READING

コラム

なかしゅー世界一周

なかしゅー世界一周2011・第26回:Inside the CFB 続・世界選手権

読み物

木曜マジック・バラエティ

2011.12.22

なかしゅー世界一周2011・第26回:Inside the CFB 続・世界選手権編

By 中村 修平


/

 前回の世界一周ではチャネルファイアーボールがスタンダードで白単《鍛えられた鋼》デッキを選択していったかの過程をかなりの早送りでお伝えしました。

 途中、青黒に絶望してそれでもコントロールが使いたいとソーラーフレアを廻してみるとあまりの回らなさに絶望するルイスや、鋼が良いじゃんないかとことでそれじゃサイドボード後をしてみようとケッシグとやってみるとボコボコにされて暗雲が立ち込めてみたり。
「そういえば赤単については何も考えてないよね」
「でもこの面子で誰が使いたがるの?」
 みたいな会話を経て、ずっと赤青の《秘密を掘り下げる者》ビートダウンを調整し続けていたキブラーも、サンフランシスコに帰ってきたあたりで「今週は鋼にする」と言い出して。
 後から考えてみれば、各メンバーの結論は出ていたのだと思います。

 付き合ってみてよく解ったのですが、チャネルはルイスの友人達が各々の意思で集まるという、これまでのマジックの調整チームの中ではかなり繋がりが緩いチームです。

 デッキについても、特にこれを使わなければならないといった縛りがあるわけではありません。
 どちらかというとルイスが選んだデッキにメンバーのほとんどが乗るといった具合であって、良いと思えるデッキが複数あれば当然、ルイスチョイスとそれ以外みたいな形に分かれたり、そうではなくてこれが好きという人間は情報を共有した上で違うデッキを使ったりも充分にあります。
 その間に特に取り決めなどは存在していないというのもチャネルならでは、ということかもしれませんし、それが実力は高いがアクが強いメンバーを大量に抱えるチャネルというチームが空中分解を起こさずにに機能している要因の1つなのかもしれません。

/

 ですが完璧なシステムなど存在しません。
 むしろ構造上の『遊び』を大きくとっているのはそもそもが弱点が多いことの裏返しですらあります。
 もしルイスが自分のデッキを決められないほど混迷してしまったなら・・・
 阿鼻叫喚、ゾンビ状態のチャネルメンバーが群がることなってしまう。
 それがモダンデッキを探す世界選手権が目前に迫った、そして開催してしまってからの、モダンを使わなければいけないDーDayが迫っていく月曜日から金曜日でした。


月曜日ー水曜日

 スタンダードに関しては目処がついたものの、モダンに関して言うと完全に五里霧中状態。というかそもそも満足に調整したデッキすらないというのが状況でした。

 環境の恒例ともいえるビートダウンデッキのZooはあるものの、それ以外はそもそもどんなデッキがあるかすら解っていないという、かなり深刻な状況。
 しかも参考にすべきデッキリストがどこを探してもないのです。

 この期間でチャネルのモダンデッキ情報源になっていたのは僅かにたった2つ。
 グランプリ・サンディエゴのパブリックイベントで開催されていたモダントーナメントと、日本の某所で開催され、掲載されていたモダン大会のデッキリスト。
 嘘偽りなく本当にこの2つだけだったのです。

 そこからとりあえず両方の大会で結果を残した、というよりは良さそうに見えたデッキ、黒緑の《小悪疫》と《タルモゴイフ》に《ヴェールのリリアナ》というデッキを組んで廻してみることにします。

 その結果は確かに悪くは無いのですが良くもないというのが感想でした。
 満場一致で《恐血鬼》を抜いた形での初出に、みんな大好きチャネルのマスコット、コンリーの青白黒《神秘の指導》コントロールをあっさり倒してとりあえずは及第点。
 ですがZooと対戦して五分、いよいよということでチャネル恒例のストレス解消用青赤ストームデッキと対戦してみると全く勝てないという黄色信号。
 親和と対戦してみれば同じく全く勝てる気がしないということで考えなおしを迫られることに。

