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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2011・第3回:パリの思い出
読み物
木曜マジック・バラエティ
2011.02.10
なかしゅー世界一周2011・第3回:パリの思い出
アトランタから2週間少々、東京への引越しも完了して、毎朝スカイツリーが出来上がっていくのを自宅から観察する日々。我が家からだと歩いて5分の距離にあるので、如何に大きいかが改めて解ります。
練習の日々を送っているうちにこの日がやってきました。
いよいよプロツアー・パリ、そしてグランプリ・パリの開催です。
パリ。フランスの首都であり、近世から近代そして現代ヨーロッパの中心、アメリカ人がコンプレックスを持ち続けている伝統や文化という無形の遺産を保持し、かつて世界の中心であり続けたあのパリです。
まあ、アメリカ人のコンプレックス云々みたいな与太話は置いておいても、ウィザーズ社がパリに対して特別な感情を持っている事はどうも疑いありません。古くは1997年のプロツアー・パリから実に3回目となるプロツアー開催。
会場の選択肢がアジア地域では実質日本だけ、そして日本国内で開催できる地域がやはり実質的に関東・関西・中部の三択、という事情で解りづらいかとは思いますが、開催候補地がいくつもあるヨーロッパにおいて、これだけ同じ都市でプロツアーが開催されるのはそれこそパリくらいです。
2004年のグランプリ・パリもマジック史に残るイベントとして記憶されています。この時の参加人数1596名は、08年の同じくグランプリ・パリで破られるまで長らくグランプリ動員人数のワールドレコードでした。06年には世界選手権、08年は当時の動員数レコード更新となったグランプリ・パリ。そして翌年にも再びレコードを更新し、パリを破るのはパリだけとも言われたグランプリ・パリ09が開催されています。
そして今年、なんと史上初のプロツアー/グランプリを1週間で連続開催。
両方トップ8に入賞するとどうするのとか、社会人にとっては地獄のスケジュールなんだけどとか、積もりそうな話はそれこそ山ほどありますが、非常に面白い試みです。この回が掲載されている頃にはもうプロツアーがスタートしている頃だと思いますが、是非とも成功して欲しいものです。
それはさておき、記事にするには非常にまずいタイミングなのです。ただでさえプレミアイベントは疲れるというのに、パリ滞在中はずっと翌日がプレミアイベント。体の弱さは自負するものがある私ではそんなスケジュールの合間に原稿を書く事などとても出来そうになく、現在進行中のパリ話は他連載や次回以降に置いておくとして、今回の世界一周は過去のパリ、プレミアイベント回想編です。
2006年世界選手権
八十岡翔太[注1]がプレイヤー・オブ・ザ・イヤー獲得、三原槙仁[注2]の優勝で幕を閉じた世界選手権。
この時が、私にとって初めて参加したパリのプレミアイベントであり、プレイヤー・オブ・ザ・イヤー・レースを6点差の2位で迎えるという、ある意味で一番やりがいのある位置での最終決戦、そして初パリという事もあって大会が終わった後も1週間ばかり1人で滞在していたりと、私にとって記憶に残る世界選手権でした。
この大会の一番の目玉は会場がなんとルーブル美術館だった事。
とはいっても厳密には美術館の中で開催したという訳ではなく、かつての王宮を改装したルーブル美術館は入り口が地下にあり、中庭にあるガラスのピラミッドの下から入場して、そこから3方向の、シュリー翼・ドゥノン翼・リシュリュー翼に行けるという構造になっています。
世界選手権が開催されたのはその入場口の手前、地下部分にあるイベントスペース。モナリザの前でマジックするのかと期待していたのにちょっと肩透かしを食らってがっかりしたのを覚えています。とは言っても、近い事には変わりないというか目と鼻の先。会場から出るとそこには今まさにルーブル美術館へ入館せんとする観光客のごった煮状態です。否が応にもテンションは上がります。
しかも普段は朝から晩までぎっちり8回戦のプロツアーと比べて、国別代表戦がない参加者にとっては世界選手権は1日わずか6回戦と余裕があるもの。更に、たしか木曜日だったと思いますが、普段は午後6時で閉館するルーブル美術館が1週間に1度だけ午後8時まで開館しているとあって、有志を募って夜の美術館ツアーと称し、少なくない数の日本人プレイヤーがルーブル見学に繰り出していましたね。
2008年グランプリ・パリ
今でこそ連戦でグランプリ接続のプロツアーというのは常識となりましたが、実はそういう日程が組まれるようになったのは去年から、それまでは逆にプロツアー前のグランプリなどプロツアーの練習に忙しいプレイヤー諸君には迷惑だろうと言わんばかり、見事なまでにプロツアー前は何もない日程でプレミアイベントが組まれていました。
