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なかしゅー世界一周

なかしゅー世界一周2012・第18回:マジック・プレイヤー選手権前夜

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2012.09.06

なかしゅー世界一周2012・第18回:マジック・プレイヤー選手権前夜

By 中村 修平

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 次回はマジック・プレイヤー選手権とは予告したものの、実は間を挟んでグランプリ・ボストン、いやその隣町ウースターなるものがありました。

 金曜日に合流予定のヤソ、八十岡翔太の乗り継ぎ先飛行機が機材不良でキャンセル。
 危うく先週の再現か、となって現地にいる私も開始時刻の確認や、代理レジストができるか、あるいはスリープインスペシャルを適用すれば翌日早朝の飛行機でも間に合うかなどなどの確認を取る作業。

 幸い次の便には乗れたらしく、予定していた電車から1人タクシーに切り替えただけで被害は済みました。
 たった120ドル。
 まあ先週から見れば随分と可愛らしいものです。払う側には心底回りたくありませんが...。

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 そんなやや小ぶりなアクシデントがありましたが、どうせ片田舎だし大した人数も来ないだろうと高を括っていたら実際には1800人オーバー、久しぶりの初日10回戦という盛況ぶり。
 順調に開始時間が遅れに遅れ、いわゆる土曜日中に初日が終わるかどうか怪しいといった塩梅。
 横ではヤソが俺の120ドルを返せとボヤいています。

 思い返してみると、私としては2日目そのものがアクシデントでした。
 そこそこ程度のパックで、初日を9勝1敗で通過したところまでは良かったのですが、2日目の初戦4本を平均時間5分で落としていきなりプロポイント獲得の瀬戸際にまで追いやられた末に、なぜか知り合いだらけのテーブル。

 1戦目のパウロには勝利したのでしたが、2戦目の3本目、白対白の賛美クリーチャーが並ぶ中、こちらの飛行付きで「ライフか相手の最後の飛行か」の王手飛車取りをかけたところから《テューンの戦僧》をトップデッキされ、《平和な心》になっていた《熟練の戦術家、オドリック》によって4対0交換をさせられて場が壊滅。
 失意のプロポイントを賭けた最終戦のコンリーには4ターン目、

「7/3、トランプル、呪禁、ブロックされない」

 という生物を作られた上に殴りかかられて圧敗。使われたカードは4枚ですね。

 とにかく果てしない疲労感に包まれた週末となってしまいました。
 終わり良ければ、というのがありますが終わり悪ければ、ならもちろん結果は悪しとなるわけで、総じてなんだかなあ、と言った感じです。

 まあ、過ぎ去ったことと休日の田舎の壊滅的な食糧事情についてはもうこれくらいにしておくとして、いよいよ総決算のシアトル行きです。


シアトルでドライブを

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 早朝のハイヤーでボストンに戻ること1時間、飛行機でデンバーまで6時間、1時間後に乗り継いで2時間で計10時間。
 間に時差を2つ越えているので見た目上は8時間でシアトル。
 東西の横断に飛行機を使ってもこれだけかかるだなんて、改めてこの国は広いと思い知らされます。
 さすが、車で5時間までなら『近い』だなんていえてしまうお国柄。

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 世界最強の花札メーカーのアメリカ支社があるだけあって、空港では英語の次に日本語での案内が流れる中、1つの新たな試みをしてみました。

 レンタカーを借りてみる。
 飛行機で移動して、現地の足には到着先の空港でレンタカーを借りるというのはアメリカではかなり一般的。
 電車がほとんどない上に、何をするにもいちいち広く、駐車スペースもいたるところにある、おまけにこのところガソリンが高騰していると騒ぎになっているので値段を調べてみたらそれでも日本のおおよそ半額とくれば、移動のたびにタクシーを使っているよりもよっぽど経済的でしょう。

