが安定した成績を残せたのは、彼と彼をサポートする体制、その両方の力の証明だ――ひどいトップデッキと同じぐらい問題になりそうな、幼児による中断を余儀なくされる可能性が高い自宅からプレイをしても揺るがなかったのだから。
あるいはハリケーンをも乗り越えているのだから。
グランドファイナルの初日が終了し、バーサヴィッチが上位につけていたころ、ルイジアナ州のバトンルージュ近くにある彼の自宅周辺では風が渦を巻き始めていた。彼が夜中の戦いに向けて娘たちを寝かしつけたころには、ハリケーン・デルタが木々を激しく揺らし始めていたのだ。
「我が家は100マイルほど内陸にあるが、それでも風が強く電気が消えたりして、金曜日の就寝時には本当に心配だった」とバーサヴィッチは言う。「不測の事態に備えて、早起きしてヒューストンまで4時間のドライブを敢行して家族の家でプレイすることも検討していたけれど、幸運なことに周辺はともかくうちが停電になることはなかったよ」
これらはマジックのトーナメントでプレイヤーが対処を求められる課題ではないが、今年は誰にとっても過去に類のない難関を乗り越える必要がある1年だった。そういった中でもバーサヴィッチはイベントで常に好成績を叩き出し続けたのだ。グランドファイナルでの勝利はこの信じがたい12か月間を締めくくるものであり、マジックの次なるスーパースターの台頭が目の前で始まっているのかもしれない。
ついにその時が来たのだろう。
(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa)
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