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2019ミシックチャンピオンシップⅢ(MTGアリーナ)
2019ミシックチャンピオンシップⅢ(MTGアリーナ)メタゲームブレイクダウン
2019年6月19日
(この記事は2019年6月19日に掲載されたものです。)
いよいよ6月21日(金)に「2019ミシックチャンピオンシップⅢ(MTGアリーナ)」が開催される。この大会では、マジック・プロリーグ選手32名と「挑戦者」36名がマッチ・スタンダード(2本先取)の腕前を試されることになる。全参加選手68名のデッキリストは、すでにこちらで公開された(英語)。
全体の3分の1を超える使用者を集めたのは、「エスパー系」だった。特筆すべきは、MPL選手の多くがこの色の組み合わせを好んだ点だろう。
「エスパー」は「プレインズウォーカーズ」へ
『灯争大戦』が登場して以来、「エスパー系」は大きな進化を遂げていった。MPLウィークリー第1週では、《吸収》や《薬術師の眼識》などを搭載した「エスパー・コントロール」の形と、《正気泥棒》や《ドビンの拒否権》を駆使する「エスパー・ヒーロー」の形が見受けられた。しかしその直後、《時を解す者、テフェリー》が打ち消し呪文をメタゲームから追い出し、カード・アドバンテージを獲得する手段も《覆いを割く者、ナーセット》が主流になった。
2019ミシックチャンピオンシップⅢ(MTGアリーナ)では、《時を解す者、テフェリー》と《覆いを割く者、ナーセット》がそれぞれ(全体のメインデッキとサイドボード合わせて)117枚と111枚採用され、最も採用されたカードとなった。それらの対抗手段たる《古呪》(65枚)と《不滅の太陽》(18枚)も人気を集めたが、それでもなお、3マナのプレインズウォーカーたちはスタンダードを支配しているのだ。《時を解す者、テフェリー》と《覆いを割く者、ナーセット》はさまざまなアーキタイプで見受けられ、特に「エスパー系」にはあらゆる形に採用されている。
「エスパー系」の最新の進化について詳しく知りたい方は、アルネ・ハーシェンビス/Arne Huschenbeth(日本語訳)やアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciの記事(英語)をおすすめしよう。《覆いを割く者、ナーセット》を中心にした形はまたたく間にトーナメントでの成功を収め、プレインズウォーカーに依存した形が「エスパー系」の基準となった。今大会においては、すべての「エスパー系」に10~13枚のプレインズウォーカーが採用されている。(10枚の採用に留めたのはただ1人、八十岡 翔太だけだ。彼は《ボーラスの城塞》を採用した、他のコントロール・デッキに対してやや有利を取り得る形の独自のデッキリストを提出したのだ。)
「エスパー系」はどの形も、これら5枚のカードを核としている。そして、脇を固めるのは《聖堂の鐘憑き》や《戦慄衆の指揮》、《灯の燼滅》といったカードが基本だ。しかしここから、「エスパー系」は大きく2つの形に分岐する。
- 「エスパー・ヒーロー」:《第1管区の勇士》3~4枚と《暴君の嘲笑》2~3枚を加えて、《精鋭護衛魔道士》や《人質取り》が採用される場合もある、攻めの形。《第1管区の勇士》は対戦相手のプレインズウォーカーにプレッシャーをかけつつ自身のプレインズウォーカーを守るのにも役立つ優れた1枚だが、この形は多くの多色呪文を必要とする。
- 「エスパー・コントロール」:一般的に《ケイヤの怒り》3枚と《喪心》3枚を加え、それから《古呪》や《戦慄衆の指揮》、《アズカンタの探索》を数枚採用する、受けの形。《ケイヤの怒り》はクリーチャー中心のデッキに対して最高の1枚であり、クリーチャーでない呪文であるため《覆いを割く者、ナーセット》で探せるのも大きな利点だ。
「エスパー・ヒーロー」を「エスパー・スーパーヒーローズ」と呼ぶ方もいるが、私は上記のデッキ名で呼称する。理由は、(1)すべての「エスパー系」デッキがほぼ同じ枚数のプレインズウォーカーを採用しており、(2)私は命名規則の一貫性を遵守するので、(3)そうすると受けの形が「エスパー・スーパーコントロール」という、目も当てられないものになるためだ。
「エスパー」同系戦で有利なのは「ヒーロー」か「コントロール」か?
