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2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)

戦略記事

1stドラフト:八十岡 翔太のドラフトピック ~怪獣大決戦!~

伊藤 敦

 ミシックチャンピオンシップに参加するプレイヤーのレベルは、上はMPLプレイヤーから下は初参加のプレイヤーまで様々だ。

 そして開幕の1stドラフトの卓はランダムに振り分けられるため、そこには必然、強者が密集する厳しい卓と、そうではない比較的緩い卓とが存在することになる。

 それゆえに、運次第とはいえ「いかに緩い卓を引き当てるか」は、プレイヤーたちが結果を残す上で最大の関心事と言えるだろう。

 だが、そんな中で。

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 プロツアートップ8経験3回、世界的なデッキビルダーとして知られるサム・ブラック/Sam Black

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 2度の優勝を含めた5回ものプロツアートップ8経験を持つ殿堂プレイヤー、ブライアン・キブラー/Brian Kibler

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  プロツアートップ8経験2回、マジック・オンラインでは"Bolovo"のスクリーンネームで知られるブラジルの強豪、ティアゴ・サポリート/Thiago Saporito

 怪獣大決戦。もはやそんな大仰な形容すらも逆に似つかわしく感じられるような、紛れもなく「厳しい」側に属する卓に放り込まれた男がいた。

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 もう一人の怪獣。MPLプレイヤー、八十岡 翔太だ。

 八十岡は先日『エルドレインの王権』シーズンにおけるMPLリーグ戦で、強豪揃いのパール・ディビジョンにおいて《総動員地区》を搭載した新型シミックフードを駆り、見事1位でリーグ通過を果たしたばかり。

 得意とする環境のスタンダードラウンドに向けて弾みをつけるべく、ここでぜひとも2勝以上の勝ち星をあげておきたいところだろうが、そこにきてのこの試練である。

 不幸中の幸いか、八十岡の席はブラック→キブラー→サポリートという並びのちょうど反対側で、怪獣大決戦はピック中はひとまず対岸の出来事として眺めていられるものの、このメンバーの中で3勝0敗という成績を収めるためには、いずれにせよ、少なくとも彼らのうち2人は倒さなければならないであろうことは想像に難くない。

 そんな状況で、八十岡はどのようなドラフトを展開したのか。早速ピックをお届けしよう。

1パック目

 八十岡の開封パックはお世辞にも強力とは呼べない、いや正直に言えばミシックチャンピオンシップの開幕で見るにしてはかなり「がっかり」するパックであった。そこから八十岡は《鋼睨みのグリフィン》の一周を睨んでか、魔法の井戸をあえてピックする。

 2手目は青の強力カードがなく、《魂裂き》という選択肢もあったが《寓話の小道》で選択肢を広げる。3手目の《魔法の眠り》は満足いくピックだが、4手目に青いカードは再びなく、アーティファクトシナジーを見込んで《邪悪な貴族》。

 4手目までを見れば、失敗ドラフトの予感に目をつぶりたくなるところだろう。

 だが、5手目。秘儀術師のフクロウが流れてきたことで、八十岡のピックは一転する。

 『エルドレインの王権』ドラフトを象徴するコンセプトの一つが、これら「クアドラプル混成シンボル」を持つ10種のアンコモンの存在だろう。ぴったり該当する2色か、もしくは単色のデッキでしかほぼ運用できないこれらのカードは、強力な効果を持つものが多いとはいえ最終的にデッキに入らないリスクを抱えることになるため、「現在やっていない/やる予定がない」状態ではピックしづらく、ドラフトにおいてはシグナルとして機能することになる。

 5手目に《秘儀術師のフクロウ》が流れてきたということは、少なくとも上家は白も青もやっていない/やる気がない可能性が高いということ。なぜなら片方の色だけでもやっているなら、この早い手順ならば保険としてピックしておいて損はないはずだからだ。

 はたして八十岡の6手目は初手と噛み合う《動かすフェアリー》。7手目にも《マーフォークの秘守り》が流れてきた。狙い通り9手目に《鋼睨みのグリフィン》が一周しただけでなく、10手目にはさらなる《鋼睨みのグリフィン》と、その横に《若年の騎士》の姿が。白と青は、確かに空いている。

 もし八十岡が4手目までに色を決めてしまっていたなら、はたして5手目の《秘儀術師のフクロウ》に反応することができたかどうか。

 4手目までの苦戦を逆手にとり、八十岡は見事卓内において空いているポジションに座ることに成功したのだ。

2パック目

 
 

 2パック目も八十岡の開封パックは噛み合わない。青白のポジションとはいえ、この時点では青が濃い目になることが予想される以上、《不動の女王、リンデン》はピックしづらい。タッチもしくはサイドインの候補として、強力カードである《カラスの仕返し》をピックする立ち上がり。

