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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2012・第10回:レースの渦の中?プロツアー・アヴァシンの帰還
読み物
木曜マジック・バラエティ
2012.05.17
なかしゅー世界一周2012・第10回:レースの渦の中~プロツアー・アヴァシンの帰還
By 中村 修平
デイヴィッド・ウィリアムズというマジックプレイヤーがいます。
2001年のプロツアー・東京でトップ8入賞するなど2000年前後に活躍したプレイヤーなのですが、その年の夏に開催された世界選手権で「意図的に特定のカードだけを曲げてデッキに投入していた」としてトップ8プレイオフ中にディスクオリファイ、プロポイントと賞金を剥奪の上、長期間の出場停止を言い渡されます。
マジック一筋だった彼の失望がいかばかりかだったかは想像するしか、いえ想像すらできません。
実際、又聞きでは相当酷いところまで落ちていたらしいです。
ですが、その暗惨たる日々の中で、彼は遂にもう1つの才能を発見したのです。
それはポーカー。
2004年にポーカー界での世界選手権、ワールドシリーズオブポーカーを準優勝。
以来、これまでに獲得した大会獲得賞金は実に20億円以上。
いまやデイヴィッド・ウィリアムズといえばポーカー界では知らぬものはいない、そしてポーカーのアメリカでの認知度からすると、町中を歩いていると記念撮影を求められるレベルの有名人なのです。
出場停止期間が明けた現在、ポーカーを仕事にしつつ、趣味としてマジックを楽しむ彼には、世界中でただ一人。非公式ながら事実上のプロツアー永久無料招待を与えられているのです。
そのデイヴィッド・ウィリアムズ(DW)が今回、同じくポーカーセレブのエリック・フローレッシュの推薦でチャネル調整に参加したのですが、彼と共同生活していて驚かされたことが1つあります。
彼には『お金』という概念が存在しないのです。
例えば私が買い物に出かけたとします。
そして、とても良い靴を見つけたとしましょう。
これは欲しい。でもまず確認するのは値段ですよね?
DWにはそれが無いのです。
セレブだから高いものしか買わない。ではなくて、例えば、
腹が減った→何かを食べよう→あれそれとこれそれが美味そうだから頼もう。
だとか、
○○が足りない、じゃあ電話で取り寄せよう。
といった感じで、彼にとってはそれが欲しいなら手に入れるだけで、そこにかかる費用を気にすることはありえないのです。
得られる経験はプライスレス、
買えるものは、そうブラックカードで。
いや、ブラックカードって本当に実在するんですね。
そんな人が、ただでさえけっこうなグルメが集まる「チャネル飯」夜の部に参加したらどうなるか。当然、普段よりリッチなところになるのです。
今回は都合4回、私は1回パスしましたが、どれもバルセロナで名だたる評判の店ばかり。
そのうち1回は比較的カジュアルで、
お値段もわりかしカジュアルなものでしたが、選べるのはコースかコース、もしくはそもそもメニューが存在しない店ってのもありましたね。
もちろん襟付きの服装じゃないと怒られるようなところです。
お値段的にも軽くササブネレベルですね。
そして支払いは、ポーカープレイヤーで同じく夜の部会員のベン・スタークいわく
『アホでバカでマヌケなポーカープレイヤーが発明した』
と言われるゲーム。要領はというと、日本のじゃんけんに近いですね。
ただし使うのはシャッフルする人と何番目かをコールする人。そしてマジックじゃないカードですけど。
まあ、最大多数の幸福とジャスティスを行うためにはちょうど良いゲームらしいです。
世はなべて事もなし、1人以外は。
そして結果はというと・・・
ありがとうコンリー、ありがとうコンリー、
君の勇姿は忘れない。
そして持ち合わせのない&ショートしてしまうらしいコンリーに、そっと優しくあるものを貸し出すDW。
払えるものはブラックカードで、
でも貸すだけだからね。
プロツアー:アヴァシンの帰還・バルセロナ
さて、そんな感じの話は今回もたくさんあったのですが、連載の都合とこのところマジック分が足りていなかった反省、そして流石に同じようなことを3回もやるのはどうかなということで、チャネル調整記はいずれ機会があればとしたいと思います。
私が今シーズンの目標、というより到達点としていた、通称「新インビテーショナル」、正式名称「マジック:ザ・ギャザリング・プレイヤー選手権」の権利を獲得できました。