 たしかパウロだったと思うのですが、
「その《小悪疫》に意味があるの?」
 その通り、手札から捨てることにメリットがあるカードがデッキに無いので、《小悪疫》であることにほとんど意味が無いのです。
 という訳でこの時点で私の判断では本命には程遠い、テスト用デッキに格下げ決定。
 ちょっとずつ変更を重ねて《小悪疫》デッキと言うよりは黒緑の中速ビートダウンへと変化していきますが、結局評価は変わらずでした。

黒緑 サンプルデッキ / モダン[MO] [ARENA]
4 《
2 《
4 《樹上の村
4 《黄昏のぬかるみ
4 《草むした墓
1 《神無き祭殿
4 《新緑の地下墓地
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ

-土地(24)-

4 《タルモゴイフ
4 《闇の腹心
1 《マラキールの門番
4 《台所の嫌がらせ屋
2 《永遠の証人
2 《深淵の迫害者

-クリーチャー(17)-
3 《思考囲い
4 《コジレックの審問
4 《夜の犠牲
2 《仕組まれた爆薬
1 《光と影の剣
3 《ヴェールのリリアナ
2 《情け知らずのガラク

-呪文(19)-


 むしろ本命は青赤ストームではないかという話題が俎上にあがります。
 チャネル内では何人かストームマニアがいるので無駄にリストが洗練されてきていたのです。
 たしかこんな感じのリストだったと思うのですが、ちょっと記憶が定かではないので参考程度に・・・

青赤《けちな贈り物》ストーム / モダン[MO] [ARENA]
2 《
1 《
2 《蒸気孔
1 《繁殖池
2 《ハリマーの深み
2 《戦慄艦の浅瀬
4 《霧深い雨林
4 《沸騰する小湖

-土地(18)-

1 《猿人の指導霊

-クリーチャー(1)-
4 《血清の幻視
3 《稲妻
2 《急かし
4 《捨て身の儀式
4 《魔力変
4 《深遠の覗き見
4 《差し戻し
3 《ぶどう弾
3 《発熱の儀式
4 《煮えたぎる歌
4 《けちな贈り物
2 《炎の中の過去

-呪文(41)-
3 《否定の契約
3 《古えの遺恨
2 《残響する真実
3 《炎渦竜巻
4 《巣穴からの総出

-サイドボード(15)-

 このバージョンの長所は従来のストームデッキで弱点だった手札破壊呪文に対してかなり強い耐性があること。
 一度《けちな贈り物》にたどり着けば、後はある程度の土地が伸びるだけでコンボスタートができるのです。
 黒緑デッキの1マナ手札破壊8枚体制+リリアナにもかなり余裕を持って対応してみせたところで、もしかしたらこのデッキが!と思わせるのには充分でした。
 「双子」とやってみるまでは・・・

 プロツアー・フィラデルフィアを制した、もう一つの青赤デッキ、無限《詐欺師の総督》or《やっかい児》と対戦してみると、前の環境でストームデッキが勝てなかった理由を再確認させられてしまいます。
 こちらの打ち消しがテンポを稼ぐだけの《差し戻し》4枚だけなのに対して、双子側はより多くの、しかも確定打ち消し込みで8枚前後まで詰め込まれているのです。

 コンボスピードではもちろんストームの方が早いのですが、一度発車してしまうと途中でどんな種類の打ち消しを食らってもコンボがストップしてしまう構成。
 一方双子側にはそんな心配はありません。相手が見切り発車したのを打ち消した後で悠々と決めても良し、自分が打ち消しのバックアップで無理やり決めるも良し、
 いざとなれば《差し戻し》をケアせずに4ターン目にコンボを決めてしまう選択だってあります。

 これは私の言葉だったと思うのですが、
「たぶん会場で一番いる双子に勝てない上に、サイド後メタられるデッキは厳しいよ」
 この時のどんよりとした空気がモダンの散々たる有様を象徴していましたね。

