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なかしゅー世界一周

なかしゅー世界一周2012・第3回:プロツアー・闇の隆盛 インサイド・ビーチハウス

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木曜マジック・バラエティ

2012.02.16

なかしゅー世界一周2012・第3回:プロツアー・闇の隆盛 インサイド・ビーチハウス

By 中村 修平


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 困りました。
 飛行場のバス停から調べていた通りのバス停を発見し、そこから思いのほか難航した乗り継ぎも、某コーヒーショップのネット回線を借りることによりなんとか発見。
 あとは目的地であるバス停に降りるだけだったはずなのですが・・・

 端的に言うと乗り間違え。「1と1aでは全く別のもの」と終点でお説教されてしまいました。
 そんなタイミングでかかってくるルイスからの電話。
 ますます困りました。状況を説明しようにも住所が解らないのです。
 ですがなんとか説明をと、しどろもどろになっているところにタイミングよくバスが来てくれました。
 あと15分もあれば着くからと電話を切り上げ、目的地のバス停へ、歩いて5分少々。

 1月30日、プロツアーまではまだ2週間先のこと。
 ホノルルのワイキキビーチから東に5キロほど、海岸線沿いの別荘地にて。

beach house

 ここが今回のチーム・チャネルファイアーボールのプロツアー直前練習、私が勝手にチャネル合宿と呼んでいる10日間の舞台となります。
 ここでの成果が、システム改編後初となるプロツアー・闇の隆盛――そういえば地名ではなく新発売セット名がプロツアーの冠につくようになったのも今回から――での成績に結びつくのです。いよいよです。

 と意気込んで、予め聞いていたパスコードを打ち込んで中に入ってみると。

 バスケットボールを持ったヘルバトラー、ではなくブラッド・ネルソンと、

Brad Nelson

 プールでボールと戯れている白パンダ、ではなかったコンリー・ウッズがお出迎えしてくれました。

Conley Woods

 いつものチャネルの面々ですね。総勢で14人のはずですが半数以上は正午を過ぎた頃だというのにまだ夢の中、まあこれもいつものこと。
 リーダーのルイス・スコット=バルガスにパウロ・ヴィター・ダモ・デ・ロサ、ジュシュ・ウッター=レイトン、オーエン・タータヴァルドにベン・スタークというレベル8たち。
 ディビット・オチュア、コンリー・ウッズ、マット・ナスにポーカーセレブのエリック・フローレッシュに加えて、チェコからはマーティン・ジュザとルーカス・ブロホン。
 スターシティ所属のブライアン・キブラーとブラッド・ネルソン。それに私。

 なぜ別チームであるスターシティの2人がチャネル調整にいるかというと、広告としてのチームチャネルと、実際の調整チームとしてのチャネルでは位相が異なるからです。
 調整チームとしてのチャネルは、簡単に言うとルイスコと愉快な仲間たち。
 ルイスとその呼びかけに応じた友人が一所に集まって一、緒にプロツアーに向けて練習するというのがその実態です。
 もちろんまた逆もありけりで、チャネル所属のポール・リッツェルやトム・マーテルは今回スターシティグループに合流しています。

 ほとんどのメンバーはホノルル開催のプレリリーストーナメントに合わせて2日前に現地入りしていたので、もうルーチンができ上がっているようです。
 昼食に連れていってもらってからドラフト、ドラフト、その合間にスタンダードデッキの練習。そして夕食という流れで、あっという間にこの日は過ぎ去ってしまいました。


ブースタードラフト

 2週間あるとは言っても、その間に新環境である闇の隆盛入りドラフト理論とデッキを構築しなくてはならないのです。
 そしてどちらの方が楽しんでやれるかといえば、地味なデータ取りを延々と続けなければならないスタンダードよりは断然ドラフトなのです。

