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なかしゅー世界一周

なかしゅー世界一周2012・第11回:世界半周となかしゅー的カード事情

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2012.05.31

なかしゅー世界一周2012・第11回:世界半周となかしゅー的カード事情

By 中村 修平


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 プロプレイヤーをしていてよく聞かれることのひとつに、
「月々どれくらいのお金をマジックにかけているのか」
 というものがあります。

 これは私にとって実に難しい質問です。

 生活がほとんどマジックをすることに充てられているので、どこからどこまでを「マジックにお金をかけている」に換算していいのか、自分ではちょっと分からないのです。

 経費、のようなものでしょうか。直接はマジックそのものにではないのですが、私がマジックをやり続けるために支払っているものの多岐にわたります。
 例えば、大会への参加費用がマジックへのお金とするなら、果たしてそこへ行くまでの交通費はマジックの費用として換算できるのか。月々に航空会社に貢いでいる金額は冷静に計算してみるとちょっと顔が青くなってしまうくらいの額です。
 また、この記事を書くために支払う余分なコストは、当然、私が見たい、したいと思うからという動機もありますが、マジックに関連した費用にカウントされるといえば、されるのかどうか。

 他にも大会参加中や、それまでにかかる諸費用も『マジックに』と言われると違う気がするものから、これは関連しているだろうなというものまで。
 今思いついたのですが、その最たるもの、かつ地味なところでは、プレミアイベントごとに新品を用意するカードスリーブなんてものなんかもありますね。
 うーん、これなんかはマジックにカウントしても全く問題ないと思うのですが、どうなのでしょう。

 ただ、単純にマジックのブースターパックをどれくらいの量を買っているかという話に置き換えるとなると、月に1ディスプレイ=36パックあるかないかといったあたり。金額にすると1万円弱を下回っているのは確実ですね。
 おそらく想像されているよりかなり少ない量になると思います。

 なぜそう言い切れるかというと、私にとってブースターパックというのはドラフトをするために必要なもの、ゲーム代であって、特定のカードが欲しいからといって購入することはないため、単純に今月は何回くらいドラフトをしたかでだいたいの購入量がわかるのです。
 しかも消費されるパックの中には、大会に出ることで得られたものもありますし、何かの報酬という形で還元されることも多いですから、もしかすると実際の購入量はもっと少ないのかもしれません。

cards

 では、構築で使用するカードはどうしているかというと、こちらの方は少々込み入っています。
 これは強いと思ったカード、というよりは値段が上がりそうだなと思ったカードは先物買いをしますが、基本的にはドラフトのみで新セットのカードを4枚コンプリートしています。
 ところが、神話レアが登場したあたりからは集めるべきレアが増えてしまって、なかなか難しいものになってしまっています。
 特にドラフトで消費しやすい大型エキスパンションならともかく、闇の隆盛のような小型エキスパンションは1ドラフトにつき1パックしか消費されないので厳しいですね。

 それに加えて、昨今はもうひとつ問題があります。
 ちょうど神話レアが登場したあたりから、プロツアーのスケジュールが新セット発売の直後、1~2週間といったとても短い期間に変更されたため、このカード集めサイクルでは賄いきれなくなってしまっているのです。
 いくらプロツアーへの練習期間中が最もドラフトをする時間とはいえ、与えられた時間というリソースに対して手に入れなければならないレアの量を割ってみれば、おおよそ不可能なのは一目瞭然ですよね。

 ということで、プロツアーに向けてどうしているかというと・・・
 実はレンタルさせてもらっているのです。

 たとえば、所属しているショップが母体になっているプロ集団、チャネルファイアーボール。
 パウロなどはほとんど100パーセント、チャネル供給カードで参戦しています。

 頻度は落ちますが、友人であり、カードショップのオーナーでもある斎藤友晴にもお願いすることもあります。

 このところは、プロツアー前に海外のチャネル直前合宿に参加することが常態化しちゃっているので、チャネルレンタルが一番多いですね。
 チャネルに関しては、取り決めの一部として「所属プロはカードのレンタルができる」という条項が入っているので借りやすいというのもありますし、チャネル内で調整してプロツアーでみんな同じデッキを使うとなると、必要なカードもだいたい同じで手配をお願いしやすいというのもあります。
 プロツアー前には4×12~14人分のレアカードを管理しているLSVを見ることも多いです。
 それに、直前に違うところから仕入れると「デッキばれ」という問題が発生する可能性がありますしね。

 そんな形で今回のプロツアーも、チャネルレンタルによってアヴァシンの帰還のレアカードをまかなっていたのですが、それが思わぬ悲劇を招いてしまいました。

malmo1

 発端は物価がアメリカに比べて高い、ヨーロッパ域内に私が継続して滞在していたことです。
 もちろんさっきのような事情があったのもありますが、プロツアー前といえば・・・

 数年前のホノルルでの、「《霧を歩むもの、ウリル》が恐怖の大暴騰、ブロック全体でその一瞬だけトップレア化事件」
 半ば伝説となっている、「せいぜい300円程度だった《テフラダーム》が15ユーロ超え事件」

 など、うかつに手を出すと泣きをみる投資の代名詞。
 なまじアメリカでのシングルカード価格を知っているだけに、ヨーロッパ滞在中の購入手控えてしまったのです。


グランプリ・マルメ

gpmalmo

 プロツアーが終わった後はチェコに戻って、ジュザとパウロと惰眠を貪る4日間。
 そしてこの週のグランプリは、世界で最も物価が高いといわれる北欧スウェーデン・マルメ。
 このところの円高で気がつけば日本と大して変わらない程度になってしまいましたが、やはり高いものは高いのです。
 使用通貨がユーロではなくてクローネというのもかなり面倒です。