 そして今回は大会前に遠出をしないといけない理由があるのです。
 それはモダンのデッキ用にカードを調達しなくてはならないということ。

 もちろんのモダンのフォーマットにあるカードの大半は日本から持ち込んではいます。
 ですが全カードを4枚ずつソーティングして持っていくというのはどだい無理な話。
 そもそも持ってなかったり足りていないカードや、これは流石に要らないであろうと除外したのに実は必要になってしまうカード、うっかりスタンダードあたりで使っていて持ってき損ねたなどなどなど、理由を挙げていけば枚挙に暇がありません。
 ちなみに滞在先のホテルからカードゲームショップまではアメリカの感覚ではわりかし近く、車で20分弱。
 かくして哀れな日本の子羊3匹の利害が一致、ついでに同じ飛行機に乗り合わせてたライターのスティーブン・サディンを巻き込んで成立となった訳です。

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 まずは空港からレンタカーステーションまで無料バスで移動。
 立ち並んでいる店舗からレンタカーを物色、ではなくネットを使って店の前で予約してからカウンターまで。
 サディン曰くネットを使って予約した方が割引が発生して安くつくらしいのです。
 ちょっとした社会の歪みを味わいつつ、予約表を作成して店頭まで。
 国際免許証と予約番号を伝えて、後は書類と引渡しの準備まで少々待つだけなのですがその間にやたらと保険を薦めてきます。
『ネット予約した時に保険付けたはずだけど?』
 と聞いてみると曰くネットのは対物だけ、こちらは対人、医療費もあってパーフェクト保証。
 ふむ、確かにアメリカの医療費は高そう。でもカバーしているものをよく見ると二度掛けになっている部分もある。何よりも保険代金の方がレンタカー代より大分高くなってしまうのはいただけない。
 というより同乗者の賛同をもらえないのでこちらの方は丁重にお断りしようとしたら、更に押し込んでくるビジネストーク、丁重におこと...今なら良い医者紹介してあげるからという押し問答を抑え切って対物の最低限の保険だけにしておきました。
 実際、営業トークだったのか本当に心配してだったのか...どちらなのかよくわかりません。

 手続きを済ませて裏手にあるガレージで書類を見せたら。
『このゾーンの好きなの持ってけ』
 という温かいお言葉をもらい、いよいよシアトルの車道デビューです。

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 これまでにも何回かアメリカで車を運転したり、3ヶ月前のラスベガスではレンタカーを借りてもいたのですが、車は左の日本とは違い、右のアメリカではどうしても運転初めは感覚のずれに悩まされます。
 しかも今回はいきなり高速道路。日本とは違う標識を識別するだけではなく、ついでに車線変更もこなさくてはなりません。とてもナビ代わりのスマートフォンを見る暇はありません。
 助手席にナビをしてくれるサディンがいて本当に助かりました。

 ウィザーズが提供してくれているホテル・アンドラに到着するも、駐車場が解らずにまわりを放浪、実はホテル前に止めてベルマンにお願いするというシステム=バレットパーキングのみというのに行き着くまでに少々の時間を要しましたが、なんとか無事にチェックインまで漕ぎ着けました。


準備と休息とカード調達

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 それにしてもこのホテル、初めは外観が大したことないのでダウンタウンにあるやや上品なホテル程度かと思っていましたがとんでもない。
 小さいながらも造りが非常に凝っています。そこに相部屋ではなく1人1部屋を支給しているのですから、ウィザーズさんのやる気具合は推し量れますね。

 さらに驚いたのは部屋ごとに間取りが違うこと。
 小さい差のように思えるかもしれませんが、ハウスキーピングの手間やインテリアをその都度別に発注しないといけないというようなことから、ウィザーズが手配してくれるような高級ホテルやアジアで取るような唯の上級クラスでは滅多に見かけることはありません。

 私の部屋はツインベッドに書斎。ミニキッチンという構成。
 それが、例えばヤソ部屋はキングサイズベッドに私の部屋とは対称的に入って左側に書斎スペース、渡辺部屋は書斎ではなくソファーとテーブルという構成になっていたりします。

 そんな即席「我が部屋自慢大会」に核弾頭が投下されたのは、この日の朝方にはシアトルに到着していてチェックイン一番乗りしていた彌永からの、

『俺の部屋、2部屋あるよ』

 まさかまさか、スイートじゃあるまいし2部屋付きの部屋だなんて、彌永の部屋に押しかけてみると。

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 やだ、ほんとに2部屋ある。
 というよりよく見れば表札に『suite』って書かれているじゃないですか。

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 もしかしてこれが世界チャンピオン特典?