 この2週間のはじめの方はドラフト重視、1日に最低3回。抜け番があるので1人1日2回ペースでのサイクルとなりました。
 遅れてやってきた上、日本ではほとんどドラフトしていなかった私としては、彼らドラフト修羅達にとっては良い鴨葱。初日と2日目のドラフトは散々で、左右のプレイヤーと色が被った酷いデッキで当然のように散々な結果で終わること、数回。
 肩慣らしは終わったとばかりに、これからはチーム戦ドラフトからより実践的な8人個人戦ドラフトにしようという提案がされ、みんなこれに賛成。
 それに併せて細かなルールが決められていきます。
 レアは取り切りではなく、全ゲーム終了後、2-1以上の成績者達によるコスト勝負の坊主めくり。ただし3-0者は1枚だけ予め選んで取ることができる。
 そして0-3したプレイヤーは3-0プレイヤーにドラフトセットを献上しつつ、どんな天候状況であろうともプールへダイブ、という過酷なもの。

 0-3。確率にして1/8。よっぽどの失敗デッキを組まなければ回避できるだろうなんていうのは本当に甘い目論見です。
 なにせオールチャネルメンバーによるドラフトです。
 これは2-1くらいは簡単に出来るというデッキを組み上げても、初戦を負けてしまうと次の対戦でそれなりに強いデッキを持ったPVやルイスがこんにちは、なんてことが簡単に起こってしまうのです。
 そして0-2してしまったなら、もう確率はたった1/2。その次の対戦相手も何故かチャネルメンバーなのです。

Draft

 ついでにベン・スタークが戯れにドラフトでのスコアを付けていこうだなんて言い出しました。
 各人のドラフト回数の把握というもっともらしい名分はありますが、弱肉強食が修羅の国の唯一の掟。
 情報化社会では弱者が誰であるかは白日の元にさらけ出されてしまいます。

 かくして3-6という借金生活。狩られる側からのスタートになってしまいましたが、なんとかこの移行前後でこの環境のコツを掴むことができたので、比較的早い段階で獲物から狩人へと昇格することができました。

 基本的にこの環境はテンポ最優先の超高速環境。
 低コスト、特に2マナ以下のクリーチャーと回避能力こそが全て。
 理由は、カード全体が弱いことと、フラッシュバックの存在です。

 クリーチャーのサイズがコスト相応で、かつ2マナから3マナ、3から4へというパワー/タフネスの変動が少ないという点から、サイズの差で戦線を止めることは可能でも、サイズ差を生かして攻勢に転じることはとても難しいのです。
 例えば、「2/2が3体に対して5/5が1体が相対する」という構図であれば、後者が追加の戦力を1枚用意するだけで、打点差のプレッシャーを与えることができます。
 ですがこの環境では大抵が3/3まで、大きくてもパワー4までが関の山。
 そう派手に立ちまわることもできず、何か1枚の後押しがあれば簡単に均衡が崩れてしまいます。

 その後押しとなるのがフラッシュバックの存在です。

 1枚で2枚分の働きをする各フラッシュバックは、戦場の一押しどころか、ゲームを決定づける2撃目すら入れてしまうことすらできてしまいます。
 また、方法のいかんに関わらず、墓地に落ちていれば呪文1枚分となるので、それが自分のライブラリーを削るという戦略に有効性を与えることになります。
 この構造はイニストラードのみの頃からそうでしたが、闇の隆盛でカードパワーが更に抑えられたことでその傾向がより顕著になりました。

 だからこそ、軽いところから始まるクリーチャー展開に、ブロックのされづらさを施すプラスアルファ。大体の場合はその役割はフラッシュバック呪文が担います。
 色の組み合わせで言うと、


  • 軽量の飛行生物がそろっていて《戦慄の感覚》がある青白
  • 地上の緑と空の白に《旅の準備》の白緑
  • 狼男のサイズと緑赤ジャイグロの赤緑

 といったあたり。これが私の基本戦略です。

 その成功例がこういうデッキです。

Draft Deck

練習ドラフトデッキ[MO] [ARENA]
10 《平地
5 《
1 《
1 《ムーアランドの憑依地

-土地(17)-

1 《忠実な聖戦士
1 《弱者の師
1 《ドラグスコルの隊長
1 《声無き霊魂
2 《悪鬼の狩人
1 《礼拝堂の霊
2 《ガヴォニーの鉄大工
1 《スレイベンの歩哨
1 《絞首台の守部

