EVENT COVERAGE

2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)

観戦記事

第4回戦:行弘 賢(東京) vs. Craig Krempels(アメリカ) ~春過ぎて 夏の帳と オーコの秋~

伊藤 敦

 

 かつて「ネクロの夏」「MoMaの冬」と呼ばれた時代がそれぞれあった。90年代後半、《ネクロポーテンス》や《トレイリアのアカデミー》がトーナメント環境で猛威を振るったことで、シーンが特定のデッキ一色に染まることをそのように表現する風習ができた。

 かつて「エルドラージの冬」と呼ばれた時代があった。2016年、『ゲートウォッチの誓い』の発売後にモダンフォーマットで開催されたプロツアーでは、《ウギンの目》を4枚積んでまでエルドラージを高速召喚するデッキがトップ8のうち6人を占める事態となり、《ウギンの目》が禁止される原因となった。

 ならば、これはもはや「オーコの秋」とでも呼ぶべきなのだろうか。

 スタンダードラウンドの開始とともに公開されたメタゲームブレイクダウンによれば、食物デッキがスゥルタイ/シミック/バント合わせて63%という恐るべきメタゲームとなった今大会。

 そんな中、日本人で唯一ドラフトラウンドを3勝0敗で駆け抜け、食物デッキをアレンジした異色の「4色プレインズウォーカー」 (のちほどデッキテクをお届けする予定だ) を携えてスタンダード環境に旋風を巻き起こそうとする男がいた。

 先日のミシックチャンピオンシップⅤ(MTGアリーナ)でトップ8に入賞した記憶も新しい、MPLプレイヤー行弘 賢だ。

 対するは、SCGの放送コメンテーターとして知られるクレイグ・クレンペルズ/Craig Krempels。デッキはオーソドックスな「スゥルタイ・食物」を使用している。

 圧倒的トップメタを相手に、はたして行弘のオリジナルチューンは再び火を噴くのか。残念ながらフィーチャーマッチには呼ばれなかったものの、通常の対戦エリアから注目の一戦をお届けしよう。

 

ゲーム 1

 先攻はクレンペルズ、行弘がワンマリガン。クレンペルズが《楽園のドルイド》からの《王冠泥棒、オーコ》と順調に動いたのに対し、行弘も《楽園のドルイド》からの《ゴルガリの女王、ヴラスカ》の[-3]能力で《王冠泥棒、オーコ》を処理して主導権を握ろうとするのだが、返すターンにクレンペルズが《楽園のドルイド》のアタックで《ゴルガリの女王、ヴラスカ》を落としつつ、お返しとばかりに《ゴルガリの女王、ヴラスカ》の[-3]能力で行弘のタップ状態の《楽園のドルイド》を落とすと、返すターンの行弘はマナが減ったことで《むかしむかし》を唱えるくらいしかできず、先手後手の差が行弘に重くのしかかる。

 この隙にクレンペルズは《金のガチョウ》《王冠泥棒、オーコ》と送り出し、[+1]で食物・トークンを3/3の大鹿にして5点をお見舞いすると、さらに行弘が《ハイドロイド混成体》を「X=2」で送り出すにとどまったのに対し、これを《害悪な掌握》で除去しつつ、2体のプレインズウォーカーでリソースを拡充しながら再び5点ものダメージを行弘に叩き込む。

 
行弘 賢

 だが、少し焦り気味にライフを押し込みにかかったこの一手が付け入る隙を行弘に与えた。返すターン、5マナに到達した行弘は更地になった彼の盤面に《世界を揺るがす者、ニッサ》を送り出すと、[+1]能力で《草むした墓》をアンタップしてターンエンド。そしてクレンペルズが《王冠泥棒、オーコ》の[-5]能力で食物・トークンと《草むした墓》を交換しようとしたところで{B}{G}を浮かせ、戦闘前に《害悪な掌握》で大鹿1体を対処することで、大鹿と《楽園のドルイド》の5点アタックで忠誠度は減らしつつも、ギリギリで《世界を揺るがす者、ニッサ》を生き残らせることに成功したのだ。