私は大きな差はつかないと見ている。《第1管区の勇士》は勝ち手段になり(《ケイヤの怒り》はこれ自体が勝ち手段にはならない)、サイドボードも独自色を出しやすい。これらの理由から、サイドボードは「エスパー・ヒーロー」の方が好みだというプレイヤーもいる。一方の「エスパー・コントロール」は、《アズカンタの探索》のような強力な単色カードを採用してゲーム後半を有利に運べる。そのことがより重視されているのかもしれない。
最終的な結論としては、プレイ技術とサイドボード戦略に大きく左右されるのではないかと私は考えている。例えば、対戦相手が《第1管区の勇士》をサイドアウトするかもしれない場合、あるいは《夜帷の捕食者》をサイドインするかもしれない場合に、《ケイヤの怒り》を残すべきか? こういった戦略的選択が試合を決め得るため、デッキリスト公開のもとで世界最強のプレイヤーたちが互いの思考を読み合う様子は、見逃せないものになるだろう。MPLのグループ・リーグで最高成績を収めたブラッド・ネルソン/Brad Nelsonは、以下のように語る。「対戦相手の75枚を知ることで、完璧なサイドボード・プランを築く絶好のチャンスが生まれると僕は信じている。この制度は気持ちいいよ。家でくつろいでいる気分だ」
「挑戦者」の最大勢力となった「イゼット・フェニックス」
「イゼット・フェニックス」が「挑戦者」たちの中で最も人気を集めた理由のひとつは、そのうち3人(パトリック・フェルナンデス/Patrick Fernandes、モンセラット・ガルシア・アイェンサ/Montserrat Garcia Ayensa、エヴァン・ガスコイン/Evan Gascoyne)が、MTGアリーナで行われた「ミシックチャンピオンシップ予選ウィークエンド(MCQW)」にて予選を突破した「イゼット・フェニックス」を今大会にも持ち込んだからだ。「イゼット・フェニックス」は最適なプレイとサイドボーディングを行うのが難しいデッキだが、確かに彼らなら豊富な経験を活かせるだろう。
だがしかし、3人はここラスベガスで、彼らが成功を収めたMCQWとは異なるメタゲームに直面することになった。彼らの「イゼット・フェニックス」は、「エスパー系」を打倒できると示さなければならない。幸いにも《弧光のフェニックス》はプレインズウォーカーにプレッシャーをかけることができ、《弾けるドレイク》は《ケイヤの誓い》を耐えられる。しかし《時を解す者、テフェリー》によって《約束の終焉》は止められ、《覆いを割く者、ナーセット》1枚ですべてのドロー呪文が無力化されてしまう。
「イゼット・フェニックス」と「エスパー系」との対戦では、《覆いを割く者、ナーセット》の常在型能力が鍵となる。今大会で「ナーセットをプレイ。ターン終了」という場面を見ても驚くことはないだろう。対する「イゼット・フェニックス」も、《ショック》を温存したり《弧光のフェニックス》をそのまま唱えたりするだろう。ハイレベルなプレイが飛び交うダイナミックなゲームを楽しめるはずだ。
「赤単」の使用者が5人に留まる
MPL『灯争大戦』シーズンとMCQWで最も多く使用されたのは、「赤単アグロ」だった。それにも関わらず、今大会においては「赤単」の使用者が5人に留まった。使用者数急落の背景には、《聖堂の鐘憑き》や《黎明をもたらす者ライラ》、《切り裂き顎の猛竜》といったカードの存在がある。「赤単」側もサイドボードに《火による戦い》を加えるなどの対策を取っているものの、どのデッキも「赤単アグロ」と戦う準備はできているのだ。
すでに2日目進出を決めているプレイヤーの選択――「ボロス・アグロ」、「バント・ランプ」、「エスパー・ヒーロー」2つ
MPL『灯争大戦』シーズンの各グループの首位4名は、自動的に今大会の2日目へ進出する。彼らのデッキリストに注目してみよう。
13 《平地》 4 《聖なる鋳造所》 4 《断崖の避難所》 -土地(21)- 4 《不屈の護衛》 4 《法ルーンの執行官》 4 《空渡りの野心家》 2 《短角獣の歩哨》 4 《アダントの先兵》 4 《ベナリアの軍司令》 4 《敬慕されるロクソドン》 -クリーチャー(26)- |
4 《軍団の上陸》 4 《ベナリア史》 3 《議事会の裁き》 2 《黒き剣のギデオン》 -呪文(13)- |
1 《山》 4 《不可解な終焉》 3 《実験の狂乱》 2 《英雄的援軍》 1 《議事会の裁き》 2 《黒き剣のギデオン》 2 《無頼な扇動者、ティボルト》 -サイドボード(15)- |
