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週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
「あなたにとってマジックとは?」第10回:翻訳者編
週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」第10回:翻訳者編
by 瀬尾亜沙子
世界中で2千万人を超えるプレイヤーとファンを持つ世界最高の戦略トレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』。この記事では、5月末開催の記念すべき「モダンマスターズ・ウィークエンド」から、8月末開催の「世界選手権2015」まで、「あなたにとってマジックとは?」というインタビューをまとめた記事を毎週連載していきます。
『マジック・オリジン』、この夏発売の新セットでは、5人のプレインズウォーカーが何故プレインズウォーカーになったのかという理由が明かされます。プレイヤーの象徴でもあるプレインズウォーカーにも、それぞれ違った人生背景が隠されているのです。では、「マジックプレイヤーは何故マジックプレイヤーになったのか?」そこにはどんなストーリーが隠されているのでしょう......この連載記事でその謎を明らかにしてみます。
さまざまな方に「あなたにとってマジックとは?」という質問を投げかけているこの企画。今回はマジックの英語を相手にしているお2人に話をうかがいました。
矢吹哲也
マジック公式サイトなどでの記事翻訳および、イベントカバレージの執筆を手がける。
――あなたにとってマジックとは?
矢吹:せっかくだから、かっこよく一言で決めたいですね(笑)。仕事を探そうと思ったときに、どこから手をつけていいか何もわからず、道が見えない状態だった僕に、行き先を示してくれた「北極星」......とかでしょうか。
――おお、マジックが道を示してくれたんですか。
矢吹:今の本業が翻訳者なんですが、大学を卒業してから専門学校に通って翻訳の勉強をして、仕事を探す段階になって最初に思いついたのが、マジックだったんです。そして結果的にうまく行ったという。
――マジック自体、前から知ってはいたんですか?
矢吹:中学くらいのころに、近所のお兄ちゃんと遊ぶくらいですけどやっていて、大学のときも友達とカジュアルに遊んではいました。翻訳の仕事を探そうと思ったときに、ふとマジックのことを思い出した感じですね。「そういえばあれは海外のゲームだし、翻訳の需要があるんじゃないか?」と。当時からごくカジュアルに楽しんでいただけなんですが、それまでずっと頭の中に残っていたのはけっこうすごいことだなって、そのとき思ったんですよね。
――そうですね。
矢吹:それでいろいろ調べてプロツアーの翻訳とかを見て、自分もやってみたいと思ったので、マジックを仕事へのモチベーションというかとっかかりにして、自分から持ち込みをしたんです。今ではこうやっていろいろとできるようになり、カバレージも書かせてもらえるようになって、仕事の幅もだんだん広がっています。
――お仕事が翻訳者ということで、マジック以外の仕事もされているんですよね。マジックとほかの仕事で違いはありますか?
矢吹:マジックはある程度自分がやってたので事前知識があるんですけど、全然知識のない新しいジャンルの翻訳をするときは、そのジャンルの勉強をイチからやらないといけないのがけっこう大変ですね。
たとえば、マジックのことを知らない人だったら文中にさらっとキーワード能力が出てきたりすると訳せないと思うんですよ。大文字になっていればまだ固有名詞だってわかりますけど、そうでもなければわからないですよね。別の専門ジャンルでもそれと同じようなことがあるので、知識をつけないといけないのが大変です。
――マジックでは基礎知識があるから楽だということですね。でも、スタンダードしかやらないけどレガシーの記事が来たら勉強する、とかはありますよね。
矢吹:そうですね、マジックプレイヤーとしてはまだまだなので、知識不足で困ることは確かにあります。昔の知らない時代のこととかもそうですし、競技マジックにはほとんど縁がなかったので、大会の構造だとかポイント制度だとかは、全然わからなくて苦労しました。
――マジックの仕事をしていて、楽しいのはどんなことですか?
矢吹:最近は、僕の翻訳を読んだ人がぱっとSNSとかで感想を発言してくれたりして、フィードバックがすぐに帰ってくるんですよね。ダメならダメで、いいときはいいって評価をもらえるのは、すごくやりがいがあります。すぐに手ごたえがあるのは、「この仕事やってて楽しいな」と思いますね。
――今後もお世話になります。
矢吹:今はマジック・オンラインでやっているくらいですが、まだまだマジックとはお付き合いしていくつもりなので、よろしくお願いします。
若月繭子
マジックのストーリーに造詣が深く、「Uncharted Realms」シリーズの翻訳を担当。
――あなたにとってマジックとは?