 とはいえ、《意地悪な狼》まで追加された盤面を見ればもう1ターン生き残る算段は見えない。ならば今のうちにとばかりに、行弘は倍増したマナを生かして《ハイドロイド混成体》を「X=6」で唱えつつ、《世界を揺るがす者、ニッサ》の[+1]で《》をクリーチャー化してターンを返す。一方クレンペルズは《ゴルガリの女王、ヴラスカ》の[-3]能力で6/6の《ハイドロイド混成体》を早速落としにかかるのだが、これにはメインからの《夏の帳が突き刺さる!

 リストは互いに公開されているとはいえ、どこかで飛び込まなければしょうがない。クレンペルズもそれは覚悟の上だっただろう、代わりに《》をタップさせたことでひとまず《世界を揺るがす者、ニッサ》だけは戦闘で落とすことに成功して事なきを得る。

 対し、6/6の《ハイドロイド混成体》をうまく盤面に定着させた行弘はまず《ゴルガリの女王、ヴラスカ》を落とすと、《王冠泥棒、オーコ》を展開して先ほど交換された食物・トークンを[+1]能力で大鹿に変換。さらに2マナを立てて《害悪な掌握》を構えてターンエンドする。

 ここにきて、形勢は徐々に行弘の側に傾きつつあった。そのはずだった。

 だが、ここで行弘は痛恨のミスを犯してしまう。エンド前にクレンペルズが打点を上げるために、《金のガチョウ》の能力を起動してから出た食物トークンをそのまま《意地悪な狼》で生け贄に捧げる宣言をした際に、すでに盤面にあった食物・トークンを生け贄に捧げようとしているのと勘違いし、スタックで《害悪な掌握》を《意地悪な狼》に打ち込んでしまったのだ。当然食物・トークンが対応して生け贄に捧げられ、行弘の《害悪な掌握》は1点のライフを獲得しただけとなってしまう。

 そしてクレンペルズが2体目の《意地悪な狼》を出して行弘の《》を倒しつつ、《意地悪な狼》《草むした墓》と大鹿2体をレッドゾーンに向かわせると、行弘にはもはや《王冠泥棒、オーコ》を守りきる術はない。

 返すターンに《ハイドロイド混成体》でクレンペルズの《王冠泥棒、オーコ》を落としてはみたものの、ライフが持たないことを悟った行弘は次のゲームに移ることを選択したのだった。

行弘 0-1 クレンペルズ

ゲーム 2

 行弘が再びマリガンスタートながらも、《むかしむかし》で《繁殖池》を探しつつ《金のガチョウ》を送り出す立ち上がり。さらに2ターン目も《金のガチョウ》を追加し、《金のガチョウ》→《王冠泥棒、オーコ》というクレンペルズの動きに対しては、しっかりと《霊気の疾風》を合わせる。

 そして返すターンに《王冠泥棒、オーコ》を先に着地させると、[+1]能力で《金のガチョウ》を大鹿にして先んじて殴りにいく。

 クレンペルズも《王冠泥棒、オーコ》を出し、[+1]でこちらも自らの《金のガチョウ》を大鹿にして防御を固めるのだが、行弘はなおも食物トークンを大鹿にして2体でアタックし、大鹿1体は相打ちになるものの《王冠泥棒、オーコ》の忠誠度を削る。

 このままでは《王冠泥棒、オーコ》を落とされてしまうクレンペルズは、[+2]で食物・トークンを生み出すと《意地悪な狼》で大鹿を討ち取って行弘のクロックを一時的にゼロにするのだが、返す行弘は《ハイドロイド混成体》を「X=2」で出して手札を補充しつつ、そのまま[+1]で航空戦力を失ってまで地上の5/5を作り上げ、《王冠泥棒、オーコ》の忠誠度をめぐる攻防においてなおも優勢を手放さない。