-クリーチャー(11)-
3 《町民の結集
1 《未練ある魂
2 《深夜の出没
1 《とがった三つ叉
1 《暁天
1 《勇壮の時
1 《戦慄の感覚
1 《肉屋の包丁
1 《閉所恐怖症

-呪文(12)-


 クリーチャーはほとんど全て回避持ちかトークンを複数枚出すことができ、攻撃にも防御にも小回りが効き、それをサポートする呪文が脇を固める構成。
 2マナ以下のクリーチャーが4枚換算と確実に唱えるにはやや足りないのが不満ではありますが、全体として及第点からは大幅に上の出来、修羅たちのドラフトでも余裕の3-0をしたデッキです。

 その傾向はスコア帳にもはっきりと現れます、
 グランプリを勝って絶好調状態のコンリーは除くとして、テンポデッキが好きなパウロやブラッドは最序盤からはっきりと勝率が良く、自在型ながら最も早くにテンポ重視へシフトしているベン、そして半周遅れで追いついた私や、ドレッジやライブラリーアウト、《燃え立つ復讐》戦略をミックスするオチュアまでが平均2-1ペースのスコアになっています。
 それに対して、重いデッキをプレイしたがるルイスやコントロール好きのルーカス、ジュザ、フローレッシュは安定して1-2ラインにいるという有り様。
 特に去年プレイヤー・オブ・ザ・イヤーのオーウェンは深刻で、1勝すれば本人が大はしゃぎというくらい不振の極みでした。

Owen's Diary

壊れてしまったオーウェン画伯によるチャネル絵日記

 もっとも、凹み続けるような生半可な腕前のプレイヤーは一人もいません、
 後半にはだいたいのプレイヤーが持ち直してしまい、最終的には平均2-1以上のような突き抜けたスコア保持者は生まれませんでした。
 私はというと中盤戦で大幅に勝率を上げましたが、後半にはやや失速、復調勢に星を献上して23-16で終了。
 なんとかプール飛び込みだけは回避し続けました。


ホノルル食事情

 寝て起きてマジックというある意味理想の生活をしているわけですが、男14人でやることがそればかりでは、さすがに息詰まりしてしまいます。
 夜に飲みに繰り出したり、ショッピングに出かけたりとレンタカーを駆使して各々遊ぶ時には遊んで各自発散するのですが、食べるというのもかなり大きなファクター。
 妻帯者で一通り以上の自炊ができるルイスを筆頭に、「食のマエストロ」オチュアや、

Ochoa

 曰くチキンだけは料理できるという根っからなチキン野郎、寿司も大好きPV。
 どう見ても育ちの良さそうなコンリー、そもそもポーカーセレブでお金持ちなイーフロウことエリック・フローレッシュ。意外とグルメなキブラーとベン、それに私。
 このメンバーは食道楽が多いのです。

 そのグルメ集団が満場一致で満点を与えたハワイの食べ物が2つあります。
 1つはレナーズのグアムマサラ。

Lenard's

 元々はポルトガルのお菓子らしく見たまんまの揚げパンなのですが、意外としつこくなく食べやすい。
 レンタカーで直送された餡入りはまだ熱くて、一口かじるととろけたクリームが溢れ出ます。
 特に美味しかったのはカスタード、チョコレートはイマイチ。季節限定のココナッツは人を選ぶ味。他にも砂糖ではなくシナモンをまぶした餡なしバージョンというのも。

 もう一つは寿司屋・笹舟です。
 水曜日だったと思いますが、朝起きるとルイスに
『最低でも150ドルはかかる寿司を今夜食べに行くけどどう?』
 と聞かれたのが発端。
 さすがに金額が金額なだけに逡巡しましたが、一度くらいは前日のとある禁断遊戯に勝利したこともあって、それで負けたと思えばまだ安いと思い参加を決めました。
 メンバーはルイス、オチュア、ベン、キブラー、コンリー、イーフロウ、そして私の7人。パウロは悩んだ末、高すぎると言うことで留守番に。
 『ササブネ』という店の名前を聞いて検索してみると、その評価の高さと言ったら!
 その日は一日中気もそぞろだったのは私だけではないはずです。
 6時頃、日没を少し過ぎたあたり、みな襟のある服に着替えて準備は万全です。