これからプロ生活を続けるために最低限必要になるであろうプラチナ・レベルがあっさり取れたのに対して、この16人への権利を勝ち取るのは非常に厳しい戦いの末のことでした。
不調期が重なったこともあったにせよ、去年、2年前と本当に苦労したレベル8確保と同様に、バルセロナの、それこそ最終ラウンドまで結果が解らない、とても長く苦しいものだったのです。
今回はその今期最終日、プロツアー2日目についての私の状況について書こうと思います。
まず初めにデッキについて
結論から言って、今回のチャネル製デッキは決して強いものではありませんでした。
弱いとは言いません。もし他の調整グループが持ち込んで来たものであればそれなりに評価できるものになったでしょう。
白赤という最も解りやすく高速なデッキに対し、さらに早く、より安定しているというコンセプト。
アヴァシンの帰還加入後のこの環境を決定づけているクリーチャー、本当にただ強いだけの《ウルフィーの銀心》(調整中での愛称はビックダディ)をちゃんと4枚取っている。
同型内でも2マナ圏の選択についてベストといえるものです。
9 《森》 8 《平地》 4 《魂の洞窟》 3 《ガヴォニーの居住区》 -土地(24)- 4 《教区の勇者》 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《アヴァブルックの町長》 3 《スレイベンの守護者、サリア》 3 《国境地帯のレインジャー》 4 《銀刃の聖騎士》 4 《悪鬼の狩人》 3 《修復の天使》 1 《ガヴォニーの騎手》 4 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(34)- |
2 《信仰の盾》 -呪文(2)- |
3 《近野の巡礼者》 2 《忌まわしきものの処刑者》 2 《ガヴォニーの騎手》 3 《鷺群れのシガルダ》 2 《墓掘りの檻》 3 《情け知らずのガラク》 -サイドボード(15)- |
ですが、常勝を義務付けられている集団としてのチャネルが持ち込んだデッキとして見るならば、平均以下の出来と言わざるを得ないものでした。
メタゲームが「クリーチャーを徹底的に排除する」という方向を向いていたのに対して、自らのデッキも飛び込んでしまっているのです。
特に、どのような方向性のデッキでも対ビートダウンへと何枚も除去を追加するようになるサイドボード後の戦いに対して有効なサイドボードがない、という深刻な状況がありました。
こちらのサイドボードのほとんどは、かつてメインデッキにあったカードがただ置いてあるだけ、ある程度は有効なカードと言えなくもないですが、切り札として用意されている他のデッキのサイドボードと比べてみれば、その差は歴然です。
デッキ構成は好感触だがサイドボード後が弱い。
それが私と、ほとんどのチャネルメンバーが感じていた印象で、それは結局試合中も変わることはありませんでした。
そしてもう1つのデッキ、最終的にルーカス・ブロホンとブライアン・キブラーが使用した黒緑赤に関して。
10 《森》 4 《山》 2 《沼》 4 《森林の墓地》 1 《ケッシグの狼の地》 4 《進化する未開地》 -土地(25)- 4 《夜明け歩きの大鹿》 3 《絡み根の霊》 4 《国境地帯のレインジャー》 3 《ウルフィーの報復者》 4 《高原の狩りの達人》 3 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(21)- |
3 《血統の切断》 3 《冒涜の行動》 3 《小悪魔の遊び》 2 《忌むべき者のかがり火》 3 《情け知らずのガラク》 -呪文(14)- |
1 《解放の樹》 4 《ファルケンラスの貴種》 2 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 2 《士気溢れる徴集兵》 1 《墓掘りの檻》 1 《火柱》 2 《人間の脆さ》 1 《夜の犠牲》 1 《忌むべき者のかがり火》 -サイドボード(15)- |
八十岡翔太が改めてその有効性を示した《ファルケンラスの貴種》などサイドボード後でよりオフェンシブに立ち回れる点が非常に優れているのですが、メインデッキに関しては非常に不安定なただの除去コントロール。しかもマジックオンラインなどで良く知られている形とほとんど変わらないというもの。