 すると2手目、見慣れないイラストのカードが流れてくる。よく見ればショーケース枠の王国まといの巨人》!リミテッドにおける全体除去は間違いなく爆弾レア。文句なしでこれをピックする。

 その後は下家側のプレイヤーが逆順で青いカードをせき止めたことで青の強力カードは流れてこないものの、《王国まといの巨人》から2色目を白に確定させた八十岡は白いカードをピックしてお茶を濁す。

 さらに望外にも12手目に《共に逃走》が一周し、期待十分な状態で3パック目へ。

3パック目

 1パック目の時点で青と白の卓人数が薄いことは把握しているため、3パック目は流れてくる強力なカードをただ待てばいい。

 開封パックで2枚目の秘儀術師のフクロウを引き当てると、2手目は取るものがなく《欲深い衝動》のカットになってしまうも、そこから《マーフォークの秘守り》の2枚目、《惑乱スプライト》など、デッキの細部を補強するパーツを次々と確保する。

 極めつけは7手目、こちらもショーケース枠の動かすフェアリー。2枚目のこのカードをピックしたことで、2枚ずつの《秘儀術師のフクロウ》《動かすフェアリー》によるアーティファクトアグロ的なコンセプトも実現可能となった。

 もちろん2枚の《マーフォークの秘守り》と《王国まといの巨人》も取れており、最終的にはライブラリーアウトが狙えるため無理攻めの必要はないのだが、それでもドラフトにおいて勝ち手段は多いに越したことはない。

 総評として八十岡は、自身の引き運のなさに悩まされる中、それでも序盤~終盤までゲームの主導権を握りやすい見事な青白をドラフトしたと言えるだろう。


 始まる前は「この環境は単色が強いから直線的なドラフトになりがち。『シャドウムーア』みたいな環境」と語っていた八十岡。

 最終的に上家は赤緑、下家は青系のコントロールだった。上家とは完璧な協調を果たし、超強力とは言えないまでも、2勝1敗を目標とするならばまずまず満足できる仕上がりとなっている。

八十岡デッキは70点くらいかな。無駄なピックが多かったからなー。ていうか初手~4手目までパック弱すぎでしょ! 2パック目の初手もないようなもんだし」

 その後、八十岡は初戦でキブラーに勝利したのち、2回戦目は敗北を喫するものの3回戦目を勝利。怪獣揃いの卓を、2勝1敗にまとめあげて乗り切った。

八十岡「まあ2-1デッキで2-1だったね」

 ターニングポイントの一つだった1パック目の初手、魔法の井戸》をピックした理由については、以下のような返答が返ってきた。

八十岡「《魔法の井戸》は、オレは結構点数高いね。青やるなら入らないことがないし、強い青、青赤や青黒やるなら絶対1枚は欲しい。他の選択肢は《穢れ沼の騎士》から黒やるか《エンバレスの盾割り》から赤単目指すかだけど、黒はあまりやりたくない色で《穢れ沼の騎士》くらいでは正直入りたくないし、2/1もしょうもないから青やるかーで《魔法の井戸》を取った感じだね。」

 プロツアー時代から、11勝5敗を毎回の目標としている八十岡。目標に向け、ひとまずは上々のスタートを切った形だ。

八十岡 翔太
2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)1stドラフト / 『エルドレインの王権』ブースタードラフト(2019年11月8日)[MO] [ARENA]
10 《
6 《平地
1 《寓話の小道
-土地(17)-

2 《マーフォークの秘守り
1 《惑乱スプライト
1 《群れの番人
1 《若年の騎士
2 《動かすフェアリー
1 《不思議な道照らし
1 《氷の女王
2 《秘儀術師のフクロウ
1 《ヴァントレスの聖騎士
1 《尊きグリフィン
1 《王国まといの巨人
-クリーチャー(14)-
1 《潮流のマントル
1 《煮えたぎる大釜
1 《魔法の井戸
1 《きらきらするすべて
1 《共に逃走
1 《塔への閉じ込め
1 《魔法の眠り
1 《無礼の罰
1 《武器置き台
-呪文(9)-
1 《ジンジャーブルート
1 《知りたがる人形
1 《巨人の串
1 《邪悪な貴族
1 《凶兆の果実
1 《籠城の準備
1 《記憶盗み
1 《胞子頭の蜘蛛
1 《欲深い衝動
1 《過去と未来
1 《カラスの仕返し
3 《鋼睨みのグリフィン
1 《頂の預言者
2 《さまよう砦
1 《夜の死神
-サイドボード(18)-
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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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