「赤単アグロ」が使用者5人に留まった一方で、「白単アグロ」系は6人の使用者を集めた。その内訳は「アゾリウス・アグロ」1人、「白単アグロ」1人、「ボロス・アグロ」4人だ。全体除去が減少傾向にある今、横に並べる展開からの《ベナリアの軍司令》や《敬慕されるロクソドン》は極めて有効だろう。
「ボロス・アグロ」を選択したプレイヤーの1人である佐藤 レイはすでに2日目進出を決めている。赤をタッチして《実験の狂乱》を採用したこの形は、《屈辱》の姿を見なくなった今、良い立ち位置にいると言えるだろう。
2 《森》 2 《島》 4 《繁殖池》 4 《内陸の湾港》 4 《寺院の庭》 3 《陽花弁の木立ち》 4 《神聖なる泉》 2 《氷河の城砦》 -土地(25)- 4 《ラノワールのエルフ》 4 《培養ドルイド》 4 《楽園のドルイド》 2 《エリマキ神秘家》 2 《豊潤の声、シャライ》 4 《ハイドロイド混成体》 -クリーチャー(20)- |
1 《栄光の終焉》 3 《幻惑の旋律》 3 《集団強制》 4 《時を解す者、テフェリー》 4 《世界を揺るがす者、ニッサ》 -呪文(15)- |
2 《拘留代理人》 2 《切り裂き顎の猛竜》 1 《エリマキ神秘家》 2 《狼の友、トルシミール》 2 《殺戮の暴君》 2 《否認》 2 《イクサランの束縛》 1 《幻惑の旋律》 1 《伝承の収集者、タミヨウ》 -サイドボード(15)- |
《世界を揺るがす者、ニッサ》は、『灯争大戦』導入直後のスタンダードではあまり採用されていなかった。しかし時が流れ《時を解す者、テフェリー》が環境から打ち消し呪文を追い出すと、《世界を揺るがす者、ニッサ》がスタンダード最強カードの一角になるほどの可能性を持つことに気づくプレイヤーが続出した。
《世界を揺るがす者、ニッサ》の[+1]能力は戦場に出てすぐに対戦相手のプレインズウォーカーへプレッシャーをかけるだけでなく、忠誠度を6に上げつつ彼女を守るブロッカーまで用意するという驚くべきものだ。その上、このカードは凄まじいまでのマナを生み出し、《ハイドロイド混成体》や《集団強制》、《栄光の終焉》といったカードからゲームを終わらせるほどの強大な力を引き出す。行弘 賢が2日目の競技で狙うのは、まさにその動きなのだ。
1 《島》 1 《沼》 4 《湿った墓》 4 《水没した地下墓地》 4 《神聖なる泉》 4 《氷河の城砦》 4 《神無き祭殿》 4 《孤立した礼拝堂》 -土地(26)- 4 《第1管区の勇士》 3 《精鋭護衛魔道士》 2 《人質取り》 -クリーチャー(9)- |
4 《思考消去》 3 《暴君の嘲笑》 2 《灯の燼滅》 3 《ケイヤの誓い》 1 《屈辱》 1 《戦慄衆の指揮》 4 《時を解す者、テフェリー》 3 《覆いを割く者、ナーセット》 4 《ドミナリアの英雄、テフェリー》 -呪文(25)- |
2 《強迫》 1 《アルゲールの断血》 2 《古呪》 2 《ドビンの拒否権》 1 《灯の燼滅》 2 《肉儀場の叫び》 2 《ケイヤの怒り》 2 《永遠神の投入》 1 《戦慄衆の指揮》 -サイドボード(15)- |
ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-DuinはMPLウィークリーで毎週「エスパー・ヒーロー」を提出しており、今大会でもそのアーキタイプにこだわった。彼の親友であるブラッド・ネルソンもまったく同じ75枚を登録しているため、この時点ですでにトップ16に「エスパー・ヒーロー」が2つあることになる。
《第1管区の勇士》に《精鋭護衛魔道士》、《人質取り》を採用した特製のデッキは、除去の薄い《世界を揺るがす者、ニッサ》系のデッキに対して有利を取るためだ。しかし、その一方で「エスパー・コントロール」によく採用されかなりの枚数が使用される《戦慄衆の指揮》や《アズカンタの探索》、《古呪》に対抗するのは骨が折れそうだ。
ネルソンが言うには、《世界を揺るがす者、ニッサ》系のデッキが人気を集め、デッキリストがあらわになった「エスパー・コントロール」も打ち倒すだろうと予想していたそうだ。
「確かに全体除去は効くけれど、その存在が緑のデッキを使う側に知られたらそこまで有効じゃないよ」
その結果、2日目はコントロール・デッキよりもクリーチャー中心のデッキの方が多いだろうと彼はにらみ、それに合わせて採用カードを選択した。他の多くの「エスパー系」が互いに互いを上回ろうと軍拡競争を続けているのに対し、ネルソンとブラウン=デュインはメタゲームを形成する他のデッキに注意を向けた。2日目のメタゲームによって結果が大きく左右される賭けに出たのだ。