やはりこれはこれで問題を抱えていました。
そんな葛藤を経て、挑んだ初日の構築ラウンド5回戦の成績は3勝2敗。
最終戦を負けての結果で、見た目上はそれほど悪いものではありませんが、周りのデッキを見渡して、そして実際に対戦してでの感想としては『勝っていない』。
つまり、これから戦っていく上でより厳しくなっていくと予感させるものでした。
第1ドラフト
もう1つの重大な誤算は、初日のリミテッドで大失速をしてしまったことです。
正直に言って、今回のリミテッドは普段と比べて格段に不安を感じながらスタートでした。
チェコにいる間はあまり練習できず、そしてチャネル内調整でも今回のメンバー数が12名、ドラフトの抽選によく外れたので思った以上に練習ができなかったのです。
しかし、いや、それでもプロツアーには間に合わせたつもりで、かなり感触の良いデッキを作り上げたつもりでした。
9 《島》 8 《平地》 -土地(17)- 1 《翼作り》 1 《スレイベンの勇者》 2 《近野の巡礼者》 1 《憑依された護衛》 1 《枷霊》 1 《解放の天使》 1 《月明かりの霊》 1 《電位式錬金術師》 2 《屑肌のドレイク》 1 《黄金夜の指揮官》 1 《エルゴードの盾の仲間》 2 《霧鴉》 1 《月の神秘家》 -クリーチャー(16)- |
2 《雲隠れ》 1 《刃の篭手》 1 《アヴァシンの巻物》 1 《盲信の一撃》 1 《幽霊のゆらめき》 1 《魂運び》 -呪文(7)- |
しかし結果は散々でした。
構築ラウンドより更に状況は悪化し、
「デッキは強いはず、そして適切にプレイしていると思う。なのに全く勝てない」
今シーズンの後半戦で遭遇してきたシチュエーションです。
それが3本目にマリガンから、相当酷いハンドをキープせざるを得なかったり、そもそも2ゲームとも酷い状態であったり、言い訳も星の数ほどできると思います。
ですがどんなに言い繕ったところで、勝ちと負けの絶対の二極、単一の評価軸しかないのが私がいる世界なのです。
通算4勝4敗で初日通過という、初日カットラインが厳しかった以前なら残れてもいない成績で2日目に迎えることになった上、構築デッキに優位性を感じず、得意な筈のリミテッドでも負け。
そんな状況にも関わらず、チャンピオンシップへの権利を取るためにはかなり厳しい。
それが2日目が始まった時に私を取り巻いていた状況でした。
開始時点でのレースの状況
氏名 | 国 | プロポイント |
Brian Kibler | アメリカ | 57 |
渡辺 雄也 | 日本 | 57 |
Paulo Vitor Damo da Rosa | ブラジル | 55 |
Luis Scott-Vargas | アメリカ | 54 |
Josh Utter-Leyton | アメリカ | 53 |
Samuele Estratti | イタリア | 49 |
Matthew Costa | アメリカ | 47 |
David Ochoa | アメリカ | 46 |
Martin Juza | チェコ | 45 |
中村 修平 | 日本 | 45 |
Tom Martell | アメリカ | 43 |
Conley Woods | アメリカ | 39 |
Samuel Black | アメリカ | 38 |
Richard Bland | イングランド | 38 |
Lukas Jaklovsky | チェコ | 38 |
Raphael Levy | フランス | 38 |
Owen Turtenwald | アメリカ | 38 |
八十岡 翔太 | 日本 | 38 |
Jon Finkel | アメリカ | 37 |
Jesse Hampton | アメリカ | 37 |
Craig Wescoe | アメリカ | 37 |
中島 主税 | 日本 | 34 |
Ben Stark | アメリカ | 33 |
Paul Rietzl | アメリカ | 32 |
Jeremy Neeman | オーストラリア | 31 |
Lukas Blohon | チェコ | 30 |
Allan Christensen | デンマーク | 30 |
Hao-Shan Huang | 台湾 | 30 |
Shahar Shenhar | アメリカ | 30 |
プロツアー前まででこそ暫定で招待圏内。ボーダーポイントに対して6~7ポイント以上の優位がありました。