 
クレイグ・クレンペルズ

 有効札を引けていないクレンペルズは《金のガチョウ》を出しつつ[+2]で《意地悪な狼》を立たせてターンを返すのみ。返す行弘は即座に[+1]でクレンペルズの《意地悪な狼》を指定、対応して食物・トークンが2個生け贄に捧げられるも、タップ状態となったことで5/5の《ハイドロイド混成体》のアタックが素通りとなり、クレンペルズの《王冠泥棒、オーコ》は忠誠度1まで削られる。なおも行弘はクレンペルズが《ハイドロイド混成体》を引けていないと見るや、ハイドロイド混成体》を惜しげもなく「X=2」で出し、クレンペルズの引きが芳しくないうちに盤面を詰めにいく。

 クレンペルズも《意地悪な狼》で行弘の《王冠泥棒、オーコ》に殴り返しつつ、《楽園のドルイド》と[+1]で大鹿にした食物・トークンをブロッカーとして立てることで守りを固めようとするのだが、ここで行弘が2/2の《ハイドロイド混成体》だけ《王冠泥棒、オーコ》を狙いながら残りのクロックを全て本体に向かわせる的確なアタックを見せたことで、クレンペルズは《金のガチョウ》をチャンプブロックに回しつつもライフを大幅に削られてしまう。

 どうにか返す《意地悪な狼》の攻撃で行弘の《王冠泥棒、オーコ》を落としたクレンペルズだったが、ブロッカーとして立てるべく唱えた《楽園のドルイド》を《霊気の疾風》されると、残りライフが持たないことを察してカードを片付けた。

行弘 1-1 クレンペルズ

ゲーム 3

 行弘にとっては、1ゲーム目を取っていれば存在しなかったはずの3ゲーム目。3度目の正直で7枚キープといきたかったところだが、ここにきてダブルマリガンを強いられてしまう。

 それでもゲームはお互い《金のガチョウ》を出し合うと、クレンペルズが《王冠泥棒、オーコ》の[+1]で行弘の《金のガチョウ》を大鹿に変えたのに対し、行弘が《害悪な掌握》で《王冠泥棒、オーコ》を即座に対処したことで、一時的に行弘が有利な盤面となる。返すクレンペルズのアクションも《楽園のドルイド》を出すのみ。

 だが、5枚スタートの行弘にはここで畳みかけられる後続が引けていない。《金のガチョウ》を出して力なくターンを終える行弘に対し、クレンペルズはなおも最強の動きを押し付ける。

 すなわち、世界を揺るがす者、ニッサ》!

 しかし、行弘も返すターンにどうにかトップデッキした《害悪な掌握》を当てて粘る。

 どうかこのダブルマリガンの差が埋まるまで待ってくれ、フラッドしていてくれ……そんな行弘の願いはしかし、クレンペルズが唱えた次のカードによって一瞬にして打ち砕かれた。

 ハイドロイド混成体》、「X=5」!

 対し、早くも手札の尽きた行弘はもはや3体目の《金のガチョウ》を力なく並べることしかできない。

 しかも続くターン、クレンペルズは《むかしむかし》で待望の、そして行弘にとっては絶望のハイドロイド混成体》2体目を手札に加える。

 ここしかない。絶望の最中にあって行弘は希望を求める……だが、引き込んだカードはリアクションカードである《夏の帳》。それもよりにもよって、すでに手の中でずっと腐っていたカードが重なった形だ。

 メインから《夏の帳》を入れ、リスクを取りにいったことが仇となったか。1ゲーム目のプレイミスが、運命を司る女神の逆鱗に触れたか。

 そんなことを悩む間もなく、やがてクレンペルズが2枚目の《ハイドロイド混成体》を「X=6」で唱えると……ほどなくして、行弘は右手を差し出したのだった。

行弘 1-2 クレンペルズ

  • この記事をシェアする

RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

RANKING

NEWEST

サイト内検索