14人のプレイヤーが少数派のデッキを選択
ここまで触れてきたのは、使用者を5人以上集めたアーキタイプだけだった。以下に、残る14人(「挑戦者」10人とMPL選手4人)が選択したデッキを掲載しよう。
これらのデッキが、現行スタンダードの多様性を示している。同じ「シミック」の名を冠するデッキにも、大きな違いがあるほどだ。分類を説明すると、《荒野の再生》と《アズカンタの探索》、《根の罠》を採用した典型的な形を「シミック・ネクサス」と呼称している。《伝承の収集者、タミヨウ》と《運命のきずな》が採用されているものの、《ラノワールのエルフ》や《世界を揺るがす者、ニッサ》、《ハイドロイド混成体》などの「ランプ系」のパーツを組み合わせた形は、「シミック・ランプ」に分類している。
「スゥルタイ・戦慄衆の指揮」はメタゲーム的にかなり良い位置にいると思われる。事実、複数の「エスパー・コントロール」使用者がこのデッキが怖いと語っている。スゥルタイはさまざまな角度(カード・アドバンテージを生み出すクリーチャー、プレインズウォーカー、《戦慄衆の指揮》)から攻めてくるため、「エスパー・コントロール」側にとって的確な回答を用意するのが難しいのだ。とりわけ、《伝承の収集者、タミヨウ》によって《思考消去》が無力化される点が大きいだろう。その上、「エスパー・コントロール」側からプレッシャーをかけることはないため、「スゥルタイ・『戦慄衆の指揮』」側は20点以上のライフがある状態で《戦慄衆の指揮》を唱えられるのだ。少数派勢力とはいえ、ニック・カールソン/Nick Carlsonとジェイソン・チャン/Jason Chan (Amaz)が2日目に進出しても驚くことはないだろう。
ニコル・ボーラスが破滅をもたらす
人気プレイヤーのリード・デューク/Reid Dukeは、ゲームを素早く、徹底的に終わらせるため、《破滅の龍、ニコル・ボーラス》4枚と《龍神、ニコル・ボーラス》4枚を採用した。彼の言によると、「グリクシス」は「エスパー」よりも対戦相手のリソースを攻めることに特化しており、彼のプレイ・スタイルに合っているそうだ。
そして「グリクシス」デッキといえば、MCQWで今大会への参加権利を獲得した松田 悠希のユニークな形をご紹介しよう。間違いなく、今大会で最も刺激的なデッキの1つだろう。
1 《沼》 4 《湿った墓》 4 《水没した地下墓地》 4 《血の墓所》 4 《竜髑髏の山頂》 4 《蒸気孔》 4 《硫黄の滝》 -土地(25)- 4 《破滅の龍、ニコル・ボーラス》 -クリーチャー(4)- |
2 《呪文貫き》 4 《思考消去》 3 《戦慄衆の侵略》 3 《溶岩コイル》 1 《アズカンタの探索》 3 《魔性》 3 《蔓延する蛮行》 3 《永遠神の投入》 2 《発見 // 発散》 1 《豪奢 // 誤認》 4 《覆いを割く者、ナーセット》 2 《龍神、ニコル・ボーラス》 -呪文(31)- |
3 《戦慄衆の解体者》 2 《強迫》 2 《渇望の時》 2 《否認》 2 《古呪》 2 《悪意ある妨害》 1 《オブ・ニクシリスの残虐》 1 《戦慄衆の将軍、リリアナ》 -サイドボード(15)- |
《戦慄衆の侵略》、《蔓延する蛮行》、そして《永遠神の投入》は、『灯争大戦』導入後のスタンダードで多く採用されてきたカードではない。だがこれらは、「動員」による強力なシナジーを生み出す。例えば、《戦慄衆の侵略》による2/2の軍団・トークンをコントロールしている状態で《永遠神の投入》を唱えれば、6/6絆魂持ちで攻撃できるのだ。たとえ対戦相手がクリーチャーをコントロールしていなくとも、自身の軍団を対象に唱えれば4点のダメージを受けた6/6が生き残る。このデッキの動きを実際に見るのが待ち遠しい。
ご注目あれ!
「エスパー系」が軍拡競争のただ中にあり、高速のフェニックスが灰から蘇り、軍団が動員され、わずかに残る「赤単」が奮闘する。世界最高のプレイヤーたちによる最高のショーが、いよいよ幕を開ける。
大会の模様は各日とも太平洋時間午前8時(日本時間翌日の0時)から twitch.tv/magic にて生放送でお届けするので、お楽しみに!
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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