しかし、プロツアーでの配点が大幅増となった今のシステムでは(参考:プレミア・イベント招待ポリシー)、4敗1分けがおおよそのラインとなる25位入賞で10点、4敗の16位以上に入賞されただけで一気に15点以上のポイントが加算されます。
もし自分が最低限の3ポイントしか取れなかったとすると、実に12点以上もの点数を巻き返されてしまうのです。
追われるものにとってはセーフティーリードというのがほとんどない。
そして逆に言えばそうできたかもしれない可能性、ちょうど12点差というのは日本代表枠にも当てはまります。
私が残りの全てのラウンドを全勝し、かつ渡辺雄也が突如崩れるというもの。
ですが、その奇跡を夢想する時間は終わりました。
今はいかにして、この状況で最善を尽くすかを考える時です。
まず私を抜く可能性がある人間をリストアップしましょう。
私が3点しか取れなかったとして、25位以内の入賞で逆転される可能性のある者(◎)、16位以内の入賞で逆転される可能性のある者(★)、あるいはより可能性は薄れるもののトップ8入賞以上で逆転の可能性があるもの(☆)は、2日目開始時点はこれだけいます。
1日目の成績 | 順位 | 氏名 | プロポイント | 備考 |
7勝1敗 | 5位 | 八十岡 翔太 | 38点 | ◎ |
7勝1敗 | 9位 | Shahar Shenhar | 30点 | ☆ |
6勝2敗 | 16位 | Jon Finkel | 37点 | ★ |
6勝2敗 | 29位 | Lucas Blohon | 30点 | ☆ |
6勝2敗 | 35位 | Jeremy Neeman | 31点 | ☆ |
5勝3敗 | 67位 | Lukas Jaklovsky | 37点 | ★ |
5勝3敗 | 72位 | Conley Woods | 39点 | ◎ |
5勝3敗 | 112位 | Richard Bland | 38点 | ◎ |
4勝4敗 | 148位 | Samuel Black | 37点 | ★ |
4勝4敗 | 203位 | Raphael Levy | 38点 | ◎ |
この中から2人以上にラインに到達されてしまうと私の招待は消滅してしまいます。
ですが1点でも私が上乗せでポイントを獲得できるなら、39点のコンリーは25位入賞でもタイにまでしか届かなくなりますし、38点組からは逃げ切ることができます。
それが追加が2点の5点であれば、さらに幾らかのプレイヤーが私のポイントを上回るのに必要な成績は上昇します。
逆に、私から見て上の、逆転が可能なポイントを保持しているプレイヤーもまた何人かいるのです。
もちろんそれには自力以外の要素も必要です。
私の現在のスコアは4勝4敗。2日目進出者中で一番下の成績です。
彼らを上回るためには、少なくとも私が勝ち続け、彼らが調子を落としてくれ、かつその上でポイント的に逆転できるものでなくてはならないのです。
とはいえ、達成できれば2人以上の下位プレイヤーがラインを超えても圏内に踏みとどまることができるという意味では。より自力救済の度合いが高いとも言えるかもしれません。
配点が急上昇する25位ラインを除くと、大体の目安で最終成績で「1勝違えば1点違う」のがプロツアーのプロポイント配分。だいたいの概算で、1点上回りたければ彼らより1勝多く勝った状態で終われればよいのです。
そんなプレイヤー達の現時点での順位は達成のしやすさから順番にするとこのような形です。
1日目の成績 | 順位 | 氏名 | プロポイント | 備考 |
6勝2敗 | 52位 | David Ochoa | 46点 | (1点差) |
5勝3敗 | 93位 | Matthew Costa | 47点 | (2点差) |
4勝4敗 | 232位 | Josh Utter-Leyton | 53点 | (8点差) |
ジョシュより上は私が25位以上に入賞、つまり2日目を全勝、あるいは7勝1分けで終わらなければ絶対に届かない位置なので省略します。
これが2日目開始時での私を取り巻いていた状況なのです。
10回戦終了時
11 《平地》 7 《森》 -土地(18)- 1 《スレイベンの勇者》 3 《森林地の先達》 1 《遠沼の探検者》 1 《敬虔な司祭》 1 《ドルイドの使い魔》 3 《暁の熾天使》 1 《ガヴォニーの騎手》 1 《ミッドヴァストの守護者》 1 《霊の罠師》 1 《州民の声》 1 《黄金夜の救い手》 1 《栄光の目覚めの天使》 -クリーチャー(16)- |