若月:「人生の半分」。半分くらいの期間、マジックに触れて来たというのもありますけど、マジックがなければ今の自分は絶対ないわけで、今の自分を形作ってくれたものという感じですね。
――マジックとはどうやって出会いましたか?
若月:高校で図書委員だったときにゲーム好きが集まっていて、アナログゲーム好きの先輩が「面白そうなアメリカのカードゲームがあるんだけど、みんなでやってみないか?」と言い出して、試しに買ってみたのがまだ日本語版の出てない、『リバイズド』のスターターでした。
――高校生でそれはすごいですね。
若月:新潟に住んでいたので地元では売ってなくて、東京のお店から取り寄せて、辞書を引きながら英語を読んで、みんなでプレイしました。少ししたら地元のおもちゃ屋でも買えるようになって、『アイスエイジ』とか『ホームランド』を少しずつ買いつつ、そのうち第4版の日本語版が出た感じですね。
――最初はどんなデッキで対戦してましたか?
若月:私は黒単を組みました。『フォールンエンパイア』が安くてけっこう買ったので、《暗黒の儀式》から《Hymn to Tourach》を撃ってました(笑)
――そのまま大学とかでもマジックをやっていたんですか?
若月:大学受験でちょっとやめましたが、大学に入ってから、回りにマジックやってる人がやっぱりいて再開した感じですね。フューチャービーのお店があったのでそこに行ってました。就職後も、Cards of Paradiseさんという、今もある新潟のショップに行ってました。
――どのへんからマジックのストーリーに興味を持ったんですか?
若月:それこそ、一番最初の『リバイズド』からなんですよね。カードにベナリアとかウルザとか、知らない固有名詞がいろいろ書いてあって、何だろう?と。当時はフレーバーテキストという呼び方も知らなかったんですが、下のルールと関係ない文章を辞書を引いて読んでみると、どうやら世界観や物語があるんだなぁと興味をひかれました。あと「RPGマガジン」にも少しだけストーリーが載っていましたね。
――そういう、ストーリーが好きな人ってほかにもいましたか?
若月:いなかったですね。みんな基本はゲームが面白いということだったので。昔「ビックリマンチョコ」ってあったじゃないですか。あの頃から、私は収集よりもキャラや物語にひかれる傾向があったんです。
――そういう背景がわかると、より楽しめるということですね。
若月:その後、就職してマジックを再開したときに、英語の小説を日本のアマゾンでも買えることがわかったので、手に入れてがんばって読んでみたら、カードのバックグラウンドにきちんと設定があってすごく面白いのに、まだほとんど知られてなくてもったいない!と、のめりこむようになりました。
――英語の小説を読むことに抵抗はなかったんですか?
若月:なかったです。
――すごいですね。自分も原作を読んでみたいけど英語だし......って人はけっこういると思うんですが、何か英語の勉強法とかあるんですか?
若月:ないです(きっぱり)。このキャラがどうなったのか知りたい、この話がどうなるのか知りたいという情熱だけです。何せここにしか情報がないので、いやでも読まざるを得なかったです。
――最初に買ったのはどの小説ですか?
若月:『ジャッジメント』です。『ジャッジメント』に出てくる白の《司令官イーシャ》が大好きで、このカードのバックグラウンドを詳しく知りたかったので。
――小説に登場しましたか?