笹舟

 店に入り、席に通されて驚いたのは、オーダーというものがないことです。
 ドリンクメニューのみで、食べ物の選択肢は『omakase』。これだけなのです。
 全て寿司職人さんのセレクトによるコース。
 誰かが一時期残念な使い方をしたおかげで著しく信頼が落ちてしまった『trust me』とだけ添えられているのに一抹どころではない不安がありますが、結果は全くの杞憂でした。

 マグロとハマチのマリネからコースは始まり、イカの詰め物で前菜は終了。
 そこからは2品ごとの寿司が続き、適度なタイミングで一品ものの料理が来ます。

 魚は好きなもののそれ以外の魚介類、海老烏賊蛸蟹貝が苦手な私でも美味しいと感じるラインナップには感動です。
 セオリー通りちょっとずつ重たいものへと続いていき、最後はう巻きならぬ、鰻にシャリが卵焼きという変りダネから、ツナロール。

 ここでコースが一通り終了ということでリクエストタイムに突入。
 ロブスターのオーブン焼き、トロといった皿が再び登場します。
 オチュアがウニを注文したのでそれに便乗して私も注文するとゲテモノ好き扱いされてしまい、文化の違いを感じざる得ませんでしたが、一番感動したのはネギトロの握りです。

ネギトロ

 巻きではなく、ネギトロの握りなのです。
 ツナギに山芋を使っていると思うのですが、かすかに残るシャキシャキ感に甘辛いタレが引き立てる。物凄い一品でした。

 皆大満足、プロツアーで結果を残したらまた行こうと、そして実際に行くことになったのですが、最後に来るレシート、お値段の方も物凄い金額に。
 たしかにコンリーとキブラーが日本酒を2瓶開けるなんて豪快な事をやってはいましたが、寿司本体に比べればそれでも大した額ではない額が記載されています。
 支払い明細でミリオネアのイーフロウがびっくりしてたのは後にも先にもこの時しかありません。
 普段は嬉々としてクレジットカードを取り出す彼らも、この時ばかりは現金でお金を集める作業をしていました。お1人様200ドル也。


スタンダード

Beach House 2

 さて、ホノルル初めの1週間はこういう風に過ぎ去っていったのですが、一方で難航しているものがありました。
 それはスタンダードのデッキに全く光明が見いだせないことです。

 ベンはグランプリ・オースティンで持ち込んだ青黒コントロール、コンリーも自作の黒緑コントロールを《裏切り者グリッサ》+《漸増爆弾》のコンボに寄せて、フィニッシャーを《血統の守り手》、《血の贈与の悪魔》と中速にアップデートしたもの。
 ジュザは白黒トークン、ルーカスはプロツアーでも使った緑白赤の《出産の殻》。キブラーは独自の赤緑ビートダウンデッキ等々。
 それぞれのデッキを持ち込んできてはいるものの、どうしても《秘密を掘り下げる者》デッキ、そして人間ビートダウンという2つの青白い壁を踏破することができなかったのです。

 そうやって時間が無為に過ぎ去っていく中で、驚きの結果が出ました。
 予想通りの《秘密を掘り下げる者》が上位に残り、緑単色というアプローチのデッキがそれなりの結果を残したまでは良かったのですが、プロツアーの1週前に開催されたスターシティ・スタンダードオープンでは《鍛えられた鋼》が優勝。上位32人の中でも最多勢力となっていたのです。

 明確な指針がない中で、手探りなりとも目指すべき方向性を計ることができるこの大規模トーナメントは大きな助けになりましたが、同時に奈落の底へと突き落とされるものでもありました。
 《鍛えられた鋼》デッキはメインボードでは最強、サイドボードを取られていると最弱という類のリスクが高いデッキだからです。
 それ故に忘れ去られていた去年の世界選手権では私たちは使うことにしたのですが、今回は勝手が違います。そもそも使うつもりがない上に、一方で対策を施さないといけない、という要求を突きつけられてしまっているのです。
 特に青黒コントロールを調整していたベンやルイスにとっては致命的でした。
 そもそも青黒コントロール自体、対処できないカードを通してしまうと即負けという脆弱性があるデッキでしたが、《鍛えられた鋼》に至ってはそういうカードしか入っていないような有り様なのです。