1 《刃の篭手》 1 《雲隠れ》 1 《牙抜き》 1 《恐るべき存在》 1 《月銀の槍》 1 《聖戦士の進軍》 -呪文(6)- |
これは3-0できる。
構築した時は会心のデッキだと思っていました。
ですがこの第10回戦は、「土地ばかり」と「土地を引かないで何もやらせてもらえないまま」の合わせ技、わずか10分弱で敗北という結果でした。
これでわずかに残っていた私が25位以上に入賞する、ほとんどの競争相手に対してリードを守りきれるという可能性が消失し、私は1点でもポイントを確保するために、そして競争相手が倒れることをただ祈るしかないという、生き残るためはさらに厳しい、精神を削りとる戦いへと進まざるを得なくなりました。
そんな中での当落線状況。何人かは私を上回る可能性が消失したものの、自分も4点がもらえる100位以内は現状では夢のまた夢。何人かはそのままトップ8に残る勢いで勝ち進んでいて、状況の厳しさがより鮮明になっています。
成績 | 順位 | 氏名 | 備考 |
5勝5敗 | 172位 | 私 | |
8勝2敗 | 10位 | Jon Finkel | ★ |
8勝2敗 | 14位 | Lucas Blohon | ☆ |
7勝3敗 | 24位 | 八十岡翔太 | ◎ |
7勝3敗 | 29位 | Shahar Shenhar | ☆ |
7勝3敗 | 49位 | Jeremy Neeman | ☆ |
6勝4敗 | 81位 | Conley Woods | ☆ |
6勝4敗 | 104位 | Richard Bland | ◎ |
8勝2敗 | 21位 | David Ochoa | (1点差) |
7勝3敗 | 55位 | Matthew Costa | (2点差) |
12回戦終了時点
ドラフトも終了し、2日目も折り返し地点に入りました。
半ば本気で言った、
『このデッキで2-1以上できなければマジックを引退する』
という公約もなんとか達成し、構築ラウンド初戦も毎ゲームのマリガンを強いられましたが、6枚でゲームをさせてもらえました。
思考と感情の切り替えに折り合いを付けていられる、集中できている状態を持続しています。
現在の私の成績は7勝5敗の122位。
マジックのプレミアイベントでは同勝ち点の場合、これまでの対戦相手全ての勝率の平均値、オポーネント・マッチ・パーセンテージで順位を付けます。
かなりざっくり言ってしまうと、「負けるのが後になるほど、同点内での順位は上になる」というシステムです。
このオポーネント・マッチ・パーセンテージは自分が介入できる要素はほとんどゼロ。
ラウンド数が少なければいざ知らず、16回戦のプロツアーともなると、低い数字であればほとんど後になって上がる見込みもなく、その状況を背負って最後まで戦い抜くしかありません。
一方で自分の順位を読み解く、「自分が勝つとしたらor負けるとしたらどうなるか」というのは自分で計算できる分野、しかも足し算、引き算に2の乗数の掛け算程度の簡単な算数の領分となります。
例えば13回戦が始まり、私が勝ったとしましょう。
76位から140位までが勝ち点21点。その中で私は122位なので、単純に76位から122位までのうち、このラウンドで負ける半数より上回り、99位前後となるはずです。
本来はここに1つ上の勝ち点24点から負けたプレイヤーの中で私よりオポーネント値が下のものが私の下位となり、その分だけ順位が繰り上がるのですが、今回は下位からのスタート。オポーネント値は最低と考えても良いレベルなので除外します。
負けた時も計算式は同じです。
もっとも、負けたときを考えて意味があるということは、ある程度煮詰まっている状況、 トーナメント終盤で自分のオポにそれなりに価値があるポジションということになるはずなのでまた少し複雑なのですが、今の私にとっては1点がもらえる100位以内、もしくはそれ以上に入るにはオポが弱いので競争相手より1勝分余計に勝たなくてはいけない、といった程度のもの。負けについて考えている暇はありません。
まずは100位以内なのです。
成績 | 順位 | 氏名 | 備考 |
7勝5敗 | 122位 | 私 | |
10勝2敗 | 4位 | Jon Finkel | ★ |
9勝3敗 | 18位 | Lucas Blohon | ☆ |
8勝4敗 | 32位 | 八十岡翔太 | ◎ |
9勝3敗 | 22位 | David Ochoa | (1点差) |
7勝5敗 | 117位 | Matthew Costa | (2点差) |
13回戦終了時