 そんな感じでデッキが決まらないままとうとう世界選手権初日を迎えてしまいます。


木曜日

/

 こうしてデッキに方向性どころか、何も無い状態で迎えてしまった初日ですが、ご存知の通りチャネル勢はかなり好調な滑り出し、
 オーウェンが『狂い咲き』と評した予想外のコンリー6戦全勝。
 そういえば、第6回戦3本目にゲームの決め手となった《刃砦の英雄》をプレイしたコンリーが、勢い余って自分のライブラリーをひっくり返して警告を食らうという珍事もありました。
 一緒に観戦していたオーウェンがキャッキャしてたのは言うまでもありません。

 ルイスとジョシュが5勝1敗、私とそのオーウェンを含むだいたいのメンバーが4勝2敗という結果に。
 そしてもう一つ、2日後を占う上で重要な案件がありました。
 国別代表選のモダン部門での各国代表のデッキ選択です。
 この日は個人戦の6回戦が終わった後に国別代表同士のチーム戦が2回戦組まれていたのですが、そのフォーマットがスタンダード、モダン、レガシーを1デッキずつという形式なのです。

 つまり各国代表の本気モダンデッキが一足早く見られるというわけで、チャネル勢以外にも世界各地の調整チームがメモ帳片手に各テーブルのモダンだけを見てまわるという、ある意味でかなり異様な風景が展開されていました。

 このモダンウォッチングで解ったことは良し悪し両面で2点。
 良いニュースはみんなモダンのデッキを用意できなかったこと。
 ウォッチングに来ている人間もそうですし、チーム戦の様子を見ても前環境からの引継ぎデッキ、4割双子に3割Zooと言った具合なのです。
 そして悪いニュースは、もちろん琴線に響くようなデッキはおろか、得られるものがほとんどなかったこと。
 最後のあがきと会場で見かけた《むかつき》デッキを試してみましたが、日付が変わるあたりで、「もし本番で何を使うか」という私の質問にルイスの答えは「Zoo」でした。

/


金曜日

 と、Zooと見せかけて。
 ではありませんが翌日の朝に朝食をとりに下のレストランに来てみると、双子デッキにヤル気を見せているルイスがそこにはいました。

 実は双子デッキ担当というか、チャネル内で双子を持っていたのは私だけだったので、構成や必要なカードについて聞かれて、それに答える、というやりとりを会場に向かうまでずっとやっていた、というのがこの朝の記憶の大半ですね。

 こういう時、会場に出店している上にいざとなれば本拠地からカードを搬送できるアドバンテージは確実にあります。
 できうるなら二度と起こって欲しくはないですが。

 そんな朝のやりとり以下はこのくらいで省略するとして、いよいよ2日目も終了。
 この日もチャネルメンバーは順調に勝ち進み、コンリーはなんと12連勝でダントツのスコア。
 通算2敗でそれを追いかける2位タイ勢の中にはこの日1敗のルイスと全勝パウロ、3敗ラインには更に4名ほど、見た目としては順風満帆な2日目までの成績。

 それと裏腹に、「まだ何日モダンの調整ができる」と言っていた我々にとっては、デッドラインがとうとう10時間を切ってしまってまさに火の車。
 トップ8を争うラインで戦っているプレイヤーにとってはより切実ですし、失速してしまった私は私でレベル8を維持する為にはどうしてもモダンで勝ち星を重ねるしかありません。

 ということで、ホテルに帰ってルイスの部屋でみんな双子を製作して対戦すること2時間弱。
 そこにはスタンダードのコントロールよろしく双子に「折れて」しまったルイスの姿がありました。
 ルイス曰く、占術が後に入る某ドロー操作が弱すぎてもう本当に駄目。私の意見もその通りです。
 そしてその隅には自分のZooデッキを延々と廻しているキブラーがいます。
 このパターン、フィラデルフィアと実は全く同じですね。

 早速、キブラーのデッキをコピーして調整にかかるチャネル一同。
 ですが残念ながら全く同じ展開にはならなかったのです。
 キブラーが調整していたのは《貴族の教主》を入れたいわゆる「重Zoo」なのですが、前回のように軽量Zooに対して有利が付かなかったのです。
 《緑の太陽の頂点》禁止と対戦相手の《瞬唱の魔道士》は大きな障壁でした。

