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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2011・第24回:再び、世界選手権にて?レベル8であるために
読み物
木曜マジック・バラエティ
2011.12.01
なかしゅー世界一周2011・第24回:再び、世界選手権にて~レベル8であるために
By 中村 修平
小噺、ルポ、コラム・・・、いっそのことノンフィクションでもかまいません。
「現実世界」と「表現された世界」との決定的な違いのひとつは、現実には明確な結末がないことではないでしょうか。
例えば世界選手権での日本勢。
2005年の絶頂期、2010年の落日、そして2011年・・・
めでたしめでたし。
とするかは表現者の匙加減次第ですね。
とにかくもそうやって枠をはめることによって現実を切りとって、望むものへと加工していくのです。
表現者がどういう境遇や心境であるかを内包したものが、あるいはその心境自体が、ひとつの作品ということもありえますね。
このようなことを実際に言うことはありませんが、仮に、私が「プレインズウォーカーポイントシステムへの移行はプロシステムの終焉」なんてことを口走れば、『私が』という部分に対してある程度以上の影響があるでしょう。場合によっては表現者である私の意図を超えたことになるやもしれません。
まあ、所詮は『もしも』の話。それは「あるはずのない、あれば」の別の機会に譲るとして、私が「結末がわからない現在進行形からこそ価値があるもの」と、「結末があるからこそ価値があるもの」の双方を、そのふたつが二律背反となるのは承知で、好んでいるのは事実ですね・・・
と、かなり思考が変な方向に行ってしまいましたが、この記事はなかしゅーの世界一周ですね。
今年もなんとか良い報告をさせてもらえて、シーズンを終わらせることができるようです。
世界選手権サンフランシスコ大会での16位入賞によって、来期のレベル8を確定、そして無事にマジックの殿堂入りを果たせました。
そう、殿堂式典にまで果たして無事にいけるのか。
この期間の間に何度かジャッジの裁定で驚くようなものを受けましたが、別に裁定で不利益を被るのは今に限ったことではないですし、毎グランプリ、そして同じ大会で複数回のデッキチェックに引っかかるのも恒例行事。
それを言い出すなら、私が世界を廻りはじめた2006年度シーズンあたりのほうが明確に警戒されているのが傍目でも解るくらいだったのが懐かしいくらいです。
グランプリ・サンディエゴで私自身が自分の『ラストチャンスディスクオリファイ』なんて冗談を飛ばしていたのは間違いなく本心からです。
ですが全く心配していなかったといえばそれはそれで違います。
やはりある程度の不安は付きまとっていたというのも私自身の疑いようのない事実でした。
自分の行い、自分自身が対象になるものにどこか傷はないかと注意を払うのはもちろんのこととして、
それ以上に、私が生業にしているのはどこまでいっても1対1で行うゲームです。
完璧に物事をこなしたとしても私の手が及ぶ領域は50パーセントまで、自分の実態、隙の多さを考えれば実効範囲はもっともっと狭いものになるのです。
そんなことを考える時間が多かったように思えます。
今の心境はとにかく無事に行けてほっとした。それだけです。
頭では理解しているからといって、それで全て割り切れるものではないということを痛感した3ヶ月でした。
これから先については、とりあえず考えるための時間はあるようです。
もともと2011年シーズンは、私の中で自分の生活の1つの区切りとして考えていました。
ところが来期からのシステム変更によって思わぬ副産物が発生したのです。
プロポイントを稼ぐという意味は喪失したものの、かつてのインビテーショナルの再来となった世界選手権招待のためには、ただグランプリに参加すればよい。しかも来期に限ってはレベル報酬も保証されている。
変更について云々は置いておくとして、気がつけばプロクラブ清算のおまけのような半年ができていました。
殿堂入りしたことでどのようにマジックと接していくか、この突然の余暇の半年を使ってじっくり考えてみることにします。
そしてプロプレイヤークラブの創設から始まった私の今のライフスタイルが、プロクラブが廃止となる最後の瞬間まで最高レベルを維持できた。
私の存在そのものがプロクラブのあり方の一つの形として、そして最後まで維持できたことで、ある意味「はなむけ」にできたことを嬉しく思います。
2005年から7年間。
レベルなど関係なくがむしゃらにやっていた年、逆に常に意識していた年、
気がつけば到達していた年やあっさりレベル8を取れた年もあれば、
半年以上も勝ちに見放されていて、プロツアートップ8入賞でなんとかレベル7相当に滑り込んだ年もありました。
最後まで苦労したのは去年、今年ですね。
世界選手権までにレベル8確定ラインである48点を確保することができずに、再びプロ生活を賭けて戦うことになった今年の世界選手権。
終わってみれば3日目のモダンを6戦全勝で16位、プロポイント8点と、レベル8への当落ラインだった「64位以上=5点」を大幅に上回るかなりの好成績だったのですが、実際には去年と同じくらい苦しい戦いでした。
特に2日目の中盤戦は大変だったのです。
初日の最終戦、緑タッチ赤《ケッシグの狼の地》デッキを使うポーランド代表のピーター・ケステローに負けて4勝2敗。
トータル4敗1分けがラインというトップ8からすると手痛い負けですが、6敗1分けの64位以内ならば目標より上、ということで安堵していた私に待ち構えていたのは・・・