2008年のパリはそんな当時の風潮からは珍しく、プロツアー・ベルリンと近接している日程で組まれたグランプリ。ただし連戦ではなく週を挟んだ開催で。つまり継続滞在するなら2週間はヨーロッパに滞在し続けなくてはならないという空気が読めるんだか、読めないんだかよく解らない間の取り方。これが往時のウィザーズクオリティ。
今もあまり変わってませんが、そんなウィザーズさんも会場については気合を入れてきました。この時の会場はディズニーランド・パリ。あの夢と魔法の国です。
パリ郊外に作られたディズニーランドでまず衝撃を受けたのはその広さ、普段宿の手配をする時には地図を見ながらというのが習慣になっているのですが、何もない平原の中に悠然と整地されている円形の地区全体にディズニーリゾートの文字、さながら1つの自治体が丸ごとディズニーにシマ化されているようなもの。
衛星写真からはっきり形状がわかるだなんて、そんなディズニーランドでのグランプリですが参加者数も驚きの1838人。半分に割ってもまだ日本のグランプリより多い人数です。
実はこの時、ウィザーズ側も果たして何人来るかどうか予想が出来ずに、事前告知で一種のセーフガード処置――「参加者数が2000人を超えたなら2日目進出者は一端『成績をリセットした上で』ドラフト6回戦を行う」をアナウンスがされていました。人数が多すぎて、規定回戦では2日目開始時で既にトップ8ラインに入れないという事態になってしまうからです。
実際に最終戦を残して12勝2敗と通常なら引き分けでトップ8当確ラインだった私が箸にも棒にもかからず、戦った末に負けてこれまたトップ16にすら入れずの結果でした。
初日に至ってはもっと地獄の様相を呈しています。この当時は初日通過者は成績(X勝2敗)ではなく、厳正な順位で決めていた為に2敗ラインでもオポーネントマッチパーセンテージが低ければ初日抜けならずといった事が頻発。初日最終戦では1敗の人間がほぼ全て合意の上で引き分け、インテンショナルドローをしている光景は、この先見られる事は無いでしょう。
神こと、金子真実[注3]もこの時引き分けを選択していました。
2009年グランプリ・パリ
動員人数レコード更新と大成功に終わった前年のグランプリに続いて、2匹目のどじょうを狙えと全く同じロケーション、ディズニーランドで開催された09年のパリ。
この年から初日通過規定が順位から2敗ラインに変更となり、グランプリの動員数も飛躍的に伸びた気がします。結果は2000人には僅かに届かないものの1961人の動員数、初日終了が日付が変わって0時半、翌日の500人越えのPTQ。初日通過者が激増した所為で2日目はほとんどのプレイヤーが全勝条件と、去年にも勝るとも劣らない地獄の黙示録的なグランプリでした。
初日最終戦を終えて、ホテルに帰ろうにもバスはおろかタクシーすら全くいない状況。夕飯を食べようにも当たり前ですが見渡す限りのシャッター、夢と魔法の国は閉店時間も良い子仕様なのです。
仕方なくカバレッジライターをしていたティムの部屋にお願いして泊めて貰って、翌日宿をシェアしていたサム・グドネス[注4]に他の知り合いのところに泊まったか、強盗にでもあったか、お持ち帰りしたかのどれかだと思ってた、と言われたときはなるほどたしかに、と思った記憶があります。
この時はプロツアー・ヒューストン、グランプリ、世界選手権ローマとたしか7、8連戦の最終盤だったというのもあって、日本からの参加者は私1人。
パリにあるアントワン・ルエル[注5]の家に泊めて貰ったり、オペラ座からルーブル美術館に向けて歩いていると何故か日本人のおばちゃん2人組から某宗教に勧誘されたり、2年前に行って美味しかった店を記憶を頼りに行ってみたりと、普段は仲間の分まで旅券や宿を手配する手前、なかなか取れないことを満喫していました。
しかしこうやって回想してみると、
こう、なんというか展望の見えなさに愕然としてしまいます。
新セット発売後僅か6日後のプロツアーでスタンダードの準備もままならないというのに、それに加えてドラフト、更に2000人クラスのリミテッドグランプリまであるというのです。果たしてどうなっている事やら。出来ればそれなりの結果が出ていれば良いのですけれどもね。
それではまた、世界のどこかでお会いしましょう。
中村修平的脚注
注1:八十岡 翔太
ご存知、マジック界の鬼神
注2:三原 槙仁
ご存知、マジック界の魔王
注3:金子真実
プロツアー・サンディエゴ07トップ4(双頭巨人戦)、グランプリ・フィレンツェ07優勝を経て、現在はマジックネット界のスーパーアイドル。
注4:サム・グドネス
アメリカのプロプレイヤー、前週のグランプリ北九州で我が家に滞在していたのが縁でこの時もホテルをシェアしていました。
注5:アントワン・ルエル
マジック界最強の兄弟プレイヤーの兄、プロツアー・ロサンゼルス05優勝。2人揃って殿堂入りしています。
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