 この日、月曜日は移動日。
 特に予定があるわけでもなく、大会に伴って種々の予定が入っているのは明日から、実際に試合をやるのは明後日、水曜日からです。
 便が違って3時間遅れでのシアトル着となったジュザとも合流して、モダンデッキの調整という名の覚悟を決める作業をした以外は特にやることもなく。

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 ツイッターでコメントをくれたブライアン・デビット=マーシャルお勧め、通りの向かい側にあるシリアスパイというピザ店で日本人×4、ジュザ、サディンと晩餐。

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 私はかなり好きな味でしたが、ヤソ曰く塩辛すぎるとのこと。
 うーん、自分自身は結構薄味好きだと思っていたので...
 いや、冷静に考えてみるとヤソが調味料全般をあまり好きではなくて、逆に私が激辛とかメリハリがある味も好きなのでそういうことなのかも。

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 翌朝、まず初めにやったことは近郊のカードゲームショップの営業時間を確認して、開店と同時くらいのタイミングで店に行ったこと。
 というのも、チェックインの際にもらった予定表では、昼頃から会場で各プレイヤーが順番制でインタビュー、これには使用予定のデッキを持参とのこと。
 夕方からはウェルカムパーティー。そしてその会場でデッキリストについては提出しなくてはならないと書かれているのです。

 ジュザ、渡辺、中村の使うデッキが日替わり勢。
 日本で石村信太郎と調整を重ねてきた彌永。
 そして独自調整という名の脳内調整をしていたヤソ。
 誰か1人くらいは出発前に自分のデッキをきっちり完成させていると思いきやそういう訳もなく、呉越同舟でカードキングダム。

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 そして痛恨の渡辺、1枚足りていない《タルモゴイフ》が売り切れで買えないという事態。
 この時点ではデッキはA案B案があったのですが、ご存知の通り最終決定されたA案では4枚必須。
 他にも何枚か足りてないカードが売り切れ状態だったのは誤算でした。

 結局しょうがないからと言うことで、ジュザがキブラーやルイスに足りないカードを余ってないか聞いてみることに。
 ですがそこはジュザ、こっそりダミーを紛れ込ませて余念がありません。

『《タルモゴイフ》と《手練》と《忘却石》に《イーオスのレインジャー》。あと《ヴィダルケンの枷》借りれない?』
『いいけどそれ何デッキ? 八十岡の新作??』

 確かにそう見えますね。
 結局、純正チャネル組を率いているルイスが大量のカードを持ってきているらしく《タルモゴイフ》も手配できそうということになり、ホテルへ帰投してみると、ただいまチェックイン中の純正チャネル組、ルイス、オチュア、パウロ、ジョシュと遭遇。

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『昼はもう食べた?』
『いや、まだだね。』
『それじゃ、近くにあるパイク・プレイス・マーケットに行ってみない?』
 といったやり取りを経て、ピロシキの列に並んでいると気がつけばインタビューの時間が迫ってきています。
 チーズ専門店のマカロニ&チーズの列に並ぶのにも忙しくて、サイドボードがまだ確定していませんが、ホテルに帰ってきたあたりで使用デッキについては確定させていました。

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 それを持って会場へ、パイク・プレイス・マーケットと目の鼻の先の立地に自分の段取りの悪さを呪いつつ、中に入ってみるとただいまセット建設中。そして初めてで段取りについて苦労しているのはあちらも同じようです。