 グランプリ・マルメはリミテッド戦だったのですが、英語カバレージにも載っているようにどう組んでもただひたすら弱いというパックの前にあっさり初日落ち。

 3敗目がかかった同色対決で《獰猛さの勝利》で毎ターン引いてるのに全く有利にならない状況に絶望してドロップすると、次の最終ラウンド中にヘッドジャッジから
『ついさっきまで2敗以上が2日目に残るってアナウンスしてたけど、今、計算してみたところ、それ以下でも残りそうだわ、ゴメンネ。』
 というMCが入ってさらなる絶望を味わいつつ、その夜からの憂さ晴らしドラフトが絶好調で更に複雑な気分になっちゃっていたとか。

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 加えて翌日、波止場でふらふらしていたら靴紐とコートのボタンがいっぺんに落ちたり、と、まあ色々ひどい目にあったりしたわけで、何が言いたいかというと、結局ここでもシングルカードの購入をパスしてしまいました。

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世界半周、アナハイムへ

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 そして月曜日、海峡の反対側にあるコペンハーゲンから、プラハ、仁川、東京へと空港での待ち時間を含めて26時間の空の旅。
 そこからわずか2日で日本を離れ、ロスアンゼルス近郊、アナハイムへと至る現在なのですが、あろうことか、その間にアヴァシンの帰還のカードが軒並み高騰してしまっていたのです。

 《修復の天使》、《魂の洞窟》や《月の賢者タミヨウ》といったどう見ても強いカードのみならず、《ウルフィーの銀心》も。結魂というキーワード能力は私が思っていた以上に強力なものでした。
 ブロック構築はおろか、スタンダードの環境を変えうるレベルのカードが何枚もあるうえに、奇跡についても約1枚、どうしてもブロック構築で使わざるを得ないカードが鎮座しています。
 よくよく考えればそれらはブロック構築のグランプリであるアナハイムの直前でもあるわけなのです。

 まさしく正当なる経済活動の結果。
 そして一方には買い時を間違え、思ったようにドラフトの回数をこなせなくてカードが足りない哀れな子羊が1匹。

 ああ、《忌むべき者のかがり火》30ドル超え。
 あの時買っていれば・・・


グランプリ・アナハイム

 そんなカード事情はもちろんのこと、ろくにデッキの準備もできていなかった状態で参加したグランプリ・アナハイムですが、13位。
 久々に2日目以上、それどころかある意味去年の定位置といえるところでフィニッシュ、上出来といえる内容でした。

at_anaheim

グランプリ・アナハイム(リンク先は英語カバレージ)より、筆者

 ・・・なのですが、いえ、正直に告白しましょう。
 このところ準備不足が響いていたグランプリと違い、この結果であっても「取りこぼしてしまった」という感がありました。

 ひとつには、プレイ経験値の量。
 メタゲームがかなり変化し、直近での練習量が不足しているとはいえ、つい先々週まで同じフォーマットのプレイテストをしていたというのはかなり大きく、全く手付かずの状態で参戦する大多数の参加者と比較すれば、久々に五分以上の状態でグランプリに臨めたこと。

 それに加えて、キブラーから教えてもらったデッキが非常に優れていたのです。
 プロツアーでキブラーとルーカスが使用した赤黒緑=ジャンドデッキに更なる改良を加えたこのバージョンは、主要メタゲーム上のほとんど全ての相手に対して強く、直前で加えた私の微調整もほとんど全て満足がいくものでした。

中村 修平
グランプリ・アナハイム2012 13位(イニストラード・ブロック構築)[MO] [ARENA]
9 《
4 《
3 《
4 《森林の墓地
4 《進化する未開地

-土地(24)-

4 《アヴァシンの巡礼者
3 《軽蔑された村人
4 《国境地帯のレインジャー
4 《ファルケンラスの貴種
2 《オリヴィア・ヴォルダーレン
3 《ウルフィーの銀心
2 《士気溢れる徴集兵

-クリーチャー(22)-
2 《豊かな成長
3 《悲劇的な過ち
2 《小悪魔の遊び
3 《忌むべき者のかがり火
4 《情け知らずのガラク

-呪文(15)-
4 《高原の狩りの達人
2 《人間の脆さ
2 《墓掘りの檻
2 《飢えへの貢ぎ物
2 《獰猛さの勝利
1 《冒涜の行動
2 《ヴェールのリリアナ

-サイドボード(15)-

 最終的なマナバランスを、キブラーのオリジナルに比べてややピーキーにしてしまったのは仕方がないことなのですが、サイドボードにまでは時間がとれず、少しツメの甘さが残っている点が心残りです。
 もしもう一度、このデッキを使うならサイド廻りに手を加えるでしょうね。

 優れていたがゆえ、キブラー本人がツイッターでボヤいていたように、キブラーがデッキ調整をネット配信していたことによってデッキが一般化してしまい。特に2日目では一大勢力になってしまったことに対し、同系対決へのサイドボードが何もないのは失敗でした。


また次の旅へ

 と、終わってしまったことはこれくらいにしておきましょう。
 何はともあれ新シーズンに向けて初プロポイントを獲得、それも3点。
 いまだにプロクラブどころか、シーズンの展望について何も発表がないにしても、おおよその価値はドルかユーロくらいには変わらないはずです。
 願わくば価値が急落しないようにと期待しつつ、ようやくの休暇に入ることにします。

 それではまた、世界の何処かでお会いしましょう。


 ラスベガス行きの飛行機を待つ間、アナハイムの有名テーマパークで戯れつつ  中村修平

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