若月:メインキャラクターとしてバッチリ出てきました。女性だというのはわかってたんですが、読んでみたらすごく大人っぽくて思慮深くて優しいお姉さんで。こういう知られざる設定があるんだなぁと。それをみんな知らなくてもったいないという気持ちが強かったですね。ほかにも気になっていた小説を取り寄せて読んでは、「こんなエピソードがあるんだよ」とみんなに言いふらしたりネットに書きこんだりしていたのが、自分でストーリーを扱い出した最初のあたりです。
――なるほど。
若月:そうやっていろいろ発信していく中で、当時私よりずっとストーリーの知識では有名だった、今の夫にネット上で知り合いました。あるとき東京へカードショップめぐりという感じで遊びに行ったら、不意打ちされたんですよ。「ここのお店に行きます」って言ってたらそこに来ていて、「初めまして」と言われてびっくりしました。
――それまではネットでだけ話していたんですね。
若月:そうです。そのときは普通に話して別れたんですが、あるとき大会後に一緒に電車に乗って帰ったんです。ちょうど『ミラディン』が出て2人とも小説を読み始めてた頃で、マジックのストーリーのよさとかを向こうがすごく熱心に語ってくれて、惚れこみました。「マジックの物語が好きなあなたがいいです!」みたいな感じで(笑)
――それまで同好の士がそんなにいなかったわけですもんね。そこへそんなに話の通じる、熱意のある人がいるとなったら......。
若月:私よりこんなによく知ってる人がいてすごい!と感動して、猛アタックしました(笑) しばらくお付き合いして、結婚してこっちに引っ越して、子どもが生まれて......というわけなので、マジックがなければこの全てはなくて、マジックってすごいなあと思います。
――そうですね。それに旦那さんも一緒に小説を読んでるから、ああだこうだと言い合えるのはいいですね。1人で悶々としなくていいので。
若月:今は公式記事で物語の翻訳(「Uncharted Realms」)をやるようになって少し前に原稿を受け取るので、何週間かはしゃべるのを我慢しないといけませんが。
――タルキールブロックの小説は、発表のたびに毎回すごく盛り上がりましたよね。あれ以来、昔に比べるとみんなストーリーの知識を持ってマジックやってる感じになりましね。
若月:話が毎回ものすごく熱くて、注目されて、ストーリーに興味を持ってくれる人も本当に増えて嬉しかったです。やっぱり公式記事として誰でも読めるということで、反応が段違いでした。それにタルキールブロック以降、物語で目立つメインキャラがカードでもきちんと強い、というのが明らかにあるんですよ。サルカンとかソリンとか、ウギンとか。タシグルなんてのもいましたし(笑)。自分の愛用しているカードはこんなキャラなんだと、みんなが愛着と親しみを持ってくれるようになったのは大きいと思います。
――そうですね。若月さんはどのブロックのストーリーが好きですか?
若月:旧『ミラディン』ですね。スロバッドとグリッサとボッシュの、友情と冒険物語です。話自体も王道だし、英語もすごく読みやすいので、今から英語の小説を読んでみたいという人には一番お勧めです。
――《司令官イーシャ》以外で好きなキャラクターは?
若月:ヴェンセールです! 『時のらせん』で初めて出てきたころは、プレインズウォーカーが旧世代でみんなすごい力を持っていたんですけど、ヴェンセールはごく普通の一般人だったんですよ。といっても新世代プレインズウォーカーとしての素質があったから、なんかひっかかるなぁと思われるような存在ではあったんですけど。そのヴェンセールの成長が時のらせんブロックでの大きな柱なんですが、それをずっと見続けて、人気バンドがインディーズの頃から応援してきたファンみたいな気持ちでした(笑)。「立派になったなあ」と。最後に、カーンにプレインズウォーカーの灯を心臓ごと与えて死んじゃいましたけども。
――あれは印象的でした。普通の人だったヴェンセールが、成長して劇的な最期を迎えたんですね。
若月:あのときは3日間くらい立ち直れませんでした。
――そういう立ち直れないようなショックって時々あるんですか。
若月:たまにあります。すごい内容の記事が来たときとか、「こんなとんでもない展開になるなんて!」とか。
――そういう劇的な展開もあってすごくおもしろいと。
若月:物語自体もすごくおもしろいんですけど、やっぱりカードというものがあってこそで、カードのアートと能力、パワー・タフネス、そういったものすべてが連動しているというのが特におもしろいですね。この能力は、物語の中ではこういう意味があるんだ、とか。
――さっきの話で言うと、プレインズウォーカーになった《解放された者、カーン》が《滞留者ヴェンセール》の追放能力を引き継いでいるとかですね。
若月:そうです。そういうのって、話を知っていると「ああ、そうか!」ってなりますからね。
――私も英語はほとんど読めないので、今後ともよろしくお願いします。
若月:「Uncharted Realms」も、これから『マジック・オリジン』を経て『戦乱のゼンディカー』に向かうので、きっととても熱い、面白い話が待ってると思います。
――エルドラージがどうなったのか、見逃せないですね!と宣伝っぽい感じで締めたいと思います、ありがとうございました。
小説は主に通勤中の電車内でkindleを利用して読む。辞書が入っていて、わからない単語があればその場ですぐに調べられるし、何冊ぶん入れておいてもかさばらないので便利。
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