 青白の2つに勝てるデッキ、そして鋼にも勝てるデッキ。
 それらへの答えとしての《ケッシグの狼の地》。

 確かに理論上は間違っていません。全体除去とタイタンの組み合わせはおおよそほとんどのクリーチャーデッキに有効であり、形は異なれどクリーチャーデッキである《秘密を掘り下げる者》にもまた有効です。
 ですがその他のデッキ、ソーラーフレアやついこの前まで調整していた青黒コントロール等に当たってしまうと結果は悲惨なものでした。
 もともとは私がスパーリング用にと作った白緑タッチ赤の《ケッシグの狼の地》から、ルイスがさらに《裏切り者グリッサ》を混ぜた4色バージョン、さらに大幅に改訂した赤緑黒バージョンへ。

 チャネル勢が持ち込んだものの雛型となるものが出てきたのは翌週火曜日、プロツアーまで残り2日を切った頃でした。

雛型ケッシグ[MO] [ARENA]
6 《
6 《
1 《
4 《銅線の地溝
4 《根縛りの岩山
4 《墨蛾の生息地
2 《ケッシグの狼の地

-土地(25)-

1 《極楽鳥
1 《裏切り者グリッサ
3 《高原の狩りの達人
1 《最後のトロール、スラーン
1 《酸のスライム
4 《真面目な身代わり
3 《原始のタイタン
2 《業火のタイタン

-クリーチャー(16)-
4 《不屈の自然
4 《太陽の宝球
3 《感電破
2 《漸増爆弾
3 《金屑の嵐
3 《緑の太陽の頂点

-呪文(19)-


 この週に入ってからはドラフトに時間を費やしている暇はなく、ただひたすらにスタンダードのデッキを探す作業の繰り返しの中で、苦し紛れに近い状況で調整が開始されたデッキでした。
 そこから《裏切り者グリッサ》が抜けて赤緑の2色になるのに更に1日。
 人間ビートダウンには簡単に勝てて、《秘密を掘り下げる者》にも構成をより意識することで勝てるようにすることはできました。
 そして《鍛えられた鋼》にも、それは世界選手権で彌永が示したように圧倒することができます。

 ですが急造に次ぐ急造で、内実として穴だらけでした。
 時間不足のため、主要な対戦相手になるであろう2つのデッキに対してしか時間が取れず、そして人間ビートダウンに対しても、相手が《天使の運命》を取っているバージョンであれば途端に厳しいマッチアップへと変貌します。
 そして《秘密を掘り下げる者》に対しても、サイド後込みでいいとこ五分といったあたりのスコアからあまり変動がなかったのです。

 こういった状況で移動日となる木曜日を迎えた朝、私はある決心をしました。

『プロツアーは《秘密を掘り下げる者》を使う』

中村 修平
プロツアー・闇の隆盛 21位 / スタンダード[MO] [ARENA]
6 《
1 《平地
4 《金属海の沿岸
4 《氷河の城砦
4 《闇滑りの岸
1 《水没した地下墓地
2 《ムーアランドの憑依地

-土地(22)-

4 《秘密を掘り下げる者
4 《瞬唱の魔道士
3 《磁器の軍団兵
4 《聖トラフトの霊

-クリーチャー(15)-
3 《はらわた撃ち
4 《思案
3 《思考掃き
4 《蒸気の絡みつき
4 《マナ漏出
3 《未練ある魂
2 《戦争と平和の剣

-呪文(23)-
2 《幻影の像
2 《地下牢の霊
2 《鋼の妨害
1 《存在の破棄
2 《天界の粛清
1 《否認
1 《四肢切断
1 《忘却の輪
2 《雲散霧消
1 《迫撃鞘

-サイドボード(15)-


 《ケッシグの狼の地》は確かに上位2つのデッキに対して有効です。
 それは間違いありません。概ねほとんどのビートダウンに対しても同じです。
 そこまではテストプレイでも実証ができています。