 こちらの戦線を支える巨大クリーチャーは少なくなってしまい、《瞬唱の魔道士》で《流刑への道》か《部族の炎》を使い回されてしまう。
 この時点で午前3時を越えたあたり。

 私は問題点を抱えたまま自室に持ち帰り、そしてヤソデッキを使う予定だった渡辺 雄也とテストプレイと言う名の虐殺を味わって、1つの結論に達しました。
 それがチャネルの情報交換掲示板に投稿したこのコメントです。

Shuhei Nakamura
playtesting 30 min in my room. I've really no idea for play tomorrow, will play GBRU gift, it can beat zoo and affinity...
(30分くらい自室でプレイテストしてみたけど、明日何を使うかいいアイデアが本当にない。4色《けちな贈り物》コントロールを使おうか、Zooと親和に勝てるし...)

 4色《けちな贈り物》、つまりヤソのデッキについては、前日の朝にヤソ自身がリッチ・ホーエンと会場でテストプレイをしているので、ほとんどのメンバーがデッキ構造を知っています。
 そして厳密に言えば自分のこの決意を報告しなくてはならないという決まりがチャネルにあるわけではありません。

 ですが、出来うるかぎりで誠実であること、
 それは英語が不自由な私をコミュニティに引き入れてくれた彼らに対する最低限の礼儀だと、
 たとえヤソとの信義則上、デッキリストそのものについては話せないにしても、
 そうであればなおさら、自分が公開できる情報についてははっきりと示さなければならないと思ったのです。


そして

 その結果は。
 前日までメンバー共通の意見で「マナベースが理解不能すぎてあのデッキは使いたくない」というのが総意だったのにも関わらず、プロツアー・パリチャンピオンのベン・スタークが興味を示してしまう。(前述の記事参照)
 いかにチャネルメンバーがお通夜状態であったかが想像できると思います。

 今回のモダンに関して言うならば、私も含めてチャネルがスコア上で勝ったといえる成績を残せたのは、周りが私たち以上にモダンをできていなかっただけと言うのが正しいのです。

 もちろん、今年だけがこういう状態だったとは言いません。
 エクステンデッドでも同じようなものでした。
 毎年世界選手権の2つ目の構築フォーマットは、ほんの少しでも優れたデザインのデッキがあるならそのプレイヤーは3日目6戦全勝というのが常です。
 去年で言えば大塚 高太郎デザインの多色《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》がそれで、一昨年はコインブラをトップ8に導いた齋藤友晴デザインの《否認》入りZooでした。

 しかし禁止カードだらけの新フォーマットを1ヶ月前にいきなりプロツアー導入して、実質プロにテストプレイをさせた上にプロツアー後に禁止カードを追加発表。
 その上で碌に時間を与えずに対応する大会もないまま、というか来年の予定すら決めてない状態でプロにデッキを作ってくれというのはいささか無理をさせすぎでしょう。

 良くも悪くも今年後半の混乱を象徴する、物事には何事にも限界があるというのを体現したモダンの結果だったというのが、私の感想です。

 怠惰といわれればそれまでです。
 ですがその結果の上に私の今期にして最後となるレベル8があるという事実は、現状のプロマジック全体の限界点を示しているのではないか。
 そんな認識を少しはしてくれても良いと思うのですが、私の立場からは少しでも来年について良くなってほしいとお願いをするしかない状況ですね。
 果たしてどうなることやら、と不安しかないのが現状ですが・・・


 何はともあれ私の2011年、そして今期の世界一周はこれでおしまいです。
 ご愛読ありがとうございました。

 The Finals/Limitsでは権利が取れなかったこともあって、本来はこれで今年のマジックは仕舞いなのですが、カバレージスタッフとしてお話を頂いたのでそちら側で参加する予定です。

 それでは次は今週末の名古屋でお会いしましょう。

/

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索