このラウンドも勝利して通算8勝5敗。
懸念していたデッキの調子は今のところ上々、いや絶好調と言ってもよい感じ。
この状態が続いてくれるなら勝ち進むこともできそう・・・
ところが予想していたよりも順位の上昇は少なく、104位でまだ100位圏内には届かず。
オポーネント値の下振れにより、本来よりも更に1勝が必要になるかもしれない公算が強まってきました。
ただし逆に、同じようにオポーネント値が低い競争相手は5敗目をした時点で脱落がほぼ確定するという言い方もできます。
前ラウンドのリスト上の競争相手が激減したのはその影響、オポーネント値下位の5敗はその時点で25位以内の目は閉ざされてしまうのです。
そして更に複雑なのは、競争相手となる人間が大抵の場合友人であるということです。
特にヤソ、八十岡翔太に心底勝ってもらいたいし、トップ8だけではなく、あとプロポイント10点でプラチナがかかっているルーカス・ブロホンに勝ってもらいたい。
ですが一方で、ジョン・フィンケルがトップ8にあと1勝と王手をかけている以上、私が行き残るためには3人が残ってしまっては駄目なのです。
少年マンガのように倒した上で友情を押し付けるなんていう暑苦しいし、厚かましい真似は私にとってはなしえないこと。
都合の良い告白ですが、
彼らに負けてもらいたいと思っていると同時に、勝ってもらいたいという二律背反した感情を抱えて、自分のために戦っているのです。
それは捉えるべき前方にいるデイヴィッド・オチョアについても言えます。
負けて欲しくもあり、勝ち続けていて欲しいとも思う。
そのことについて修飾しようとは思いません。
そんな暗夜行路の前進の末、遂に追加のプロポイントを得る価値が生じる事態になってきました。
初日5勝3敗で折り返していたマット・コスタがここにきて失速、100位圏内への再浮上が難しいところまで落ちてきたのです。
彼とのポイント差は2点。つまりこのまま勝ち続けて上乗せで3点取れればプロポイントで逆転し、フィンケル、ヤソ、ルーカスにポイントを逆転されても彼らのうち誰かが優勝してくれれば再び出場権が回ってくるという状況になっていました。
長い戦いも残りあと3戦です。
成績 | 順位 | 氏名 | 備考 |
8勝5敗 | 104位 | 私 | |
11勝2敗 | 3位 | Jon Finkel | ★=トップ16条件 |
10勝3敗 | 13位 | Lucas Blohon | ☆=トップ8条件 |
9勝4敗 | 25位 | 八十岡翔太 | ★=トップ16条件 |
9勝4敗 | 38位 | David Ochoa | (1点差) |
8勝5敗 | 145位 | Matthew Costa | (2点差) |
15回戦終了時
行弘がトップ8入りを確定させ、清水が次を勝てばトップ8の可能性あり、という状況に日本人グループ内で盛り上がっているさなか。
私はというと、あれからさらにトッド・アンダーソンとの同型、そして相性が悪いスペイン製リアニメイトデッキを下し、2勝を加えて10勝5敗という位置にまで来ました。
椅子争いの大勢はもう決しています。
ジョン・フィンケルは直後の14回戦を勝ってトップ8を最速で確定させ、ヤソもルーカスを破って次戦を合意の上での引き分け=インテンショナル・ドローでのトップ16入りを概ね確定しています。
ウェブことデイヴィッド・オチョアは5敗、40位で踏みとどまり次戦はインテンショナル・ドローを選択するでしょう。
そしてマット・コスタは浮上の兆しを掴めないまま8勝7敗。次戦を勝ったとしても100位内は絶望的な順位です。
ですが、まだ終わりにはなりませんでした。
私の現時点での順位は54位。
プロポイント6点を獲得するためには、さらに順位を4つ上げて50位以内にする必要があるのですが、私のようにオポーネント値が低い場合には試合に勝たずとも順位を上げる方法があるのです。
それが先程も出てきたインテンショナル・ドローです。
インテンショナル・ドロー
その仕組みを15回戦終了時点でのスタンディングを元に説明すると・・・
現時点で勝ち点30点、10勝5敗のプレイヤーは25位から56位まで、合計で31人います。
もし彼ら全てがゲームをすることを選択し、勝敗がついたとしたら、半分の15名か16名が勝ち点33点となり、もう半分が勝ち点30点のままとなります。
ところが決着を付けることで賞金、あるいはプロポイントの獲得期待値が大幅に悪化する組があります。
それは30点のオポーネント下位層です。