 ですがそれ以外には、コントロールと相対して勝ち目はあるのだろうか?
 それならば安定して強い《秘密を掘り下げる者》デッキを使うべきではないだろうか。
 私には残り1日でケッシグを調整して持ち込むにはあまりにギャンブルが過ぎるように映り、調整仲間達に《秘密を掘り下げる者》デッキを使うことを告げて、ケッシグに見切りをつけました。

 チャネルだからと言って同じデッキを使わなくてはならないという決まりがあるわけではなく、あくまでルイスを中心とした調整グループ。最終的にはルイスの選択に乗るかどうかなのです。


結果と内省

プロツアー会場

プロツアー・闇の隆盛 イベントカバレージ

 プロツアー・闇の隆盛 イベントカバレージ

 結果を見ると私の予想は半ば外れ、半ば当たりといったところではないでしょうか。

 チャネル製ケッシグがキブラーとパウロによりワンツーを独占するという派手な成果を挙げる一方で、プロツアーの参加権だけでなく航空券に加えて前年度のトップ8以上であるプロポイント10点が支給され、成功と呼べるトップ25ラインに残っているのはわずかに二人。
 自分のデッキをただひたすらに調整してトップ8入賞を果たしたルーカス・ブロホンと21位の私だけという結果で、2日目に残った他のチャネルメンバーは賞金圏内の75位以内にすら到達できないという、控え目に見ても現時点世界最強ともいえるプレイヤー群が同じデッキを持ち込んで、そのほとんどが惨敗してしまったのです。

 思うに今回のチャネルデッキは、最上位卓のメタゲームにはこの上もなく合致していたのだと思います。
 青白系ビートダウンには対策を重ね、そして自分たちが使うのだから他にもいるはずと同型相手にも対策を怠らなかった。
 その結果がキブラーとパウロのトップ8です。

 もちろん彼らが一級の技術を持っているのは疑いの余地がありません。
 デッキも私が関わらなかった1日の間に大幅なバージョンアップを遂げています。
 ですがそれに加えて上手く上昇気流に乗れたこと。初日のスタンダードラウンドと両リミテッドラウンドを乗り切り、トップテーブル近くで後半スタンダードラウンドへと戻れたこと。
 それが彼らの勝因で、他の面々の敗因でもあるように思えるのです。

view

 私の今回の成績、21位というのはとても満足のいくものです。
 同じことを重ねてしまいますが、新プロツアーでは25位を境にして待遇に天と地ほどの開きがあるのです。
 実際にプロツアー最終戦では25位ラインを挟んだ境界線で、ほとんど全ての上位卓で合意の上での引き分けが成立していました。
 そして私個人としての意味としてもこの加算10点は大きなものです。
 これで去年6月からを起算点とする今期のプロポイントで40点に到達し、5月から切り替わる新方式での最高ランク、プラチナにも昇格しました。

 私がケッシグを使っていたらどうなっていたでしょうか?
 『もしも』というのはあり得ない話、馬鹿らしいとは思いますが、かといって全くキブラーやパウロに羨望を覚えないわけでもわけでもありません。
 あるいはかつての私ならば?、

 まったく、結局はないものねだりと解っていながらも少しは考えてしまう。
 勝つための分岐点をどうしようもないところまで遡って考えてしまうとは、それも私らしいといえば私らしいです。
 そしてリスクよりも安定性を選ぶというのが今の私のスタンスなのですから。

 何はともあれ、このプロツアー・闇の隆盛では、本当に久しぶりにプロポイントを稼がなくてはいけないという状態を脱することができました。
 最後にこの状態になったのは2年前の3つめのプロツアーから世界選手権まで1ヶ月半でした。
 今回は次のプロツアーまで3ヶ月近くも間隔が空いている上に、グランプリもほぼ毎週あるという、大分違ったシチュエーションになります。
 とりあえずといった形で、神戸後からアメリカ行きの旅券と4月の頭に日本帰りの旅券を抑えてはあるのですが、果たしてどうなる、いや我が事ながらどうすることやら。

 今回はこのあたりで、
 それではまた次回、世界のどこかで、となることを祈りつつ。

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