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 ここに来るまで何のインタビューかは知らされていなかったのですが、それらしきものを受けたついでにデッキについても解説を収録したい、とのこと。
 それは良いのですが待機場所が編集室なので、現在収録中の他のプレイヤーのデッキ解説について映像で簡単に中身が見えてしまっています。

 翌日の第1回戦で身を持って知ったことに、
「大会中は全てのフォーマットでデッキリストが完全公開される」
 ということがあったのですが、それにしてもなんだかなあとは思ってしまいました。

 英語で映像付きインタビューというかデッキ解説をさせられるという拷問のような展開もなんとか乗り切り、今日の残りの仕事はウェルカムパーティー、そしてデッキリストの提出だけです。

 最後となるであろうディスカッションで、使用するモダンデッキ、ジャンドのサイドボードの最後の枠を《オリヴィア・ヴォルダーレン》にすることが決まりましたが、そんなスタンダード向けのカードを用意している訳もなく、もちろん午前中に買った訳もありません。

 まあ今日はデッキリストの提出だけ、現物のカードについては一端脇に置いて、時間も来ているのでパーティー会場に、とは言ってもホテルのホールなのでエレベーターで下に降りるだけです。


レセプションパーティー

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 入り口で「好きなだけウルトラプロのサプライ品を持っていっても良いよ」というメッセージに、全身全霊をかけてはりきってしまっているバルセロナチャンプ。ハイネちゃんってかわいいよね、みたいなことを日本人達で固まって話している間に全員集合。

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 恒例の書類書き、大会の進行についての説明がスコット・ララビーから、ルール上の扱いについてはレベル5ジャッジトビー・エリオットからされて、ついで質疑応答の時間。
 気になることは何でも聞いてくれとのことなので、引き分けについて聞いてみると、勝ち点は付くがプロポイントは両者0点。という予想していたのと同じ答えをもらって納得。
 他にも何人かが細かいことに関して質問していましたが、だいたい予想の範囲内。
 最後にスリーブについては何でも、チャネルだろうがスターシティーだろうが、キブラーのジョークスリーブ「BlameKibler」シリーズであろうが問題なしなんでキブラーはそれを使いなよと言うのに対して、彼女を連れてきているキブラーが『それ、俺のじゃないし』と突っ込んで説明会は終了。

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 食事と、そしてドラフトの時間です。
 さすがは超高級ホテル。そして全米が誇る漁港の街シアトル。
 主にアレンジ系アメリカ料理のレパートリーに、16人とスタッフのほとんどが絶賛。

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 中でも燻製サーモンとワンスプーンならぬワンレンゲのアヒ、ポン酢仕立てと言ったら、これはアメリカで食べたものの中では確実に三指に入る逸品でした。

 一息ついたらこれまた絶品のデザート、そして好きなだけ使っていいよと置いてあるM13のブースター。いやボックスの山。
 ここは夢か幻か、いや桃源郷か、どちらにせよ最高ですね。

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 足りないカードについてもあっさり解決。
 同じように《闘技場》を買い忘れた彌永と一緒に、朝一で再びカードキングダムに向かおうと話していたところに、通りかかったキブラーに聞いてみたら《闘技場》なら1枚持ってるとのこと。
 私の方は私の方で、ロビーで統率者をやっている一団を見ていると、ララビーの統率者がまさに《オリヴィア・ヴォルダーレン》じゃないですか。まさに天の配剤。
 相当渋られましたが、プリーズ連打で確保完了。
『実は渡辺用にもう1枚必要なんだけど...』
 と聞いてみると、
『お前、統率者のルール知ってるの?』
 というごもっともな答えと、なんとかしてみようとの頼もしいお返事を頂いて一安心。

 これで全て用意は整いました。さあ本物の方のパーティーもいよいよ開幕です。

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 と、ここまで書いていて思いのほか長くなってしまったので、一端ここで切らせてもらいます。
 9月29日発売の『マナバーン』誌(ホビージャパン刊)でもトーナメントレポートが掲載されるので、そちらもあわせて読んでいただければと思います。

 それではまた次回、世界のどこかでお会いしましょう。

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