人数的な問題から、例えば最下位に近い私の位置からなら特に解りやすいですが、勝っても15位程度しか順位が上がらず、賞金が上がるラインの25位には遠く及びません。
一方でもし負けた場合、下にに大勢いる27点集団の勝ち組にオポーネント値で飲み込まれてしまい、57位から97位の勝者分=つまり20位以上後退して、賞金圏内の75位はおろか、76位前後まで下がることとなります。
ですが合意の上での引き分け=インテンショナル・ドローを選択すればどうなるかというと・・・
まず下からの突き上げからは無縁となります。
27点勢はどうやっても30点までしか到達できないので、31点となったドロー組を超えることができないのです。
順位が下がらないことは説明しました。その上で順位が上がるというからくりは。
勝てば25位に届くプレイヤーや、既に引き分けをしていて順位を維持するためには戦わなくてはいけないプレイヤーがいるということがポイントです。
例えば、この時点で25位のKyle Stoll。彼はこの時点では25位ですから、30点のプレイヤーが全員インテンショナル・ドローを選択すれば、このまま25位を保持してプロポイント10点と賞金2000ドルが手に入るでしょう。
ですが、一組でもプレイすることを選択してしまうと、その組の勝者に25位を奪われる。
つまりやらざるを得ないのです。そして、もし敗れたときに大多数がドローを選択していれば50位にすら入れない。
もっと悪い場合には、自分としては引き分けを選べば目標達成なのに、さらに上位入賞の可能性がある1つ上のポイントのプレイヤー、いわゆる上当たりをしてしまって、やらざるをえないという時もあります。
オポーネント値上位者は最後に同点内でより上位に入賞の可能性があるのですが、同時に最終戦を安泰に終わらせることができないというリスクを抱えているのです。
そしてそういうリスクを負うのは、何もオポーネント値上位のプレイヤーだけではないのです。
下位のプレイヤーも、
『もし30点のプレイヤーのほとんどがインテンショナルドローを選択していたら?』
という悩みを抱えているのです。
私の現時点での順位は54位。逆に言うと4組が戦ってくれていなければ順位の上昇は起こらず、50位以内に入れないという状況なのです。
マッチングされたのは古い友人のオシップ・ラドヴォヴィッツ。
彼はインテンショナルドローを希望しています。
私の状況を理解してくれていましたが、それとゲームの勝敗は別問題。
特に負けてしまえば賞金圏外へと行ってしまう状況では尚更です。
かなり悩みましたが、私が下した結論は引き分けを選択、でした。
この期に及んでも、プレイヤー選手権出場枠でプロポイントが同点の者が発生した時のルールを作られていないから、具体的にどうなるか解らないという穴はありますが、それでも50位以内に入っている可能性や、フィンケルが優勝するという可能性を考え、そして負けてしまえば75位、プロポイント5点からも落ちてしまうリスクを取るのは割に合わないと判断したからでした。
戦い終わって
結果は46位、50位入賞で6点のプロポイントを獲得。
フィンケルとヤソにはプロポイントで抜かされたものの、マット・コスタを抜いてプロポイント上位枠の5人目での選出となりました。
私個人としては充分にハッピーエンドと言えるものですね。
ひとまずは短かった、そしてそれでも長かった今シーズンはこれで終わりです。
そして私の長い長い旅もこれが区切りとなる・・・はずでした。
ですが、こうしてチェコに滞在しつつ週末はスウェーデン、帰ってきて即アメリカ、ラスベガス、そしてマニラ、ついでにアンコール・ワット。
次から次へと企画やお誘いで、これから先の旅行計画が現在進行形で埋まっていきます。
こうして原稿を書いている合間にも、
「ワールド・マジック・カップの権利なんでとってないの? 早く取って、ジェンコン、アメリカのグランプリ、プレイヤー選手権。そして9月中旬からコスタリカに行って、すぐにプロツアー・シアトルが待っているよ」
などと余裕で権利を確保したパウロと、プロツアーを初日落ちしてもうダメだツイートをしていたのに一転、ワールド・マジック・カップとプレイヤー選手権の権利が両方とも手許に残ったジュザが言っています。
どうやらまだもう少しだけ、こうやって糸が切れた凧のような旅が続くようです。
それではまた次回、世界のどこかでお会いしましょう。
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