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EVENT COVERAGE
2019ミシックチャンピオンシップⅦ(MTGアリーナ)
Kanister:情緒的なチャンピオン
2019年12月13日
(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものです。)
ピオトル・「Kanister」・グロゴウスキ/Piotr Głogowskiは、以前のミシックチャンピオンシップ王者とはまるで異なっている。
ミシックチャンピオンシップでの勝利に至るまでの道は、彼が先週ロングビーチで達成したとおり、他と似通っている。素晴らしいマジックプレイヤーであり、ブレイクスルーに至るべく長年競技シーンを戦ってきた歴戦の士だ。彼の友人や家族にとってはいつでも、熱心なチームメイトであり、理論家であるピオトル・グロゴウスキである。ここに至るまで数千時間を費やしており、そういった意味では典型的なチャンピオンと言える。
しかし全世界の数百万人にとっては、彼は「ピオトル・グロゴウスキ」ではないのだ。彼はゲーム内のエモートを好むことで有名なMTGアリーナの配信者で、12歳のころネット掲示板で名乗っていた名前をそのまま使っている「Kanister」なのだ。彼は配信時に音楽のリクエストを募ったり、試合に勝った後でステージで踊ったりしている。また、変わった帽子を被って、よくソーシャルメディアで写真を上げたりもしている。
I'M THE BOSS OF THIS GYM#MythicChampionshipVII
— Piotr 'kanister' Głogowski (@kanister_mtg) December 9, 2019
俺がこのジムのリーダーだ #MythicChampionshipVII
そう、そして時には「Your go.」の連打を受けることも厭わない。
— Piotr 'kanister' Głogowski (@kanister_mtg) December 7, 2019
.@PVDDR (訳注:パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa) #MythicChampionshipVII でトップ8を確定させ、他のトップ8メンバーである @kanister_mtg に言いたいことがあるようです http://Twitch.tv/Magic
長年の競技の伝統を壊すことを恐れる、チェス同様の競技者が支配する分野で、Kanisterは前例のない装いのまま、ここ数年でマジックの世界の頂点まで上り詰めた。
そう、Kanisterは新しいタイプのミシックチャンピオンシップ王者なのだ。
「で、僕には個性があまりないって?」 彼は癖について問われたとき、いたずらっぽい表情で答えた。「それが僕ですよ。僕がエモートを連打していても大半のプレイヤーは別に嫌じゃないみたいですし、実際トラブルにはなってないんです。別に嫌がらせをしているつもりもないですし、それが嫌な人がいるならやめますよ」
「とはいえ、大半のプレイヤーや視聴者は時として馬鹿げたことを楽しんでいますし、それが普通のマジックに欠けているものだと言うでしょう。一部の人は僕を道化だと言うでしょうが、特に気にしませんよ。世界には70億人もいて、僕がどうしようが気に入らない人はいるものですから」
2019ミシックチャンピオンシップⅦの決勝は、まさにKanisterのプレイ方法の表れだったと言えよう。対戦者はブラッド・ネルソン/Brad Nelson、2019ミシックチャンピオンシップⅢでマティアス・レヴェラット/Matias Leverattoに敗れたのち、シーズンで2度目となるミシックチャンピオンシップの決勝となる。戦いののち、Kanisterが優勢となった。Kanisterがどう感じていたかに関わらず、ネルソンは視聴者の望むものを正確に提供する瞬間の重要性をについて認識と好意を兼ね備えていた。
ネルソンがKanisterのお株を奪ったのだ。
MTGアリーナでの試合を最後の数秒まで引き出すのはKanisterのお気に入りであり、彼の言葉を借りれば「もってこい」だ。10万ドルと世界選手権2019への参加資格を獲得したとき、観衆は笑い出したのだった。競技マジックの25年間の歴史にはなかった光景だが、Kanisterがそのキャリア最高のトロフィーを獲得する瞬間としてはこれ以上ない演出だっただろう。
Kanisterは笑顔で認めた。「とてもいい感じでしたよ。盤面を見て、ブラッドが巻き返す可能性を探そうとしていたんですが、そこでブラッドが笑顔で見つめているのに気づいたんです。僕は2012年に始めたばかりで、他のMPLプレイヤーのように1995年みたいな昔からプレイしていたわけではないので、あまり文化に馴染んでいないんです。あまり深刻に向き合っているわけではなかったので、トーナメントの完璧な締めくくりとなりましたね」
もちろん、彼にとって、もっと完璧になったものがひとつだけあった。
真剣なプレイの裏付けがなければ、こうした面白く風変わりなものにはまるで意味がない。彼は2017年後半にプロツアー『イクサラン』で実績を残す前に、グランプリのトップ8に何回か入賞している。その後すぐにワールド・マジック・カップで準優勝し、そしてその過程でMPLへの招待を獲得したのだった。
しかしながら、Magic Onlineで最愛のモダンデッキである「アミュレット・タイタン」を駆り初めて名声を得たこのポーランド人プロが、MTGアリーナの登場でKanisterとして最高の結果を得たというのは驚くことではない。Kanisterは3月に「PAX East」で開催されたミシックインビテーショナルでプロや有名人、配信者などを下し、決勝でアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciに敗れた。しかし今、ミシックチャンピオンシップ覇者のタイトルを手に入れたKanisterは、来年2月に行われる世界最高峰の16名の1人として、世界選手権2019に向かうことになる。
ここまでの成功を予期していなかった24歳の彼にとって、これは大きなプレッシャーだろう。ここ数年間の彼の流星のごとき躍進は、スタンダードのメタゲームのような急変を金銭的な部分と責任の部分でもたらし、誰にとってもそれを管理するのは難しいものとなっている。しかし彼はそれを大胆にも扱いきり、Kanisterらしく冗談の種にさえしているのだ。
「(ミシック)インビテーショナルの後、ガールフレンドと新居を買えたのは勝利のいい結果でしたね。ただ、引っ越して初めて棚に何も入っていないことに気がついたんですけどね。今はちゃんと調度品があると思いますよ。でも、勝ったからといって自分を変えたいとは思いませんね。ここにいることも、マジックをプレイすることも好きですし、配信することも大好きです。僕にとって勝利とMPLへの加入は、黄金を巣に溜め込むドラゴンのようになれた、ということで、それは配信やその他の本当にやりたいことを好きにできるようにしてくれているのです」
「競技的にプレイするよりも、配信する方が好きなのかもしれませんね」
自身のスタイルでマジックの世界を席巻した2019年を終えようとしているKanisterの心には、今2つのことがあるだろう。ひとつはもちろん、それはこの後に控えている世界選手権と、その賞金総額100万ドルだ。もうひとつは?
記念の配信だ。
(Tr. Keiichi Kawazoe / TSV Yusuke Yoshikawa)
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