手強いマーティン・ジュザに、生涯成績でこれまで1回しか勝ったことがないリッチ・ホーエン、先週のグランプリ・サンディエゴチャンピオンのシャヘル・シェーナーと、直近のグランプリ優勝者が3名に加え、アメリカのサム・ブラックという地獄のドラフトポッド。
しかも初戦に苦手意識のあるリッチ・ホーエンといきなり対戦するはめになりこれに負け、続く2戦目は勝てましたが、3戦目は《情け知らずのガラク》を叩きつけてピックしていたサム・ブラックにも負けて前半戦を1勝2敗。トータル成績がこの時点で5勝4敗。
グランプリからグランプリへの移動でなかなか時間を作れず、追いつかれてきているという認識はありましたが、この環境で初めてのドラフトで1-2。しかもこんな大事な局面で、というのはかなり堪えました。
そして私のどうしようもない悪癖ですが、一度負けを引きずってしまうと抑えがきかなくなってしまうこと。
仕切り直しのはずの第2ドラフト初戦。
私がそこそこの出来の白緑デッキを構築したのに対して、かなり強力な青赤ライブラリーアウトデッキとの対戦だったのですが、酷いものでした。
全体を通して色々と酷いゲームでしたが、何よりも悪かったのは自分の状態です。
ポーカー用語で頭に血が上っていて正常な判断を下せない状態を『ティルト』と言うのですが、まさにそんなティルト状態のまま次のラウンドに行ってしまったのは最悪でした。
このラウンドの対戦相手はスペインのジョエル・カラフェル。
2009年のグランプリ・バルセロナチャンピオンであり、去年の世界選手権でも同じ11回戦目での対戦相手、しかもその時は負けた手強いプレイヤーです。
そんな相手に、何を考えていたのか、どんな相手だろうが全く勝てる見込みのないくらい悪い初手をキープしてあっさり負けてしまいました。
白緑の同型対決、しかも私のデッキでは対処できない《月桂樹の古老》を見せつけられる形でです。
ここで負けると残り7戦を全勝しなくてはならない。
そして1本既に取られていて崖っぷちにいる。
自分で招いてしまったこととはいえ、
気がつくとここまで悪くなってしまっている現実を見せられて、
それに潰されてしまっていてもおかしくなかったと思います。
その時でした。
パチン、オフ
頭の中で何かのスイッチが切り替わったような感覚、
留めようのない焦りから切り替わって去来したのは、それでも負けたくないという一念と、そのためには何をしなくてはならないかということです。
今思えばゲーム展開も手助けしてくれました。
先手から積極的に戦線を押していく展開から、あと4点というところで追加の土地が置けずにターンを返してしまい、土地を引く頃には戦線が膠着してしまい手遅れ。
逆にそこから先は延々と土地を引き続ける。
しかし対戦相手も、うかつにはこちらに攻撃できない。
通常ならば、こういう盤面になると遅かれ早かれこちらの詰みですが、この時はお互いに地上戦力主体で決定力に欠ける白緑同型対決、ということがプラスに働きました。
自分の置かれている状況を噛み締めてみる時間は十二分にありました。
カラフェルの《アヴァシン教の僧侶》を無効化する《村の鐘鳴らし》を抱えたまま、カラフェルだけがコントロールしている持ち駒の飛行クリーチャーを、はじめは1体、続けて少しづつ攻撃にまわしだして、やがて全てを攻撃にまわす機会をうかがうこと数ターン。
その間も順調に土地を引き続け、帰ってきた自分の武器に再び疑問が浮かびあがりそうになるのを堪えながら待つことさらに2ターンほど。
ようやくまとまった数のクリーチャーを攻撃にまわしてきてくれました。
裏を返せばカラフェルにとっては詰み筋に入ったということ、もはや私の残りターンはあって2ターン程度でしょう。
そんなターンが巡ってきてくれた瞬間に、私のデッキの中でも現状ベストといえるカード、戦線を崩せる《忌まわしきものの処刑者》が駆けつけてくれました。
有効牌と言えるのはこの10ターンほどでこの2枚だけ、カラフェルの持ってるであろう隠し玉が同じく《村の鐘鳴らし》ならそもそも負け。
他に何を持っていてどういう組み合わせなら駄目だという計算なんて全くしていませんでした。
結果は小さく聞こえたカラフェルの舌打ちと盤面を畳んだカラフェルの両手でした。
3戦目はカラフェルのマリガンに、ようやく姿を見せた私の飛行クリーチャーとサイドインした《農民の結集》。
1本目の圧敗と2本目の辛勝からするとあっけないほどの早い幕切れ。
去年の世界選手権でこの記事にも載せた2つのゲームでの判断のように、
このゲームの2本目とその時の判断力こそがこの大会での私の分岐点でした。
システム的に続けられるかはともかく、技量的にはまだもう少しマジックを続けれそうということが、最後の最後まで追い詰められて再確認できた。
なんとも私らしいといえば、いやはや。つくづく最後の最後まで私らしい。
最終成績が16位というのも、終わってみれば今シーズンの私の締めくくりに相応しい結果といえるのじゃないでしょうか。
今年も一年間、お付き合いいただきありがとうございました。
と結んだところでさて続きについてとなるのですが、
来年云々はさておいて、今シーズンの連載自体は年末までもう少しだけ続きます。
次回はチャネル・ファイアーボールのワールド調整顛末記なんかでいければよいかなと漠然と考えています。
何食わぬ顔で世界選手権を支配していましたが、実態は湖面の白鳥よろしく、水面下ではそれはそれは必死だったのです。
そのあたりについてまた次回に、
それでは次は日本の何処かでお会いしましょう。
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